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冒険者協会

「まず中央にある大穴が“冥府回廊ネクロポリス”、俺たちが潜っていた迷宮だ」

レオネルさんがどこからか街の地図を買ってきてくれて、指を指しながらこの街のざっくりとした地理を教えてくれた。

「穴の周りをぐるりと囲むここがドーナツ型迎撃広場。今俺たちがいる場所で、夜になると屋台が並ぶ。穴から端の壁までだいたい100mくらいあって、迷宮からモンスターが出てきた場合、この広場で上級冒険者達が迎撃する。壁も高さが60mくらいあるらしいから、ほとんどのモンスターは簡単には登れない。」

「なるほど…」


俺が今いる屋台街は、冒険者がその日の探索を終えて出てくる夕暮れ時くらいから、まるで生き物が巣を作るかの様に増えていくらしい。そして、夜明け前、冒険者が再び迷宮に潜り始める頃にはそもそも初めから何も無かったかの様に消えている。確かに俺が迷宮に潜る前はただっ広いドーナツ型の広場だった。


そうか、この広場は…緊急時は戦場の役目を果たすという事か。


「それでここが1環・北東テラス。」

ポンポンと地図を指で叩きながらレオネルさんは壁の上に建つ建物を指さした。

「冒険者協会はこの張り出しの先端にある。あそこを見てみろ。せり上がる段が見えるだろ?あれが冒険者協会だ。」

「おぉ…!あれが…!!」

夜空に向かってポツポツと灯りが登っていき、高い壁の上に巨大なアーチが三つ見える。アーチの中はとても明るく、小さな人影が行き来しているのが見えた。建物はネクロアリアの街っぽい西洋風の建築で、円形の盤飾りが淡く光っている。

輪が連なる紋と剣と盾のマーク。おそらくこれが冒険者協会の印なのだろう。


「この街は中心の迷宮から円形のテラス状になっていて、下から第1環、第2環とせり上がっていて、第5環が一番上の段となる直径約30kmくらいの街だ。結構デカいだろ?冒険者協会とか迷宮探索に必要な施設は、だいたい第1環にあるから覚えておくといい。この地図はお前にやるよ。」

「えっ!…と…ありがとうございます」


「クッッソうんめぇぇええええ~!!」

「ああ~!生き返るねぇ~~」

俺がレオネルさんに説明を聞いてる間に、ギルバートさんとフェリアさんが屋台で何か買ってきていて飲み食いを始めていた。うぅ…俺も何か買いたいがお金が無いな…。


「ハル、お腹空いてませんか?」

「えっ…あ…俺は…大丈夫です」

「彼らが食べてるのは霧焼き串という食べ物です。ハルも食べましょう。」

「え………!!いいんですか!??」

「ふふ…これまでで一番大きい声出ましたね。」

っは…!恥ずかしい。

けどこの世界に来てまともに食事なんて出来ていない。セレナさんとエナさんのご厚意でもらった資金もほとんど宿代に消えたし…ちゃんと食べたのってエナさんのお弁当くらいかも。迷宮探索中も携帯食だったから、テンションが上がってしまうのは許して欲しい。

ミーナさんが屋台の店主に4本、霧焼き串を注文してくれた。

「ハル、いい匂いがしますよ」

屋台の鉄網がパチパチと鳴っている。脂が火に落ち、炎が肉を煽るたび、香ばしく甘い匂いが漂ってくる。

ぎゅるるるるるる…

ううっ…めっちゃお腹空いた。

串の先には、灰羽鶏と呼ばれる鶏みたいな鳥肉とキノコが交互に刺さっている。ぼんやりと光るキノコが何なのかは説明が無かったけど、匂い的においしそう。みんな美味しそうに食べてるし、光ってるくらいじゃもう俺は気にしない。てかもう何でもいい。キノコだけ取ってくださいとは言えない。

最後に壺からすくった“黒い謎のたれ”を一筆塗って完成。

「へい、おまち」

「どうぞ、ハルも食べてください」

ミーナさんから、霧焼き串をもらった。

「いただき…ます…!」

うむ…何とも奇抜な見た目だ。肉と交互にキノコが光ってて、何ていうかめっちゃお祭りっぽい。あの腕につけてピカピカ光ってるヤツみたいな感じ。…大丈夫だよね?食べるよ…?

一口め、表面はカリッと割れて、中から透明な肉汁があふれ出た。

「……っ!」

な、なんやこれぇ~うまぁ~…!

