エルフの料理人と冬仕込みのおでん
エルフの料理人である主人公がお店や旅や冒険をしながら料理をしたりする物語です。
朝靄が森の奥に薄くたなびく頃、木々に囲まれた小さな料理屋からほんのりと出汁の香りが満ちていた。
炉の上で湯気を立てる大鍋の中には、透明な黄金色の汁が静かに波打ち、そこに沈む素材たちがひとつ、またひとつと心をほどくように温まっていく。
店主のリフィは、長い銀の髪を一つにまとめ、小さな杓子を手にして鍋を覗き込んでいた。
白く肉厚なクルという根菜は、やわらかく煮えて中心まで味を含み始め、黒羽の鳥コクズの卵は黄身がとろりと溶ける寸前。
揚げたてを丁寧に炊き直したムア揚げからは、すり身でありながら魚の香ばしさと旨味が染み出している。
リフィはひときれのモロフをすくい上げ、冷ましながら口に運ぶ。
弾力のあるその練り物は、ムグ粉の効果でぷるんと歯を弾き、ほのかに甘く、食べ応えがあった。
最後に、煮込まれたゴアの角獣の肉を切り分ける。
脂の乗った赤身は出汁と調和し、それだけで冬の深まりを告げる一品となっていた。
「ふむ……今年も、寒い季節に似合う味になったかね」
彼は微笑むと、木の札に“おでん始めました”と刻んだ。