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ep9 フラットな増税と皇女




  あれから2週間に一度の割合でフリップは我が家に訪ねて来ていた。

 俺は、アルバート4世に呼ばれ、またクランベル邸で暮らしていて留守だと知っているのに、フリップは我が家に何の用が或るんだか。


 分ってるんだけどさ。

 俺からフリップへエルザを紹介しようとしたのに、いざ勝手に2人が仲良く為られると、何故かムカついてしまう俺の微妙な兄心をお判り頂けるだろうか。


 「幾ら唯の平民だからって、エルザを弄んだら許さないからな。」


 そうフリップに俺が詰め寄ると「チャーリーの妹にそんな真似は出来ない。」って、速攻で怖い顔をして真面目に応えて呉れたので、俺は微妙な気持ちの侭、母にエルザとフリップの事は任せた。

 久し振りに見た怖い顔のフリップに、決して俺はビビった訳じゃないからな。




 12月のクリスマス休暇に我が家へ戻ると屋敷の中は明るく華やいでいて、驚いた。

 別に、部屋の造りが変わった訳でも無くエルザやデイジー、そして母の表情に笑顔が増えていただけだったり。

 その笑顔を増やすってのが、大変なのだけどな。

 畜生フリップめ、あっさりそれをクリアしやがって。






 俺が爵位を賜るのはビバート伯爵にも知られていたので、来年5月に叙勲されてからエルザはフリップへ嫁ぐことに成っている。

 偶に訪れていたラッキング街のホワイト通りに在るフリップのテラスハウスで、「エルザたちは新婚生活を送る予定よ。」と、母やデイジーが俺に笑顔で報告した。


 『そんなのフリップに言われて知っているし。』


 賢い俺は声に出さずに口の中で、母たちにそう呟いた。



 フリップの住むテラスハウス近くのウエストカタリナ宮殿の改築が終わり、冬空の下で威風漂う城壁や古いようで新しい巨大な宮殿がラムズ川の川面に映る姿を眺めつつ、俺は大切な妹エルザが嫁に行く寂しさを想った。










      ※※※※※※※※※※※※






 俺がそんな微妙な喜びの日々の中、クランベル伯爵の暗躍は続いていた。



  シーズンに入った春先には、減税のような増税だってさ。



  先ずは一定以上の間口を持つ扉に税を掛け、石炭に課税するよ。

 クランベル伯爵に寄ると、此の間口税と石炭税は主に富裕層を対象にしているらしい。

 広い間口や複数の扉を持つのは資産家なので、庶民には余り関係ないと嘘くさい笑みをクランベル伯爵は浮かべた。



 そして殆どの屋敷の暖炉や竈の燃料は石炭が多いので、負債で苦しむ我が家みたいな所には、厳しい冬が待っているのだろうなあ。

 ロドニア大火災以降、新たに造られた家々は石炭を燃やしても大丈夫なように煙突を作っているので、燃料として人気の無かったな石炭が今やメイン火力と成っていた。

 


 植民地で穀物を作っている生産農家たちが関税を無くせと五月蠅いので、輸入材の薪は関税無しにして、国内の森林を守ると言う名目で国内の樹木の販売には重い課税をするそうだ。

 ただ、地主や領主が自領の山林で取る薪は、当たり前だけど非課税なのでご安心を。

 穀物売らずに薪を売れって事らしい。

 非関税になっても薪が安く買えるとは限らないけどね。


 本音は、土地税を下げる分をリカバリーする為だよね?



 どうも森や林での伐採が多くて、クランベル伯爵がハンティングする為の狐や小動物が減ってきていて、接待するゲームをセッティングするのに苦労しているそうだ。

 課税しつつも狩猟仲間への気遣いを忘れないクランベル伯爵だった。


 後は、路面に面した商店には道路保全税ってのを取って貰うらしい。

 此れは各区長に任せて、穴が開いた道路や馬などのフン、ゴミを片付けさせ、ロドニア市以外の美観維持に努めて貰うらしい。

 除外したロドニア市は、関税を自らロドニア市議会で決められるマックス8世の勅許状を与えられている面倒この上ない地区なので、出来るだけアンタッチャブルで居たい場所だったりする。

 自前の武力も持っているしなあ。


 徴収出来る税額も大きいしね。


 てな訳で、ウエストカタリナ地区を含めた首都ロドニアに或る自治区の各業種のギルドと区長とで徴収金額を決めて、幹線道路の保全をしてくれってさ。


 理由はアルバート4世が、チャリオットで駆け抜けるのに、街路に穴が開いて居たり馬糞が転がって居たりして、大変邪魔だったとのこと。


 「フラットな増税だよ。」て、クランベル伯爵。

 「フラットにする増税では?」と、俺。

 「そうとも言うね、ふふっ。」ってクランベルは笑った。



 他にも細々とした税品目を作って、貧困層には無風、概ねの庶民には増税、ミドル層には微増、それより上の地主たちには減税って感じに成った。

 俺は、「コレの税が上がるらしい。」って、庶民院議員の人達へ話して、ほんのり噂を拡散するスピーカーをクランベル伯爵から遣らされていた。


 

