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第四十五話 隠れ巫女

 ウシオらと離れて少しすると、周囲の人たちが普通になっていた。


 津波が収まった直後、周りの人が動画の一時停止みたいに止まってしまっていて、龍二は怖ろしくて仕方なかった。しかし、他の四人があまりに平然としているので、ここでビビっているのがバレるのはダサいと思い、ギリギリで心を落ち着けることができた。


 ウシオに帰るように言われ、凪に手を引かれて、住宅地の方に入ると、人目がなくなり、先ほどの話をしても良いように思えた。


「なぁ、そろそろ話してくれないか」


「何を?」


 そう問われて龍二はどこから聞いたら良いか判断できず、閉口してしまった。


「まぁ、何もかもだよね」


「ああ、そうそう。最初から説明してくれよ。俺はあのグロイ奴らからお前を守れしか言われてないんだよ」


「私はね、隠れ巫女っていうの」


「でも、お前んちは別に神主とかじゃないだろ」


「だから、隠れって言ってるじゃん。正式なものじゃなくて、こっそりと守ってきたらしいの。途中、一族が途絶えそうになったり、他の土地に移ったりとかしたみたいだけど、星辰が揃うときには必ずこの地に訪れて、深淵からくるものを押さえるつとめがあるの」


 龍二はそんなことがこの時代にあるのだろうかと疑問に思いつつも、彼女のおかげで助かった事実がある以上、信じることにした。


「他に聞きたいことは?」


「あのウシオさんって人は・・・」


「私も詳しいことは知らないけど、人間に力を貸してくれる、神様か何かの使いみたい。私もこれ以上のことは知らないよ」


「人間じゃないのか?」


「多分」


 人外と会話していた事実に思い至り、龍二は何とも言えない顔になった。そして気を取り直すと、「あの他の二人は誰なんだ?」と改めて凪に聞いた。


「それは私も知らないけど、怪物たち、うちのおばあちゃんはうつろわぬものとか言っているけど、あれと対抗できる戦士らしいよ」


「それもウシオさんから聞いたのか」


「そう。でも、聞いたのは今日だけどね。今日のところはよその土地の星の戦士が手伝ってくれるから、彼と協力しなさいって」


「俺は聞いてないぞ」


 凪は小さくため息を吐くと、「あんたは知らなくていいってことでしょ」と吐き捨てた。


「聞きたいことはこれで全部?」


「いや、あと、何か津波の後に、他の人たちの様子がおかしかったけど、あれは大丈夫だったのか?」


 凪はそれを聞いて、何だそんなことかという顔をした。


「あれは問題ないよ。怪物たちが襲ってきた事実を忘れさせるための・・・ 儀式的なものらしいよ」


「忘れる?」


「そ、記憶がなくなるんだって。あとスマホで撮影しても消えちゃうみたいだよ」


「え、それ凄くないか?」


「そうね。でも、前からあったけどね」


「俺らは対象外ってことか」


「・・・まぁね」


 凪はそう言うと、一軒の家に向かっていった。そこが彼女の自宅だ。


「じゃあね。あと、明日も出るみたい」


「そうか。なら、俺も行くよ」


「そうね。でも、あの人たちに任せればいいんじゃないかな」


 そう言うと、凪は家の中に入っていった。龍二はそれを見届けた後、自分の街くらい自分で守りたいだろと思いながら、帰路に就いた。




 旅館に戻ると、朱音や姫乃は魚顔人間に襲われたことを覚えていなかった。


 いつも通り、記憶の改ざんが行われた結果だった。彼らは旅館に酔っ払いが乱入してきて、暴れまわったという記憶が埋め込まれていた。屋内が生臭いのは何故か彼らが魚を持っていて振り回していたというだいぶ無理のあるシチュエーションだった。


「雑すぎんだろ」


 力弥はビールを飲みながら、朱音たちが改竄された記憶に基づいた話を聞いていると、そう言わずにはいられなかった。横で暁斗は「ははは」と乾いた笑いをするしかなかった。


「それで、私と先輩が襲われそうになったときに竹刀で応戦してくれたのが伊織君なんですよ」


 姫乃が伊織に手を差し出しながら力説した。既に缶チューハイを一本あけて、少しテンションが高いようだ。皆の注目を浴びている伊織は、何でもなかったようにパーティサイズのポテトチップスを小脇に抱えてバリバリ食べていた。夕食時に山盛りご飯を五杯もおかわりして、まだ食べるようだ。


