表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/68

第六十五話 新歓までの幕間

久々の更新です.

しばらくは更新が続くと思います(多分)

 一人で出ていった暁人のことを伊織は案じていた。


 大丈夫だと言っていたが、暁斗と会ってから、彼の周りで起きたことを思い出すと、伊織は居ても立っても居られなかった。


 伊織は朱音らの会話を聞きながらも、時折、ドアの方を見たりと落ち着くことができなかった。体のデカい伊織がソワソワしていると、それだけで周囲の人間が気が散って仕方がない。


「そんなに気になる?」


朱音が前髪で隠れた伊織の目を見て、そう言うと、「あ、いえ」と伊織ははっきりしないような返事をした。


「まぁ、新歓までは時間もあるし、行ってきてもいいよ」


「それに、そうやってキョロキョロしていると、こっちも落ち着かないし」と姫乃が返って気を遣わせるようなことを言った。


「すみません」


「いいから、暁人君の後を追いかけて。それで、二人ともちゃんと時間通りにお店に来てよ」


 朱音が微笑みながらそう言うと、伊織はバッグを持って立ち上がった。


「ありがとうございます」


 伊織は深々と頭を下げながら礼を言った。流石は運動部である。目上の人に対する礼儀が違う。


「気にしないで」と朱音が言うと、伊織は顔を上げた後、「うっす」とだけ言って、部室を出ていった。


 伊織は部室棟の廊下を駆け抜け、階段を駆け下りた。そして、正門を出ると、駅へ向かった。四限が終わりかけたこの時間では、伊織同様に駅に向かう学生は少なくなかった。


 そうした学生たちを追い越しつつ、駅に着くと、いつもとは逆方向の電車に乗った。


 伊織は自分でも呆れるほどに不愛想で、人付き合いが苦手だった。これまでも友人はそれほど多くなく、中高と続けていた剣道部でも親しい友人は少ない。


 きっと、大学でも友人はできないだろうと思っていたし、期待はしていなかった。


 そんな自分に暁斗が親しくしてくれているのが不思議だった。


 彼の誘いを断る理由はないし、何故か人から好かれない自分に懐いてくれる彼を邪件にする気にもなれない。


 ただ、伊織には、何となくではあるが、理由を想像することができた。それは、暁斗が自分と同じなのかもしれないということだ。暁斗もずっと一人だったのだろう。


 人から嫌われ、孤独を強要されていた。そんな何かを察していた。


 昨日、彼からの独白を聞いた時、自分の想像が正しいことを知った。ただ、彼の言葉はそれ以上だった。彼はあの小さな体で、それらを乗り越えようとしていた。


 強い男だと思った。


 そして同時に、危なっかしいとも感じた。


 また、暁斗の身に何かあるのではないかと伊織は直感し、こうして彼の後を追っている。取り越し苦労であればいいとも思っているが、目的地に近付く度に、不安は大きくなっていった。


 H本駅に降りると、北口と南口、どちらへ向かうべきか迷った。あまり降りたことがないが、北口の方が店も多いので、まずは北口から捜索してみることにした。


 広場の先にある商業施設に入った。そして、一階の食料品売り場から順々に各階を調べてみたが、彼の姿はなかった。その後、駅に隣接した他のビルにも入ってみたが、暁斗を見つけることはできなかった。


 ビルを出ると、太陽が西の空に沈みかけていた。新歓までは時間はあるが、次に行った先で見つけられなければ、店に向かおうと思った。きっと、暁斗も間に合うと信じていたからだ。


 伊織がそれとなく、駅の方を見た。そこからは改札前が丸見えなのだが、そこに見覚えのある人物がいた。


 力弥だ。


 彼は南口に向かっていた。伊織は彼が暁斗の所在を知っているのではないかと思い、追いかけた。


 しかし、利用者の多いH本駅の改札前は人が多く、伊織は力弥の姿を見失ってしまった。それでも、彼が南口に向かったのなら、そこに暁斗がいると考えた。



 土地勘のない伊織は南口から駅舎を出て、探すべき場所はどこにあるのか見当がついていなかった。そこで、駅を背にして右方向へ向かい、近くの店を一軒一軒覗いて、暁斗と力弥がいないかを探し続けた。


 そうこうしているうちに、すっかり西の空は赤くなり、周囲は暗くなりかけていた。ここに来て、ようやくスマホの地図アプリを見てみようという考えに至った。肉体派なので、先に体が動いてしまい、文明の利器を利用しようという発想が出にくいようだ。


 すると、南口からほど近い場所に大型ショッピングセンターがあることをここで知った。時間的にギリギリだが、伊織は迷うことなく、その場所へ向かって走り出した。


 ショッピングセンターに入ると、一階にある食料品売り場、フードコート、様々なテナントを一通り確認した。しかし、暁斗も力弥もいなかった。そこで、上の階に向かおうとエレベーターホールに向かった。


 スマホの時計を見た。時間はぎりぎりだ。そろそろ、店に向かった方が良い。


 そう思ったところで、エレベーターが降りてきて、「チン」という音と共にドアが開いた。


「あれ、伊織君、どうしたの?」


 そこには暁斗がいた。後ろには力弥もいた。


 伊織は暁人に何があったかを聞こうと思ったが、彼に怪我がなく、無事であればそれで良いと思い、問い質そうとは思わなかった。


「飲み会が始まっちまうから、とりあえず行こうぜ」


「伊織君も行こう」


 そう言って、二人がショッピングセンターを出ようとしているので、伊織は彼らに続いて、店まで走ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