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EP86 プライベート『リア』


【コーデリア】




 私は、誰にも二度と恋などせず、此の国初の女王エリザベス1世陛下のように、生涯独身を通して一生を終えようと考えていたのに。


 私の後の王位継承は、アルバート5世伯父さまには二人の娘達が居るから大丈夫。

 そう思っていたのに四月も終わろうかとした頃、あの方が現れた。



 フランシス・スウィート殿下。



 爽やかな明るいスカイ・ブルーの瞳で真っ直ぐ私を見つめ、躊躇わずに優しい声で話し掛けてくれた方。

 アルバート4世伯父さまやアルバート5世伯父さま以外で、私に媚もせず嫌味なく、臣下の礼を取らなかった方。



 昔、クランベル伯爵から、私と対等に接する事の出来る相手がいずれ現れますよ、と話して呉れた事があったけど、それはきっと彼の事だろうと私は直ぐに理解した。


 勿論、他国の王族や貴族の方たちは、私に臣下の礼など取りはしないけど、物見高く眺めているか、媚を含んで微笑むか、又は敵愾心を隠しているかのドレかだった。

 私は、ありのままの自分を受け入れて呉れている、フランシス殿下の率直な反応や真っ直ぐな視線が、妙に擽ったくて嬉しく成り、心が湧き立って行くのを感じたのだった。



 此の感覚は、チャーリーを見た瞬間に感じた激しい衝動とは違うモノ。

 ああ、フランシス殿下は私と同じなのだ。

 そう思える安心感は、此れほどまで嬉しく感じれてしまうモノだったのね。


 私には、クランベル伯爵やレンフィールド公爵、そしてデイジーやグレイスやリアナたちなど支えて呉れる人達が居る。

 当然、傍にはチャーリーも。

 だから一人でも立って歩いて行けると考えていた。

 伯父さまたちも皆独りで王としての使命を果たされているのだから。



 特に母の起こした事件を知ってからは、余計に独りで強く成らなければと、私は胸筋と背筋に力を込めて、顔を上げて感情を揺らさないように努めてきた。

 体調を崩されたアルバート5世伯父さまに、私のコトで此れ以上の心配を掛けたくなかったから。


 

 でも、2度目のお茶会や今日のローゼブル・パークでの乗馬とフランシス殿下と会う度に、私の傍にもっと長く居て欲しくなってしまう。


 今日、フランシス殿下にお会いする前に私も色々と悩んでも居た。


 フランシス殿下は、我が国へ戦いを挑んで独立してしまったギルバート4世の息子でも或るのだ。


 アルバート5世伯父さまは、腹芸が出来る方では無いので、ノルディック王国やフランシス殿下を嫌ってはいないコトが分かるのだけど、それでも臣民の中には独立戦争時の被害者も居るし、ノルディックでの権利を奪われた人達も居る。


 如何考えても、私がフランシス殿下を王配に選んでしまったら波乱を呼んでしまう。

 

 アルバート5世伯父さまの暗殺未遂事件が起きてからは声が小さくなったけど、それ迄は今一度ノルディック王国へ侵攻して欲しい、と言う請願が伯父さまへ幾度か届けられていた。

 私も、侵攻に介入して来る他国の存在が無ければノルディック王国を制圧し、元のノルディック州へと戻すべきだと考えていた位だもの。


 まあ、チャーリーに本土を戦場とする事のデメリットを纏められ説明されてから、私もノルディック王国と戦う事の愚かしさを知ってしまったけど。


 そして、フランシス殿下と知り合ってしまった今は、ノルディック王国とブレイス帝国との間で争いごとなど起こって欲しくない、と思っている。





 昼間、ローゼブル・パークで騎乗して馬を歩かせながら、私はフランシス殿下へ胸の動悸を抑え込み、冷静な声を作って尋ねた。



 「もしブレイス帝国とノルディック王国が争うようなコトが起きたら、フランシス殿下は如何されますか?」


 「そうですね、、、。先ずは争いの理由を調べますね。大抵の場合、人が争う理由は利害の不一致なので、一致する所を探って行きます。」

 

 「見つからなかったら?」


 「理が多い方の言い分を支持します。でもまあ、争っている者同士は理屈など通じないでしょうから、二国間で紛争解決の為の裁判所作りをして置きたいですね。コーデリア殿下。」


 「紛争裁判所ですか?フランシス殿下。」


 「ええ。ブレイス帝国の法廷だとブレイスに有利に成るのでは無いかと公正な判決でもノルディック側が疑心を持って見てしまいますからね。」


 「確かに、そうですわ。フランシス殿下。反対の立場ならブレイス側が納得しなさそうですもの。」

 

