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地球号の後継者  作者: 紫 和春


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第4話 政治

 大和号歴六〇〇年頃。武蔵号の内部では、とある抗争が勃発していた。

 地球を崇高で神聖なる土地として崇め、人類は母なる地球を神格化すべきであると主張する地球崇拝者。対して、地球は地獄や悪魔の類いであり、それから逃避する我々は正しい行為をしたと考える地球嫌悪派。この二つの勢力が果てしない深宇宙航行の末に発生し、武力抗争へと発展していたのだ。

 時の行政府の議長兼府長の山南首相は、この事態に憂慮していた。

「このままでは、武蔵号の内部で戦争が勃発してしまう……。その前に、乗客たちのわだかまりを解消して内政を整えなければ……」

 山南首相は、早速対立構造を見直すために行政府内部で指示を出す。

「今回の問題は、地球に対する価値観の相違によるものだろう。地球のことに関しては脳内に直接インプットしているはずだが、それだけでは足りない何かがあるのかもしれない……」

 その考えを軸にした上で、各省庁から出航した職員による行政府直属の特別委員会が設置された。この特別委員会が突破口になると信じて、山南首相は業務を丸投げした。

 その一方で、乗客同士による武力抗争は激しさを増していた。

「我らの聖地を悪魔と罵る愚か者は処刑だー!」

「悪魔は貴様らだ! 皆殺しにしてやる!」

 地球崇拝者たちはデモ行進で、惑星記号における地球のマーク──丸の中に十字が入ったロゴや立体物を掲げ、脅迫まがいの発言を行う。

「我々は地獄から逃れた英雄の子孫だ!」

「地獄を崇拝するなど言語道断! 武蔵号から出て行け!」

 一方の地球嫌悪派も悪態をつきながら、火炎瓶などを投げてデモ行進を妨害する。

 それはどんどん過激さを増していき、やがては家屋や家財の破壊に至る。商店街の窓ガラスは一枚残らず割られ、店頭に並んでいた商品はほぼ全て万引きされた。

 こんな状況にも関わらず、治安当局はまともな対策を講じようとはしない。武蔵号のあらゆる場所で発生している暴動やそれに伴う事件に駆り出されているため、治安機関としての機能を果たすことができなくなっているのだ。

 武力抗争や暴動による経済悪化は、日に日に大きくなっていった。山南首相も行政府長としてできる限りの対策案を講じるが、大した効果は得られていない。

 そこで特別委員会の出番が必要になるのだが、来る日も来る日も良い報告を聞かない。秘書に事情を聞こうとしても、言葉を濁らせるだけであった。

「えぇい、我慢ならん。こうなれば自分の目で確かめる」

 そういって山南首相は、特別委員会が使用している合同庁舎の会議室に赴いた。部屋を開けて最初に見た光景は衝撃的であった。

 机や椅子が倒され、書類が地面に散らかっていた。大型プリンターは防護盾に、内線用の固定電話は投擲用の弾として飛び交う。その中で職員たちは血を流し、必死に互いを罵倒し続ける。会議室の中は、見るも無残な戦場に変わっていた。

 行政府内部にも、地球崇拝者と地球嫌悪派による分断は起きていた。

 そのことを理解した山南首相は、会議室の入口で頭を抱えてしまう。もはや、両者の溝を埋めることは叶わないことを理解したからだ。

 山南首相の姿を見つけた地球崇拝者の職員は、半分叫びながら彼の元に駆け寄る。

「首相! 地球のことを地獄と呼ぶ連中に鉄槌を下す特別命令を出してください!」

 それを見た地球嫌悪派の職員は、刃の出ているカッターを投げつけながら反論する。

「やめろ悪魔崇拝者め! 天罰を食らうのはてめーらのほうだ!」

 それを発端に、会議室の中は再び罵倒と備品が飛び交い出す。

 山南首相はそっと会議室を後にして、自分の執務室に戻る。

「こんな状態じゃ、まともな政治などできないな……」

 そんな時、執務室の扉がノックされる。入ってきたのは第四秘書の男性だ。

「首相、失礼します」

「どうした? 何か不味いことでも起きたか?」

「えぇ、そうなんです」

 そういって第四秘書は、懐から果物ナイフを取り出す。

「あなたが邪魔なんです」

 そのままナイフを山南首相に向けて突進してくる。山南首相は椅子から転げ落ちるようにしてナイフの軌道から外れる。

 それでもなお第四秘書は、山南首相に馬乗りになってナイフを突き刺してこようとする。山南首相は第四秘書の手首を掴み、ナイフの切先を別の方向に向ける。

 その時、銃声が響き渡る。第四秘書は銃声の直後に力なく山南首相の上に覆いかぶさった。

「ぐ……、だ、誰だ?」

「私です、首相」

 そういって出てきたのは、保安省の大臣である浜地だ。浜地大臣は第四秘書だった遺体を押しのけ、山南首相へ手を差し出す。

「ご無事でしたか?」

「あぁ……、助かった」

 立ち上がった山南首相の姿を見て、浜地大臣は悲しそうな顔をする。

「首相、ずいぶんご苦労なされてますね」

「そうだな……。君も特別委員会の話は聞いているだろう? 委員会の会議室に行ったのだが、もう手を付けられない状態になっていてな……」

「それは大変だったでしょう?」

「あぁ……。このままじゃ行政府は機能不全に陥って、武蔵号内部は無法地帯の戦場になってしまう」

「その通りです。しかし首相、私に腹案があると言ったらどうしますか?」

「あるのか!? そんな方法が!?」

「えぇ、ありますとも」

 そういって浜地大臣は、ためらいなく山南首相の右足を撃つ。

「ぐぁっ」

「これから首相には、行政府の全権を私に委任してもらいます。それさえ許していただければ、この騒動を収めることができます」

「そ、そんな……」

「拒否すればそこの秘書と同じように、頭に穴が開きますよ?」

 ひどい痛みの中、山南首相は他に方法がないことを悟る。

「……頼む。首相代理として、この武力抗争を止めてくれ……」

「承知しました」

 浜地大臣はニッコリと笑い、執務室を出ていく。部屋の外で待機していた特殊部隊に対して、浜地大臣は命令を下す。

「全職員及び警官に通達。ただいまを以って武器の無制限使用を許可する。暴動鎮圧に際し、乗客の生死は問わない。反抗するようなら優先的に射殺せよ」

『はっ!』

 こうして、治安当局による大規模な虐殺が発生する。たった二日と十時間で乗客同士の武力抗争は終結した。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

『乗客諸君。これからは私が首相……、いや、この都市国家「高天原帝国」の皇帝として、素晴らしい政治をしていくことを約束しよう。ここに、高天原帝国の建国を宣言する』

 彼は首相代理として行政府の機能を乗っ取り、全ての権限を治安省及び自分へと集中させた。それが完了したことを確認し、高天原帝国の建国を宣言。自らを高天原帝国の初代皇帝と名乗ったのだ。

 それから数年にわたり、皇帝は恐怖政治を敷いた。これにより乗客の数%が命を落とすことになり、武蔵号は暗黒時代へと移り変わっていくのだった。

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