紅影、燃ゆる意図
ホワイトセニオンの群生地を離れようとしたその時——
リフィは、空気の流れに微かな異変を感じた。
霧の中、風が止まり、冷気がざらりと肌を撫でる。
草が揺れぬのに、音がある。靴音、それも複数、一定の間隔、訓練された歩調。
「……隠れるつもりはないんだな」
声に応えるように、霧の帳が裂ける。
現れたのは、赤い外套に身を包んだ五人の男たち。
顔は布で覆われ、どの者も無言のまま、ただ殺意だけを滲ませていた。
胸元に燻るような刺繍——魔神の眼を模した黒い紋章。
「……お前ら、ホウバステオンの“病”に関わっているな」
返答はない。
ただ、前方の男が一歩進み、手にした刃を反射させた。
その瞬間、四方から同時に踏み込む気配。
リフィは跳ねるように後退し、背の納袋から大鉈を抜く。
「なら、問答無用だな……!」
一人目が踏み込み、刃を低く構えて接近する。
リフィはそれを大鉈で受け流し、肩越しに魔法を放つ。
「《霧よ、鎖となれ——ミスト・チェイン》!」
辺り一面に霧が展開され、対象の周りは瞬時に凝縮し、鎖のように巻きつく。
背後から迫った二人目の動きが鈍る。
だが三人目がその隙に投擲武器を放ち、炎の刃がリフィの横顔を掠める。
「っ、火の魔法……!」
逃げ場を塞ぐように四人目と五人目が左右から囲む。
リフィは踏み込み、魔法と鉈を交えた連撃を放つ。
斬撃と冷気の魔力が火花を散らし、外套のひとりを吹き飛ばす。
その男は即座に立ち上がり、何も感じていないかのように再び前進を始めた。
「……痛覚が鈍い? いや、正気じゃないな……」
戦いながら、リフィは冷静に分析する。
彼らの行動には感情がない。
まるで命令だけに従う歯車。
「自壊覚悟の狂戦士ってところか」
再度、リフィは魔法を詠唱した。
「《極寒の杭、穿て——グレイシャル・スパイク》!」
地から氷の槍が噴き出し、ひとりの脚を貫いた。
ようやく一体が沈黙するも、残りは依然として動きを止めない。
「時間をかけてはいけない……!」
攻撃と防御の一瞬を縫い、リフィは霧の奥へと誘導する。
隠された岩場に導き込み、地形を利用して個別撃破に持ち込むと、
最後の一人が斬り伏せられる直前、ふいに声を漏らした。
「核は……芽吹く……その地に……火を……」
そして、自らの喉元を掻き切り、全身が炎に包まれた。
リフィは地に倒れた男に魔法で消化し、駆け寄る。
黒焦げた死体の懐を探る。
そこには血が乾いた一枚の紙があった。
—
《核拡散区域・第三区計画へ移行中》
《治療関係者の殲滅優先:ユズカ、レイナ、リフィ》
—
風が吹いた。血が乾き、紙がひらりと舞う。
「“芽吹く核”……“火を撒く者”……」
霧の中、リフィは再び歩き出した。
ホウバステオンへ戻るその足取りに、確かな決意が宿っていた。




