EP96 ピラニア
如何やら現在ブレイスは、限定的に景気が悪いらしい。
クランベル伯爵が悪の大王カタベル大主教の行っている国教会を強くする試みへ協力して、ブレイス帝国銀行の投資金額を規制する法を通過させて、国教徒以外の投資金額を1000ポンド未満と区切った事が原因で、ロドニア市に或る旧市街のブレイス帝国銀行周辺に在った外資系金融資本家たちの不満が収まらない。
と言っても、ブレイスで銀行を株式化出来ているのってブレイス帝国銀行のみだけどな。
ブレイス帝国銀行は、アン王女時代にそう言う勅許状を出させていたりする。
国債の発行額が大幅に増えて増税していても、利益を出して居る勅許3大株式会社は、8~16%の国債利回りや株の配当を支払っていたりする。
3大勅許会社とは、言わずと知れたブレイス帝国銀行とブレイス東イラド会社と、一度は破綻しかけていた東海会社で或る。
多くの破産者を出したのに、今は多くの利益を産み出している。
流石は凄腕の故アイスエッジ伯爵だよな。
決して俺には真似が出来ないし、真似もしたくも無いけども。
そう言う訳で、ロドニア市の金融地区からトール党を二度と支持しないとか、法案の破棄や損失補填の請願やらが届いているそうだ。
でも国債を買いたかったブレイスの国教徒達からは評判がいいので、人数的にはクレームを出して来て居る人達は少数なんだよね。
ロドニアから出て行かざるを得ないって脅しを掛けて来る海外投資家も多いけども、ブレイス帝国銀行の一番の利益は、為替と両替手数料だからなあ。
金との交換て、ブレイス帝国銀行でしか出来ないから、商売でポンド紙幣を決算しようと思ったら取引したく無くても、ロドニアのブレイス帝国銀行本店でするしかない。
それに金は、必然的にロドニアに或る帝国銀行へ集まる仕組みなんだよなあ。
ただでさえ高圧的な人はランダル王国の人が多いけども、ランダル王国とは海を挟んで隣国なのに空気が悪いから、ブレイスと戦争に成らなければいいなあって俺は思うよ。
どうあれお互い非旧教徒同志なんだから仲良く遣ろうズ。
そういや東イラド会社が勝手に戦争を始めない様にって55年にイラドのペルガル地方を取ってから、取り敢えず200名の国王軍を派遣していた筈なのに、今回「ピンチだ。ヤバい。怪我人多数。」って要請があって、一先ず海軍のアドミラルを送り、次に休んで半給に成って居る少佐クラスの士官が率いる陸軍をイラドへと派兵。
両者合わせて約800名くらい。
東イラド会社は海賊会社なので、会社軍を持っている。
まあ、商館を守る為に必要に迫られ、要塞化したり傭兵を雇ったり軍からリクルートしたりして、今の形に成ったらしい。
「商売の利益を守るだけで、別に国外で独立軍を作る心算など全くない。」
つう説明だったので、様子を見る為、まず陸軍から80名行かせたら、イラドへ着く前に52名が六カ月以上の船旅で航海病諸々で死亡してしまった。
それでも、一度決めた事を諦めないのは、ブレイス軍の誉れ。
幾たびかの果敢な挑戦の末、何とか中隊規模まで人数を揃えて、ペルガルで調査及び防衛任務を熟して居た。
一応は1年つう任期が決まっているのだけども、病気に成ったり亡くなったりする士官や兵士がいるし、会社軍とは揉めたりして指揮を執る士官が常時不足状態。
でもって陸軍の士官て良い所の御坊ちゃまが多いので、イラド行きを拒否ったりするのだよ。
まあ、会社軍の方は、ブレイス本国なら士官に成れそうもない労働者階級の人間が、大佐に成って居たりするので、正規の軍である士官と反目し合ったりしちゃうのだ。
報酬も断然、正規軍の方が良いし。
命からがら、(主に病気で)帰国したモノ達からイラドの惨状を聴いて、希望者など出て来るモノではなく、仕方なく経験が少ない(=摩れてなく金で軍位を買えない=)若い尉官クラスを少佐にして、間に合わせていた。
俺とか軍の経験がないので、分らないけど下士官で良くね?って思うんだけどさ。
軍隊って規律第一なので駄目らしい。