 「でしょ?それに物理で争い出すと他国が、ブレイス帝国を襲うと思うのですよ、コーデリア殿下。今までブレイス帝国は、エスニア帝国を筆頭にフロラル王国、ランダル王国、ポガール王国、エーデン王国などから植民地を奪っていますからね。その反撃の隙を窺われていると考えると、同じ島の中でノルディックと争うのは、不毛です。まあ、争わせたいからノルディックの独立を後押しをし、ヨーアン諸国の者たちがノルディックに協力して呉れたのでしょうが。ふふっ。」


 そう言うとフランシス殿下は、悪戯っ子のような表情で肩を竦めて笑い、手綱を操り馬を私の近くへ寄せて来た。




 「僕と一緒に、そう言う事を考えて行くのも結構、楽しいと思いますよ。リア。」




 私の耳だけに届くようにフランシス殿下は告げて、また先程と同じ距離まで馬を離していった。


 私達6人は、目に鮮やかな芝生の緑を避けて、レモンイエローの石畳を歩む蹄鉄の長閑な足音を、広い大庭園に響かせた。



 今日、生れてはじめてフランシス殿下から呼ばれた『リア』と言う愛称を思い出して、私の頬は思わず熱くなって来てしまった。











           ※※※※※※※※※※



 

【コーデリア】




 乗馬服からデイジーお薦めのイラド綿のアフタヌーン・ドレスに着替えて、ミントティーを飲み乍ら談話室でチャーリーの訪れを待っていた。

 チャーリーの部屋から此のピアノ・ビーレ二階の談話室へ直接訪れる事の出来る通路が作られていた。


 クランベル伯爵からの話だと、アルバート4世伯父さまが侍従たちに邪魔されず、愛人の元へ行く為に作らせたそうだ。

 説明通りだと、差し詰めチャーリーは私の愛人って事に成るのかしら。

 私が部屋へ呼ぶたびに、小さく溜息を吐くチャーリーの困った顔を思い出して、小さく笑ってしまった。



 チャーリーと軽く軽食を摂る為、リアナとシシリーも待機させていた。

 寝る前にチャーリーを呼ばなく成ったのは、フランシス殿下の所為ね。


 今日、チャーリーを呼んだのは其のフランシス殿下とのコトを相談したかったから。

 本当は、クランベル伯爵に訊いた方が的確なアドバイスを呉れるのだろうけど、全てを見透かされているようで、相談相手としては不向きだったりする。

 だって話しながら、自分なりの答えが出る事も或る気がするの。


 クランベル伯爵に相談すると、アドバイスの通りにしか私は動けなくなってしまうのよね。

 だって、如何考えてもクランベル伯爵が出した答えは、正しいのだもの。


 私が遣ることは、全てパブリックなモノに成るとクランベル伯爵は話すけど、でも公に成る前のフランシス殿下との事はプライベートな問題にして置きたいの。

 此れって、我儘な事かしら。

 リアナとシシリーは私に忠誠を誓って呉れているから、私の身に危険が及ばない限りはチャーリーとの会話もクランベル伯爵へ報告せずに隠して呉れると思うのよね。


 恐らくチャーリーも。


 チャーリーの場合はヘマをしてクランベル伯爵にバレる恐れは或るけれど。


 私は気持ちを落ち着ける為にシシリーへカモミール・ティーを淹れて貰うことにした。

 すると壁の紋様に紛れている談話室の扉が開いて、チャーリーが従者のジーンと共に入って来た。



 「お待たせしました。コーデリア殿下。」


 「いえ、わざわざ有難う。チャーリーも少し小腹が空いたのではなくって?サンドイッチやビスケットを用意しておいたから、どうぞ。」



 私はそう言って向かいに或るソファーへチャーリーを招いた。


 従者のジーンが私に挨拶をして、いつものように扉の外へ出て見張りに着き、私の専任女官のリアナも私に礼をして、隣室のドローイングルームへ移り、招かれざる客が来ぬように見張りに出た。


 シシリーは、私のカモミール・ティーとチャーリーへの紅茶を入れたポットを持って来た。


 チャーリーも乗馬服からディウエアに着替え、白いシャツにウィッグと似たライトグレーの綿サテンで出来たトラウザーを穿き、ゆったりとしたソファーへ腰を下ろした。



 「今日は如何されましたか?コーデリア殿下。」


 「、、、チャーリーに聞きたい事があって来て貰ったの。あの、、、フランシス殿下と婚約したいと思っているのですけど、チャーリーは如何考えますか?」


 「、、、。」



 私がそうチャーリーに問い掛けると、トパーズのような金の瞳を私に向けた後、ほっそりとした白い顎に右の手を当て、宙に視線を彷徨わせて、桜色の薄い唇を開いた。



 「うーん。恐らく陛下も其れを考えて、コーデリア殿下とフランシス殿下を引き合わせたのだと思いますよ。婚約が決まれば、まあ色々と騒がしくなってしまうのは、コーデリア殿下も覚悟して置いて下さいね。でも、婚姻はされないとコーデリア殿下は申されていたので心配だったのですけど、意外と早くお相手が決まって、俺は安心しました。」


