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第四十九話 龍が護る島

 空が暗くなっていく。


 龍二は初めは勢いよく向かっていたが、次第に不安が胸をよぎり、足が重くなっていた。もう、奥津宮までは目と鼻の先だが、凪を探す気になれなくなっていた。


 力弥たちを見ているうちに、自分も戦えたらと思っていた。


 だけど、凪がどうやらそれを認めてくれない。


 それが何故なのか、シンプルに知りたかった。


 よく考えてみれば、それは当たり前のことだ。相手は怪物、昨日見た巨大なやつが相手では、死ぬかもしれない。


 龍二はその考えに至ると、怖くなり、彼女を探そうという意欲がみるみる減退していった。


 やがて、雨が降り始め、風が強く吹いてきた。周囲に人はいなくなり、龍二だけになっていた。龍宮周辺に着き、以前に凪を見かけた林の方を龍二は見た。


 あの奥にいるのだろうか。


 龍二は足を止め、どうすべきかを考えていた。


 すると、奥の道から人影が見えた。観光客は建物の中に引っ込んだと思っていたので、何となくそちらに視線が向かった。しかし、それは人間ではなく、魚顔人間だった。そして、奴らは凪のいる林の方に向かっていた。


 龍二はグッと手を握ると、林の方へ駆け出した。


 考えるのはやめだ。今は、凪を守るのが先決だ。


 龍二は以前にウシオに言われた依頼を守るためだと自分に言い聞かせ、凪がいるだろう林の方へ向かっていった。


 すると、予想通り、そこに凪はいた。彼女の体からは燐光が漏れ、薄暗い林の中でそこだけ目立っていた。ただ、それは怪物たちにも見つけやすいことを意味しており、怪物たちは凪に襲い掛かろうとしていた。


「おらあ」


 龍二はケースからバットを取り出し、振りかぶった。バットは怪物の腹にクリーンヒットし、怯ませることに成功した。


「え、どうしてここに」


「いいから、逃げるぞ」


 龍二は凪の腕をつかむと、来た道を戻ろうとした。


「だめ。このままじゃ、力が奪われちゃう」


「このままここにいてもやつらにつかまっちまうだろ」


 二人が言い合いをしている間にも、魚顔人間が増えつつあった。既に、来た道の方も包囲されていた。


「とにかく、逃げるぞ」


 そう言って龍二が包囲されていない方へ駆け出した。凪も龍二に賛同し、ついていった。他の方向からも魚顔人間が迫ってきて、林の外に誘導されると、そこには魚顔人間が待ち伏せをしていた。


 焦点の定まらない目をしていても、知能は高いのか、龍二と凪は追い込まれてしまった。


 龍二はバットを構えて、怪物たちをけん制した。


「あんただけでも、逃げて」


「馬鹿か、女子を置いて逃げるなんて、そんなだせーことできるかよ」


「だけど」


 魚顔人間の何人かがぶつぶつと聞き覚えのない言葉を発すると、やがてそれが全体に行き渡り、奇妙な呪文があたりに響いた。


「やばそうだな」


「だから、あとは私が何とかするから」


「凪さ、俺に龍の力かなんかを渡すのを嫌がってるんだって?」


「ウシオさんに聞いたの?」


「ああ」


 魚顔人間はじりじりと近付いてきた。それに伴い、不気味な呪文もより鮮明に聞こえてきた。


「どうしてだ? なんで、俺に力をくれない」


 龍二自身、分かり切っていることだが、他にどう言ったらいいのか分からず、ストレートにそう聞いてみた。


「だって、あんなのと戦えって言われて、戦える? 死んじゃうかもしれないんだよ」


「分かってる」


「分かってないよ。クラスメイトに死にに行けなんて、そんなこと言えるわけないじゃん」


 龍二は少しずつ近付く怪物たちを睨みながら、それでも自分の後ろにいる彼女だけでも助けたいという、ただその純粋な気持ちが胸の中から湧いてきた。


「だけど、俺はお前だけでも守りたい、今、そう思ったんだ」


 周囲の怪物たちが手を構え、二人に襲い掛かるタイミングを伺うようになった。


「俺はきっとお前の下に帰ってくる。だから、今だけでも」


「分かったわよ」


 凪がそう叫んで、手を合わせると、二人は白い光に一瞬で包まれていった。二人を囲んでいた魚顔人間は眩しさのあまりに目を押さえ、後ずさりをした。それとほぼ同じくして、暁斗が息を切らせながら、光に包まれる二人が見える場所に辿り着いた。


