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ep8 シーズンオフ①謎編




 あれから妹のデイジーから抱き着かれてお礼を言われりとか、弟のカイルとケビンは友達のタウンハウスへ出掛けてしまったりとか、ビバート伯爵家の或るカブリア地方へ行く迄、母に信仰心の薄弱さを責められたりとか、3台の馬車に分乗して行く途中、休憩を挟みINN(宿屋)に寄れば、エルザとフリップ2人で何だか俺が見ていられない気恥ずかしい空気を醸し出して居たり、、、。





 途中の明度の高い湖に近付くと水も滴る真っ裸なニュートラルセックスの精霊が現れて「A?B?どっち?」と、俺に選択を迫って来たりするファンタジーもあったり。





 そんなテンヤワンヤで魔訶不思議な数日を過ごし、ビバ!リフレッシュ!と家族で休暇を楽しみ終えて、俺はロドニアの日常へ帰ってきた。


 コラコラ。

 デイジーとアランは、フリップとの事で照れてるエルザを揶揄っちゃ駄目だろ。



 フリップは1泊2日して、迎えに来た馬車で地獄のクラウン・クラブの仲間が待つ場所を目指して旅立っていった。







              ※※※※※※※※



 


 自宅でノンビリ9月の涼やかな風が吹くまで、大学時代のサボり仲間アンリ・オルコットから送られて来た書籍でも読もうと思っていたのに、クランベル伯爵から伝令が来て呼び出しを受けた。


 未だ8月は始まったばかりだよ?クランベル伯爵。

 一応はシーズンオフだった筈。

 強いて誰からも招待状は届いて居ないし、久し振りアンリが書いた論文みたいな物語を読みたかったのに。



 と、若干の不満を飲み込みつつ、クランベル伯爵の端整な容姿を眺めて、ジーンも引き連れウィング城に、自由奔放なアルバート4世の「突撃、お城のティータイム!」に遣って参りました。

 当たり前だけど、突撃はしないよ。

 確りとクランベル伯爵が先触れを?あっ、逆だ、アルバート4世から「チョット来いよ」って、クランベル伯爵と俺が誘われているのだった。


 テクテクと出来る事なら、ウィング城内も馬で駆けたい距離を歩いて、アルバート4世が待つ応接の間に参内して、華やかな昔は麗しかっただろうご尊顔を拝謁し、クランベル伯爵が座ったソファーの左斜め後ろに立ち、俺は「待て」を姿勢を保っていた。


 俺は、身分的にやっぱり使用人の立ち位置が丁度、良いんだよなー。

 などと思いつつ、芸術的なカールで魅せる銀髪ウィッグを被り、涼し気なイラド綿の布をハイセンスに巻き付け、白い革のピンヒールミュールを履いているアルバート4世。

 遣り過ぎ盛り過ぎに見えないのは、矢張り高貴な血の為せる業なのか?



 「陛下、遅くなり申し訳ありません。」


 「いや、こちらこそ済まない。それでな、此の所私はツイて居ない事が多くてな。其処で考えたのだが暦を変えるのは如何だろうか?クランベル伯爵。ああ、チャールズも意見を訊かせてくれ。」



 ソファーに座っていたクランベル伯爵は、白いウィッグを揺らして少し後ろに首を動かし、明るい翠の瞳をいつもより丸くして、俺の方を見上げた。

 俺は僅かに首を左右に動かし、丸く点のようになったクランベル伯爵の明るい翠色の瞳をジッと見つめ返した。


 いやいやいや。

 無理だし、どうしても変えたいなら、先ずは議会へ通すようモエイニング首相と相談して下さい。

 これしか返答の仕様が無いよな。


 「如何かな?2人とも。」

 「では、陛下はどのように変えられる御積もりですか?」


 「ああ、先ず聖母様の受胎告知の日を新年、1月1日しようと思う。そして復活祭を3月21日と固定しようと思うのだよ。旧教の決めた暦に従うのは、私を含め国教徒には可笑しな話だろ?」


