働け!クソ勇者!
拙い文章ですが気に入ってくだされば幸いです。
俺の名はフレア。勇者だ。
そう、おとぎ話に出てくるあの勇者。
魔王を倒すあの勇者だ。
ふざけているように聞こえるかもしれないがこの国のエライ人とか王様が直々に言ってるんだから多分そうなんだろう。
しっかし迷惑な話だ。
俺は剣術やら格闘術やら弓術なんざ触れたこともないただの鍛冶屋のニートだ。
そんな俺のところに占いによって導かれた勇者様だとか何とか言って城の使者がやってきて、それからは俺の意思など関係なしに魔王退治に行く流れになってしまった。
しかーし『働いたら負けだ!』という俺の強固な意志がある限り俺が魔王退治だなんてめんどくさそうで怖いことなんて絶対にしない。
そしてなんやかんやの理由を付け魔王退治を延期させ続けて既に一ヶ月近く経った。
そして、今日もまたいつもの使者がやってきたようだ。
「フレア様!今日こそは魔王退治の旅に出発していただきますよ!」
彼の名はシュラス。毎日毎日俺の平穏なるニート生活を脅かそうとする迷惑な奴だ。
「帰れ!」
「…あのなんかだんだん雑になってきてません?
最近は貴方に魔王退治をする気が全くないということが城の方にまで伝わってしまって城内で完全に厄介者扱いされてますよ?」
「じゃあ君も厄介者の相手してないでとっとと帰れ。」
「無理ですよ貴方を出発させるのが私の仕事なんですから。」
「え〜…………ちょっと…今日は…お腹の調子が良くなくてね……」
「3日前も言ってましたよね。」
「ちょっと頭が…」
「5日前」
「腰やっちゃって…」
「10日前」
「走ったら足が折れちゃって…」
「貴方外に出てないじゃないですか。」
「家の中で…」
「そもそも部屋から出ないじゃないですか。
というか家の中で走る状況とは?」
「あぁもううるせぇな!いいからとっとと帰りやがれ!」
「…しかたありませんね。」
「おっ、今日は物わかりがいいな。
じゃあとっとと回れ右して…」
「騎士団の皆さん!」
シュラスが合図をするとそこに現れたのは完全武装の王国正騎士団。
「…あ、あの…シュラスさん?その人たちは…?」
「貴方があまりにも動かないので実力行使に出ることにしたのです。
どうします?大人しく出てくるなら彼らは何もしませんよ?
まぁもし出てこないなら彼らを家に突入させますが。もちろん、ご両親には許可を取ってあります。
さて、どうします。」
まさかの暴挙!
どうする大人しく出ていくか?
否!ここで引くのはこの俺のニートとしてのプライドが許さない!俺は、俺の意思を貫く!
「やれるもんならやってみろ!
ニートの底力見せてやらぁ!!!」
「な、何故そこまで全力なんですか!?
……まぁいいでしょうそちらがその気なら。
正騎士団、突入用意!」
あっヤバイ、よく見たらすっげぇ怖い。
正騎士団スゲェ怖い。
うん、これはあれだな。
「…いや、やっぱあれだな!うん、人類のためにも魔王退治に……」
「もう遅い!突入!」
「あっおい!ちょっ…ちょっと待てよ。落ち着け!落ち着いてって!ちょっ……ご、ごめんなさい!
許してください!今まで調子のってすみませ……
うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「シュラス様!対象制圧しました!」
「ありがとうございます。ではこのまま連行よろしくお願いします。」
こうして手も足も出ず制圧された俺はそのまま王城へと連れて行かれた。
王城。
この国の王様とかエライ人たちがいる場所だ。
そして俺は、ロープで縛られ騎士団員2人に囲まれながら王の前に正座していた。
「おい、これが勇者様に対する扱いかよ。
仮にも勇者として扱うんならもっといい場所と状況を用意しろよ。」
「黙れ!今まで散々理由をつけては旅に出るのを拒否していたというのに何故貴様のような奴に丁寧な対応をせねばならんのだ!」
チッ、話のわからねぇ野郎だ。
そばにいる騎士団員と言い争っていると俺の前にいる初老の男性、この国の国王が話しかけてきた。
「フレアよ、何とか旅に出てくれんか?
