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少女

思った以上に時間がかかっちまったw

多分これからもこれくらいか、これ以上に遅いペースで上げていきます

あの川はどこに続いているのだろう。都会の真ん中を跨いでいるのだろうか。俺はこの川に飛び込めば、こんな村から抜け出すことが出来るのだろうか。

気が付くと自分の足は川に向かって歩きだしていた。後一歩で川に入ろうかの所で我に帰った。

「いや、ないない」

自分で突っ込みながら肩を落とした。川に入ったら行く先は都会ではなく天国だろう。正直自分でも馬鹿だと思う思考をかき消し、俺は踵を返し石段を上った。一番上の段に腰を下ろし、空を見上げるように仰向けに寝転がった。

 なんで自分はここにいるんだろう。何も無いこの村で俺はいったい何がしたいのだろう。さっさとこの村を出たい。そう強く思いだしたのは、ここ数年の間だった。昔は川や山、自然がたくさんあってそれなりに遊んでいたのだが、年齢が上がるにしたがいこの村の不便さに苛だちを覚えはじめた。この村が嫌いというわけではなかった。正確に言うなら無関心。この村がこれからどのような発展をするのか。あるいは、どのように衰えていくのか。そんな事はどうでもよかった。しかし、この村の自然が素晴らしいのも悔しいが事実だった。現に、今自分がいるこの川もその一つだった。ここは俺がこの村のなかで最も好きな場所だった。俺は暇な時間があればここに来て、今みたいに寝っ転がって過ごす。それが唯一の安らぎの時間となっていた。

 遠くから聞こえてくる川の流れる音。それが静かに俺の中に入ってくる。その音はしだいに俺の眠気を誘ってくる。そして俺の意識はいつの間にか闇の中に消えていった。

 目が覚めた。視界は少しぼやけている。しばらく目の前に広がる空を眺めていた。しだいに視界は回復し、時間を確認した。小一時間経っていた。頭はまだ動いていない。そんな中、自分の近くにいつもは感じない気配を感じた。体を持ち上げ、辺りを見回した。

 そこには川の流れに足を付け、水と触れ合う一人の少女がいた。白い帽子にワンピース、背格好を見た限りおそらく自分と年はそんなに変わりないだろう。彼女は俺に気付いているのか、いないのか。川の流れに逆らって歩いていた。

「あっ」

ふと、彼女は俺の方を見た。

「あっ」

俺は驚き咄嗟に目を逸らした。しかし、彼女は川から上がり俺の方に近付いてきた。

「そこで何してるんですか?」

石段を上る手前で彼女は俺に声を出した。俺は答えず空を眺めた。すると彼女は石段を上がり、俺の顔を覗きこんで

「そこで何してるんですか?」

と、もう一度問いかけられた。

「川を見てる」

「でも、空見てますよね?」

そのツッコミに俺の顔は自然と引きつった。

「さっきまで川を見てた」

「もしかして、暇なんですか?」

「そうだけど・・・」

そう答えると彼女は目を輝かせた。そうかと思うとその顔は一気に暗くなった。

「言いたい事があるんなら言ったらどうなんだ?」

少しビクッとしたが、彼女は一度深呼吸をして

「じゃ、じゃあ・・・もし宜しければ私とお話しませんか」

そんな事を言うためにここまでの勇気がいるのか。俺は彼女に対して少しからかいたくなった。

「嫌だ。と言ったら?」

「あぅ。」

彼女は拗ねたような声を出した。不覚にもその鳴き声のようなものに少しドキッとしてしまった。俺は褒められるほど人を見る力があるわけではないが、彼女は悪い奴ではないことは一目でわかった。だから俺は彼女の頼みを聞くことにした。

「そんなところに立ってないで座ったら?」

彼女は驚いた様子だったが、嬉しそうに俺の隣に座った。

「この村で見ない顔だよな?」

「あ、はい。普段は東京の方に住んでるんですが、親戚の家がこっちにあるんで夏の間だけ遊びに来てるんです」

「夏の間だけ・・・。やけど、去年とか一昨年とか俺の記憶の限りでは見てないようやけど?」

「実はここ数年少しありまして、こっちのほうに来れなかったんです」

それから俺達は互いの事や家族の事、普段してる事等。時間的には短かったけれど互いを知るには十分すぎる会話をした。

 俺は人見知りする方ではないが、多く話せるほうでもない。なのに彼女とは凄く自然に楽しく話す事が出来た。ただ、その事はたいして気にせず。年が近いからだと思っていた。

「それでですね・・・って、今何時ですか?」

俺は時計を確認して彼女に伝えた。すると彼女は慌てたかと思うと立ち上がり

「ごめんなさい。もう帰らなくちゃいけないの。」

送っていこうかと聞くが彼女はそれを断った。小さい村だけに都会みたいに危ない人はまず出ないだろう。

「明日もここにいますか?」

「多分。どうせ明日も暇だろうし」

「なら、私も明日来ます!」

そう言って彼女は帰り道を走り出す。しかし、俺達は一つ大事なことを聞き忘れていた。

「おい。こんなけ話しといて互いに名前聞いてねぇぞ。」

「あれ?そうでしたっけ?」

「俺は桐生翔。」

「私は美空。桜ヶ原美空です」

その瞬間、俺は微かな頭痛を覚えた。その痛みは頭をズキズキというよりは、奥の方を静かに圧迫するかのような痛みだった。彼女は最後に”バイバイ”と手を振ってきた。俺は痛みに耐えながら手を振り返した。

 彼女が見えなくなってから時計を確認すると時間は6時を回っていた。夏といってもあと1時間のすれば辺りは暗くなる。俺は乗ってきた自転車にまたがり家路に着いた。

 家に着くとすぐに部屋に入りベッドに転がる。そして何もない天井を眺め今日出会った少女、桜が原美空について考えていた。ただ可愛かったなぁだけの感情を抱くだけならば良かっただろう。しかし、俺の心の中にはそれとは別に複雑で自分でも分からない何かが渦巻いていた。そしてそれは「恋」などと言った可愛いものではなく、もっと違うものだということは明らかだった。

 そういえば明日も来ると言っていた。俺も明日行こう。まだ話したいことがたくさんある。そうして俺は全ての思考をストップさせ、完全に目を閉じた。

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