第19話 エピローグ ログアウト
リリアは強制ログアウトされていた。
フルダイブ型ゲーム筐体の中で、強制的に切断されたのだ。
目の前には現実の天井。
静かな部屋。
ヘッドギアを外す手が震えている。
「……嘘」
声が掠れる。
モニターには無機質な文字が表示されていた。
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アカウント停止のお知らせ
利用規約違反(不正MOD使用)を確認しました。
本アカウントは
『ロイヤル・スペル:身分違いの恋は魔法にのせて』
へのアクセスを永久停止しました。
ご利用ありがとうございました。
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リリアはしばらく動けなかった。
「……嘘でしょ」
力が抜ける。
床に座り込んだ。
『ロイヤル・スペル:身分違いの恋は魔法にのせて』
リリアが大好きだった乙女ゲームだ。
四人の攻略キャラクター。
すべて正規ルートで攻略した。
何度もプレイした。
それでも。
満足できなかった。
どうしても気になった。
隠されたルート。
第二王子アレクシス。
だが。
そのルートは異常な条件だった。
婚約者クラリスとの関係が崩れる。
1000分の1の確率。
それも。
乙女ゲームではタブーの展開。
寝取られルート。
だから。
リリアはMODを使った。
セーブとリセット。
180時間。
何百回ものやり直し。
それでも。
1000分の1を引けなかった。
それどころか。
ゲームそのものに二度と入れなくなった。
リリアは頭を抱えた。
「なんでよ……」
『ロイヤル・スペル』は好きだった。
本当に好きだった。
だからこそ。
コンプリートしたかった。
だが。
リリアはキャラクターに萌えるタイプではなかった。
コンプリートに燃えるタイプだった。
だから。
気づかなかった。
あのとき。
講堂の在校生の中に。
アレクシス、セシル、ユリウスがいたことに。
肉壁の中に。
ユリウスとガルドがいたことに。
攻略キャラクターが全員。
目の前にいたのに。
リリアは見ていなかった。
もし気づいていたら。
もしかしたら。
もっと早く逃げていたかもしれない。
自分からログアウトしていたかもしれない。
そうすれば。
アカウント停止にはならなかったかもしれない。
リリアはフルダイブ型ゲーム筐体の中から転がり出た。
床に膝をつく。
そして。
泣き出した。
「やだ……
やだぁ……
もう入れないの……?」
『ロイヤル・スペル:身分違いの恋は魔法にのせて』
その世界はもう。
リリアには届かない。
ゲームの中では。
今日も。
王立アルカディア魔導学院の門が開く。
時間は巻き戻らない。
穏やかな日々が続いていく。
そしてそこには。
リリアのいない世界が広がっていた。
そして後になって分かった。
1000分の1のイベントは進行バグであり、第二王子ルートは存在しなかった。