旅に出るというならもちろん最高級の装備と優秀な仲間をつけるぞ。
技能的に不安があるというなら専属の教育係もつけよう。これなら何も問題なかろう?
何が望みだ。言ってみよ。」
「ベッドと酒と俺好みの美女をたくさんください。」
「欲望の権化かね君は。」
「人ならば誰でも望むものです。
少なくとも責務よりは。」
「君は自分がどんな立場に立っているか分かっているのかね?
勇者だぞ?全人類の希望の象徴だ!
魔王の軍勢に対し、劣勢となっている全人類を背負い立つ伝説の戦士だ!」
「それで選ばれたのが俺ですよ?働くことですら難易度の高いニートに魔王退治をさせろとかどんな無茶振りですか?
王様の賭博癖解消のほうがまだ望みありますよ。」
「それはありえん。
ワシは賭博をやめる気はサラサラない。
勝つまでやめんし勝ってもやめん。」
「陛下!?」
「…話がそれたな。
君には何を言っても動かないだろう。」
「そのとおりです。
ですからあきらめて別の勇者を見つけて下さい。」
「それは無理だと言っておるだろう。
勇者は数百年に一人しか生まれん。
既に君に決まってしまった以上次現れるのは数百年後、もはやその時に人類が残っているかすら怪しい現状では何としてでも君に動いてもらわなければならんのだ。
そこで、わが国は君を強制的に動かすことにした。」
「え?」
王国の外、目の前に広がるのはだだっ広い草原。
その中で1本の道が遥か東に向かって進んでいる。
「ここから東に行けば伝説の剣が封印されているという山がある。まずはそこを目指してくれ。」
「………」
「では幸運を祈るぞ………勇者よ!」
こうして今だロープで結ばれたままの俺はそこそこの武器防具と資金と共に馬車に放り込まれ、不本意ながら旅を始めることとなった。
旅の馬車の中。
「見てくださいフレアさん!
あれは一体何でしょう!?
鳥でしょうか?モンスターのような見た目をしてますよ!」
「ねぇ、なんで君もいるの?」
俺はその当然の疑問を、目の前ではしゃいでいる今回の件の元凶ことシュラスに言い放った。
「国王陛下直々に貴方について行くようお願いされたのでついてきました。」
「そうかい。」
「?テンション低いですね。」
「誰かさんのおかげで朝から縛られた状態で家から引きずり出された事に加え、そのまま馬車に乗せられて強制的に旅立たされてるからな。
というかそろそろ解いてくれないかなロープ。」
馬車に揺られることおよそ3時間、不意に馬車が停止した。
「あれ?止まった?」
「どうしたんでしょうか。」
ふと馬車の前を見るとそこにはモンスターがいた。
ゴブリン。武器を持った人形のモンスターだ。
「なるほど、ゴブリンがいたから止まったのか。」
「まだこちらには気づいてないみたいですね。」
「………」
「………」
「……あの、フレアさん?出番ですよ?ゴブリンを倒してくれませんか?」
「無理です。」
「即答!?」
「前々から言ってるじゃないか。
俺は戦闘の経験なんて微塵もないって。
シュラスこそゴブリン倒してきてくれよ。」
「…えっと、私も戦闘はかっらっきしでして……」
「………」
「………」
「「詰んだぁぁぁ!」」
「どうしようどうしよう。」
「どうすれば……そうだ!御者さん。」
「な、なんですか?」
「突っ込め。」
「嫌ですよ!?というか無理です。そんなことしたら馬が言う事聞かなくなってしまいます。」
そんな感じで3人で話し合った結果、1人が囮となってゴブリンを引きつけ、その隙に馬車を強行突破させ、ゴブリンを通り過ぎるタイミングで囮を回収し、そのまま爆走して逃げ切るという作戦が出てきた。
しかし、問題があり……
「さぁフレアさん、出番ですよ。
今こそ勇者として活躍するべきです。」
「いや、シュラス、君が行ってくれよ。
ゴブリンなんて勇者が戦うべき相手じゃぁないよ。
そう、役不足って奴だ。」
これである。どっちも戦闘なんてできないのでお互いに押し付け合いをしているわけだが、御者さんの提案でけっきょくじゃんけんで決めることにした。
「よーしそれじゃいくぞ。一発勝負だ。負けても文句は言うなよ?」
「わかってますよ。せーの。」
「「じゃーんけーん」」
「まぁこんなこったろうとは思ったよ。」
じゃんけんに負けた俺は、恐る恐るゴブリンに向かって歩いて行った。
と、ゴブリンもこちらに気づいたようだ。
俺はそのまま道からそれるように移動し、ゴブリンを引きつけながら走った。ここまでは良かった。
だがここで問題が起きた。
ゴブリンの足がクソ速い。いや、俺の足が遅いのか?
