宇宙軍4(拷問)
その頃、地下では。
男が部屋の中央の天井から下がってる鎖に、繋がれていた。
「ねぇ、そろそろ言う気になった? 誰の命で、君は来たの?」
「誰の命でもない」
それを言った男に、小早川が鞭を振る。
ピシッとした音が響く。
「うっ」
男の体には、もう無数の痕があった。
「ただ、金がありそうだから、お前を襲っただけだ」
「じゃあ、どうやってあの推薦状を手に入れたの?」
「なぁ、こいつが持ってたのって、誰の推薦状だったんだ?」
「……僕の妹の夫だ」
「厄介だな」
「妹に恨まれようと、こいつを近くには置いておけない」
「そうだな、害虫は早めに退治すべしだな」
「そうだ」
「で、話は戻るけど、どうやって、手に入れたの?」
「ここに本来来る奴を殺して、手に入れたんだ」
害虫じゃないと言えば、殺されないと思ってるのか、妹さんとは何の関係もないと言う。
小早川は言う。
「お前、何か、勘違いしてない。妹と関係なくても、僕は自分に銃を向けた人間を許すわけがない」
そう言って、ムチを振る。
「うっ」
「で、貴様の目的は何なんだ? 我らの星の監視っていうのでもなさそうだし、狙っていたものは何?」
「こう、考えると、お前の命だろうな。銃で狙ったところを見ると」
「俺か?」
「お前、何か恨まれるようなことやった?」
「俺は恨まれるような付き合いどころか、光輝としか付き合ってない」
「だからそれ止めれ……まぁ良いか?」
「でも、目的が俺の命だとしたら、小さくないか?」
「小さくなどないさ。お前を殺せば、この整った星が手に入るからな」
「そうか、こんな小さな星を手に入れるために、分からないものだな」
しみじみと言う。
その声で男はこの後大きく、小早川のことを読み違えることになる。
それを聞いた男が、ペッと、小早川に唾を吐きかけたのだ。
「お前なんかに、星を欲しがる者の気持ちは分かんねぇよ」
「分かんないね」
小早川涼しく言う。
それを見た光輝は、心の中で手を合わせた。
『あ~あ。命運、尽きたな』と。
案の定、光輝の予想通りに、小早川は切れた。
それが、以下の通りである。
小早川はそれに、ニッコリ笑い自分の袖で拭くと、
「随分、面白いことをやってくれるね。これには、お返ししなきゃねぇ」
小早川は持っていた、鞭を振り上げる。
それを見て、男は叫ぶ。
鞭が上がる。
「うわ~」
「もう、遅いよ。20回ぐらいは耐えてくれよ」
小早川は、ニッコリ笑って言うと、男はヒキツる。
自分が読み間違えたことに気付く。
「遅かったね」
光輝は手を合わせた。
「や、や、辞めてくれ」
「今更遅い。天国で己の読み間違いを、悔やむんだな」
ヒュンと、鞭が鳴り、男の体に鞭が振るわれる度、体からは血が出る。
そして、何度目かの時に、男の口から、ゴホッと血が出る。
「汚いな」
「汚したのは、お前だろ」
「もう、良いや。死んで」
面倒臭そうに、そう言って、刀を下ろそうとした時、それを止める手があった。
凄く剣呑そうに、止めた手の持ち主:光輝を睨む。
光輝もその目を受け止め、更に、力強い目で睨む。
けして、どちらも反らさない。
「領分を間違えないでもらおうか? それにお前言っただろう自分で。『処分は俺に任せると』 お前は我らが母星を見守ることが役目。それに対し、母星にあだなす者に、制裁を加えるのが俺の役目だ。つまり、殺しは俺の領分だ」
「そうだな」
少し考え、小早川も頷く。
「分かってもらえたようで良かった」
そう言って、腰の剣を抜く。
余りにその動作が綺麗で、男は気付かなかった。
剣が自分の胸を刺してることに。
光輝は剣を抜くとその血を、振り落とすように一度だけ払う。
「やっぱり欲しいな」
「俺は、お前と対等の立場だ。部下になって、頭を下げるのはごめんだよ」
「僕も、光輝に頭を下げられるのは、ごめんだな。何か、勘ぐってしまうよ、何事かと?」
「お互い、思ってることが一緒で良ったよ」
「そろそろ、上に戻るか?」
「そうだな?」