 チャーリーは、シシリーが淹れた紅茶のカップと野イチゴが描かれたソーサーを持って優しく微笑み、カップへと口を付けた。



 ああ、アルバート5世伯父さまがフランシス殿下と引き合わせて呉れたのね。

 体調が優れない中でも私の事を考えて下さている伯父さまに私は深く感謝した。





 そして、生きている芸術品のようなチャーリー容姿を眺めて、私はホッと微かな息を吐き出した。

 此の美しいチャーリーに激しい恋心を抱いて、10歳の時に一方的な失恋をした。


 きっとチャーリーは幼かった私の恋心など知らないだろう。


 でも、例えあの時の想いがチャーリーに届いていたとしても、私がアルバート家に生れたコーデリアで或る以上、終わらせなば成らない思いだった。


 私が未だ幼く恋を夢見ていた頃に、チャーリーが婚姻してしまった事で、可成り荒っぽい失恋が出来て良かったと今なら思える。


 あの当時、失恋して居なかったら私も母のように、ただチャーリーを求めるだけの盲目的な愚かしい国王に成って居た可能性があった。

 チャーリーの私に対する思いやりを愛と勘違いした侭で、酷い未来を作っていたかも知れない。



 フランシス殿下には、幼かった頃のように一目見て恋に陥った激しい想いでは無いけれど、話を交わす度、私と同じ位置から同じモノを見て同じ歩調で歩いて行ける人であると、確信が出来た。

 その心強さは、なんと表現すれば良いのだろうか。



 でも、1つ心配が或るとすれば、、、。




 「チャーリーは離婚後、噂に成った愛人の方とお付き合いされているのかしら?ねぇ?チャーリー。フランシス殿下もチャーリーのように婚姻中に浮気とかされるのかしら?」


 「ゴホッ!ゲホゲホっ!!ああ、失礼。コーデリア殿下。」




 チャーリーは、飲んで居た紅茶を噴き出し、器用に野イチゴ柄のソーサーで零れそうな紅茶を受け、シシリーがテーブルを片付けている間に、濃いブルーのチーフで口元を覆った。




 「失礼しました、コーデリア殿下。えーと、俺の愛人の事は置いておくとして、フランシス殿下はそう言うタイプでは無いと思います。と言うか、遊び好きだったり浮気性の男性を、真面目な陛下やクランベル伯爵が、コーデリア殿下のお相手に選ぶ事などしない筈ですよ。其処ら辺は、ブレイスに受け入れる前に確りと調べているでしょうし。」


 「そう。では浮気の心配はせずとも良いのね。実はチャーリーが浮気している事をクランベル伯爵から聞かされた時、私は男性不信に陥ったのよ。正かチャーリーがアルバート4世伯父さまみたいに浮気をする人だったとは思わなかったのですもの。その時に私は結婚に対して、夢が持てなく成ってしまっていたのよ。チャーリー?」


 「いや、俺はアルバート4世陛下のようなフリーダムな人間では無くて、、、、。」



 チャーリーの続きの言葉が小さ過ぎて聞こえなくなった頃、シシリーが新たな紅茶のカップを持って来て、愛らしい野イチゴに彩られた陶器のポットから紅茶を注いだ。


 チャーリーは新たな紅茶を口に運びながら、気遣いの出来るフランシス殿下を褒めた後、微かに眉根を寄せて、フロラル王国と縁の深い事に懸念を示した。



 「それは、大丈夫だと思うわ。フランシス殿下の母君やお祖母さまもフロラル王国の王女殿下ですから、全く関係ないとは言えませんけど、ギルバート4世陛下もフランシス殿下もフロラル王国が如何いう要望を行うかを考えて動かれているようですしね。」



 私は、フランシス殿下から聞いたノルディック王国が独立するまでの各国の動きをチャーリーに話した。


 ただ1つフランシス殿下が私を『リア』と呼んでくれた事は伏せて。

 此れは、私だけのプライベート。


 晴れ渡った初夏の空の下で、フランシス殿下は騎乗した侭、明るいスカイブルーの瞳を煌めかせて私にだけ告げて呉れた言葉。


 チャーリーやクランベル伯爵は、母達のように私を縛り付けたりしないけれど、それでもフランシス殿下を想う此の気持ちを恋と呼ぶのならば、それはきっと私だけの想いの筈でしょ?

 だから誰にも話したくは無いの。




 私は、密かに『リア』と呼ぶ優しいフランシス殿下の声を胸の中で幾度も転がせた。



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