 大蔵卿から出て来る課税一覧の法案を議員達が確認して、「此れなら良いか。」って、思って貰うのが役目。

 突然、増税法案って大蔵卿から発議されると皆が身構えるので、運動前の準備体操みたいなモノ。


 そして、アルバート4世やモエイニング首相(伯爵)やトーマス・ラットウェル外務卿(公爵)たちとクランベル伯爵は、此れからの方針を話し終えているので、議会で発議する前に事前準備を終わらせるのだった。



 











         ※※※※※※※※※※



 


 何故だろう。

 俺はドンドン忙しく成って行き、ウィルソン・カステル議員とゆっくり話す暇も無い。

 って言っても、ウィルソン・カステル議員は、1会期に1度『奴隷貿易廃止法案』を提出しにウエストカタリナ寺院の敷地に或る聖ヨーゼフ聖堂へと訪れる位だけども。


 ウィルソン・カステル議員は、信仰を第一に考えている人なので、今は師で或るニューラン牧師と国外にもっと福音を広げようと、若い人達を指導し熱意の或る聖職者を育てている。

 福音伝道布教第一主義の暑苦しい熱意に頭が下がる思いだ。

 俺は、今一つウィルソン・カステル議員が苦手なので、態々、自らニューラン牧師の教会やカステル議員の自宅に伺わないので、必然的に会わなくなってしまった。


 俺達が暮らしているテラスハウスをウィルソン・カステル議員から格安で借して貰っているのに、不義理だよなーとは思うけどね。 

 でも、母や妹達がニューラン牧師の教会へ良く訪ねて行き、ウィルソン・カステル議員とも話しているそうなので、それで勘弁して貰おう。


 一応、フリップとエルザの婚姻式の後で行う身内でのパーティーに、呼ぶ予定であるみたいだ。


 当たり前だけど、発案者は俺じゃ無く母である。

 近所や知人に誤解されていると思うけど、我が家は国教徒であって、福音主義では無い。

 、、、筈なのだけど、デイジーの話だと、母は福音派に成っているっぽい。

 まあ、良いんだけどさ。

 ブレイス国教会も認めている教育的な新教徒会派だし。









        ※※※※※※※※※※※※




 


 そして5月に成り、俺はその他大勢としてソルズサンド男爵位を賜り、貴族院議員になってしまった。

 庶民院に属している時ほど、議会へ行く必要も無くなったのだけど、アルバート4世陛下が改築し終えたウィンダム・ハウスに詰める日々となった。

 傍に着いて来てくれたジーンが俺の癒しかも。


 ウィンダムって、ハウスって言うよりパレスだよね。

 薄い黄色の美しい模様が入った大理石の柱が並ぶ入り口から入りエントランスホールの正面には二階へと向かう広く緩やかな階段が設置され、待合室から左へ行くとアルバート4世の私的居住空間で、右へ向かうと中庭を見つつ、公式なレセプションルームもある公的なエリアに成る。

 幅が62m、奥行きが40mもあり、地下には趣向を凝らした作りに成っている。

 大掛かりな仕掛けを施した扉を見て、俺はビックリハウスって呼んでいるけどね。


 あのさ、近くに新たな宮殿も造っているんだよね、改築だけども。

 そして見える程、ウィンダムハウス近くに在るウエストカタリナ宮殿が、年末に改築を終えたばかりなんだよな。

 現在、ザックリだけど、アルバート4世の負債は約30万ポンド以上或る。


 実際はもっと恐ろしい金額の負債だそうだけど、俺は聴きたく無くて逃避した。



 「余り気付かれないように増税した」って、クランベル伯爵は言ってたけど、気付くって、絶対。

 庶民のシビアな金銭感覚を甘く見ないで欲しいよ。

 これだから上流階級の金持ちは全く。





 でもって、アルバート4世の庶子たちは、全員引き取られているので、完成したウェストカタリナ宮殿に成人して居ない子等を住まわせていた。

 5人かと思って居たら無限増殖したでござる。

 18人なので無限じゃ無いけどさ。


 クランベル伯爵が、「普通なら愛妾は誰かと分っているから子供の管理はし易いのだけどね。」って俺へ話すのだけど、まあ、王族の方々の何が普通かは分らないので、「ふーん。」と答えて於いた。



 そんな子沢山のアルバート4世が、週に1度姪っ子コーデリア王女と会っている。

 まあ、会って居るのは主にクランベル伯爵だけど。

 序に俺も。

 傍に着いて来ている女性はアルバート4世の元愛人、今はコーデリア王女の養育係で或る。

 母親で或るノイザン公爵夫人とギボンズたちの育て方が心配になり、才女と名高かった元愛人のグレース侯爵夫人に、コーデリア王女の養育係を任せたのだ。

 ポッチャリしてふくよかなグレース侯爵夫人は、何だか安心出来そうな40代前の女性だった。


 「昔は才色兼備だったのだよ、チャールズ。」


 コーデリア王女とグレース侯爵夫人に初対面で会った後、言い訳がましくアルバート4世陛下は宣ったけど、俺はそう言う答えを求めた心算はない。

 「今では良い友人だ」と続けて話すアルバート4世に、俺は憂鬱な想いを抱いたけどね。

 いや、王族なんだから元カノを選ばなくても、幾らでも優秀な人材を呼べるだろうに、と俺は考えただけなのだ。


 グレース侯爵夫人は侯爵家に嫁いで、悠々自適な暮らしをしていて、身内がバンエル王国やギール王国に嫁がせ、その縁もあって島国のブレイス帝国では珍しく世界情勢にも精通している女性だと言う。

