応急の糧と再会
リフィは小さな調理場に立っていた。
保存箱から取り出したセニオンの葉を慎重に水で戻し、淡い緑の薬湯を鍋で静かに沸かす。
乾燥豆とソラ実の皮、塩を加え、喉への刺激が少なく、体力を補う一品を形にしていく。
リフィの調理している姿を後ろからレイナは見ている。
彼女の目の下には深い隈が刻まれ、瞳の奥にも疲労が見える。
簡易な器に盛られた粥状の食膳は、十数人の軽症患者へと配られた。
咳と微熱、倦怠感に苦しむ彼らの手が、震えながらも食事へと伸びる。
数十分後。
食事を終えた患者の中に、ゆっくりと体を起こし、息が整い始める者が現れ始めた。
咳や喉の痛みに劇的な変化はない——だが、ほのかに顔色が良くなり、手足の震えが和らぎ、重かったまぶたが開きはじめていた。
「……熱が、少し引いてるわ……身体が軽い」
セニオン——解毒作用をもつ薬草。
その効果が、有効であることが見て取れる。
しかし、まだ答えには届かない。
だが、手掛かりの一つであることは確かだった。
患者への応急処置を終えたリフィは、調理場の隅で鍋の火を落とした。
やや顔色を戻したレイナが、そっと彼に声をかける。
「……ありがとう。少しでも良くなる患者の様子を見たのは久しぶり」
「だが、これで全てを癒せるとは思っていない。……重症者は、どこにいる?」
レイナの表情が一瞬、陰った。
「地下に……います」
そう言うと彼女は鍵を取り出し、療養院の奥へとリフィを導いた。
古びた階段を下りるたび、空気は冷え、湿り気を帯びていく。
灯りは乏しく、壁に灯された小さなランプだけが彼らの足元を照らしていた。
重い扉を押し開けると、そこはまるで時間が止まったかのような場所だった。
十数のベッドに横たわる患者たちは、全員が薄黒くくすんだ肌をしていた。
目は閉じられ、呼吸も浅く、もはや生きているというより、“留まっている”という表現の方が正しかった。
その最奥——一際白い寝具の上に、静かに眠る一人の女性がいた。
長く流れる銀の髪、細くも凛とした顔立ち。
その姿は、リフィの記憶に残る“あの薬師”——ユズカだった。
ただ、彼女の肌も他の患者と同様にやや肌の色が変色しており、生気は感じられなかった。
「ユズカ……」
レイナは小さく頷いた。
「……先生が、最初に病の兆候を見つけて、誰よりも深く向き合おうとして……そして、倒れました」
リフィは震える手で、セニオンを使った薄い薬粥をひと匙、ユズカの唇へそっと流し込んだ。
しばらくの沈黙の後——
ユズカの睫毛が微かに震え、ゆっくりと瞼が開いた。
「……!」
彼女の瞳には、まだかすかな光が残っていた。
だが、声を出そうとした瞬間、激しい咳が襲い、喉を押さえて身をよじる。
リフィが慌てて背を支えると、彼女は苦しげに片手をあげ、自分の胸を指差した——一本の指。
次に隣のベッドに眠る別の重症患者たちへ、二本の指。
「……段階……か」
リフィは、目の前で起きているすべての事象が“病の構造”を指し示しているのだと直感した。
病は段階的に進行する。
解毒すら届かなくなるほどの“第二段階”——
だがそれは自然な病ではない。
何かの意志が、構造を設計している。
彼の胸に、冷たい確信が芽生え始めていた。




