薬草採取の出発
ホウバステオンの朝は重い曇り空に覆われていた。
陽光は石造りの城壁を照らすには弱く、街全体が灰色の帳に包まれているかのようだった。
レイナは療養院の扉を静かに閉じると、重い足取りで街の中央へ向かう。
向かう先は、冒険者ギルド"蒼銀の槍"。
ホワイトセニオンの採取依頼をするつもりであった。
ギルドの建物は中央区の端に位置していたが、通常ならば行き交う冒険者たちの喧騒で溢れる場所も、今はまばらな人影しかなかった。
「衛生令が出ている以上、都市外への採取依頼は一切受けられない。療養関係者であっても例外はないんです」
受付に立つ職員は、申し訳なさそうに言ったが、その口調に覆せる余地はなかった。
「そんな……必要なんです、この薬草は。命に関わるんです」
「わかります、レイナさん。でも……都市の外に出た者が、病を持ち出すかもしれないという恐れがある限り、今は——」
声が届かない壁のように、対応は丁寧ながらも冷たかった。
レイナは小さく礼を述べてギルドを出た。
通りには薬を求めてさまよう市民がちらほらと見える。
皆、表情に余裕がなく、焦燥と不安に押し潰されそうだった。
(私が、動かなきゃ……)
彼女は心の内でそう呟きながら、療養院へと戻っていった。
「……行くつもりだったのか、自分で?」
リフィの問いかけに、レイナは驚いた表情を浮かべた。
彼はいつもの調理場に立ちながら、火を落とした鍋の蓋を静かに閉じていた。
「ギルドには断られました。……でも、私が動かないと。ユズカさんの代わりに、今度は私が」
「ダメだ」
リフィははっきりと言った。
驚くレイナを正面から見つめる。
「今、君のするべきことはここに残って、療養院の皆を守ることだ。……君が抜けたら、この場所は誰が見るんだ?」
レイナは唇を噛みしめた。
「でも、ホワイトセニオンを採れる場所は限られています。時間が経てば経つほど……」
「俺が行く」
リフィは柔らかく、しかし強い口調で告げた。
「料理人ってのは、素材を見る目だけは鍛えられてる。薬草の目利きだってできるさ。それに、俺はこういったことに慣れている」
レイナはしばらく沈黙し——やがて、小さく頷いた。
そのやり取りを隣の廊下で聞いていたエルドとクルツも、黙って加わった。
「だったら、俺たちはここに残る」
エルドは短く言った。
「ユズカさんとレイナさんが狙われてるって話が本当なら、療養院を守る必要があるからな」
「この街で妙なことを企んでるやつがいるのは確かだ。だから、お前は心配せずに採取に集中してこい」
クルツが軽く笑いながら言い、拳を軽く突き出す。リフィもそれに拳を重ねた。
翌朝、リフィは簡素な荷をまとめ、街門へと向かう支度を整えていた。
曇り空の下、療養院の門が静かに閉ざされ、リフィの背に、その使命の灯が強く宿っていた。
そろそろ獲物を獲って美味しいご飯を作る話を書きたいなあ……