そう言って、二人は上へと行く。
その時悩みながら小早川は言う。
「ここにも、警備員を入れた方がいいよね。でも、信用度をどう見たらいいんだろう?」
「警備員か、家に良いのが要るぞ。信用度は俺の折り紙付き」
「まさかあいつか? あいつは艦を絶対下りないぞ」
「架けても良い。あいつは友のためなら下りるよ」
「友なのか?」
そう言って、ビックリする。
「お前は気付いていないが、あいつはいつもお前を心配してたよ。友だと思ってないのはお前だけじゃないか。それは家の艦が来ると、あいつは、いつも下りるだろう」
「でも別に何も、話さないぜ」
「ただ、顔が見えれば安心何だろ」
「そんなの可笑しい」
「可笑しくても、見返りを一切求めない思いもある。認めてやったらどうだ友として」
「認めてやらんこともない」
ちょっと顔を赤くしてる。
「じゃ、行こう」
上に行くと、今にも泣きそうな斗真が走り寄ってきた。
「昔の斗真君カムバックって、感じだな」
そう言われ、焦ったように涙を拭くと、ちょっと洗面所にと言って、いなくなる。
それに光輝は、クスクス笑う。
斗真がいなくなると、碇が言う。
「ご苦労様でした」
そう言って、頭を下げる。
「何が?」
そう、光輝が言うと碇は、ハンカチを取り出し、光輝の頬を拭く。
そして、ハンカチを見せる。
「まずった。斗真君が平常心じゃなくて、良かった」
「本当に、良かったですね」
「何か、剣呑だな」
光輝は苦笑いする。
「これからは、ここにくる前に鏡を見てから、来て下さい」
どうやら、碇は自分抜きで仕事を行ったことを怒ってるらしい。
それが分かり、光輝は更に、苦笑いをする。
「ああ、そうするよ。でも、何か一物有りそうな物言いだな」
「そうですか?」
そう碇が言うと、光輝は碇の肩に頭を乗せる。
「何か、疲れたよ」
「お疲れ様です」
碇は、子供にするように、背中をポンポンと叩く。
「フー」
と、光輝は溜め息を付くと、頭を上げる。
「カーゼル、勅命を命じる」
「何ですか?」
「この星の主を今から守れ。艦を降りて。これは大切な任務だ。我が母星が目的の奴が、ターゲットをここに変えてきた。いつ小早川が狙われるか分からない。黒幕が分かるまでの間、頼む。なるべく早く目星は付ける」
「分かりました。微力ながら」
それを聞いて、小早川も言う。
「しばらくの間頼む」
そう言って、頭を下げると、カーゼルはビックリする。
「お前が頭を下げるなんて、どうしたの? お前」
光輝が、それにクスクス笑いながら言う。
「お前から、嫌、友から飛ぶことを奪ってしまって、申し訳ないと、思ってるんだよ。こいつは」
感極まったように、カーゼルは小早川を見る。
「・・・そんなこと・・・」
「なぁ、俺の言ったとおりだろ」
「お前の伯爵という身分に釣られてくる人間は多いが、お前自身が魅力的で来る人間も多い。それを全部否定する前に見極めろ」
「ああ、そうする。カーゼルありがとう」
頭を下げる。
「止めてくれ、照れるじゃないか?」
「あっ、それは見たいかも?」
「艦長」
その場は笑いに包まれた。
「でも、本当にすまない。お前から飛ぶことを奪ってしまって」
「何、永遠じゃないんだ。別に構わないさ。それに、艦長が何か情報を持ってくるはずさ。それに時間はかからないよ」
「お前、光輝のこと信頼してるんだな」
「お前と一緒だよ。お前も朝霞艦長のこと信頼しているだろ?」
「何か、狡い」
小早川がいじける。
カーゼルは何故か分からず、光輝を見る。
それに、光輝は笑う。
「俺に妬いているんだ。お前の一番になりたいんだろ?」
それを聞いて、カーゼルは驚く。
「友の一番の位置には、大人も子どもも関係なく、譲りたくないんじゃないか? 妬くと思うぜ」
「私が小早川の一番に・・・」
「何だ、お前も嬉しいのかよ?」
カーゼルは慌てて否定する。
「違いますよ」
「まぁ、良いけどな」
「それより、早く見つけて来て下さいね。期限は1年です」
「了解」
笑って、光輝は言ったのだった。