ep65 オー・マイ・ジュリア!
【ケビン・レスタード少佐】
オレってホントにバカだと思う。
カイル兄やデイジー、アランが聞いたら「うん、知ってるし。」って、即答されそうだが。
ホントになんでチャーリー兄さんの嫁さんを好きに成っちまうかね。
在り得ねーし。
ショーンやケントやデニーと接する時、無茶苦茶に素敵な表情をするんだぜ。
チャーリー兄さんやデイジーから「ジュリアは美人。」「ジュリア義姉さんは綺麗。」って聞いてたけど、キラキラ輝くグリーンの瞳がオレの胸の奥へ入って来て、ズギューンて狙い打って来られた感じかな。
【オー・マイ・ジュリア!】って、叫び出したいオレなのだが。
大抵の美人には、チャーリー兄さんを見慣れているから「フーン。」って感じで、オレもカイル兄みたいに反応が薄いんだけど、なんだろうなあ此のカンジ。
ジュリア義姉さんの場合、強烈なインパクトがあって目が離せなく成ったんだよ。
造形じゃ無くて魅力みたいなもので、オレの感覚を全部掴んでいって、こういうのは初めての経験で、オレ自身がメッチャ戸惑っている。
胸も大きくてスタイルも最高だし、チャーリー兄さんも男として言う事なしじゃね?
何もこんなに高難度な人妻を好きに成らずとも。
然もよりによってチャーリー兄さんの嫁なんてやっぱり在り得ないし、駄目だろ?
モラル的に。
兄妹たちはオレにモラルなんて期待していないだろうけど、一応ね、オレも或るのだ。
ちょっぴりだけどさ。
案外と真面目なんだよ。
オレ的ルールで人の女は盗らないってのが或る。
つうか、戦争以外で人のモノは盗らない。
オレが分捕っている相手は海賊か敵船だしな。
盗らないと仕事に成らないし。
な訳でオレが惚れたと自覚した途端、失意の底へ撃沈だよ。
ホントは、オレもショーンたちに混じり、食堂でジュリア義姉さんとソフィアたちとティータイムしたいよ。
でも、そうしたらオレはガン見しちゃうのが分ってるし。
デイジーに、「ケビン兄ってジュリア義姉さんを見て、顔を赤くしてキモイ。」って言いやがったから、気まずくなってしまっただろうが。
馬鹿デイジーっ!!
自分は婚姻が決まったからってウキウキ浮かれて、デイジーめ、羨ま怪しからん。
ジュリア義姉さんて若く見えるけど、カイル兄と同い年なんだよな。
オレとなら一歳違いだし、丁度いい歳だよなあ。
って、思ってもチャーリー兄さんの嫁さんなんだよ。
はあ、結局はスタートラインへ考えがグルリと廻って戻って来る。
マジでオレってバカだよなあー。
※※※※※※※※※※
クランベル伯爵邸の自室で、出掛ける前にガゼット(官報)を見ると、おやっ!フリップの甥っ子ハーバード3世が婚約しているではないか。
陛下の元へ伺う前に、ウエストカタリナ宮殿に或る近衛の控室兼執務室でも覗いて、フリップを祝って遣ろうかな。
いや、フリップを祝ってもなぁー。
そういや俺の強面の姪っ子とエルザ似の甥っ子は、元気だろうか。
ピバート伯爵家の別邸が或るカブリア地方って遠いし、フリップも子供達と会って無さそうだったしな。
全くさ、エルザが泣いているぞ。
つうても貴族って子供が椅子に座れるようになるまで、て言うか、マナーを覚える迄は殆ど一緒に過ごさないとクランベル伯爵は話していたな。
クランベル伯爵はスティーブン様がパブリック・スクールへ通われる前の歳に、やっと顔を会わせて会話したって言ってたし、だけどもそれはそれだよ、フリップ。
俺もエルザと約束した手前、兄としてナディアとダニエルの事をしっかりとフォローしないとな。
もう直ぐ始まるうんざりする式典を終わらせたら、チョット酒でも飲みながらフリップに子供達の事を説教して遣らないとね。
しかし、何で俺がカタベル大主教たちと式典の主催者側に『チャールズ・レスタード』って、名を連ねてるんだよ。
レイチェル・コレッジの開校式典て俺は全く関係ないじゃん。
そもそも聖職者以外男子禁制だから俺は建物に入った事ねーし。
花嫁学校つうか淑女女子学院の方は、聖職者議員達が初めの1~終わりの10まで全部手配して遣った事で、俺って何一つ手出しをしてないよ?
