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味の旅路~放浪するエルフは糧を求めて今日も往く~  作者: 壬生
世話になった貴方に最後の感謝を
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灰色の門と、病の城塞都市

日はすでに高く、風に焦げた麦藁の匂いが混じる。

リフィたちの乗る荷車は、巨大な城塞都市——ホウバステオンの南門前にたどり着いた。


広大な防壁は石と鉄で覆われ、重厚な門扉には病を警戒する標が掛けられていた。

門前には長蛇の列ができ、旅人や商人、運搬人たちが足止めを食らっている。


「まるで戦の前夜だな」


「こんな状況、初めて見るぜ……」


エルドとクルツは呟きながら、声を潜めた。

門の前では、武装した衛兵たちが一組ずつ丁寧に通行者を調べていた。

身元確認に加え、体調の申告、積荷の内容——すべてが厳格だ。


リフィたちの荷車は、南区療養院宛の薬草と食材を積んでいたため、門番の詰所に誘導された。


「通行は制限中だ」


門番の一人が言った。


「病が広がってる。勝手に入れるわけにはいかん」


「俺たちは療養院宛の荷を引き継いで来た。ただの通りすがりじゃない」


リフィが控えめに応じる。


「そう言うやつは何十人もいるんだよ」


「文書か証人がなきゃ、入れられない」


別の兵士が呆れたように言うが、後方から声が飛んだ。


「おい、お前ら! その荷は確かに昨日の便で遅延してたやつだ!」


慌てて走ってきたのは、城内から派遣された運送組合の男だった。

彼は汗だくで書状を掲げ、兵士たちにそれを突き出す。


「確認済みだ。療養院南支部宛の正式便。こいつらは引き継ぎ人員として雇われてる。入場許可はある!」


兵士が書状をめくり、眉をひそめながらも頷いた。


「……確かに。だが、不要な行動は控えろ。症状が出たら即通報すること。分かったな?」


荷車は無事、城門をくぐった。

だが、その先に広がっていたのは、かつてリフィが知っていたホウバステオンとは、まるで別の都市だった。




城門から続く石畳の通りは閑散としていた。

かつては行き交う商人と観光客で賑わっていた南区の広場も、今は市場の屋台がいくつか残るのみ。

人々は布などで顔を覆い、互いに距離を取りながら言葉を交わしていた。


「……重いな、この空気」


クルツが吐き出すように言った。


「人の気配はあるのに、声がない。何より、料理の匂いがしない」


リフィが顔をしかめた。

食は街の生命線だ。

その香りがないというだけで、この都市がどれだけ深刻な状態にあるかが伝わってきた。


リフィたちは南区の療養院へ向かう途中、さまざまな場所を通過した。


仕立て屋の軒先には“一時休業”の札。

鍛冶屋の炉は冷え、薬屋の戸は板で打ちつけられている。

あらゆる生活の機能が鈍く、街そのものが熱を失っていくようだった。


「見ろよ、あれ」


エルドが指をさした先には、中央区との境にある検問所のような構造物があった。


「物資と人の移動を制限してるのか……」


リフィは足を止める。

中央区は商人と流通の拠点だったはずだが、今は軍のような配置で荷を検査している。

明らかに異常だった。


「北区に至っては、もっと厳しいかもしれないぞ。貴族や高官がいるからな」


エルドが低く言った。


やがて療養院の門前へと辿り着くと、そこにもまた異様な光景が広がっていた。


正門には“封鎖中”の札。

門の前には荷物を持った人々がぽつぽつと集まり、開かない扉を前に呆然としていた。


「……ここまでとは」


クルツが呆然とつぶやく。


「一体、この都市に何が起きてるんだ……」


誰もが同じ問いを抱えながら、リフィは胸元の羊皮紙をそっと握りしめた。


処方詩の断章が告げる“癒し”。


その意味が、今この都市にこそ必要とされているのではないか——

その思いが、彼の背をさらにまっすぐに伸ばしていた。


街の風は冷たく、遠くからまた鐘の音が響いていた。

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