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ep63 シーズン①解答編ーままならない



【アラン・レスタード】



 今年の春先、ボクが(ねぐら)としていたサザン地区にあった『エルミタージュ・クラブ』と言うモーリー・ハウスが閉鎖されてしまい、先輩レイ君の部屋で過ごしていた。

 しかし、天才劇作家及び詩人のレイモンド・ラム先輩は「才能が枯渇したから旅に出る」って言い残して黄泉路へと旅立ってしまったので、ボクはシーズンだと言うのに、実家へと戻って来たのだ。

 レイ君は黄泉路では無く、スランプを脱するべく古典芸術を学ぶためグロリア方面へ遊学に向かったのだった。




 ローズ座の或る近辺は雑多な店や家が立ち並んでいて騒がしいけど面白くて飽きが来ない。

 タバーン(居酒屋)で自称天才詩人もゴロゴロいて自信過剰はレイ君だけじゃ無かったことに、ボクは可笑しくて笑ってしまった。



 サザン地区でボクは、すっかり着慣れたシィフトと言うリネン素材の下着に、コルセット代わりのステイを巻き踵の低い靴を履いて、2枚のペチコートの上から生成りのコットンか草木染の麻のワンピースを着、大きな袋を腰に巻いてエプロンを身に着けて下働きの女の子アリス・ファッションで楽しく過ごしていた。

 

 そして自慢の金髪は結ってキャップに仕舞い込む。



 此の雑多で猥雑な地区は、下層から貴族の人まで居る。

 その原因の一つとしてこの地区はハンドル男爵の持ち物で、豪邸に人々を招いて良くパーティーを催しているのだが、屋敷の広場を解放してサーカスや芸人たちが場代を払えば自由に興行しても良いって許可を出して呉れているからだったりする。


 サザン地区は広く大きなラムズ川の南側に在って復古王政の頃、アン王女からハンドル男爵は此の地を賜って、セントラルから離れている事もあり気儘に開発し、サザン地区で市場を自由に開ける勅許も頂き、行商人や曲芸師たちが集まる自由な特区となった。


 貴族やジェントリなどは、ラムズ川の北側や西側に屋敷や土地を持っているので、そちらは著名な庭園設計のプロや建築家などが整った美観溢れる街作りを推進し、不動産価値を上げていた。

 ホワイト通りやアルバート4世が作ったロイヤル・ガーデン地区やアルバート通り、そして貴族や富裕層が作ったスクエアを囲んだテラスハウスの街並みとかね。


 それはそれで綺麗だしボクの実家もハーマー通りに在るから不服はないが、男のアリスが違和感なく活動するには、サザン区みたいな雑多な町が良いんだよね。

 でもって、そんな雑多な町だから、モーリー・ハウス(ミスターレディ出没地)の『エルミタージュ』なんて出来たのかと思っていた。

 すると上流階級が良く出没するアベイ通りに或る「ソドミアン・クラブ」って言うモーリー・ハウスへヤードの捜査が入り幾人かが逮捕され、著名な哲学者で思想家のヘンダ―が処刑されてオレは驚愕したよ。



 「レイ君は大丈夫?」


 「俺は政治ネタな脚本は書かないし、捕まらなければ大丈夫。でも念の為に暫くは『エルミタージュ』へ行かないで置くよ。アランも気をつけろよ。」


 「でもレイ君。ボクって女装はするけど、男色じゃ無いんだけどなあ。」

 「捕まえに来る奴は事実の有無は、関係ないんじゃないか?其処ら辺は、如何でも良さげだよ。」

 「うんな、滅茶苦茶なー。」


 レイ君とそんな話をしてから、ボクが念の為にエルミタージュを覗けば、門の真鍮のフェンスは閉じられて人の気配が無かった。



 確かにバガリー法って或るのは知って居たけども、それで処刑とか言ったら存在自体がヤバいボクの兄、チャーリー兄さんも捕まるんじゃないのかなあ。

 何だかリバティ党の偉い人達から嫌われているみたいだし。


 基本的に善人なチャーリー兄さんを嫌うってのもボクには意味が分からないけどね。

 まぁー、善人と言うよりは家族の事しか気にしてないって感じだが、レスタード家の負債も完済が出来たみたいだから、少しはチャーリー兄さんも自分の事を考えてくれるといいな。


 でもチャーリー兄さんは、確りと2人目の子供シャロンちゃんをジュリア義姉さんと作っているみたいだから、それなりに日々の生活をエンジョイしているのかも。



 旅立ったレイ君に部屋を追い出されたオレは、約1年ぶりくらいに実家へ戻って来た。

 

 そして久し振りに帰ってきて驚いたのが、阿保のケビン(にい)に子供が3人も居たコトかな。


 執事のカールソン聞いたら、付き合っていた女性が子供を残して消えたので、ケビン兄が置いて行かれた子供達の面倒を見ているのだとか。

 夕方に、ライブリッジカレッジから帰って来たカイル(にい)から詳しく訊くと、娼婦マリアに「ケビンの子だから後は宜しく。」というメモ書きを残され、部屋から去って2年以上経ったらしい。