おそらくその両方だろう。
ゴブリンの集団にあっという間に取り囲まれた俺は、恐怖で完全に硬直し、声も出せなかった。
そしてそのままゴブリンが襲いかかってきて…………
ゴブリンにボコボコにされ、危うく死にかけた俺は何とかシュラスに回収され王国まで逃げ帰っていた。
「ああ勇者よ、死にかけるとは情けない、魔法により回復を終えしだい速やかに……っておい待て、何処に行く……あっおい逃げたぞ、捕らえろ!捕らえてもう一度送り出せ!」
魔王退治なんて冗談じゃない!
街をでて最初に出会ったゴブリンにすらボコボコにされる俺に勇者なんて務まるわけがないない。
俺はもう2度と勇者をする気はない!
俺が逃げ帰ったその日、回復のため休ませてくれと言ったら、今日だけだと言われてその日は家で休ませてくれることになった。
だが明日になっても俺はもう働くつもりはない。
そこで俺は1つ対策を講じることにした。
「おはようございます!
フレアさん今日こそは伝説の剣を手に入れますよ!」
「失せろ!」
「相変わらずの即答ですね。
では、騎士団の皆さん!」
シュラスめ案の定騎士団を出してきたな。
しかーし今回の俺は前回とは違う。
今度こそ絶対に家に引きこもるため完璧な対策を講じているのだ。
「フハハハ!シュラス、もはやその脅しは俺には通用しない!あきらめて城に……」
「突入!」
「ちょっおい待て!人が話してる途中だろうが。」
「うるせぇ!いい加減にしろ!こっちも仕事なんだよ!これ以上仕事増やすんじゃねぇ!」
「おっと素が出てますねシュラスさん。」
「……あれ?おかしい、本来ならもう制圧されているはずなのに……」
「シュラス様!大変です。奴は家中にバリケードを設置して防衛線を築いています。」
「な、なにぃ!?」
「ハハハハハハ!どうだ!この完璧な対策は!
これで俺は魔王退治に行かされることはない!
さぁ大人しく城に……」
「おい誰か、破城槌もってこい!
あの野郎バリケードもろともぶっ飛ばしてやる!」
「おいバカやめろ!道具持ってくるとか卑怯だぞ!
………あっ…ちょっ…やめて!やめてくれ!
今出るから!外出るから!伝説の剣とか取ってくるからやめてくれ!」
けっきょく俺は突入してきた騎士団によってまたしても強制的に旅立たされた。
「また会いましたね、御者さん。」
「あの、勇者様。昨日も思ったのですが、何故縛られた状態で馬車に放り込まれるのですか?」
「これは彼の趣味なんです。」
「趣味……そうですか……それは……」
「おい待てシュラス。
テメェ何勝手なこと口走ってんの?
