《疑問》
「・・・失礼します。」
ドアをノックしてから、リリー様がいる(であろう)部屋に入る。
すると中には誰もおらず、「どこへ行ったのかな?」なんて言って外に出ようとすると、
「・・・カズ、リリーはこの部屋にいるのね。」
「・・・は? いや、どう見てもいないっしょ。それとも何、お前、幻覚でも見てんのか? それは痛い奴だなぁ。即刻病院に連れt──」
「今からしばき倒すけど、それでいいのね?」
「すいませんでした!!」
リーノの手のひらに赤黒い物体が現れ始めたので、即刻土下座を決行。
プライド? そんなもん知るか! 命の方が大切だ!!
そんな葛藤を心の中で行っていると、リーノはいつの間にか2,3メートル先に行っており、
「・・・そこなのね!!」
手にしていた杖を、襖の向こうへと投げつけた。
すると、
「むぎゃ!!」
派手な音がして、詰め込まれていた布団と共にリリー様が転がり出てきた。
布団にくるまれた状態で目を回しているリリー様の額には、リーノが投げた杖が見事なまでに突き刺さっていた。
・・・流血が激しいけど、大丈夫だろうか。
そんな心配をしている俺とは他所に、リーノはリリー様の額を手でなぞり、
「壊れしものは、異界の力にて時を戻せ!」
見事なまでに傷跡を消し去っていた。
・・・すげぇ。見れば見るほど魔法がチートに思えてくる。
あまりの効果に感嘆していると、気を失っていたリリー様が目を覚ました。
「むぅー。私はリーノと『カクレンボー』をしていただけなのにー。」
「余計なことはしなくてもいいのね。『隠れんぼ』をした覚えはないし、付き合う義理もないのね。」
「全くー、最近の輩は冷たいなー。もう少し遊び心を持ったほうがいーぞー。」
「・・・そんなことより、大事な話があるのね。」
「そんなこととは心外だけどー、とりあえず話を聞こうかなー。」
見事なまでに俺の存在が空気になっている。
ここまでスルーされた男は、世界でもそうそういないだろう。
「カズのことだけど──」
なんて考えていたら、いきなり俺に話が回ってきた。
そうだ。そういえば、リリー様を探していたのは俺関係のことだった。
ついさっき、俺がリーノの部屋にたどり着いた時、『魔力の流れ』のようなものが見えたことについて報告するんだった。
「そう、俺──じゃないや。私、どうにも『魔力の流れ』が見えるようになったようd──」
「殺していい?」
「ええええ!? 俺なんか悪いことした!?」
かと思いきや、まさかの殺人宣言。あまりに酷すぎる。
あまりに酷かったので抗議の声を上げると、リーノはこちらを向いて、
「冗談なのね。」
さらっと流した。
・・・遊ばれた感満載。
顔に縦線を落として落ち込んでいると、「まーまー、そんなに落ち込むことないよー。」なんて励まされてしまった。
・・・俺、この中で一番年上のはずなんだけどなぁ・・・。
「冗談はさて置き、カズは、もう『魔力の流れ』が見えるようになったようなのね。」
「おー。それはいーことだけどー、ほんとーにそーかなー?」
「?」
「極希にー、過度のストレスで幻覚を見て勘違いする人がいるよーだけどー。それとは違うのかなー?」
「・・・確かに、確認してなかったのね。」
「? どういうことだ、リーノ?」
「要するに、ストレスで『魔力の流れ』と幻覚を見間違える奴がたまに出てくるってことなのね。私の攻撃や、監視魔法による攻撃があった直後のことだし、その可能性が無くもないってことなのね。」
「なるほど。」
「念には念を入れておいた方がいーよー。・・・と言う訳で、始まりましたクイズ大会!」
「・・・やってしまったのね。」
「・・・は? リーノ、今の状況をさっきの溜息の件も合わせて解説してもらえると非常に嬉しいんだが。」
なんだか、頭の中の危険信号がガンガン鳴ってる気がする。
・・・ヤバイ。やばいよこの空気。目の前のリリー様の態度の変わり方と合わせてヤバすぎるよこの状況!!
回れ右して部屋から出ようとしていた俺は、
「参加者は未來和磨さんと、アマキ・リーノさんでーす!!」
そんなセリフを吐き出したリリー様によって入口を塞がれた。
ええい! 所詮は子供! 年上の俺が勝てない道理はない!!
「どけえええ!!」
「さあさあ、張り切って参りましょう!! まずはルール説明! 今回のルールは──」
何故どかない!? いや、何故どかせない!? まさか俺より力が強いのか!!?
必死に抜け出そうとする俺を、リーノが冷たい言葉で宣告する。
「今、リリーは魔法で筋力を強化してるから、成人男性10人集めたってどかすことはできないのね。」
「やっぱりそうかああああああ!!」
だと思ったよ畜生!
道理でビクともしないわけだよ!
「因みに、リリーが使ってる『筋力増強魔法』は『継承魔法』だから、私は使えないのね。」
「唯一の希望まで微塵に打ち砕かれたよド畜生!!」
リーノに使えない魔法なのだから、これで俺達に勝目は無くなってしまった。
「でも、よく考えたら、ただのクイズなんだよな。これに答えることができたらすぐ終わるだろうし、ミスっても何の心配も──」
「因みに、間違えてしまった場合は熱湯風呂でーす!!」
「大有りだよこの野郎!!」
何この企画!? なんで某リアクション芸人(ヒント:ヤバイよヤバイよー、これマジヤベェよ)がやりそうな企画になってんの!?