 「、、、ええ、誠に陛下の慧眼には感服致します。そうですね、しかし、暦を変えると言うのは大変に大掛かりな事です。小さなことを決めるだけでも根回しが必要なのですから。ですから陛下には今暫くお待ちいただきたいのですよ。陛下ならお判り頂けますよね?」


 「ふむ、そうだな。流石クランベル伯爵だ。私も楽しみに待つとするよ。それに引き換えテール枢密院議長は、小言ばかりが多くて堪らんよ。」


 「ふふっ、そう言えば、今作られている宮殿の内装は何処まで出来ましたか?陛下。」

 「おお、そうそう。今な外装と合わせたイラド様式の天井にしようと考えているんだ。」



 アルバート4世は、従者に内装をデザインさせた幾枚かの水彩画を持って来させ、上手く話題を逸らしたクランベル伯爵へと意気揚々と設計図の説明を始めた。


 あのう、クランベル伯爵。

 暦変更の根回しとか俺は手伝いませんよ。

 誰かを幸せにするかも知れない法案だとしても、俺には面倒なだけだし、一々、頭の中で暦を置き換えるのは、面倒過ぎる。

 クリイム歴1540年代から今の暦を使用して居るのだからさあ。


 如何しよう。

 此のアルバート4世にクランベル伯爵から離れて、俺は来年から1人で就くのか?

 多分さ、俺はテール枢密院議長との方が、アルバート4世より話が合うと思うのだよね。


 俺はアルバート4世と、、、大丈夫、、、だよね?



 次の王位継承者の王弟のサバン公は、現在59歳で卑賤婚に成るから同棲していた女性と一昨年に別れて、庶子が11人居て全員を引き取ったのだよな。

 アルバート4世みたいに、彼方此方に彼女を作らず、その女性一筋25年間だよ。 

 質実剛健で眼光鋭い60歳前の渋い王太子様。

 今は、サバン公が海軍大将と言うか、アドミラルの名目的なトップなんだよな。

 お酒が大好きで、従者も護衛も付けず、ロドニアの街を闊歩しているフリーダム・プリンス。


 でも目の前に居るアルバート4世も悪い人じゃ無いんだよな、行動がフリーダムなだけで。


 あれ?

 ノーヴァ王家の人達って、方向性が違うだけで、根っ子はフリーダムなのかも。



 そして、サバン公の次の継承者は、亡くなった王弟ノイザン公の息女コーデリア王女殿下は、現在7歳の若過ぎる少女だったりする。


 せめて王位を継ぐ人は、20代とか30代とかで在って欲しい。



 ブレイス帝国にとって国王陛下=皇帝は要石みたいなモノかな。


 クリイム歴1588年辺りに身分制廃止して共和政に成ったのだけど、結局は革命を主導したクロームに寄り、軍を背景にした独裁政に成って、1院政にした後は議会も開催されなくなってしまった。

 そのクローム護国卿が亡くなると、政府中枢に居た人たちが「ブレイス王国は、共和政て言う独裁より王政の方がやっぱり良くね?」って事に成り、復古王政に成ったのだ。


 それにブレイスって国は5つの王国が同君連合になっていて、ブレイス帝国と呼んでいるんだよね。

 其々の王国には、独自の法も議会もあるから、ブレイス帝国議会で制定されたモノ全てが、全土で施行される訳でも無い。

 まあ、帝国議会にしても欠陥だらけだし、未だ未だ国作りの途上に或るのだ。

 そんな同君連合を繋いでいるのが皇帝って存在なので、俺もアルバート4世をもう少し生暖かい目で見守って行こうと思う。

 いや、基本見てるだけしか、俺には出来ないけど。


 後継問題があるので、アドミラルが大好きな王弟のサバン公には、例え戦時に成っても是非とも後方で安全を確保していて下さい。

 せめてコーデリア王女が摂政が不要な18歳になるまでは。


 何かと姦しいコーデリア王女の母親ノイザン公爵未亡人へ摂政の地位を渡さなくても良い年齢になるまでは、アルバート4世でもサバン公でも良いので健在でいて欲しい。



 もしや亡くなった王弟ノイザン公の呪いなのか?

