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EP88 ジェネレーションギャップ




 俺の愛らしい天使のような娘達が先月からクランベル伯爵邸で暮らし始めた。

 今頃は、恐らく弟のケビンもジュリアとハッスルして居るだろう。


 あの本能で生きていた弟のケビンが、なんとエロスを自重してソフィアとシャロン達が此方へ引っ越すまで、据え膳のジュリアと暮らし乍らも色々と我慢していたらしい。

 別に俺は、弟のケビンと元嫁のジュリアの絡みの有無とかを聴きたくはなかったのだけど、なんか知らぬがケビンから、恩着せがましく自慢されちまったよ。


 「有難う?」


 思わず疑問形で、俺はケビンに礼を言ってしまったぜ。

 後から『大人に成ったなー。』とケビンを褒めて遣れば良かったと反省した。


 クリスマス・シーズンと7月のバカンス・シーズンは、母親であるジュリアと娘のソフィアとシャロンが共に過ごす予定にはしている。

 あくまでも予定だけどな。


 カイルは、某伯爵の圧力により退官させて貰えなかった所為で、イラドのペルガルへ軍医として従軍させられているし、アランは女装が出来る仕事を見つけたと言って出て行ったし、レスタード家はケビンとジュリアのイチャラブでヒートアイランド状態だと思う。



 『ショーンたちも居るので、程々にして置けよ。』とケビンに言いたかったが止めた。

 だって、弟であるケビンから、俺が妬いてるとか思われると癪だしね。


 それに照れ臭そうに微妙な表情をして、俺を見ていたジュリアにも申し訳なかったしな。


 ソフィアは俺と一緒に迎えに行ったスティーブン様を見て嬉しそうに駆け寄って行くし、シャロンはジュリアと離れることに少し愚図ったけど、メイとジーンに騙くらかされて馬車へと乗った。

 まあ、ソフィアたちが母親のジュリアに会いたがったら、何時でも連れて行って遣ってと、クランベル伯爵家の使用人の皆様には腰を低くして頼んでおいた。



 俺達家族は、少々歪な関係性になって仕舞ったけども、ジュリアにもケビンにも幸せに成って欲しいとマジで願っている。

 勿論、ソフィアとシャロンにもな。


 しかし、クランベル伯爵邸で娘達が暮らし始めたからと言って、俺が娘達と共に居れる時間が増えるってモノでもない。

 

 相変わらず俺はローゼブル宮殿に詰める日々。

 此れも、コーデリア殿下とフランシス殿下が婚姻する迄と指折り数えて待つしかない。


 でも、フランシス殿下と出逢われてコーデリア殿下の部屋へ夜這いに行かなくて良く成ったのは、俺的に助かった。



 やっぱり、若い独身女性の部屋へ夜、潜んでいくのは罪悪感が半端ない。

 だって俺は嫌だもん。

 18~19歳のソフィアやシャロンの部屋へ30過ぎたオッサンがコッソリ夜に忍んで来るの。

 俺なら父親として撃退しちゃうからね。


 俺がそう言うとコーデリア殿下は、「でもチャーリーは変な気を起さないでしょ?」って笑うけども、当然に起こさないけどもさ、≪自分がされて嫌な事は他人にしては駄目だ≫って思うんだよ。


 それを聞いて噴き出すコーデリア殿下を見て俺は思った。




 此れが、ジェネレーションギャップと言うモノかとね。




 でもって俺はクランベル伯爵へコーデリア殿下とフランシス殿下の婚姻が決まったら、此の通路を閉じて良いかと聞いたら、いざという時の脱出口にも成るから、駄目だと言われてしまった。

 ヤダよ。

 それって滅茶苦茶にヤバい状況じゃん。


 ローゼブル宮殿は、西側に或るグルリと広いローゼブル・パークやパレスレイン・ウォークって遊歩道を挟んで北側に或るグラス・ガーデンや東に或るホワイト・パークを石や煉瓦の城壁で囲み、全ての通用門には守衛兵達が居るんだよ。


 然も、階段は隠し階段も含めて100近く或るのだよ。

 ロイヤルエリアに入る前には近衛兵も居るからね。

 そんな場所がイザと言う状況に成る時って、どんな時だよって話だ。



 「大丈夫、大丈夫。そんなコトって万に一しか無いよ。チャーリー。」


 クランベル伯爵は優しくそう言って微笑むけども、俺は全然、安心出来無い件について。


 はあ、クランベル伯爵は動揺するって事ないのだろうな。

 ノミの心臓レベルの俺は、そんな鉄の心臓を持つクランベル伯爵を心底羨ましく思ったよ。




 霧雨が上がった未だ明るい20時過ぎの窓の外を眺めて、俺はクランベル伯爵がウエスト・カタリナ宮殿から帰宅するのを、ジーンとローゼブル宮殿の部屋で雑談しながら待っていた。














           ※※※※※※※※※※






【デイジー・フォーリー】




 コーデリア殿下がウィング城で過ごされた後、フランシス殿下たちとロドニアから西南に或るダイヤ島へバカンスに向かわれたので、夫の居る身の私はバカンスを頂き、ローゼブル宮殿の近くに或るリントン地区のテラスハウスの自宅で過ごしていた。




 私がコーデリア殿下から休みを頂いたのは、夫が居るだけではなく懐妊したからでも或るのだけど。


 皆は喜んでくれたけど、チャーリー兄さんだけは不安そうな顔をして「おめでとう」と、私へ呟くように告げて、金色の瞳を伏せた。


 きっとチャーリー兄さんは、亡くなったエルザ姉さんの事を思い出したのね。

 「絶対に大丈夫よ」と言ってチャーリー兄さんを安心させて上げたいけど、此れだけは神の御手に委ねるしか無いから私は明るい声で「有難う。身体を労るわ。」って答えるしかなかった。