しかも何故日本独特の文化を知ってんだ!?
「(・・・いいことを思いついたのね。そもそもこれは、カズに『魔力の流れ』が見えているかどうかの確認。つまり、私はそれを説明すれば逃げられるということなのね。)」
「もしもーし、リーノさーん。聞こえてますよー。思いっきり俺を見捨てようとしてる事見え見えですよー。」
「・・・はて、なんのことやら、なのね。」
「口元が歪んでんだよ! というか顔に『私裏切ります』って書いてあ──」
「──では、問題です!! 魔法には大きく分けて3つあります。その3つを答えなさ──」
「はいっ! 『攻撃魔法』『防御魔法』『通常魔法』の3つなのね!」
「だーいせーいかーい! と言う訳で、アマキ・リーノ選手に1ポイント入りまーす! なお、答えきれなかった未來和磨さんには、熱湯風呂の罰がありまーす!! ゆっくり3千秒数えて、体の芯から茹で上がりましょう!!」
「今、『茹で上がりましょう』っつったな! 明らかに言ったな!! しかも3千秒ってなんだ!? 茹で上がる前に窒息死だろうがボケ! しかも答えられなかったら罰ゲームとか聞いてねーぞ!! 『間違えてしまったら』と言っただろうが!!」
あまりにも理不尽すぎる!!
「3千秒については嘘です☆」
「よかった~・・・。てっきりマジで入るのかと──」
「本当は3百秒です☆」
「ちっとも安心できる数字じゃない!!」
「因みに罰ゲームについては、あなた方がギャーギャー喚いている間に『答えられなかった場合も罰ゲーム』と説明していたので実行決定です☆」
「もう俺逃げるっ!!」
説明に気を取られている今のうちに──っ!
「よっしゃ、だっしゅt──」
「脱出が、どうかしたのね?」
「外道! 人の道を外れた外道がここにいる!! 今すぐこの手を離せ! 逃がしてくれえええええええええ!!」
「・・・フッ、何を言っているのね。罰ゲームはきっちりと受けてもらうのが常。逃すわけにはいかないのね。」
「悪魔ああああああ!!」
「それに、カズにはいけに──おっと、口が滑ったのね。」
「いけに!? 今『生贄』って言おうとした!?」
「私には何の話かわからないのね。」
「さあ、熱湯風呂の準備が出来ました!! さあさあ未來和磨さん、どうぞこちらへ!!」
「いやああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・。」
「ここで、この罰ゲームの趣旨をご説明いたします! この踏み台に立っていただいて、その状態から後ろを振り向き、『落とすなよ! 絶対に落とすなよ!』と言っていただくことで、そこでスタッフが和磨さんを突き落とす、という罰ゲームです!!」
「日本に詳しすぎだ馬鹿野郎!!」
必死の抵抗も虚しく、モウモウと湯気が立つ熱湯風呂の淵に立たされる俺。
・・・よし。ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
男、未來和磨! 行くぞ!
「落とすなよ! 絶対に落とs──」
「おっと、手が滑りました!!」
「確信犯だなこの野ろ──モゴォ!!」
「おっと、手が滑りました、なのね!!」
「モゴモゴ・・・なにおまえまで・・・ガフッ! あっつい! 熱いか──グブブブブブ・・・・・。」
息を吸う間もなく熱湯風呂に全身を沈められる俺。リーノに至っては、どこから持ってきたのか、巨大な発泡スチロールを上からかぶせ、その上に居座るという始末。
おかげで俺は、息継ぎもできず、あまりの熱さに悶え苦しみながら意識を手放した。
☆
・・・あれ? どこだろう、ここ。
目を覚ますと、石室のような部屋にいた。
周りを見渡すと、そこにあったのは、
「天井、壁、俺の右腕を拘束している拷問具、俺の両足を拘束している拷問具、俺の左腕を拘束している拷問具、壁、天井、か・・・。」
一拍置いて、少し考える。
さらに一拍置いて、大きく息を吸い、
「お・か・し・い・だ・ろ!!」
石室を揺るがすほどの大声を出したとき、俺は夢中夢から覚めた。
☆
「全く、カズは礼儀知らずにも程があるのね・・・。」
「すいませんでした・・・。」
こんな会話を繰り広げること69回目。
自分の大声で目を覚ました俺は、リーノの小姑のような愚痴に付き合わされ、石造りの廊下を歩いていた。
因みに、あれから日付は3日経っていたりするので、宮殿内には休日明けの監視兵やメイド、騎士やその他諸々等が彷徨いており、先ほどの大声でちょっとした騒ぎにもなったりした。
その時は俺が謝り倒して許してもらい、事無きを得たのだが。
何故だかこちらの世界に来てから悪いことしか起きてないような気がする。
コンコンコン・・・と響く廊下の片隅で、はぁ、と溜息を付いたりするのだが、その気持ちがリーノに伝わる訳もなく、二人は少しずつ王室へと近づいていく。
「あ、そうそう。カズが寝てる間に調べたけど、本当に『魔力の流れ』を見ることができる体になっていたようなのね。」
「簡単に検査できるなら最初からそうしろよな・・・。」
俺の扱い、少しは良くなるのだろうか、なんて不安を抱きながら、二人は王室へと続く廊下を歩いていく。