俺はそんな変態趣味は持ってないぞ。
御者さんも信じないでくださいよ。」
「私は…勇者様のことですから…何とも……」
「だから信じるなって!」
「………プッ」
「コイツ!!」
「ああ、やめてください!馬車で暴れないでください!暴れないで!ちょっと……
おい!いい加減にしろ!暴れんな!」
馬車に揺られること4時間。
今回はゴブリンに会うこともなく、無事に目的地にたどり着いた。
「では、私はここで待っておりますので。」
「ええ、ありがとうございました。」
俺とシュラスは一旦御者さんと別れ、伝説の剣があるという山の山頂を目指して登山を開始した。
「お、おい、シュラス。
ち、ちょっと、休憩、しようぜ?」
「何言ってるんですか、さっき休憩したばかりじゃないですか。」
「と、とはいえだな、ニートに、山登りは、きついんだよ。ロクに、運動もして、こなかったし。」
「はぁ…しかたないですね…
もう少し登った先に山小屋があります。
もうすぐ暗くなるので今日はもうそこに泊まりましょう。」
どうにか山小屋にたどり着いた俺達はそこで一夜を明かし、翌日、数時間かけて山頂にたどり着いた。
そこには、岩に刺さった剣があった。
長い年月を思わせるその柄からは確かに何がしかの神聖さを感じるような気がしないようなこともないように感じられる。
「こ、これが伝説の剣…?」
「そうです。
この剣は勇者様にしか抜けないようになっています。
さぁ勇者様、剣を抜いてみてください。」
俺は剣の柄を持ち力を込めて引き抜いた。
岩の中から出てきたその剣はそれはそれは見事に…
錆だらけであった
「………」
「………」
「……あ、あれぇ。なんでこんなに錆びてるんだ?」
「この剣封印されてから何年よ?」
「ざっと320年くらいですかね。」
「そりゃ錆るわ!
てかむしろよく無くならなかったな!」
そう言って錆びた刃の部分を触ると……
「あっ……」
「あっ……」
剣は無残にボロボロと崩れていった。
「………」
「………」
俺達は顔を見合わせそして同時にこう言った。
「「伝説の剣なんてなかった!!!」」
俺達の報告を受けて王国は絶望した。
「やったー!家だー!」
王様への報告を終えた俺は家に帰っていた。
だが今日はこれで終わりではない。
明日の騎士団をどうして追い返すかを考えないといけないのだ。
「さて、どうしたもんかね。」
前回は破城槌を持ち出された。
バリケードでは簡単に突破されるだろう。
となれば防衛ではなく直接追い返すことはできないだろうか?
確かに俺は戦う能力なんざ持っていないが、この狭い室内であれば、基本的に槍で戦う騎士団の連中は大幅に行動が制限されるだろう。
そこをつけば俺でもチャンスはあるのではないか?
………!いいことを思いついた。これならいける!
「おはようございます!フレアさん!」
「おはようシュラス。」
「今日はまず王から話があるそうです。
王城に行きましょう。」
「ことわ…」
「突入!」
「食い気味!?
だが残念だったな騎士団諸君。これでも食らえ!」
いつもどうりのやり取りを終えたのち、俺は秘密兵器を作動させた。
「うわっ」
「なんだこれ」
「痛ぁぁぁ」
効果はテキメンのようだ。
「な、なんだ!何が起きている!」
「シュラス様!奴は家の中に小型の投石機のようなものを仕掛けています。
家の中から大量の小石が飛んでくるのです。」
「はーっはっはっは!どうだ!見たか!
俺の秘密兵器は!伊達に鍛冶屋の息子やってねぇぜ。」
俺が作ったのは弓の仕組みを応用して作った装置。
弓を横にしてその下に木製のレールを設置、レールに石を置いた状態で弓を引き、離すとレールに沿って石が発射されるという仕組みだ。
さらに歯車と組み合わせることで俺が部屋からハンドルを回すだけで自動的に撃ち続ける。
もちろん石以外もいけるが、さすがに相手を殺すつもりはないため、威力を下げ、なおかつ丸めの石を選んでいる。
「どうだ俺の秘密兵器は!石を放つ弓だからな、石弓とでも名付けるか。」
「ぐぬぬ……?あれ?石が飛んでこなくなったぞ?」
「へ?………あっ弾が切れた………
おい、ちょっと待て、話をしよう。
人は会話ができる生き物だ。
だから一旦その怒りを鎮めて………」
「袋叩きにしろ!」
「待って!待って!やめてぇぇぇぇぇ!」
こうして騎士団員に仕返しだとばかりに袋叩きにされた俺は、いつもよりボロボロの状態で王城へと連行された。
「魔王軍がこっちに向かってる!?」
俺は自分の耳を疑った。こんな辺境の小さな王国を魔王軍が攻撃するだなんて。
「ああ、そうだ。
隣国の斥候部隊が発見したらしくてな。」
「規模は一体どのくらいなのでしょうか?」
「隣国によれば…およそ2000、幹部と呼ばれる者も確認できたらしい。」
「よし、逃げよう。」
「待て!その気持ちはよく分かるがお前は待て!