「うっす」


「おい、それ一人で食うなよ」


 力弥がそう言ってポテトチップスに手を伸ばそうとすると、朱音がそれをはたいた。


「ダメ。これは私たちのために頑張った彼へのご褒美なのです。酔っ払いが来た時、部屋にもいなかった力弥にはあげません」


「えー」


 本当は彼のおかげで姫乃は助けられたのだが、魚顔人間が大勢押し寄せてきて、それを戦士に変身した力弥が追い払ったなど誰も信じないだろうと、暁斗はコーラを飲みながら苦笑いした。


 すると、普段なら力弥を敵視しているような視線を送る伊織が力弥に対してどこか申し訳なさそうな顔をしたかと思うと、ポテトチップスの袋の背中を開いて、座卓の上に置いた。


「どうぞ」


「ああ、サンキュ」


 半ばあきらめかけていた力弥だが、伊織の予想外の行動に驚きつつ、小さいポテトチップスをつまむと口に運んだ。


「ぼくも食べていい?」


 暁斗がそう聞くと、伊織はこくんと頷いた。それからはパーティサイズのポテトチップスは全員でシェアするものになった。


「そういえば、力弥はどこに行っていたの?」


 朱音が柿ピーの入った袋を開けながら聞いた。力弥はそれを聞いて思わずビールを噴き出しそうになったが、どうにかこらえた。


「あー、なんだっけ」


「そういえば、つまみが足りないかもって言って、コンビニに行ってたじゃないですか」


 暁斗が咄嗟にフォローを入れると、力弥は「そうそう」と相槌を打った。


「ふーん、で、何を買って来たの?」


 朱音が訝しむような目つきで力弥の方を見た。手ぶらで帰って来たのだから、怪しんで当然である。朱音に問い詰められて、力弥は脂汗を流しながら、必死に言い訳を考え、とっさに「あー、雑誌を立ち読みしてたら、つまみ買うのを忘れちゃったんだ」と言って、その場を取り繕った。


 その後、二年生がどちらも寝落ちして、朱音が姫乃を部屋に連れていくと、酒盛りはお開きになった。残った酒とつまみは広縁のテーブルの上に置かれ、利一以外の三人で座卓を立てかけ、布団を敷いた。


 伊織は寝落ちした利一を布団に置いてやると、彼も大きくあくびした。そして、洗面台で歯磨きをしていた暁斗が戻ってくる頃には、伊織も布団に入って寝入っていた。


 暁斗も寝ようかと思ったが、布団に力弥がいないことに気付くと、周囲を見渡した。すると、広縁の椅子に力弥が腰かけて、外の景色をつまみにビールを飲んでいる姿が目に入った。部屋の明かりは既に落とされ、月の光が部屋の中を僅かに照らした。


「寝ないんですか?」


 暁斗が力弥の対面に座りながら聞いた。


「ああ、開いたまま残ってるビールがあったからな。もったいないから飲もうかなって」


 力弥はそう言って、また一口ビールを飲んだ。ただ、暁斗には、彼のどこか寂し気な表情から、一人で飲みたいだけのように思えた。


「すみません、何か考えていましたか?」


「ん? ああ。お前なら言ってもいいかな」


 力弥はそう言って外を見た。この日は月が明るくて、星はあまりはっきりとは見えなかった。


「俺たちの町でも、ここみたいに他の何かの力を使って戦うことができたら良かったのになって思ってな」


「そう、ですね」


 暁斗は何て言ったらいい分からず、ただ相槌を打った。


「もし、そうだったら、怪物と戦うのに自分の存在をかけなくていいし、あいつも消えることはなかったはずなんだ」


 暁斗は静かに力弥の話を聞いていた。


「そんで今頃、俺はあいつと一緒に大学に行って、同じ教室で勉強して、今日も一緒に朝まで酒を飲んだりとかできたのになって思っちまって」


 力弥は窓の外を見つめたまま、暁斗の方を決して見ようとしなかった。


「たらればを言っても始まらないのは分かっているけど、それでもつい考えちまうんだよ」


 力弥はビールを持っていない方の手で顔をぬぐうと、残ったビールを一気にあおった。


「まぁ、そもそもあいつらが襲ってこなければいいだけの話だから、まずはあいつらを全部倒すところからやるだけだよな」


「はい」


「さて、寝るか。俺は歯を磨いてくるから」


「ぼくは先に寝てますね。おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」

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