《予知》
「早速だけどー、カズにはー、ファタールまで行ってほしーかなー。」
王室へ入った俺が最初に受けた言葉は、衝撃の辞令発言だった。
「・・・はい?」
「普通ー、この世界の者は『魔力の流れ』が見えるようになった後ー、ファタールの『滝』、『岩場』、『崖』の3ヶ所を巡ってー、『魔法』の基礎知識と『魔力』の練り方を学ぶことになってるのー。つまりー、さっさとファタールまで行ってー、『魔力』の練り方を学んで来いー、ってことだよー。」
「・・・いきなりですね?」
「いやー、カズが目を覚ましたらー、直ぐそこに行くように言うつもりだったからー、そんなにいきなりってわけではないかもー。」
「そりゃリリー様からすればそうでしょうけどね!!」
「ちょ、カズ! 流石に騎士部隊もいる状況でその発言はヤバいのね!!」
「あ・・・失礼・・・。」
「どうやらー、カズにもわかってもらえたようだしー、早速そこに行ってもらうことで決て──」
「いえ、納得してませんから。」
「──決定でいいよねー。早速魔法で向こうに飛ばすよー。」
「ホントいきなりだなオイ! しかも地味に呼び方リーノと同じになってるし!」
「国王命令に逆らうことはできないよー。いってらっしゃいー。」
「え、ちょ、おまっ──!!」
反論する間もなく、俺は『ふぁたーる』とかいう町(?)に移動ばされた。
この世界に来てから理不尽なことばかりだ。
それはあまりにも一瞬で、俺は目の前の光景に納得することができなかった。
世界中の誰であっても、目の前の光景が一瞬にして変わったら驚くだろう。
てっきり、摩訶不思議な空間でも移動するのかと思っていた俺は、あまりに不意打ちに脳の許容量がオーバーしてしまったのだ。
・・・因みに、真横ではリーノが「うわうわうわ、久しぶりなのねこの光景!! 早く用事を終わらせて屋台を回りたいのね!!」なんて、とてもやかましかったりもするのだが。
「・・・リーノ、それで俺は、これからどうすりゃいいんだ?」
「あ、おっちゃん、このはしまき一つ頂戴なのね!」
「おっ、リーノちゃんかい? 久しぶりだねぇ。もう何年ぶりだい? 随分こっちに来てなかったけど。」
「もうすぐ5年なのね! 国王の急死やらなんやらあったからなかなか来れなかったけど、今日は珍しくこっちに来るようがあったのね! それよりおっちゃん、はしまき、はしまき!!」
「おう、一丁上がり! 焼きたてのアツアツだz──そんなに一気に口に放り込んだら熱いと何回言ったことか・・・。」
ふと、和磨がリーノの方を振り向いてみれば、いつの間にか屋台の少し小太りなおっちゃんから貰ったはしまきを、リーノは口いっぱいに放り込んでおり、焼きたての熱さに身をよじらせていたりして、
「・・・はぁ。何故このバカがついてくることになったのか・・・。もっとマシな人はいなかったのか・・・?」
あまりの馬鹿さ加減に、見るだけで疲れていたりするのだが。
「おや? そっちの兄ちゃんは見かけない顔だねぇ・・・。ひょっとして、リーノちゃんの仕事って、『滝行』関係?」
「ゲホ! あづ・・・あついよぉ・・・。」
そして、ようやく屋台の番をしているおっちゃんが和磨に気づき、通称『滝行』と呼ばれる魔力の生成のための修練が関係している仕事なのかと問うと、あまりの熱さのせいで言葉を紡ぐことができないリーノは、必死に頷くことで返事をしている。
「やっぱりそうかい・・・。しかし、リーノちゃんみたいな重役が連れてくるということは、相当重要な人なのかい?」
「ゲホッ! ・・・そうなのね。コイツは『勇者』の素質を持っているのね・・・。」
「ゆ、『勇者』!?」
さらにおっちゃんが問うと、リーノはやけどしたせいで覚束無い口調でそれに答え、その突飛すぎる答えにおっちゃんはつい大声を上げる。
「おっちゃん、声が大きいのね。」
「あ、ああ・・・。悪い・・・。つい、驚いちまったもんでな。・・・しかし、本当に『勇者』なんて素質に立ち会えるとは思わなかった・・・。」
自分が『勇者』の素質持ちだということが、どれだけ重大なことかわかってない和磨は、おっちゃんの観察するような視線に戸惑う。