 懐妊中の妹に気を使わせるなんてチャーリー兄さんは駄目ね。


 ローゼブル宮殿に或るチャーリー兄さんの部屋へ懐妊の報せを届けたロイヤルエリアへの帰り道で、忙しく動くメイド達に聴こえないよう、私は小さく呟いたのだった。



 私だって怖いけど、でも大好きなスレインの子供を身籠れたと思う喜びの方が大きいのだ。

 この気持ちはきっとチャーリー兄さんには分らないと思うのよね。



 でも、心配性はチャーリー兄さんだけじゃないみたいで、アランは出産経験の或る女性から懐妊中の聞き取りをしたことを纏めてレポートを送って来るし、ケビン(にい)は出産経験の或るレスタード家のリリーを我が家に寄こすし、チャーリー兄さんと離縁して、現在ケビン兄の内縁の妻に成ったジュリアさんは、ソフィアとシャロンの出産を診てくれた助産婦さんを紹介して呉れたりして、ワタワタと大騒ぎの日々だった。


 此れで外科医をやっているカイル(にい)もロドニアに居たりしたら何をされたやら。



 夫であるスレインも、「海軍本部勤務に成って居て良かったよ。」と優し表情で私に言って、頻繁に帰宅して呉れて、私が居なくても社交を頑張って呉れている。


 チャーリー兄さんは、自分が浮気していたことを棚に上げ、スレインに「なるべくデイジーの近くで負担を減らして遣って欲しい。」とか何とか申し入れたそうなのよ。


 思わず私が文句を言うと、スレインは「デイジーが心配なんだよ。」ってチャーリー兄さんをフォローしていた。


 それは私も分っていますけどね。


 

 でも、私って他の議員の夫人達のように晩餐会を開いて、夫たちが話している間に夫人達を持て成すって役目もサボっているから、スレインに申し訳ない。

 スレインは、私なりにコーデリア殿下を支えて差し上げる事が、一番に助かるって話して呉れるけども。


 私は、コーデリア殿下とフランシス殿下の一番肝心な時期に側を離れることに成って、スレインの子の懐妊は嬉しかったけど、自分の間の悪さに少し苛立ったりもした。


 フランシス殿下は、クロック・カレッジ内に或る教会で国教やブレイスの式典などについて学ばれていて、今回のダイヤ島でのバカンスを過ごされる迄、コーデリア殿下とは手紙の遣り取りで交流されているだけだった。


 結局は、サンルームでのお茶会とローゼブル・パークを馬で散策した2回の逢瀬で、コーデリア殿下はフランシス殿下との婚姻の意志を固められたみたいなの。



 「婚姻相手を決めるのが早過ぎない?」



 私がチャーリー兄さんに、そう言ってコーデリア殿下の心配を口にすると、「ええー、プロポーズされたその場で了承したデイジーにコーデリア殿下も言われたくないと思うよ。」って返して来た。


 確かにスレインから突然告白されて、私はその場で「イエス」って答えましたけども、それ迄にコーデリア殿下を護衛していたスレインとは幾度も会っているし、感じの良い人だなって思って居たモノ。


 そりゃあ後から私も「アレってプロポーズだったのかしら?」って悩んだりもしたし、婚約迄の手順が無茶苦茶だったから、クランベル伯爵家の方々から話を無かったことにされるかも、って考えたりもしたわ。


 蓋を開けてみれば、スレインのお義母さまや義兄に成るクランベル伯爵からも大歓迎されていて、私が驚いた位だもの。

 既に、クランベル伯爵の御嫡男のスティーブン様も18歳に成られる前だったから、次男であるスレインは割と婚姻に関して自由な立場だったみたい。




 「スレイン少将、ホントにコレで良いんですか?今なら未だ返品可ですよ?」


 カイル兄とケビン兄から、私との正式な婚約前にスレインは余りな問い掛けをされていた。

 ホント、失礼しちゃうわ。


 「私はデイジーの素直な可愛らしさが良いですよ。返せと言われても返しませんよ。」


 そうキッパリとスレインは失礼な兄2人へ言い切って呉れた。

 

 そんな頼れるスレインに愛されて、皆から祝福された婚姻式を挙げられ、子供も授かり、私は幸せなのだけども。



 コーデリア殿下の事を考えると中々、フランシス殿下との婚姻は前途多難で大変だと思ってしまう。

 だってフランシス殿下は、ノルディック王国の王子殿下なのよ。

 王家寄りだった保守派のトール党も反対しそうだもの。



 チャーリー兄さんみたいに皆、ノルディック王国好きなら良いのにな。



 チャーリー兄さんの話によるとノルディックの領土に攻め入って土地や屋敷を奪った人達を軽蔑している貴族もいるそうなので、その人たちを味方にしていくコトから始めて、なんとかフランシス殿下との仲を納得して貰うしかないって言っていた。


 私には耐えられないだろう重圧を此れから背負って生きて行かれるコーデリア殿下。

 私達では、その重荷を分けて貰えないだろうから、コーデリア殿下には責めて好きに成った方と共に歩んで欲しい。



 時折り小さな妹に思えてしまうコーデリア殿下の透明なアクアブルーの瞳を思い浮かべて、私は止め居ていた手を動かし、白いコットンの生地で産着を縫う。


 それに私だけでなく、頼りに成るか如何か謎だけども、チャーリー兄さんもコーデリア殿下の味方で居てくれるしね。





 私は、エルダーフラワーシロップのジュースを飲みながら、ダイヤ島で眩い夏の海をフランシス殿下と眺めるコーデリア殿下を思い描き、楽しいバカンスを過ごされる事をそっと願った。


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