 彼の侍従武官ディック・ギボンズの影響でコーデリア王女の母親コーデリア・ルイーズ・ノイザン公爵夫人が政治に口を出して来やがる。

 そして、コーデリア王女を囲い込んで自分達の支配下に置こうとするし、俺から見ても将来的に揉め事の匂いしかしないのだ。


 暦改定の相談をした後、アルバート4世とクランベル伯爵がノイザン公爵未亡人について話して居たのだけど、どうもギボンズがノイザン公爵未亡人に自分の希望を言わせている様なのだ。


 ノイザン公が亡くなってからは、コーデリア王女と母親のノイザン公爵未亡人が住むグリンジット・ハウスの家令に収まっているらしい。

 つうか、家令って言うけど、ギボンズは何を遣っているのだか。



 幼いコーデリア王女を、ノイザン公爵未亡人とギボンズが操り易いように洗脳して行きかねない、とアルバート4世たちは心配し合っていた。

 無理矢理に幼いコーデリア王女と母親を引き離す訳にも行かないので、アルバート4世とクランベル伯爵が2人して顔を見合わせ溜息を吐いていた。


 一応、ノイザン公爵未亡人はアハルト=サクセス公国の公妃殿下だった方でもあるし、それにコーデリア殿下の監督権は18歳まで母親に或るんだよなあ。





 『おー、アルバート4世が普通に姪っ子の心配をしている。』


 他人事のように俺は感心して居ると、「何か良いアイデアはないか?チャールズ。」って突然俺に火の粉が飛んで来てしまった。


 俺は強いて考えもせず、「陛下が理由を付けてコーデリア王女殿下をお呼びして王族としての話をなされては?」そう答えてから気付いた。


 アルバート4世は子供とか大丈夫だったっけ?

 女好きって言っても7歳じゃあなぁ、興味あっても困るけど。

 つうか、アルバート4世が王族教育なんて出来るモノなのか?

 でもって、新たにアルバート4世の王女版が出来たら如何するのだっ!

 王女がフリーダムって、色々と不味いよね。


 俺が色々考えてアタフタと焦っていると、「陛下、良いかも知れませんね。」「そうだな、先ずはゴールド・ナイト勲章を授けよう。もう直ぐ7歳の誕生日でもあるしな。」って、2人で会話が盛り上がっていた。


 俺は、ヤンヤヤンヤと盛り上げっているアルバート4世とクランベル伯爵たちを眺めて、暦から姪っ子の心配までさせられた事にグッタリと疲れ果て、魂ごと燃え尽き真っ白い灰になっていった。


 








 夢現(ゆめうつつ)、隣は何をする人ぞ。

 

 疲れ切った精神に鞭打って、あの後なんとか自宅に戻り、3階の自室に戻って、俺はベットに倒れ込み意識を失った。






            ※※※※※※※※




 


 俺は夢現(ゆめうつつ)で過去を振り返る。



 そういや、フリップから「5日後にカブリア地方へ連れて行って呉れるってよ。」って、あの日フリップの家から自宅に戻って、俺はパーラー(居間)でデイジーに報告すると「わぁーチャーリー兄さん、大好きー。」ってグレート可愛らしい声で礼を言って、俺に駆け寄り抱き着いて来たっけ。


 いつから、そんな世慣れたデイジーに成ったのか。


 フワフワの胡桃色の長い髪を揺らして、透明な薄いグレーの瞳で、あどけない仕草をしている妹のデイジは未だ12歳の少女だよ。


 いつの間に海千山千の貴婦人みたいな手管をデイジーは使うように成ったのだろう。


 父さん、ごめんよ。

 俺が至らないばかりに、純真な妹のデイジーがヤリ手婆のようになったよ。

 此れも金欠な日々が続いている所為か。

 貧乏って怖いな。


 兄の俺は、デイジー、、、君の未来がちょっぴりだけ心配だよ。

 まあ、ちょっとだけね。



 末弟のアランは燥ぎ過ぎたのか、フリップの別荘へ行ってからは風邪を引いて寝込んでしまったし。

 細っこいから、アランは疲れ易いのかもな。





 そして弟のカイルとケビンは、友人のタウンハウスへ遊びに行っていたは本当だった。

 でも、その後2人へアドミラル士官学校から入学通知が届いたよ。

 クソ。

 此れも貧乏が、、、。

 カイルもケビンも見習い士官に受かっていたのだよ。

 貧乏な庶民には狭き門の筈なのに。



 可笑しいなー。

 カイルは兄の俺から見ても優秀だと思うけど、ケビンはエロいだけのガキだよ?