俺はイラド植民地顧問なんてのも、ずっと遣らされてるので報告書は上がって来るのだけども、距離がねー、距離なんだよなあ。
雲行きが怪しいから、商館を置いている3ヵ所で私的商売と言う名の密貿易を辞めさせるように、イラド植民地委員会へ提案書を出しても、届きゃあしない。
まあ、届いても聞かないだろうな。
会社公認だし。
東イラド会社の職員や軍人も、ベルガル太守へカディール皇帝に東イラド会社が一括で関税を払ったから、と無茶苦茶な拡大解釈を押し付けて誰も現地で関税を払わないし、隣接している別太守の領地でも勝手に商売するし。
一応は先進国を自認するブレイス民なら、他人の土地で無関税の自由貿易権なんて恥ずかしい事を言わないで欲しいモノだ。
流石に親ブレイス派で、親フロラル派だった前太守を追い出したシャム・ジャール太守も激おこプンプン丸に成り、領地に居るブレイス商人を追い出そうとしたので、息子であるミル・カシスを太守に就けて東イラド会社は物理でシャム・ジャールを追い出した。
此処までは、俺も報告を受けていたのだよなあ。
次の報告は一昨年で、その新たに据えたミル・カシス太守と隣のラクナワ太守と東イラド会社が戦い、追加の兵と軍医を寄こせと東イラド会社から連絡があったのは。
でもって、俺の素直な弟カイルがレベット首相とクランベル伯爵からの特命を受けて、詳細な報告書を兵士達の治療の序に取りに行った。
全く他人の弟だと思って雑に扱い過ぎ。
「レスタード伯爵の弟カイル君も、アドミラルを退官して無ければ佐官で行けて、帰国したら昇進出来たのにね。残念だ。」
レベット首相は、強いて残念な声でも無く、重そうな瞼を開いて俺に告げた。
つうか退官して居ないからと任命して置いて、船で出立したら退官を認めるって流石の俺も怒ってしまったよ。
秘密保持の為、大佐クラスは退官できない定めらしい。
道理で称号に大佐が多いわけだ。
クランベル伯爵によると退官していた方が早く帰国出来て安全なのだと言う。
と言うか、アドミラルを退官された方が遣っているイラドの船舶会社と王立軍(陸軍)との仲は微妙なので、下士官としての軍医の立場の方が情報収集しやすいのだとか。
はあ、会社軍とも王立軍って仲が悪いんだよな?
ダメダメじゃん。
こうなったら昔、俺がプログラムしたブレイス語学校で、有能な通訳をカイルに就けて貰える事を祈るしかない。
もうさ。
俺は、イラドで東イラド会社が傭兵としてペルガル、マカダ、オリヤの3州合わせて、ほぼ1万人雇ったと聞いて、嫌な予感しかしなかった。
知らない内にオリヤ州迄も植民地へ加えてるし、
彼等の初代はマジで羊毛商人だったのか本気で尋ねたい気分だった。
確かにイラドへ行く迄は命懸けで、ランダルやポガールやフロラルの武装商人達とも戦い、現地の貴族達とも戦って広げて行った商業圏では在るから、自分達の権利って言いたい気持ちも分からんでも無いけども、勝手に労働力だと言ってイラド民族を北カラメルやアルカディアで売るのを辞めて欲しい。
いやあ、昔の王様って凄かったんだなあ。
こう言う自己主張の激しい人達へ言う事を聞かせていた何てさ。
で、
何が言いたいのかと言うと、此の糞忙しい時期に問題を起すなってコト。
こちとらコーデリア殿下の婚約問題で忙しいの。
大変なんだよ。
くそーー。
カイルが戻って来たら、俺のイラド植民地顧問の役職を外して貰おう。
俺は、東イラド会社とは、付き合い切れない。
報酬分の仕事はしたからな。
ちくせう、このピラニアたちめ。
※※※※※※※※※※
俺は、寝室でジーンに葡萄酒のベリージュース割りを持って来て貰い寝酒を飲み、疲労した脳をを休ませる。
今夜もクランベル伯爵は遅いのか、と俺は独りごちてワイングラスの中の赤い液体を飲み干し、ジーンに室内シューズを脱がされ、広いベットへ横たわる。
コーデリア殿下の婚姻式が終わってから陛下の病症が進み、起き上がれない状態になって仕舞ったので、クランベル伯爵は議会の対応をするべくウエストカタリナ宮殿に滞在しているので、益々俺と過ごす時間が減ってしまった。