迷宮で死にそうな4日間を過ごした身体に…いや、一度完全に死んだと思ったし…めっちゃ染みわたるぅ~。灰羽鶏は見た目よりあっさりで、塩がよく合う。噛むほどに旨みが広がって止まらない!二口めは光るキノコと一緒に。

「…っふぉぉ~!」

ぷりっと歯を押し返す弾力、きのこの芯に溜まった甘い汁が、肉のジューシーな油の名残を拾い上げているぞ。天才。この串焼き考えた人マジで神。周りを見渡すと、この串焼きを食べた人の口の中が青白く光っている。ちょっとホラー。


「うまぁ…」

「ふふ、気に入った様で。私もいただきます」


そして_

霧焼き串に気を取られ過ぎていた俺は、完全に油断していた。いつの頃からか忘れてしまっていたんだと思う。ここが“異世界”だという事を。だって、ただ生きていくだけで必死だったから。

“それ”は突如として降臨した。俺には後光さえ垣間見えてしまっている。霧焼き串のキノコにぼんやりと照らされて舞い降りた天使スイートハニー


「私も好物です」

と、薄く微笑むミーナさんは、外套のフードを降ろした。

出会ってから今までずっと、黒い外套を頭からすっぽりとかぶって顔もほとんど見えなかったから、気づかなかった。フードの下から覗いたのはピョコンと可愛らしい黒い毛並みの耳だった。


「おっふ……」


ね…

ねねね

ねねねねねねねね

猫耳。

ミーナさんは、猫耳のついた獣人種だった。


ドンドンドンドンドンドンドン…!

激しい掛け声が頭の中で響きはじめ、法被姿の俺の青春の化身達が神輿を担ぎ、波のように押し寄せていく。

「ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!」

やばい…またお祭りが始まってしまった。これはもう…俺にも止められない…。

ごめんなさい…と勝手に銀髪ボブの乙女を思い浮かべ俺は謝った。

「ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!」

「猫耳~猫耳~猫耳~猫耳~」

ドンドンドンドン~!


猫人フェリスをみるのは初めてですか?」

「はっ…はっ…はあ!!!」

初めてではない。宿屋のロビーで見かけた。けど違う、そこじゃない。この強烈なギャップ萌え!これはこれまで経験がないレベルなのです。夏休みを終えて久しぶりに学校に登校したら隣の席の女子がちょっとイメチェンしててドキッとした時あるよね。アレの100倍くらいドキッとした。普段クールで知的なミーナさんが…頭に…猫耳生やして…恥ずかしそうにしている。

ハァ…ハァ…。

「うわー…ハルがまたキモイ顔してるよ~ッひっく」

「ああ、さすがに今回はキモイな」

レオネルさん!?フェリアさんもいつの間にめっちゃ酔っぱらってる?

「ほ~ら、ハルはもうミーナを見ちゃ駄目~。もっと私が食べさせてあげる!あ~んしてあげる、あ~ん…ひっく」

「っむん」

俺は咄嗟に口をっむんっと一の字に閉じた。フェリアさんが俺という玩具ペットを見つけてからずっとこんな感じだ。これで口を開けてみろ?俺はたちまち赤面して力がふにゃんって抜けてより一層この人の思う壺だ。絶・対に開けません!この酔っ払い!

「レオネル…何で口を開けてるの?ひっく」

「さすがに腹が減ったからな」

「フェリア…レオネルに少し分けてあげてください。おそらく他意はありません。」

「え~…じゃ、じゃあ、ミーナがそう言うなら…ひっく、あ、あ~~ん……やっぱ嫌!!!」

「…」

あ、他意は無いはずのレオネルさんが少しむくれた。ガルガルモードの柴犬みたいな顔になってる…レオネルさん。他意はないんですよね…?

ふぅ…この先ミーナさんとまともに話せる自信が無くなった。



[第1環テラス/冒険者教会]


冒険者教会の扉を押し開けた瞬間、目の前の景色に息を飲んだ。

そこには、見たこともない人々が行き交っていた。

背丈は子供ほどの者から、巨人かと思うほどの大男までさまざま。肌の色も褐色、白磁のような白、前世ではあり得ない様な青みがかった者までいる。髪の色は金、銀、黒だけでなく、炎のような赤や夜空を思わせる深い青まであり、すれ違うたびに違う世界の匂いがした。


革鎧を身につけた方が早足で通り過ぎ、腰のベルトには薬瓶や巻物がいくつも吊るされ揺れていた。全身を鎧で固めたいわゆる武人っぽい方は大剣を背負ったまま堂々と歩き、その鎧の継ぎ目から覗く腕は鍛え上げられすぎて、もはや金属の彫像のように見えた。いつか美術の授業でみた彫刻の様。白衣に似た装束を着た女性は杖を携えている。もしかしたら魔法使いなのかもしれない。


_これが、迷宮の町…!


ここにいる全員が、生きるために挑み、そして帰ってきた人達。

胸が自然と高鳴る。改めて知らない世界の真ん中に、自分が立っているのだと、心の底から実感したのだった。


「あっ…」


奥の階段を上っていく背の高い女性に、視線が吸い寄せられる。

背は高く、俺より頭ひとつ分かふたつ分くらい違っている。外套を羽織っているが、布越しにもすらりと長く伸びた手足のラインがわかる。歩くたびに柔らかく髪が揺れ、光を受けて一筋ごとにきらめいた。長い髪は肩から胸元に流れ、その下で外套が大きく盛り上がっている。

横顔がこちらを向いた瞬間、息が止まった。

整った顔立ち。肌は透けるように白く、頬から顎にかけてのラインは細く滑らかで、どの人間よりもずっと均整が取れている。目の端からのぞく長い睫毛が影を落とし、その耳は人よりも細く長く尖っていた。


あれは…まさか…

エルフ!??

