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第六十三話 幹部

 駅前を離れ、商店街を進み、天衣無縫の近くまで来たところで、力弥は立ち止まった。


「あとは一人で平気か?」


「うん、ありがとう」


「え、家まで送らなくて平気ですか?」


 暁斗が二人の顔を交互に見ながら聞いた。朱音の足取りはしっかりしている。家まで送らなくて平気だろうが、もしものことがあると考えたためだろう。


「大丈夫だよ。暁人君、じゃあ、また大学でね」


 そう言うと、朱音は一人で自宅方面に向かっていった。


 力弥はしばらく朱音の後姿を見た後、急に振り返り、天衣無縫とは道を挟んで反対側にあるコンビニの物陰に隠れた人物に目を光らせた。


 暁斗はつられて、力弥の視線の先を見ると、そこにはさっきの男の姿があった。


 新島は二人に見られるや否や、路地の奥へ向かって逃げ出した。どうやら、三人の後をずっとつけてきたようで、力弥だけはそのことに気付いていたのだ。


「おい、待てよ」


 力弥は新島を追いかけて、駆けだした。暁斗もそれに続いて走りだしたが、力弥を見逃さないように必死についてくのがやっとだった。


 力弥を振り切ろうと、新島は必死に走った。力弥は逃がすまいと追いかけていたが、夢中になっていたせいで、周囲の変化に気付かないでいた。


 走り続けるうちに、周囲の景色がおどろおどろしいものに変わっていった。


 道の両側は蔦の生い茂った不気味な塀が並び、先ほどまで晴れていたはずなのに、空には黒い雲が覆い始めていた。そして、春が終わり、夏を迎えようというのに、徐々に肌寒くなってきた。


 力弥は周囲の変化に気付くと、立ち止まり、辺りを見回した。塀はどこまでも続いている。向かう先も、彼の背後も塀しかない。所々、苔が生えた古ぼけた塀の上には猫が何匹もいた。


 猫であることに変わりはないのに、可愛らしさを感じることができず、その猫たちは言いようのない不気味さを漂わせていた。


「はーはー、ひーひー」


 暁斗が息を切らせながら、力弥の背後に立った。文字通り必死に走って来たので、暁斗は周囲の変化に気付けずにいた。


「あ、あの、どうかしましたか?」


「ああ、どうやら、妙なところに迷い込んじまったらしい」


 そう言いながら、力弥が周囲をじろりと睨みつけていたので、暁斗も周囲を見渡し、ようやく異変に気付いた。


「え、ここ、どこですか?」


「分からない。ただ、俺たちの知る街ではないことは確かだ。誰かが俺たちをここに招き寄せたみたいだな」


 力弥はそう言うとゆっくりと歩き始めた。


 視界の先は見えているはずなのに、曖昧で、一秒先には景色が変化しているように思えた。いつまでも狭い通路が続いていると思えば、いつのまにか二人は公園の中にいた。


 所々に遊具やベンチがあり、ここが公園だとは分かるが、人の気配はなく、言いようのない不気味さだけが漂っている。


 周囲を見渡すと、来たはずの道は閉ざされ、出入口のない閉空間となった公園の中にいた。明らかに実世界とは思えない、別世界の中に迷い込んだとしか言えない状況だった。


「そろそろ、直接手を下さねばと思っていた頃なんですよ」


 男の声がした。


 力弥と暁人は声のした方を見た。視線の先、公園の中央、何もない場所に一人の男が立っていた。


「西園寺、先生」


 力弥が呟いた。そこには間違いなく西園寺が立っていた。高価そうなスーツをきっちり来て、背筋をピンと伸ばして、朗らかな笑顔でこちらを見ている。


「あれー、セレファイス、本名バレてんじゃん」


 今度は女の声が聞こえてくる。力弥たちはその方向にすばやく顔を向けると、一人の女性がブランコを漕いでいる。ひらひらのレースがついた、所謂ロリータファッションに身を包んだ若い女性がそこにいた。


「ふふ、あえて明かしたのですよ、ウルタール。明かしたところで、彼らにはどうすることもできませんし」


 西園寺のことばに力弥は身構えた。その言葉には、大学教授に早々簡単に近づけないという意味だけではなく、名前を知られた程度では自分を押さえられないという自信があるように思えた。


「ふーん、だったら、あたしらは本名をバレないようにしないとね、カダス」


 女性の視線の先、ジャングルジムの上に男が一人いた。それは、先日H本駅に現れた大きな剣をふるっていた男だ。


「あいつ」


 力弥が男の方を睨むも、男の方は気怠そうに力弥たちの方を見た。変身をしていない力弥には関心がないと言わんばかりだ。


「さて、燕谷力弥君、そして、斗星暁人君。君たちをここに呼んだのは理由ですが・・・。君たちも感づいているでしょうが、この街に現れるあの異形のものたちですが、あれは我々が生み出したもの、我々は眷属と呼ぶものです」