「はぁはぁはぁ、あ、あれは、はぁはぁ」


 凪が放つ光は薄く周囲に広がってゆき、魚顔人間たちすら飲み込んでいった。光に質量があっただろうか、その光は周囲の雨や風をはじいっていった。


 凪から放たれていた光は、やがて龍二に託された。そして、龍二の体は徐々に変化していった。体格は二回りほど大きくなり、筋骨隆々になっていく。そして、皮膚は濃い緑に変化し、所々に白い甲殻が形を成していく。顔は白い仮面で覆われ、頭部からは新芽のような淡い緑の毛髪が噴き出した。その頭髪の間からは二本の角が見え隠れしている。


 龍二の肉体変化の影響を受けたのだろうか、彼の持っていたバットは三つ又の槍に変化すると、龍二はそれを持つと、両手で構えた。


「やぁ!」


 そして、誰に教わったわけでもないのに、華麗な槍裁きで周囲の魚顔人間たちを次々と吹き飛ばしていった。それは熟練された技にも見え、この地で龍の力を得た人々から、その技術を受け継いだように思えた。


「こいつで、最後だ」


 全ての魚顔人間たちを吹き飛ばすと、奴らの体は黒い塵となって消えていった。そして、龍二を覆っていた光も次第に薄まり、雨と風が二人を襲った。そう、先ほどよりも風が強くなっている。




 そんな二人の下へ、暁斗は駆け寄った。


「すみません。凪を頼みます」


 龍二は暁人に向かってそう言うと、龍宮の更に奥にある、裏磯へ足を踏み出した。


「ちょっと、さっき言ったこと、ちゃんと守りなさいよ」


「分かってるよ、じゃあ、行ってくる」


 龍二はそう言うと、風のように走り去っていった。いや、その姿は彼自身が風であるように思えた。


「島を出よう」


 暁斗が凪にそう言うと、凪は暁人の方を向いて「はい」と言って頷くと、二人は島の入り口へ向かって走り始めた。



 橋からやってくる全ての魚顔人間を力弥は片付けた。


「さすがだね。年季が違うというか、なんというか」


 いつもながらに神出鬼没のウシオが力弥の背後から拍手をしながら現れた。登場の仕方が、これを仕組んだ悪役のように見えるが、まったくそんなことはない。


「なんだ、あんたか。ちなみに、これで終わりじゃないだろ」


 既に数えきれない数の魚顔人間たちを倒しているが、力弥にはさらに強大な何かが来る予感がしている。


「ああ、本命が来るよ。ここから反対側の沖の方から来る」


「昨日のやつか?」


「いや、あれより大きいね」


 ウシオはそう言うと、振り返り、島の奥の方へ視線を向けた。そして、にやりと笑うと、再び力弥の方に向き直った。


「ようやく龍の力を開放してくれたね。これでぼくにも多少の使用権限が付与されたよ」


 ウシオはそう言うと、力弥の方に手をかざした。


「君の力は炎だろ。だったら、この雨は少々厄介だろうから、少しだけバフを盛ってあげるよ」


 バフなんて言葉をよく知っていたなと力弥はツッコミたい気持ちを押さえつつ、ウシオのサポートを黙って受けることにした。


「深淵より湧いてくるものたちの首魁が来る。龍二君と一緒に退治してくれるかな」


「あの高校生、変身できるようになったのか」


「そのようだね」


 それならば問題ないかと力弥は考えると、「分かった」とだけ言うと、両腕を横に広げた。すると、腕から無数の羽が湧き出してくると、力弥は飛び上がり、島の裏手へ向かっていった。



 力弥と龍二はほぼ同時に裏磯に辿り着いた。


 強い風と雨で海は荒れ、周囲の岩に激しい波しぶきが打ちつけていた。しかし、激しい波の原因は風だけではなかった。二人が睨みつける先で、海が盛り上がり、山のようになっていた。まるで海の水が何かを守るようにそそり立っているように見えた。