まあ、良いのだけどね。
俺も如何して良いのか寝酒を飲まないと考え込んで迷走しちまうから。
だって俺は自分の性癖に、クランベル伯爵と添い寝して貰うまで気付かなかったのだ。
つうても気付いたのは最近だけども。
マジで気付きたくなかったよ。
クランベル伯爵の腕の中は暖かくて安心するのと同時に、俺はクランベル伯爵を抱きたくなってしまうのだ。
初めはフリップを亡くした事による喪失感故の気の迷いだと考えて居たけども、如何やら俺は変態になって仕舞って居たらしい。
動悸が早くなって体内の熱が溢れ出しそうになるのを、俺は母さんの怒りで吊り上がった鋭い目とジュリアが俺を求める柔らかな腕を思い出して、鎮静化させていた。
その効果は絶大で、俺の邪な欲望は一先ず飛散して、クランベル伯爵の固い胸と鍛えられて締った腕の中で、心地良い安堵と眠りを齎して呉れた。
流石は、母さん。
俺が誤った道へ足を踏み出そうとするのを、ロドニアから遠い華龍帝国の地で離れていても、急速冷却して留めて呉れる。
持つべきモノは、信仰篤き正しき母の愛かも知れない。
恩人であるクランベル伯爵に、こんな不埒な情欲を抱いてしまう己を恥じ入りながら、俺は意識を問題事項へと切り替えていた。
問題は、クランベル伯爵の屋敷を出る事や今なら同衾を断れば済むコトなのだけども、気が付けばなんだかんだと断れない理屈を、俺が脳内で並べてしまっている事だ。
結局、俺はクランベル伯爵と離れたくないのだ。
いつからクランベル伯爵に対して、こんな想いに成っていたのか。
初めてウィルソン・カステル議員から紹介されて、あの明るい翠色した澄んだ瞳で、クランベル伯爵に俺が見詰められた時だったのか。
それとも、いつも俺を迷いない目で包んで呉れていた時の積み重ねなのか、どちらにしろクランベル伯爵を俺が好きになってしまっている事実に変りがない。
此処まで、俺が自分の気持ちに気付かなかったのは、封印して置きたかったクソ忌々しいカタベル大主教の所為だ。
俺は、無理矢理カタベル大主教から襲われ続けていた所為で、男とは絶対にそう言う関係に成らないし、男に抱かれるなど真っ平御免だと思っていた。
そして俺は、女性を求めるタイプの人間だと勘違いした侭、ジュリアと婚姻してしまった。
大切だった妹のエルザの死によって俺の中にあった常識のタガが外れて、情だけではジュリアを抱けなくなってしまっていた。
既にその頃、俺は意識していないだけで、クランベル伯爵を求めていたのかも知れない。
そして、俺の親友フリップが亡くなり、クランベル伯爵から優しく慰められる内に、俺は欲望の行方に気付いたのだった。
クランベル伯爵を抱いて俺のモノにして仕舞いたい。
その欲求に気付いた時、俺はゾッとした。
此れではまるで大悪党のカタベル大主教と同じでは無いか。
俺は長らくクランベル伯爵と過ごして来たけど、彼に男色の趣味は無い筈だ。
微塵もそんな気配を俺は感じ取れなかった。
まあ、クランベル伯爵から俺を求められても困ってしまうのだけども。
求めているのは、飽く迄も俺の方なので。
つうても、俺のモットーは【他人の嫌がることは遣らない】なので、カタベル大主教では或るまいし、とても無理矢理なんて出来ない。
いや、襲ったらクランベル伯爵から絶対に俺の方が返り討ちに合うし、そしてクランベル伯爵を真の主人と慕うジーンからフルボッコにされるのは間違いないから。
それに俺は、母さんや亡くなった父さんから、正しき人でありなさいと言われ続けて育って来たしなあ。
真逆を生きているけども。
借金返済の為、可成り不道徳とされる事や聖書に反する行いをして、寝る前に父さんに詫びつつ懺悔している有り様なのに。
俺は、酔いの廻った頭でフワフワと如何にも成らないコトを思い巡らして、彼方遠くで響く母さんの怒った声から耳を塞ぐように、掛布で頭ごと包んで目を閉じた。