魔王軍に対抗できるのは勇者だけなのだ!
だから……」
「……勇者勇者って、なんなんだよ。
俺はただのニートだ!
素晴らしい剣の腕があるわけでもない!
誰にも負けない格闘術があるわけでもない!
凄まじい魔法が使えるわけでもない!
ただの!なんの役にも立たないニートなんだ!
それを勇者だなんだと祭り上げて、死ぬかもしれないところに平気で送り出して、なんなんだよ!
俺は何もできないんだ!何者でもないんだ!
だから!だから、もうほっといてくれよ……」
「…………すまない、だが、誰がどう思おうと奴らがここに来るのは既に確定している。
ワシは戦いを強制はせん、逃げたいなら西に逃げるといい、魔王軍は東から来ておるしな。
今まですまなかった。達者でな。」
王はそう言って立ち去っていった。
自分の部屋の窓からふと外を見ると街の人たちが慌ただしく避難の準備を始めていた。
昨日、俺が家に帰ってからすぐに王様から魔王軍が接近しているということが国民に発表された。
王様曰く、魔王軍は約1週間でここまで来るらしい。
自分の部屋から見る景色はまだいつもどうりだ。
でも魔王軍が来たらこの街はどうなるだろうか。
俺はこの街が、この国が大好きだ。
街1つ分しかないような小さな国だが、それでもここが大好きだった。
小さい頃はこの国のためになることがしたかった。
自分の周りにいる大好きな人達を守りたかったのだ。
でも実際の俺はどうだろうか。
自分の身すらろくに守れず、モンスターにボコボコにされ、周りに迷惑をかけながらニートとして生きている。
こんな人間がこの国のためになりたいだなんておかしな話だ。
「フレアさん。いますか?」
シュラスが玄関の前に立っていた。
こちとら物思いにふけっていたというのに空気を読まない奴だ。
「話したくないならいいです。
けど聞いてください。
国民の避難用馬車は明日から出るみたいです。
隣国が避難民の受け入れをしてくれたので比較的すぐに避難できると思いますよ。」
「……シュラスは逃げないのか?」
「私は逃げませんよ。」
「怖くないのか?君も俺と同じで戦いなんてできないじゃないか。」
「……そりゃあ怖いですよ。
怖くてたまらないですよ。
でも、戦うことができなくたって私にできることはあります。
私は最期のその瞬間まで私にできることをやり抜きます。
では、私はそろそろこれで。
さようならフレアさん。
貴方には散々振り回されましたが、割と楽しかったですよ。」
そう言ってシュラスは王城へと向かっていった。
その背中を見つめながら俺は自分に問いかける。
本当にこれで良いのか?
いいや駄目に決まっている。
でも俺に何ができる。
俺にできることなんて何もない。
そう思っていた。だが。
ふと、自分の部屋に置かれたハンドルが目に入ってきた。
昨日の朝、騎士団の迎撃に使ったものだった。
……そうか、俺にできることは何もないわけじゃない。
これならもしかしたら!
俺は覚悟を決めた。
俺は俺にできることをする。
俺は王城に向かって走り出した。
「国王陛下!」
俺が王城に到着すると王様をはじめとしたほぼ全ての人が驚きの眼差しで俺をみていた。
それもそうか。
俺が自分からここまで来ることなんて今までなかったのだから。
「フレア、どうしたのだ?」
「国王陛下、魔王軍の撃退に関して、俺にアイデアがあります。」
「何!?どういうものだ。」
「俺の作った新兵器があれば、魔王軍を撃退できるかもしれません。
つきましては、王国軍の指揮をとらせてほしいのです。」
「ば、バカを言うな!
貴様のようなニートに軍の指揮権などやれるか!」
「お願いします国王陛下!
俺はこの国が大好きです!