「来るぞ」


 力弥がそう言って構えると、「はい!」と言って龍二も槍を構えた。


 垂直になった海の水が割れ、中から超巨大な魚の化け物が現れた。丸太のような胴体に頭が乗っていた。首はなく、巨大な口が不気味に開かれていた。胴体からは水かきのついた二本の腕が生えている。目は四つあり、ぎょろぎょろと動くも、力弥たちを見つけると、二人の方向へ黒目は固定された。


 足は海に隠されているが、巨大な尾びれは水上に飛び出し、動く度に周囲に波を引き起こしていた。


「デカいっすね」


「ああ」


 そう、目の前の怪物はあまりに巨大だった。高さでは言えば、江の島に匹敵するほどだった。力弥もこのサイズの怪物と対峙するのは初めてのことだった。


「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 周囲のあらゆる物体が震えるほどの叫び声をあげると、怪物は手を振り下ろした。二人は素早く横に飛びのき、怪物の攻撃を避けた。力弥は両腕の羽で飛び上がり、怪物の斜め上から見下ろした。


そして、その巨大な体躯をまじまじと見つめると、急降下して両腕の刃の一閃を加えた。


カッキイイイイイン。


 鋭い金属音が周囲に響くばかりで、怪物の体にダメージを与えるには至っていなかった。相変わらず、怪物の鱗が堅いのだ。


 力弥が上空から攻撃を仕掛けている間、龍二は叩きつけた怪物の腕を伝って、風のように駆け抜け、怪物の胴体に迫った。そして、三つ又の槍を突き刺そうとするも、堅い鱗に阻まれてしまった。


 龍二は更に何度も突きを入れるもびくともしなかった。やがて、もう片方の腕が龍二を捕まえようとするので、龍二は垂直にそそり立つ怪物の体を駆け上った。強力な脚力で体を駆け上りつつ、その間も怪物の体に槍で斬り払うも、全く歯が入らない。


「硬すぎる」


 堅い体をどう攻略するべきかを龍二が頭を悩ませていると、その隙を怪物は逃すわけもなく、蟲を潰すように怪物の掌が龍二に迫ってきた。


「ヤバい」


 龍二が潰されるのを覚悟した瞬間、赤い風が龍二の体を包んだ。力弥だった。力弥は龍二の手を掴み彼の体を引っ張り上げた。おかげで、龍二は間一髪潰されずに済んだ。


「ありがとうございます」


「おう」


 そう言って力弥が手を離すと、龍二は体に風を纏いつつ、怪物の頭部に降り立ち、槍を突き刺そうとした。しかし、頭部も鱗で覆われており、全く歯が立たなかった。


「ヴオオオ、ヴオオオオオオオン」


 怪物が再び雄たけびを上げると、怪物に取り付いていた龍二は陸の方に吹き飛ばされた。力弥はそのすぐ横に降り立った。


 怪物は両手を下し、うつぶせのような姿勢になると、海の水が一気に引いていった。そして、怪物の海で隠れていた部分が露わになった。足はなく、胴体の先には尾びれがあるだけだった。まるで人魚のような体型だ。


「くそ、またあの高波がくるぞ」


 力弥は高波が来ることを焦っているようだが、不思議と龍二にそうした焦りはなく、これにどう対処すべきかを知っていた。


「ここは任せてください」


 龍二はそう言うと、槍を両手で持って、それを垂直に立てた。すると、彼の体からは風が巻き起こっていた。空気の塊が彼の体に集まるように動いていくと、それは竜巻のように天まで伸びていった。


 空と繋がっている感じ。


 そうだ。今の俺はこの空すら操れる気がする。


 龍二の体に風が巻き起こるのと同時に、怪物の背後では海の水が盛り上がり、巨大な壁となって二人に大きな影を落としていた。その波の高さは昨夜の怪物のそれをゆうに超えていた。


 力弥は龍二の体から吹き荒れる風と、天まで続く巨大な風の柱に可能性を感じた。そして、彼に全てを任せようと考えた。


「ヴオオオオオ」


「おらあああああああああ」


 怪物が吠えるのと、龍二が叫ぶのはほぼ同時だった。そして、巨大な津波と竜巻がぶつかり合った。


 巨大な水の塊と、吹き荒れる風は互いの体を削りながら、一歩も譲ることなくせめぎ合った。それらの周囲では轟音が響き渡り、海水と風の欠片が飛び交った。そうした欠片は怪物や力弥たちを襲ったが、力弥は剣でそれらを切り裂いていった。


