第三話 見覚えのある朝
王立アルカディア魔導学院。
その広い中庭には、新入生が集まっていた。
入学式が始まる前の、少し落ち着かない時間だ。
レオンハルト・アルヴェリアは、人混みの中をゆっくり歩いていた。
その後ろに護衛騎士3人が続く。
第二王子という立場のせいか、周囲の学生は自然と道を開ける。
しかしレオンハルトは、そんなことは気にしていなかった。
視線の先には、ただ一人しかいないからだ。
茶色の髪。
緑の瞳。
落ち着いた雰囲気の令嬢。
クラリス・ヴァレンシュタイン。
レオンハルトの婚約者だ。
クラリスは門に入ってすぐのところで、静かに立っていた。
レオンハルトは自然に声をかける。
「クラリス」
クラリスは振り向く。
「おはようございます、殿下」
優雅に礼をする。
その仕草は、幼い頃から変わらない。
レオンハルトは少し笑った。
「おはよう」
そして当たり前のように、彼女の手を取る。
クラリスはすぐに眉を寄せた。
「殿下」
「なんだ」
「手を離してください」
「嫌だ」
クラリスは小さくため息をつく。
「ここは学院です」
「婚約者だから問題ない」
……あれ?
レオンハルトはふと違和感を覚えた。
今の会話。
どこかで――
聞いたことがある気がする。
クラリスは続ける。
「……目立っています」
「問題ない」
「問題あります」
レオンハルトは少し考え込んだ。
おかしい。
初めての入学式のはずだ。
それなのに。
このやり取りを、前にもしたような気がする。
時を同じくして、門の近くで銀髪の少年も違和感に気づいていた。
ユリウス・フェルンベルク。
『ロイヤル・スペル:身分違いの恋は魔法にのせて』の攻略対象者の一人だ。
魔導科の首席入学として有名な学生だ。
ユリウスは空を見上げていた。
正確には。
空間を見ている。
学院の魔力の流れを見ていた。
そして少し考えてから言う。
「おかしい、時間の魔力を感じる」
時間魔法は、ほとんど伝説に近い魔法だ。
現代では存在しないと言われている。
ユリウスは独り言を続ける。
「それもかなり強い」
推測する。
『誰かが魔法の練習でもしているのではないか』
しかしユリウスは首を振った。
『違う』
魔力の流れを観察して結論を出す。
『これは魔法ではない』
ユリウスはもう一度、空を見上げた。
『時間そのものが歪んでいる、魔法でできることではない』
ユリウスは小さく呟いた。
「まるで」
少し間を置く。
「この一日が、何度も繰り返されているみたいだ」
ユリウスは笑った。
「そんなことがあるはずがない」
しかし。
その言葉を口にした瞬間。
ふと。
胸の奥に、奇妙な感覚が広がった。
……いや。
本当にそうだろうか。
ユリウスは思い出す。
今朝の門。
どこかで。
すでに経験している気がする。
そのときだった。
中庭の端で、ピンク色の髪の少女がレオンハルトを見つめていた。
そして小さく呟く。
「……またダメ、
好感度、
最高
全然下がってくれない」
その瞬間。
世界が白く染まった。
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