沈む都市の影
空の色が変わり、わずかに鈍さを帯び始めた頃——
エルドとクルツは、リフィとの別れ際に交わした言葉を胸に、ホウバステオン南区の路地を進んでいた。
「まずは冒険者ギルドを当たってみよう」
エルドが短く言うと、クルツは頷いた。
「こんな街の異変を、真っ先に嗅ぎつけるのはああいう連中だからな」
街は全体に沈んだ空気を纏っていた。
人々の動きは早く、誰もが何かを避けるように視線を下げ、言葉少なに行き交っている。
露店のほとんどは店を閉じ、空っぽの看板だけが風に揺れていた。
やがて二人は中央区の端、かつて賑わっていた石畳の角地に立つ古びた建物の前へと辿り着いた。
”蒼銀の槍”——冒険者ギルド・ホウバステオン支部の看板が軒先に掲げられていた。
扉を開けると、鈍い木の軋みとともに、埃を含んだ空気が鼻をついた。
内部は人影がまばらで、受付カウンターの後ろにいた年配の男が警戒するようにこちらを見やる。
「……依頼の受注か? 今は衛生令が出てる。市街地含め周辺の探索は禁止だ」
エルドは懐から冒険者登録証を見せた。
「依頼の受注じゃない。情報を探してるだけだ。……南門で療養院の荷物便に協力してた。だから異変の一端を知りたくてな」
男は一瞬だけ目を細め、やがて納得したように頷いた。
「……確かにお前らみたいなよそ者の方が、今は話しやすいかもな。失踪者の件、聞いたか?」
「失踪者?」
カウンターの奥から若い女性が現れ、地図を広げた。
「南区の下層で依頼のあった失踪者を探していたチームが、全員行方不明。五人組の新人パーティ。消息は十日前を最後に絶えてる」
「それって……ただの事故や依頼放棄とかじゃないよな?」
クルツが眉をひそめると、女性は首を横に振った。
「いや、場所は安全区域だった。魔物などの目撃情報もない。だからこそ、様子を見に行かせたんだ」
「それに……これは非公式だけど、変な報告もある」
年配の男が低く声を落とした。
「探索隊の痕跡のそばに、“焼けた痕”があったらしい。魔法的な焼痕。火の魔力が走ったような……な」
「火……?」
エルドとクルツが顔を見合わせる。
「もうひとつ、気になる報告があります」
若い女性職員が、こっそりと声を潜めて続けた。
「ギルドの薬師が行方知れずになってまして……この数日、体調を崩して休んでいたのですが、今日住んでいる家を伺ったら誰もいなく……」
「その薬師について、他にどこか出歩いていたとかの情報はないのか?
「体調を崩し始めてから、“南区の薬屋”の薬を使ってたみたいで……出歩いているとしたらその辺りくらいかと……」
「薬屋?」
「名前は"燈草堂"。南区の中でも奥まった裏手にある……人が寄り付きにくい場所よ。店主は姿を見せず、薬は棚から勝手に取る仕組みになってる。代金は無人箱に払う形式でね」
「……信用できる店じゃなさそうだな」
エルドが苦々しく言うと、クルツがすでに地図を握りしめていた。
「その燈草堂、今も営業中か?」
「確認されてる限りでは……灯りがともってるって話はあるわ」
「行く価値はありそうだな」
エルドは静かに言った。
行方不明者と薬という話にきな臭いものを感じている。
燈草堂、一体何が潜んでいるのだろうか。




