第六十四話 もう一人の戦士
その場の誰もが、稲妻が落ちたと考えた。
しかし、そんなことは絶対ないと確信していたセレファイスは驚きの表情を隠せないでいた。この空間はセレファイスが作り出したものだ。ここで起きる全てのことは彼が掌握している。しかし、彼の知らない事象が発生している。
何が起きているのです。
彼が生み出した空間内に二人を誘い込み、カダス達に倒させるというのが彼の計画だ。
ここは私が作り出した異空間。ここであれば、あの忌々しい旧き神々の使者共にも気付かれることはない。
そのはずなのに、この稲妻はなんだというのです。
稲妻が落ちたと思われる光の中心地に人影がある。それはちょうど、力弥とセレファイスたちの間に位置している。
その場所に立っていたのは、青と緑を基調としたカラーリング、そして最も目を引くのが額から上部に突き出す二本の角だった。そう、まさしく、鬼と言える出で立ちだ。
「何よ、あんた!」
ウルタールがそう叫んで周囲の猫たちを稲妻から現れた鬼男にけしかけた。すると、鬼男の周囲に稲妻が次々と落ちていき、猫たちは警戒して、近付こうとしなかった。
稲妻が次々と男の周囲に落ち、ウルタールたちが近付けずにいると、鬼男は力弥たちの方を向くと、暁斗の体を抱え込んだ。そして、力弥の方に顔を向けた。
「逃げます」
必要最低限の言葉だけ発すると、男は飛び上がった。稲光の如く、目にも止まらない、瞬間的な動きだった。
「簡単に言うなー」
力弥もスピードに自信はあったが、あの鬼男には到底敵わないと瞬時に理解できた。それほどまでに、男の動きは早く、それでいて正確だった。
駆け上がるように空中を移動し、力弥は羽根を広げると、男の稲光の残光を手がかりにしてついていった。
「逃がすかよ!」
その時、鬼男の前に現れたのはカダスだった。あの位置から瞬時に鬼男の前に現れるなど、ありえないほどの身体能力と言う他ない。
カダスは自身の後方に氷の塊を放つと、その勢いで鬼男に迫った。暁人を抱えた鬼男は動きずらそうにカダスの攻撃をかわす。カダスは方向転換をしようと、再び、氷を移動方向と逆方向に放った。
運動量保存則を利用し、氷の射出によって空中移動を巧みに変化させている。
しかし、それは同時に、カダスの肉体自身には空中を移動する手段がないことを意味している。力弥はそのことを察すると、体から炎を噴出させた。
「うおおおおおおおおおおお」
その炎をはいくつにも分かれ、周囲の空域を灼熱に変化させた。そう、カダスの氷を蒸発させ、氷の塊による空中移動を阻もうという作戦だ。
「く、こざかしい」
カダスは巨大な氷を作り出し、溶けつつあるも、その氷を利用して鬼男に向かっていく。
「させるかよ」
力弥がそれを阻止し、カダスに思い切り蹴りを入れると、カダスはそのまま地面に向かって落ちていった。更に、鬼男が稲妻を次々に叩きこむと、ようやくカダスは追撃を諦めた。
「行くぞ」
力弥がそう言うと、鬼男は頷き、力弥を先導するように再び上空に飛び上がった。
鬼男の向かった先を飛び続けるうちに、灰色の雲の間に黒い隙間が見えた。そこが出口だろうと考え、力弥はそこへ飛び込んだ。
飛び込んだその先には青い空があった。力弥は周囲を見渡すと、眼下に人や車、建物が見えた。どうやら元の世界に戻れたようだ。
そして、これはどこかの上空であると分かった。力弥は周囲を見渡し、さっきの鬼男を探すと、男は暁人と共に真下にある建物の屋上にいた。
周囲をざっと見渡した感じでは、駅ビルの屋上のようだ。力弥は逃走を助けてくれたとはいえ、何者か分からない相手に警戒しつつ、その場に降り立った。
力弥がにらみつけると、鬼男は気まずそうに視線を逸らした。
そして、鬼男は二人の前から立ち去ろうとしたが、暁人に手を掴まれ、どうしたものかと迷っていた。鬼男も力弥と同様に戦士であれば、振り払うことはできようが、そうしようとはしなかった。
「さっきはありがとう。それで、あんたは味方なんだよな?」
力弥がそう言うも、鬼男はどこか落ち着かない雰囲気で答えようとしない。
「おい、何とか言えよ」
そう言って力弥が一歩前に出るも、鬼男は俯いて何も言おうとしなかった。
そんな二人のやり取りをすぐ横で見ている暁人は、鬼男の手を引っ張り、こちらを向くように合図をした。
「伊織君でしょ?」
暁斗の言葉に鬼男は硬直した。同時に、横で力弥が「え?」と言って、こちらも固まっていた。
暁斗は鬼男に対して一切視線をそらさず、見つめ続けており、どこか確信めいたものがあるようで、観念したのか鬼男は変身を解いて、素顔をさらけ出した。
「うん」
そこには暁斗の言った通り、鳥羽伊織の姿があった。