 高波と竜巻は徐々に小さくなり、勢いを失っていった。やがて、それらは相殺し合い、周囲に一瞬だけ静寂が訪れた。


「よくやった!」


 力弥が龍二の肩を叩き、彼を激励すると、「おっす」と龍二は照れつつ返事を返した。


 龍二は今のせめぎあいの中で、怪物の大海嘯を相殺できるだけの竜巻の力だけではない、この体に宿る力の神髄を理解していた。そう、この身に宿る龍を、最大限に発揮する方法を理解した。


 龍二は力弥の方を見た。とっさに彼の名前が出てこず、色んな意味で目上の人間であることには変わりないので、「先輩」と呼んだ。


「俺か」


 力弥がそう言って返事をすると、龍二は頷いた。


「俺の力を完全に開放します。先輩はそれに合わせて、一緒に攻撃をしてください」


 アバウトで、適当な説明だったが、力弥は「おう、任せろ」と言って、再び龍二の肩を叩いた。龍二は頼りがいのある兄貴分の背中を借りて、龍の力を解放することに専念した。


「叢雲より出でし龍よ、天地の狭間を御す者となれ」


 龍二がそう叫んだ瞬間、彼の体から更に強大な風の塊が吹き荒れたかと思うと、それは一瞬にして天まで続く巨大な風の柱となった。そして、その柱が徐々に太くなり、隙間からは鱗で覆われた巨大な何かが蠢いていた。


そう、龍二の体は一瞬にして龍に変じていた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオン」


 巨大な怪物に匹敵するような海を揺るがす雄叫びが風の柱の中から響き渡ると、その柱の中から龍に変化した龍二が現れた。目の前の怪物ほどではないが、その龍は十メートルに及ぶ巨大な体を持っていた。


 龍は雄々しくも優しげな目を力弥に向けた。


「よし、行くか!」


 力弥と龍二がそれぞれ飛び上がり、海上の怪物に迫っていった。怪物は先ほどの大海嘯ほどではないが、水を操り、二人に水の柱をぶつけようとしていく。力弥と龍二はそれを華麗にかわしていった。さらに龍二が一吠えすると、水の柱を相殺するように竜巻を次々と発生させた。


 水の柱を吹き飛ばした竜巻は勢いを止めることなく怪物に迫っていった。怪物の胴体に数本の竜巻がぶつかり、怪物の体を削り落とそうとしつこく絡みついていく。


そこへ力弥が全身に炎を纏わせ、剣を構えながら怪物に突進していった。すると、竜巻と炎が一体となり、炎の竜巻は激しい勢いで怪物の堅い鱗を穿っていた。そして、怪物の胸部の鱗が剝がれていった。


 とうとう、巨大な怪物の体を覆っている鉄壁の守りに僅かな隙が生まれた。


「今だ!」


 炎の竜巻がはじけ飛び、そこから力弥が飛び出した。そして、空中で旋回すると、龍二と共に怪物の胸に向かっていった。巨大な龍の牙、力弥の刃が真っ直ぐに、鱗の剥がれた怪物の体に向かっていった。


 怪物は最後の抵抗とばかりに、水の柱を次々と出現させるが、それらはことごとく竜巻に相殺されていく。


「とどめだ!」


「グオオオオオオ!!」


 牙と刃が怪物の胴を貫いた。脆くなった部分を中心に、全身にヒビが入ったように、怪物の体を覆う鱗が次々と崩れていき、そして怪物の巨躯は黒い塵となっていった。


 それと同時に周囲を覆っている黒い雲に切れ目が生じ、そこから太陽の光が差し込んだ。雲間から漏れる光が更に怪物の体の崩壊を加速させたのか、あれだけ巨大であったにも関わらず、既に怪物の体は跡形もなく消えていった。