クランベル伯爵は訝しる俺に、「陛下と話してみよう。」って、言って呉れたから期待しているのだけどもね。
式典での挨拶位は、俺も大人なので出来るけども、子女教育委員会とかへ勝手に俺の名前を入れられたりしても何して良いのか分からないし、特にあの変態カタベル大主教と一緒だなんて、正直に言って俺は勘弁して欲しい。
出来ればパブリック・スクールの事は、一生忘却した侭で居たかった。
ベルフ首相へ、俺がカタベル大主教の悪行を報せたら、バガリー法で牢にブチ込んで呉れないかな。
駄目だろうなあ。
ベルフ首相は俺だけを有罪にして、カタベル大主教はスルーしてお咎めなし、って結果になりそうだ。
うん。
無駄な事は辞めて於こう。
カタベル大主教も流石にあの頃の事を今更持ち出して来て話さないだろうし、互いに黒歴史って事で地下で埋葬してるよね?恐らく。
俺も立派な2人の子持ちだし、ダリウス・コーパスも今は立派なカタベル大主教に出世した事だし、お互いに振り返る過去も無いと言う事で、すっきりすっかり忘れてしまおう。
うん、そうしよう。
俺はガゼット(官報)クルリと丸めながら、裁判所からの破産人名をチェックして左手に持ち替え、足を大きく踏み出し歩き始めた。
※※※※※※※※※※
【スティーブ・クランベル伯爵】
私は、ウエストカタリナ宮殿でチャーリーの為に来月に迫った式典の修正案を話し、陛下に修正に至った理由で或るカタベル大主教の罪を静かに語っていた。
西から流れるラムズ川北岸を臨むサザン区のドックから、ジーンの下に就けていたエドがボロを纏った少年を、ロドニア中心街の北西に或るイブトリー区に或る宿屋で保護したと、キースから報せが合った。
カタベル大主教が以前ダリウス・コーパスとして、チャーリーが通っていたウェートン校に勤めていたことを知り、チャーリーと同期生であったライノートたち3人にコーパス司祭の頃の話を尋ねると、互いは顔を見合わせて口籠った。
私は続けてチャーリーとダリウス・コーパスとの関係性について質問を重ねると、頬や鼻頭や耳を赤らめて、ライノートを含めた3人の議員達は目を泳がせて挙動不審に陥った。
とても30歳を過ぎた議員達の態度や表情に見えなかったが、それらの動きが雄弁にチャーリーとダリウス・コーパスとの腹立たしい関係を物語っていた。
トーリー党議員への切符を渡した私に焦りながら何も話せない状況など、察すれば理由は明らかだ。
ベルフ首相を筆頭にした男色の取り締まりが厳しい現状では、ライノートたちも迂闊な事を話せないだろう。
それでなくても寄宿舎での問題は外部に漏らすべからず、と卒業生の中で喪暗黙の了解があるようだし。
私はライノートたちに礼を言って庶民院の議会堂ホールで彼等に別れを告げた。
それから私は屋敷に戻り調べさせていたカタベル大主教の情報を苛立ちを抑えて待っていた。
幼い頃からアルバート4世と共に放蕩三昧の日々を過ごしていたダリウス・コーパスが聖職者に成ったからと言って聖人になれる訳でも無し、司祭に成ってからの行動を丁寧に調べさせると教会で勤めていた下働きの少年達が15歳に成ると金品を渡して地方に戻していた。
しかしダリウス・コーパスが司祭から主教に成った頃辺りからピタリと毒牙に掛かった被害者が見当たらなくなった。
ダリウス・コーパスは、別に不要になった少年を始末する事に痛痒を感じるタイプにも思えないが、労働階級の子供達へ態々金を払って、地方へ追いやる手間を掛けている事を考えると殺してはいないのだろう。
つまり「主教としてあるまじき行為を犯した秘密を隠しおおせる場所を見付けた」と言う事かも知れない、と私はキースと検討し合った。
「そう言えば、此の数年に渡り捨て子院や貧民街から少年達が消えると言う話を聴いていたので、私もクランベル家で運営している関係で調べてみたのです。するとロドニア近辺だとサザン区のドックに或る船から児童移民として北カラメルの植民地へ売られていたのです。まあ、行方不明に成っている捨て子院を管理している治安判事も黙認か協力をしているようで。」
「ふむ。今まで調べた相手の数の状況だと半年から1年で1人か。誰かへ飽きた少年を売りに行かせても目立たないな?キース。」
私は、そう告げてからエドたちにサザン区に或るドックを調べさせることにした。
植民地を開拓している北カラメルの移民達から労働者が足りないから、もっとウルダ人奴隷たちを増やすようにと議会の方に度々請願が来ていたことを思い出した。
ブレイスに居住していた少年達なら北カラメルの地主達もウルダ人奴隷よりも扱いやすいだろう。
全く労働の対価としての利益なら何をしても神に許されると思っている彼等の思考回路に、私は辟易した。
それを利用するダリウス・コーパスも最低なら、取り締まる法案の1つも出さず、敢えて見過ごしている私も最悪な人間では或る。
数多ある欲望の集合体に立ち向かえる人間こそ、使徒と呼ばれるのであろう。
神の子クリイムのように。
私は、チャーリーの澄んで金色に輝くルチル(金紅石)の瞳を思い出し、ズクリと胸が痛んだ。
サザン区のドックに停泊中の船から幾人かの少年たちを逃がした騒ぎに乗じて、エドは目的の少年を保護して話を聴き、クランベル家が管理する地区まで連れて来た。
そして当家で運営している捨て子院で彼が13歳に成るまで養育する事にしたと、キースは私に話した。
ルーク10歳。
8歳でロドニア郊外に或る片田舎から教会の下働きとして連れて来られたらしい。
麦わら色の髪をしたソコソコに見目が整った少年だとエドが話した。
ルークから聞いたと言う8カ月の濃厚な体験談を私は聞き、施設の院長へフォローを依頼する手紙を書いてエドへ手渡した。
私はダリウス・コーパスの性癖をルークに証言させる心算は無い。
立場的に彼の証言は信用されないだろうし、そんな事をしても私が真に助けたいと思っているチャーリーの防波堤に成らないからだ。
ただまあ、ルークの話は陛下に使えるので利用をさせて貰うけどね。
そして私はアルバート5世へ提案を語り終えると、ニコリと取って置きの笑みを浮かべた。
顔色を悪くして眉間に皴を寄せている陛下には申し訳ないが、私の為にチャーリーの役に成って頂こう。
こうして私と陛下の取引は平和的に終えたのである。