この国を守りたいんです!」
「…………わかった。許可する。」
「へ、陛下!?」
「確かに、彼は何もできない。
しかしわれわれにも現状魔王軍を撃退する案は無い。
だが、フレアは何か策があるようだ。
ならば賭けてみようではないか。
何と言っても、彼は勇者なのだからな。」
「……陛下がおっしゃるなら。」
「ありがとうございます!」
「それで、フレア。
具体的な案を教えてくれないか?」
俺の考えた王国防衛案を王様や各大臣に伝えた。
「バカな!本当にそんなことができるのか?」
「できます。やってみせます。何としても。
ですが俺一人ではできません。皆さんにも協力していただきたいのです。」
そして、俺の指揮の元、王国の防衛準備が開始された。
魔王軍の攻撃部隊は既に王国の目と鼻の先にまで迫っていた。
「しっかしねぇ、何でこんな辺境の国にまで攻撃をしなけりゃならんのかね。」
「仕方ないだろ?伝説の勇者がいるらしいとか言われてるんだから。魔王様は我々の優勢を完全にするために邪魔なものは最優先で潰したいんだと。」
「しかしこちらの数は圧倒的だ。
あんな小国を潰すなど造作もないな。」
魔王軍は着々と攻撃準備を整えていた。
王国を取り囲む城壁の上で俺は眼前に迫る魔王軍を見下ろしていた。
「ついに来ましたね、魔王軍。」
「ああ、だがこれだけ準備をしたんだ。
何としても勝たなければな。」
そして、俺は後ろに控える王国正規軍に言葉をかけた。
「王国正規軍諸君!此度の戦いは王国の未来をかけた戦いだ!敵は強大であり、非常に手強いだろう。
しかし!我々は勝つ!奴らの軍勢を打ち破り、この国に平和を取り戻す!
作戦は事前説明通りだ。
今夜、奴らに奇襲を仕掛ける。
王国の興廃この一戦にあり!
各員、一層奮励努力せよ!」
兵士たちは勇ましい雄叫びをあげ、魔王軍への攻撃準備を整えた。
夜になった。
王国の外は暗い。
だが今日は違った。
目の前に迫る魔王軍がする野営によってその場所だけが明るく照らされていたのだ。
これは好都合。密集している敵は今回の作戦において非常に殺りやすい敵だ。
そしてついにその瞬間が来た。
「攻撃開始!」
俺の号令により、今回の作戦の肝となる新兵器、
大型魔導砲が一斉に火を噴いた。
大型魔導砲、それは俺の開発した新兵器であり、魔石と呼ばれる魔法を込めた石を使う。
魔石に強い衝撃を与えると魔石内部の魔力が暴走し、爆発を起こす。
それを用いて、金属製の砲弾を発射し、敵を攻撃するのだ。
比較的簡単な仕組みで動作するため、鍛冶屋仲間と協力することでこの戦いまでに多数を揃える事ができた。
そして、発射された砲弾は、狙い違わず魔王軍攻撃部隊のど真ん中に着弾した。
その時、魔王軍攻撃部隊は大混乱に包まれていた。
突然の奇襲。それは理解できたが、どこから攻撃されているのかがわからない。
「い、一体何が起こっているんだ!」
「見て下さい!奴ら、城壁から謎の攻撃を行なっています!
ん?何かとんでくる!?」
「いかん、反撃だ!反撃!」
その声に合わせるように何人かの魔族が魔法を唱え、反撃を開始した。
「敵魔法攻撃が来ます!」
「まずい!場所はどこだ!」
「敵部隊右側!撃って来ました!」
「総員退避!」
魔法が着弾し、大爆発を起こした。
「ッ!被害は!?」
「こちら13番砲塔、壊滅しました!兵は無事です!」
「わかった、13番砲塔の人員は速やかに12番砲塔へ移動せよ。」
「1番から10番発射準備完了!」
「全基一斉射!撃て!」
攻撃の応酬は続いた。
王国側は20基用意した砲台のうち半数である10基が破損し、使用不能に、総兵力1500のうち300の負傷者を出した。
一方で魔王軍側の被害も凄まじいことになっており、
王国の攻撃により、総兵力2000のうち半数以上である1200が負傷し、戦闘不能になった。
だが、魔王軍は突撃してくる。
近接戦になれば魔王軍が有利である。
故に城門が破られれば非常に不利になるが、魔王軍を止める力はなく、やむを得ず、市街戦に突入することになった。
「魔王軍、城門を突破!」
「これより第二段階へ突入する!