そして、我慢できなくなったようで、
「・・・あのー、『勇者』ってそんなにすごいんですか?」
「すごいもなにも・・・お前さん、どこから来たんだい?」
おっちゃんに聞いてみるも、自分がどれだけの存在か気づいていない和磨に疑問を持ったのか、逆に質問で返されてしまう。
「えーと・・・日本ってわかりますか?」
「ニホン? どこだいそりゃ?」
「おっちゃん、カズは異世界出身なのね。こっちの世界に来てから間もないから、殆ど何も知らないと見て正解なのね。」
「なるほど、ね・・・。ようやく合点がいったよ。異世界出身なら、彼が何も知らないことは納得だな。」
「だから、今からやることについて説明して欲しいのね。幾分、私じゃ説明に手馴れてないせいで、殆ど理解してもらえないと思うのね・・・。」
「了解。そういうことなら・・・まずは自己紹介といこうか。俺の名前はスペル・ニック。皆からはいろんな渾名で呼ばれているよ。スペルでもスペルお兄さんでもイケメン様でも、好きなように呼ぶといいよ。」
「は、はぁ・・・。じゃあ、スペルさんで・・・。」
そして自己紹介された和磨だが、スペルと名乗るその男はどこからどう見ても『どこにでもいそうな小太りのおっちゃん』であり、『お兄さん』呼ばわりする気にはなれず、妥当に『さん付け』で答える。
「あ~・・・見ての通り、俺は表では屋台の気さくなイケメンお兄さんだが(笑)、裏では『滝』、『岩場』、『崖』の3ヶ所の管理者をやらせてもらっている。」
しかし、次の言葉には、どこか冗談のような笑いも混じっており、和磨は『良かった・・・。このおっちゃんがナルシストでなくて、【ただの気さくなおっちゃん 】で本当に良かった・・・。』などと心の中では思っていた。
・・・余談だが、後に和磨は、
「いやぁ・・・あの時は国王とかリーノとか、身近にいる人がおかしすぎたから、『このおっちゃんまで変な奴だったらどうしよう・・・。』なんて考えてたんですよねぇ・・・。」
などと、インタビューに応えたこともあったりなかったりw
さて、話を戻そう。
スペルが普通の人だとわかった和磨は、安心してスペルの質問に答えていき、とりあえず自己紹介などを済ませた。
──自分が名乗った瞬間に、一瞬だけスペルの表情が曇ったとも知らずに。
・・・そして、今一番気にしていることを聞く。
「・・・そういえば、さっきの質問なんですけど──」
「『勇者』の素質についてかい?」
「はい。こっちに来てから3日ほどしか経ってませんし、その3日間、そこの火傷した誰かさんのせいで眠りっ放しだったこともありまして・・・。」
「殆どこっちの世界については知らない、か・・・。」
「・・・はい。恥ずかしながら。」
「ま、しょうがないさ。色々あったみたいだしね。・・・それじゃ、今からのことを大まかに説明するよ。『勇者』の素質のことも含めて、ね・・・。」
自分が一番知りたいのはこれからのことではなく、勇者の素質につてなんですが・・・、と言おうとした和磨が言う前に、スペルは言葉を付け足して彼を制する。
「まずは、これからについて説明させてくれ。大体の話は聞いている・・・とは思うが、この世界の人間は、『魔力の流れ』が見えるようになった後、今度は魔力を練るために修練を積む必要がある・・・というのは聞いてるね?」
「はい、一応は。」
「よし。それで、さっきも言ったように、俺は3ヶ所へと続く扉の管理人と、さっきは言ってないが教官をやっていて、ここへ来た皆に色々と教えているわけだ。」
「なるほど。それで?」
「まずは『滝』で身を清めて、ひたすら『静』を極める練習をするんだけど、カズマ君はやったことがあるかい?」
滝で身を清める、と聞いて、和磨は『日本と同じようなところもあるんだな・・・。なんか不思議だ・・・。』なんて考えており、
「はい。一度だけ、祖父からや『らされた』ことがあります。」
と答えてしまう。
実際には日本での滝行とは違い、この世界では、魔力を含んだ水が流れ落ちる中、自分の弱みにつけ込もうとする『魔獣』からの威圧に座禅を組んだまま耐え続ける、というような一風どころか、桁外れに違ったやり方であることを、まだ彼は知らずにいたせいもあるが。