 力弥と龍二は岩場に着地すると、変身を解いた。


「やったな!」


 力弥がそう言って掌を掲げると、龍二は「はい」と元気に答えると、ハイタッチを交わした。


 そうして、二人が勝利の余韻に浸っていると、後ろからウシオが歩み寄ってきた。


「やれやれ、これでしばらくは奴らも来ることはないだろうね」


「また、来るんですか?」


 龍二はつばを飲み込み、緊張した面持ちでウシオの方を見た。


「安心しなよ。君の生きている間はやってこないよ。これはね、ぼくらの主とやつらとの悠久の時の中で続く戦いなんだ。うつろうものたちには預かり知らぬことさ」


 ウシオの言葉を聞いて、龍二は安心しつつもむずむずした。とうに忘れたはずの、中学時代に拗らせた感情が溢れそうになっていた。


 ウシオは続いて力弥の方に視線を向けた。


「だけどね、君の場所は違うんだ」


「どういうことですか」


「あの地において、奴らが来るなんてことはなかった。過去に奴らと争った経緯もない」


「だけど、現に怪物たちはやってきています」


「それなんだ。彼女もずっと調べているみたいだけど、どうにも手がかりが掴めていない」


 ウシオは頭をひねりつつ、何かに気が付いたように目を見開いた。


「まさかとは思うけど、人間が絡んでいるのかもしれない」


「人間、ですか?」


「そう。ぼくらはね、奴らの気配や、君らのように素養のある人間には鼻が利くが、それ以外の人間はからっきしだ。悪いけど、そこらの動物と同じにしか見えない」


 その言葉を聞いて、力弥と龍二は少しムッとした。


「そんな顔をしないでくれよ」


「つまり、ただの人間が怪物たちに協力をしているということですか」


「そう。そして、奴らの中でも、神と呼ばれる最高位のものから力を与えられている可能性がある。その力を隠しつつ、怪物たちに協力をしているなら、ぼくらが気付けないのも納得できる」


「あの人も、そのことに気付いているでしょうか」


 力弥はヒバリの顔を思い浮かべながら、ウシオに聞いた。


「おそらくはね。ただ、さっきも言ったように、ぼくらでは気付けない。だから、君がサポートしてくれると助かるね」


 ウシオはそう言ってウインクしてみせると、二人に背を向けて、沖へ向かって歩き出した。


「じゃあね。また会うことはないだろうけど」


 そう言って、ウシオは海の上を歩いたかと思うと、陽炎のように見えなくなっていった。


 力弥はしばらくウシオのいた海を眺めつつ、自分の街で起きていることを考えていた。ただ、怪物と戦うだけじゃない、徹が言ったように何者かの意思があり、それが人間である可能性が高い。


 その誰かを突き止めることができれば、この戦いは終わる。


「帰りませんか?」


 龍二が緊張しつつ力弥に聞くと、力弥は「そうだな、帰ろうぜ」と言って、龍二の背中を叩きつつ、島に向かって歩き出した。




 結局、午後の江の島観光は流れてしまった。


 びしょぬれで帰ってきた力弥と暁人は宿のご厚意で、早めの風呂に入らせてもらえた。ちなみに、暁斗のバッグに入れていたたこせんべいは染み出した水でふやけてしまい、半ぬれせんべい状態になってしまった。


 大浴場には力弥と暁人の二人だけだった。二人は湯船につかり、冷えた体を温めていた。暁斗は目をつむって肩まで使ってお湯を堪能していたが、力弥は天井を見つめて、ウシオに言われた言葉を思い返していた。


「どうかしましたか?」


「あのウシオって人に言われたんだけどよ。俺らの街の怪物に人間が関わっている可能性があるんだとよ」


 暁斗はそれを聞いて、お湯に浸かっていても寒気を感じた。


「それはどういう?」


「詳しいことは分からねぇが、怪物の出現に関わっているんじゃないかって話だ」


「つまり、人間が意図的に怪物を出しているということですか」


「多分」


「そんなこと、可能なんですか?」


「分かんねぇけど、方針は決まったな」


 力弥はそう言って湯船から出た。暁斗もそれに続いて湯船から出ると、二人は脱衣所に向かった。そしてバスタオルで体をふき、浴衣に着替えた力弥の目には輝きが宿っているように見えた。


「帰ったら、どこから手を付けるべきか、考えようぜ」


「はい」


 そう言って二人は皆が待つ部屋に戻っていった。


江の島編はこれで終わりで,またしばらくは投稿が滞ります.

よろしくお願いいたします.

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