全部隊散開!魔王軍に対し攻撃を行え!」
市街地での作戦は至極単純、魔王軍の前後左右あらゆる場所に現れては、攻撃を仕掛け、反撃を受ける前に全力で逃げる。
いわゆるゲリラ作戦を行った。
これにより魔王軍は少しずつ数を減らしていった。
「こんな戦い方、騎士道に反するとは思わんか?」
「確かにそうです。しかし隊長、こうでもしなければ我々の勝ち筋はありません。」
「わかっている。
おっ、魔王軍が来たぞ。
総員攻撃用意!
今だ、撃て!」
石弓から発射された矢は、通常の弓から発射される矢よりもはるかに強力で、魔族の硬い皮膚にも簡単に刺さる。
攻撃を受けた魔王軍は速やかに反撃を行うが、騎士達は既に逃げ去っていた。
しびれを切らした魔王軍は街もろとも全て焼き尽くす戦略に回ったため、王国側の被害も拡大したが、魔王軍は既に100人を切っていた。
だがこちらの兵力ももう限界であり、もはやどちらも何もできなくなりつつあった。
魔王軍側のリーダーである魔王軍幹部が前に歩み出てきた。おそらく一騎打ちを望むのだろう。
……行きたくねぇなぁ…でも行くしかないよな…
そして俺も魔王軍幹部の前に出た。
「我が名はザレス。魔王軍幹部の一人ザレス様だ。
貴様の名は何だ。」
「俺はフレアだ。勇者だとか言われてるな。」
「ほう、貴様が勇者か、ではその実力を見せて貰うとしよう。」
ザレスはそういいながら斬り掛かって来た。
「うおっ!?」
間一髪で回避した俺は、背中に掛けていた最後の秘密兵器を用意した。
「食らえ!」
小型魔導砲。
大型魔導砲を小型化した個人用携帯兵器だ。
試作段階の1基しかないが、威力はそこそこある。
だが、放った弾は外れ、ザレスの二撃目が俺に当たった。
「ーーッ!」
痛い、超絶痛い。
血が大量に出ている。
「勇者といっても所詮はこの程度か。
だが油断した、ここの軍がこれほどまでに強かったとはな。」
ザレスは余裕の笑みでこちらを見下ろす。
そしてこちらに近寄り…
「まぁいい、一思いに楽にしてやろう。」
こちらの胸に剣を刺す瞬間、俺は隠し持っていたダガーでザレスの胸を突き刺した。
「な、なに、を」
「俺は立派な勇者様なんかじゃない、勝つ為なら汚い真似だってするさ。
俺はただ勇者と呼ばれているだけのただのニートなんだからな。」
ザレスは大量の血を流し、ピクリとも動かなくなった。
そして俺も失血により意識を手放した。
魔王軍撃退から1週間が経った。
あれから俺は王城の医務室に運び込まれ、何とか一命を取り留めた。
それからは王様から直々にお礼を言われたり、街の人たちから英雄だなんだと祭り上げられたりしたが今は家でいつもの生活を送っている。
窓の外から見える景色は、少し変わってしまったが、それでも僕の大好きな街は戻ってきた。
「こんにちは。フレアさん。」
「こんにちは。シュラス。」
「フレアさん、ちょっとお願いしたいことがあるのですが。」
「断る。」
「……え?今なんて?」
「断ると言ったんだ。
もう面倒事はごめんだ。疲れた。働きたく無い!」
「はぁ…今回の件で心変わりしてくれたのかと思ったら…根っこの部分は変わってないんですね。」
「変わらないのは君もだろ?」
「だったら私から変わりましょう。
もう君に敬語なんて使わないからね。
素の私で対応してやるからな。」
「今までちょくちょく出てたからな。
新鮮味がないなぁ。
そうだなぁ下から目線で土下座でもしながら頼んでくれたら考えてやってもいいぞ?」
「誰がそんな事するか!
いいからウダウダ言ってないで、働け!クソ勇者!」
グダグダな勇者の伝説はまだ始まったばかりであった。
こんな作品を読んでくださりありがとうございます。
読んでくださった方の心に残ればと思います。




