医食同源という考え
焚き火の明かりが、山道の一角を柔らかく照らしていた。
シタレ蛇の串焼きが鉄板の上でちりちりと音を立て、脂からは香ばしい香りを上げる。
「塩だけでこれかよ……」
金串から外した大きな肉を、クルツがひと口食べて、ため息をもらす。
「外は香ばしく、中はとろける……なのに臭みが一切ない。これ、本当にあの化け物か?」
「脂に甘味がある。干しセッタと合わせるのもいいだろうし、生のクムユを刻んだものをのせても美味そうだ」
リフィがぼそりと呟くと、クルツが笑う。
「腹いっぱい食ったあとにもう次の工夫か」
エルドも右腕をさすりながら肉にかぶりつき、頷いた。
「リフィ……助かった。料理も、薬も、見事だ」
焚き火の炎がぱちりと跳ねた。その赤い光を見つめながら、リフィはぽつりと口を開いた。
「……“医食同源”という言葉があるらしくてな。体の不調を治療するのも、食事を摂るのも、ともに生命を養うためで、その源は同じという考え方らしい」
「……は?」
クルツがぽかんとし、エルドも一瞬眉をひそめた。
「その言葉、誰に教わったんだ?」
リフィは少しだけ目を細めると、懐かしむように答えた。
「昔、旅の途中で出会った変わった人族の女からだ。
“前世では薬を扱う学び舎に通っていた”と自分で言っていたよ。
薬も料理も、知識を積めば積むほど、互いに近づくんだってな」
エルドが目の前で焼かれた蛇肉を見ながら苦笑する。
「食って治す。確かに……今の俺には妙にしっくりくるな」
三人は静かに焚き火を囲み、香ばしく焼かれた肉を口に運びながら、山の中の野営地で夜を過ごした。
空には雲ひとつなく、満天の星が静かに瞬いていた。