 力弥は手に力を込めた。そして、胸の高鳴りを押さえ、冷静になろうと努めた。


 こいつらが黒幕。今までは、出て来る怪物たちを対処するだけだったが、ここでこいつらを倒せば、全て解決する。


 そう思ったが、力弥はカダスの方をチラリと見た。あの圧倒的な力を持つ相手をそうそう簡単に倒すことはできない。仮に、この二人がカダスと同じかそれ以上の実力者なら、どうしようもない。


「申し遅れました。あなたは私の名前を知っているようですが、それは現世における仮の名前、我が主により賜った真の名前は、セレファイス、永遠のセレファイス」


 西園寺はそう言うと、深々と頭を下げた。


 そして、ブランコから飛び上がり、ロリータファッションの女性がセレファイスの横に立った。


「あたしはウルタール、よろしくね」


 そう言ってウルタールと名乗った女性は顔の前でピースサインをして見せた。どれだけ可愛く見せようとしても、この状況だ、恐怖心しか湧いてこない。


「そして、既にお会いしていると思いますが、あそこにいるのがカダスです」


 セレファイスがカダスの方に手を差し出しながら言った。相変わらず、カダスはこちらに興味を示さない。


 力弥たちは声を出せず、ただ身構えることしかできなかった。そうして緊張している二人をセレファイスとウルタールはニヤニヤと笑いながら眺めていた。


「さて、これまではあなた方の蛮行を見逃していましたが、我々の計画も終わりが近い。今までのように捨て置くわけにはいかなくなりました」


「そうそう。あと、あんたが思ったよりもしぶとくてね。眷属どもに任せてられなくなったってわけ」


 ウルタールが目を細めながら話していると、彼女の周囲に猫たちがわらわらと集まりだした。


「そこで、カダスを仕向けたのですが、どうにもうまくいきませんでした。そこで、私たちも直接手を出すことになりました」


 セレファイスがそう言うと、ジャングルジムの上で金属同士がぶつかり合う音がしたかと思えば、カダスがセレファイスの横に飛び降りた。そして、セレファイスの顔を睨みつけるように見つめている。仮面を被っているので表情は分からないが、激昂していることが伝わってくる。


「カダス、落ち着きなさい。確かにあれは私の采配ミスです」


 セレファイスが詫びているように見えるが、カダスは今にもセレファイスに斬りかからんという雰囲気だった。すると、ウルタールの周囲にいた猫たちが、カダスの周囲を囲んだ。


「いい加減にしな。仕事の順番を間違えるんじゃないよ。あいつらの始末が先だよ」


 ウルタールが強い口調でそう言うと、流石のカダスもセレファイスから一歩引き、力弥の方に体を向けた。すると今度は、力弥たちの方に歩を進めていった。どうやら、カダスは戦う気満々のようだ。


「俺が行く」


「待ちなさい、カダス。ここは念には念を入れ、ウルタールと協力をしなさい」


 セレファイスはそう言うが、カダスは聞く耳を持たないようだ。巨大な大剣を肩に担ぐと、姿勢を低くし、身構えた。


 力弥はブレスレットを眼前に掲げると、暁斗に対して「下がっていろ」と言った。しかし、カダスだけでも相手にするのがやっとだというのに、同程度と思しき敵があと二体いる状況で、力弥だけを戦わせるほど暁斗も臆病ではなかった。


「ぼ、僕も手伝います。どこまで助けになれるか分かりませんが」


 暁斗はそう言って、印を取り出し、全身の勇気を振り絞って、力弥の隣に立った。


「当代の星の戦士、そして次代の星の戦士。その両方をここで始末すれば、時間稼ぎには十分でしょう」


 セレファイスが嫌な薄ら笑いを浮かべながら、力弥たちを見つめた。そんな奴の前をカダスとウルタールが前に出て、力弥たちに迫りつつある。


「変身!」


 力弥の全身を炎が包み、彼は戦士の姿に変化した。変身した力弥には、どんなことがあっても、やり遂げるべきことがあったが、それを口にすることはできなかった。


 それは、暁斗だけでもここから脱出させることだ。


 例え、自分がここで力尽きたとしても、自分と、そして相棒の思いを託せる人間だけでも救い出したい。暁斗さえ、生き延びることができれば、きっと奴らに一式報いることができる。


「暁斗、防御を全開にしろ」


「はい」


 暁斗は自分が盾になって力弥を助けるためだと考えているが、力弥の思惑は違う。防御を全開にしておけば、暁斗がやられることはない。あとは、彼を抱えて出口を探し続ければいい、そう力弥は考えた。


「カダス、ウルタール。やりなさい」


 セレファイスがそう指示をした瞬間、周囲を耳をつんざかんばかりの轟音が響き渡り、黄色の光があたりを包み込んだ。


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