表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
味の旅路~放浪するエルフは糧を求めて今日も往く~  作者: 壬生
世話になった貴方に最後の感謝を
23/33

癒しの扉

ホウバステオン南区。

灰色の空の下、乾いた風が石畳を撫でるように吹き抜ける。


封鎖された療養院の前に立つと、リフィは立ち止まり、門の奥を見つめた。

重々しい鉄の門には“進入禁止”の札が下がり、門番すらいない。

不気味な静寂が辺りを支配していた。


背後から、クルツが呟くように言った。


「本当にここか……? 荷物を受け取る人間の気配すらねぇぞ」


「それでも、届けるべき物がある。俺はここで確認を取る」


リフィは荷車の横に立ち、封をした木箱の蓋をもう一度確認した。

南区療養院宛の薬草と食料——今やこの都市で最も必要とされているものである。


エルドが周囲を見回し、ひとつ頷いた。


「じゃあ、俺たちは街を回ってくる。冒険者ギルドがあれば情報もあるはずだ。東区と中央区も確認してみるさ」


「頼む。念のため、なるべく目立たずにだ」


ふたりは軽く頷き、街の薄暗い通りへと消えていった。


リフィは静かに門の前に立ち、脇にある小さな金属製の呼び鈴を鳴らす。

乾いた音が、空虚な通りに響く。


しばらくすると、門の内側から足音が聞こえ、ギギ……という鈍い音と共に、扉がわずかに開いた。


そこに現れたのは、顔の下半分を布で覆った若い女性だった。

肩まで伸びた髪は疲れの色を帯び、瞳の奥には眠れていない者の曇りがあった。


「どなたですか……?」


「療養院宛の便を引き継いだ者だ。食料と薬草を届けに来た」


女性は驚いたように目を大きくし、次の瞬間、何かを確かめるように一歩前に出た。


そして——彼女の瞳が、何かを確信したように揺らぎ、潤む。


「リフィ……さん……?」


リフィは一瞬だけ目を見開いた。


「……レイナか?」


その名を口にした瞬間、女性の目から涙が零れた。


「リフィさん、やっぱり……本当に……!」


彼女は力なく門を開け、足元もおぼつかないままリフィに近寄ると、その胸に縋るようにして倒れ込んだ。


「ごめんなさい……今まで……ずっと……!」


小さな肩が震えた。


「ユズカ先生が倒れてから、私……たった一人でここを……っ……!」


リフィは驚きながらも、そっとレイナの背に手を添えた。

温もりのある、しかし酷く脆く感じる震え。


療養院の中からは微かに嗄れた咳と、呻くような声が聞こえた。


「……中を見せてもらえるか」


レイナはこくんと頷き、彼を中へと招き入れた。


療養院の内部は、かつての清潔な佇まいとは程遠い状態だった。

仕切りの布はよれ、寝台にはぐったりと横たわる患者たち。

薬の匂いと消毒の臭い、そして病の匂いが混ざり合っている。


「ほとんどの職員が倒れたか、逃げ出しました。残っているのは私と、病を患った者だけです……」


レイナの声は震えていたが、必死に冷静を装っていた。


「物資の多くも滞って……このままでは、いずれ皆が……」


リフィは一つ一つの寝台を眺め、呼吸の浅い者、痙攣を伴う者、うわ言を呟く者を確認していく。


「レイナ……お前は、こんな状況で、ずっと一人で?」


「はい……誰も、他の区から助けに来ないんです。皆、この病を……まるで呪いのように恐れて……」


その言葉に、リフィの胸が重くなった。


彼は静かに腰の荷を降ろし、物資の封を切る。

乾燥豆、保存食、セニオン、ソラ実の皮——あらゆる基礎素材が顔を覗かせる。


「……火を借りる。今日からここで、俺にできることを始める」


レイナはその言葉に、わっと涙をあふれさせた。

そしてまたリフィの胸に顔を埋め、声にならない嗚咽を繰り返す。


“命の糧すら拒む病が来たれり”


その詩の一節が、再び彼の胸に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