 機知にも富んでいるので、コーデリア王女をノイザン公爵未亡人やギボンズの悪影響を緩和が出来るだろうとの事だ。


 ふむふむ。

 アルバート4世陛下は、懐かしくて元カノをって事では無かったようだ。

 一先ず、精神的にはピュアだと言うクランベル伯爵からの話通りに、姪っ子コーデリア王女を想う優しい陛下で、俺はホッとした。



 俺が初めてコーデリア王女に出逢った時、妹達の7歳の頃を思い出してみても、可成り小柄な少女に見えた。


 クランベル伯爵と挨拶をした後、なんだか全てを見通されているような澄んだ泉のような瞳でジッと見詰められて、俺はドギマギしてしまった。

 あれ?

 俺って、挨拶の仕方を間違えたかな?って一瞬焦ったよ。


 

 細いブロンドの髪を丁寧に編み込んで垂らして、白い小花を飾った丸い薄いローズ色の帽子を被り、ペチコートを膨らませた少女用の可愛らしいローズ色のドレスに身を包んでいた。


 この小さな少女に将来、此の国を背負わせてしまうのか。

 

 俺はそんな事を考えコーデリア王女に申し訳なさを感じた。

 まだ、将来的に皇帝になるかも知れない事をコーデリア王女に告げてない、とアルバート4世陛下は語っていた。


 それからは週に1度、コーデリア王女に渡した本の感想をクランベル伯爵とコーデリア王女が語り合い、クランベル伯爵が解説をしたり説明をしたりして約1時間程の時を過ごす。

 一種の思想誘導?と思えるような教育かな。

 アルバート4世陛下が居る時も在るけど、まあ、大抵はコーデリア王女とクランベル伯爵とグレース侯爵夫人がテーブルに着いて、俺はクランベル伯爵の近くで立ってペンを渡したりペン先を拭いたりしていた。

 俺は居なくても良い気がするのだけど、将来的にコーデリア王女に就ける予定だから、顔を覚えて貰えと言われている。


 いや、俺は借金を返済したら、こんな華やかで身に合わない場所からは、失礼させて貰いますよ。

 貴族なんて柄じゃ無いから、皆が独り立ちするのを見届けたら、北カラメルに農地でも買って、ゆっくりと暮らす心算。


 だって俺は見ていられないよ。

 男はさ、息抜きが出来るだろ?

 フリーダムなアルバート4世然り、アドミラル好きなサバン公然り、天文学や書籍収集が好きだった今は亡きアルバート3世然り。

 女王陛下って、男より制約が多いと思うのだよな。



 先頃読んだ哲学者のロックが著した『教育に関する考察』などを思い出すと、コーデリア王女が子供として扱われない悲哀を感じてしまうのだ。













       ※※※※※※※※※※





 昨年8月に、オーニアス=神聖ロマン帝国のヴォルフ6世皇帝陛下が崩御されて、ブレイス帝国からもラットウェル統括外務卿とヨーアン中部域担当の外務卿が弔辞に向かった。


 後継は皇女のエレノーラしか居なく、神聖ロマン帝国は女性の後継を認めて居ないのでエレノーラ皇女の夫シャルルをロマン皇帝に就ける事をヨーアン大陸諸侯を含めて、ヴォルフ6世は国事詔書まで出し約束していたのだけど、無視するのだよな。

 

 昨年の段階で既に空気がキナ臭く戦乱の匂いがし、その後フロラル王国やエスニア帝国の外務卿達と非常識な話をして来たらしい。

 ブレイス帝国も含め、国事詔書を出された時に毟れるだけオーニアス=神聖ロマン帝国から毟り取り了承した筈なのに、全く酷い話だ。


 男であれば、オーニアス=神聖ロマン帝国皇帝ヴォルフ6世もエレノーラ皇女夫妻も現状のような苦労をせずとも済むのに、そう思うと我が国の未来の皇帝コーデリアが女性である事が切なくなる。







        ※      ※






  俺がエルザとの新婚家庭をエンジョイしているフリップを揶揄っている間に、20歳のエレノーラと夫シャルル29歳へとロイセン王国、サクセス公国など諸侯が攻め込んだと言う知らせが、俺達3人でまったりしていたフリップ邸へ届いた。


 

 風雲急を告げる。



 くそぉっ。

 折角、クランベル伯爵から休みを貰ってフリップとエルザの家へ俺が遊びに来ていたのに。

 全く、なんて事をしてくれるんだ。

 ロイセン王国めっ!!



 俺は渋々と重い腰を上げて、フリップとエルザに別れを告げて、ウエストカタリナ宮殿へと重い足取りで向かった。



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