「そうか。なら話は早い。そこで『静』を極めた後は、『岩場』で岩を砕く練習、『崖』で『魔獣』と戦うだけだから、そんなに心配することはないよ。」
「ちょっと待ってください。今、とても不穏な言葉がさらっと、しかも連続で流れてきたような気がします。」
『滝』での修練の方法よりも、さらに危険な言葉が流れてきただけあって、和磨はギョッとして待ったをかけるが、しかしそれにスペルが答えるということはなく、
「大丈夫。これで死ぬ人は大体、全体の3割くらいだから。」
「しかも死者が出るのかよ!! しかも何!? 3割って結構な確率じゃねえか!!」
寧ろ、心配させる要素だけを述べていく。
「いや、でもこれから一生魔法を使って生きていく上で、このくらいの困難は越えなきゃ、ね?」
「いや、『ね?』じゃねえよ!? 俺、もともとそんなのなくても生きていける世界だったし、無理やりこっちに連れて来られたんだぞ!? しかも脅迫付きで!!」
「大丈夫。ここ最近は危険度の少ない『龍』も輸入し始めたから、安心していいよ。」
「しかも龍までいるのかよおおおおおおおおおおおお!!」
危険度が少ないとは言え、そこは龍である。
スペルが言っている龍は、比較的気性が穏やかなだけであって、攻撃力は・・・・・・。
というわけだ。しかも、『比較的』穏やかなだけであって、絶対に襲わないわけではなく、個体によっては積極的に勝負を仕掛けてくるものもいたりする。
まあ、簡単に訳すと、
「危なすぎんだろクソがああああ!!」
折角まともな人に会えた・・・という和磨の束の間の安心は、本当に束の間で、あっさりと打ち砕かれたのであった。
「それと、『勇者』の素質の件なんだけど。」
「何事もなかったかのようにサラっと流すな。」
「大体、素質持ち自体は50~100年に一度、どこかの世界に生まれてくる。素質は11種類あって、勇者・英雄・正義・勇気・偽善・予知・不良・嫉妬・嫌悪・悪党・極悪といった具合にある。この内、言葉でわかるように、後半5個は悪性のある素質なんだ。絶対に悪い方に傾くというわけでもないけど、歴史を見ると9割方が悪事を働いていて、決して良いとは言えない。その逆で、前半5個は9割方良い方に傾くけど、希に悪い方へと導くことがある。」
「・・・へぇ。」
「そして、これからが問題だ。素質には強さがあって、善のトップは『勇者』、悪のトップは『極悪』となっている。今言った素質は、対になっている素質と共に生まれてくるから、悪と善のそれぞれが釣り合ってなんとか出来ていた。本当に極希に、善が寝返って悪に傾くこともあったけど、国や世界全体で押さえ込んだり、素質自体が低級だったからどうにかなった。・・・だけど、今回は違う。」
「え?」
「今回は、君の対となるはずの『極悪』の対が、どこの世界を探しても生まれてないんだ。」
「・・・は?」
「・・・つまり、君が悪い方へ傾いたとき、それを止める存在がないんだ。殆どは善が寝返った時、悪も寝返るからいいんだけど、対がいなくなってはどうにもならない。・・・しかも、それよりも最悪なことがある。」
「・・・何ですか?」
なんだか、嫌な予感がする。
それも、人生最大の。
「さっき言った素質の中に、『予知』というものがあったね。その『予知』は、強さを表す階級がなく、なかなか判断が難しい。そして、名前の通り、予知する能力があるけど、強さによってどれだけ先の時代が見られるか、自分からどれだけ離れた距離が見られるかが決まるんだ。」
「・・・はぁ。」
「遥か昔に生まれたとされる、史上最大の力を持った『予知』の素質持ちは言った。『遥か未来のこと、『勇者』の素質を持った者が寝返り、世界を滅ぼすだろう。しかしそれは、この世界のみにとどまらず、もっと広い範囲で破壊が巻き起こり、やがて『この世』が滅ぶだろう。我は予見する。其の者の名は──』」
と、一旦、スペルが言葉を区切る。
そして、覚悟を決めたかのように、言った。
「『其の者の名は──ミキ・カズマ。』」
和磨は、何を言われたか理解することはできなかった。