やっぱりいるんだ……


そして俺は、今になって強く後悔している。

なぜもっと早く…外の世界を見ようとしなかったのか…

なぜあの時のお金をもっと有意義に使わなかったのか…

なぜ服を…着替えの服を買わなかったんだ…!!!?


あんなに美しい生き物に今の姿を見られるのは屈辱だ!

「最悪だ…」

エナさんにもらった上着ももう既にボロボロで、グルマンダーに引っかかれたところなんて剥がれ落ちそうになっている。敗れた服の隙間から覗く身体も…ガリガリの少年むき出しな体型だ。筋肉が欲しいと初めて思った。エルフを前に身体を隠す様にモジモジしている光景を一部始終【灰梟のアッシュアウル・サークル】の方達に見られていた。

「分かるぞ、ハル。」

「ふふ…ハルも男の子ですね」

「別にぃ…私だって負けてないと思うけどな…」

「ッチ…ゴミが盛りやがって。てかフェリア、お前エルフと張り合うには…ちょっと足りてねぇーんじゃないか?」

「オイ、盾越しに射貫くぞ?筋肉ダルマが!…ひっく」


胸の鼓動を抑えながら、俺はゆっくりと視線をめぐらせた。

建物の中央には大きな吹き抜けがあり、天井は信じられないほど高かった。見上げると、光を放つ灯りが何層にも連なり、星空のような輝きで広間全体を照らしている。


正面には長い受付カウンター。依頼を申請している者や、ソウルストーンを渡して鑑定を受けている者が並んでいる。カウンターの上には計測用の台や記録用の板が置かれ、手続きを行う職員たちが静かに対応していた。


左側には掲示板のエリアがあり、壁一面に依頼票が貼られている。紙の色や印の数が違っていて、そこから依頼の危険度や報酬がわかるのだと気づく。数人の冒険者が壁の前で腕を組んで依頼を見比べては、短く言葉を交わしていた。


奥には換金専用の窓口が設けられていて、お金に交換されていた。

右手には休憩スペースのような一角がある。木製の長椅子とテーブルが並び、水や茶の入った壺が置かれていて、冒険帰りらしい連中が疲れた様子で腰を下ろし、談笑している。誰かが包帯を巻いてもらっているのが見え、そこは軽傷者の簡易治療も兼ねている様だ。


「ハル、悪いがここで少し待っていてもらえるか?」

「はい…だい…じょうぶです」

「悪いな。行方不明者捜索依頼の経過報告と、今回の探索で得た魂核ソウルストーンとドロップアイテムの換金に行ってくる。ちゃんとハルにも報酬を支払わせてもらうからな!だが、あまり期待はするなよ?」

「ええ…!?俺も…もらえるんですか…?何にも出来てないのに…てかただ足を引っ張って…」

「ああ。多分だが、“お前が思ってる以上に”役に立ってくれたよ」


そう言ってレオネルさんと【灰梟のアッシュアウル・サークル】の方達は冒険者達の波の中へ消えていってしまった。そういえば、今回の迷宮探索は行方不明者の捜索だったんだ…。正直自分の事でいっぱいいっぱいで、すっかり忘れていた。他人事くらいにしか考えられないけど、あの迷宮の中に取り残されるのは辛いだろうなと、それだけは俺にも分かる。

レオネルさん、俺にも報酬があるって言ってたな。ちょっとワクワクする。とにかく最初は服を買おう、うん、着替えもいる。


いや、待てよ?

【灰梟のアッシュアウル・サークル】の方達と迷宮に潜ったりしていたから忘れてたけど、俺は今、家もお金も食べ物も…何も無いんだった。幸先不安なのは少しも変わっていないのでは?ハァ…考えてたらまた憂鬱になってきた。


「貴方がハルですか?」

「…え?」


あれこれ悩みながら歩いていたら、気がつくと外に出てきていた様だ。

冒険者協会の灯りが届く外の広場に、ひとりの少女が立っていた。年は俺と同じか、もしかするとそれより下に見える。細い肩、華奢な体つき。長い髪は夜の光を受けて静かに揺れ、顔立ちは驚くほど整っている。まるでどこかの貴族の娘か、聖堂に仕える少女のような印象だった。


_最初は、そう見えた。


だが、目が慣れるにつれて、違和感が浮かび上がった。肌の下を、細い光の筋が流れているのがはっきりと見える。鎖骨から肩、腕へと伸びるその銀光は血管の位置に沿って流れ、脈を打つたび静かに明滅していた。例えるなら…“幽霊”!?

怖くなって目を逸らそうとしたが、できなかった。

少女のような見た目と、その身体構造との落差が頭で処理できず、ただ直感だけが告げていた。


この子は。

この“方”は人間ではない、と。


前回の投稿から時間が空いてしまいすいません。

ハルもいよいよ冒険者協会にやってきました。

次回は、冒険者登録をしたハルが再び迷宮に挑みます!

ハルに秘められた可能性が少しづつ広がっていくのを一緒に楽しめたらなと

思います。


ご意見、ご感想、お待ちしております。

それでは、よろしくお願いします。

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