 男しか居ないボーディング・スクールでヤリまくっている、って豪語しているアホの子だよ。


 今は有名無実だけど、マックス8世が作った法の所為で、男同士のエロスって死罪なんだけども。

 ケビンより1つ年上のカイルは、冷たい視線で弟のアホなケビンを眺めて溜息吐いてるから。



 「ああ、チャールズ兄さん。ケビンは嫌がる相手を無理矢理に押し倒したりはしていないので、安心してください。」



 てなカイルの説明にもあるように、呼び出し喰らうような真似はしないけど、国語と四則演算しか出来ないアホの子なのに、なんで入学出来ているんだろう。


 とてもじゃ無いけど我が家には、士官を買う金なんて無いし、買う気もないけどさ。

 消えて行くお金の行く先を俺は知っているだけに、そんな所に支払う位なら金融屋に持って行くわ。

 無慈悲な金融屋では、いまも高利で利息も付けられてるからな。


 ケビンももしかしたらデイジーみたいに試験官に媚びた手管を、、、、うん、ないな。

 気の迷いでケビンが遣らかして居たら、俺が試験官なら間違いなく追い返してるわ。

 頭を使わない所為かガタイばかり育っているケビンは、カイルや俺より身体は成長していやがる。


 なんだか狐に化かされている気がする。

 

 それに俺個人としては、支配層でも無い2人が軍人になるとか全く嬉しくない。

 一層のこと落ちて呉れて居れば、カイルもケビンも諦めて他の道を探すだろうに、俺の望み通りには上手く行かないモノだ。





 で、

 母だけど。

 ははっ、矢張り俺が形だけ作って祈っている、と母に気付かれていましたよ。

 『今一つ信じられない。』

 などと、口が裂けても言えません。


 「仕事で疲れ過ぎていて集中が出来ていませんでした。此れからは真摯に主と向かい合います。」


 その言葉を幾通りも表現を変えて、神妙に繰り返したよ。

 此れは、心掛けの問題なので、俺は母に謝罪をしなかったけどね。


 母から責められている間は、俺も疲弊したけど、まあ、ずっと言いたかったことだろうから、あれはあれで良かったのかもと思うよ。

 母も無茶は言えないと辛抱していたみたいだし、息子の俺くらいには思った事を遠慮なく話しても良いと思うし。


 父が亡くなって生活環境も住む場所も変わって、母も色々とあり過ぎる位あったから、感情をぶつけながら心を整理して欲しいと俺は願った。


 流石に辛辣なあの口調で毎日愚痴を聞かされるのは勘弁して欲しいけど、馬車を降りて休憩から戻ると表情が少し穏やかに成って居たので、俺も堪えた甲斐もあったよ。


 『直ぐに父が生きてた頃みたいな穏やかな母に戻ってくれ。』とは、俺も言わないから、少しづつ母も此の生活に慣れて、新たな当たり前を時間を掛けて作って行ければ良いと思っている。





 フリップの別邸の在ったカブリア地方から戻って来てから、此の所、母を筆頭にエルザやデイジーそしてメイドキーパーのサンドラが、なんだか忙しそうに動いていた。


 麻糸や絹糸を使って、胸元の飾りや袖口の縁飾りと襟飾りにするレースを編んでいた。

 教会のバザーで売るには少し高級なレースが在ったけど、まあ母を含めた淑女4人が日当たりの良いパーラーで雑談しながら楽しそうにしていたので、俺はそっと扉を閉じた。



 女の園に武骨な男が無神経に入って行くと必ず後悔するのだ。

 勿論、男がね。


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