 「ケビンの話だと一番上のショーンは年齢的に在り得ないらしいよ。アラン。」


 「いやあ、全員ケビン(にい)の子じゃないと思うよ。ケビン兄と全く似たところ無いし。アホウだなあ、相変わらず。」


 「食事を食べさせたら情が湧いたらしいよ。まあケビンは理屈で動く奴じゃないからな。て、言っても結局はカールソンとリリーが8歳に成る自分の子と一緒に面倒見てるけどな。飯と寝る場所が有ればなんとかなるよってケビンは笑ってるんだから。」


 「ふふっ、カイル(にい)が居るから安心しているんじゃない?ケビン兄のコトだから。どうせ細々(こまごま)とカイル兄が面倒を見てるんだろう?」


 「面倒って言っても時間が合えば一緒にお茶を飲むくらいだよ。ケビンから頼まれていたカヴァネンスはチャーリー兄さんが寄こして呉れたからね。そう言えば、デイジーが念願の玉の輿の夢を叶えたよ。その話があるから、日曜日にチャーリー兄さんとデイジーが戻って来るよ。ケビンはポータス港で仕事だから無理だけど、久し振りにアランとデイジーとチャーリー兄さんと僕で四人揃うな。」



 そう言ってカイル兄は、ライトグレーの瞳を細めて感慨深げに呟いた。

 カイル兄の細く整えた胡桃色の眉の下には、知的な光を見せるライトグレーの瞳で、落ち着いた空気を纏って、静かにメイドのイルマが淹れたカモミールティーを飲んで居た。


 オレとしてはデイジー(ねえ)の玉の輿発言に吃驚なんだが、カイル兄はなんでそんなに落ち着いているんだろう。



 「もしかしてデイジー(ねえ)が婚姻するとか?カイル兄。そんな物好きがいたんだ。」


 「ふうっ、居たんだよなー。実は、クランベル伯爵の弟で、士官見習の頃に僕やケビンの指揮官でもあったスレイン少将なんだよ。デイジーのお相手は。」

 

 「ええー、カイル(にい)が公平な方だと珍しく褒めてた人じゃないか。デイジー姉は、どんな手を使ったんだろう。それはデイジー姉の本性を知られない内に婚姻してしまわないとだね。」


 「アラン、それをデイジー本人に言うとキャンキャン吠えて煩いぞ。」

 「あははっ、分ってるってカイル兄。言わないよ。」




 カイル兄とボクは、もう一度噴き出してから互いに硝子のティーカップに入ったレモン色のカモミールティーを口に含んで、喉の渇きを癒した。


 そしてオレはカモミールティーを見て、エルザ姉さんとデイジー(ねえ)が「節約節約」って言いながら、炭や食材を搬入する階下の裏口へ降りる階段や入り口で、ハーブを鉢に植えて育てていたのを思い出した。


 「お金が無いって言ってるのに珈琲や紅茶をチャールズ兄さんは遠慮なく飲むのだから。」「ねー、エルザ姉さん。後、砂糖をなんにでも淹れすぎだわ。高価なのに。」「そうね。」


 2人してチャーリー兄さんの顔を長く見なくなると、寂しさを紛らわすように(はしゃ)ぐように文句を言っていた。



 はあ、やっぱり此の家に戻って来ると、ボクはエルザ姉さんの事を思い出してしまう。

 ボクには母さんよりも、エルザ姉さんが母親みたいだったからなあ。

 だから、フリップ義兄さんは少し苦手だった。


 優しいエルザ姉さんをボクから盗っていったみたいでさ。


 ボクはエルザ姉さんとデイジー姉の明るい笑い声を思い出しながら、カイル兄に尋ねた。



 「母さんは帰って来るのかな?カイル(にい)。」


 「一応は5年経つけど難しいのじゃ無いかな。向こうで教会作って布教するんだろう?順調に帰って来れても華龍帝国からは2年少し掛かるしね。ブレイス帝国からジマイカ行きか、ペルガル地方の港へ向かった商船から、母さんの手紙が届けば良い方だろう。未だ未だ安定した帆船での行き来は難しいからなあ。よく無事に着いたと思うよ。男でも船旅にウンザリして逃げ出す奴がいるから、母さんも帰りの船に乗りたく無いって言ってるかも知れないしな。」


 「ふふっ、確かに。意外に母さんて我儘だもんね。大人しそうに見えるから、他所の人は気が付かないけどね。」


 「いや、案外とチャールズ兄さんも気が付いていないと思うよ。僕からしたら、母さんの怒りって意味不明なのにね。チャールズ兄さんは、はいっ、はい、って素直に聞いて謝っているし。」


 「そうそう、ボクも思ったよ、カイル兄。オレやデイジー姉やエルザ姉さんみたいに軽く聞き流さないで、チャーリー兄さんは真面目に聞いて詫びているもんね。」


 「僕は、母さんが一方的にチャールズ兄さんを怒るのを訊きたく無くて、家に帰らなくなったようなモノだからな。まあケビンを放って於くのも心配だったってのも或るけどね。」


 「そうじゃないかと思ったよ。エルザ姉さんも下手にチャーリー兄さんを庇うと、母さんからの当たりが強く成るから頷くだけにした、って言ってたから。如何いう訳か、風が吹くのも日が曇るのもチャーリー兄さんの所為に成っちゃうんだよな。やっぱり嫡男だから、母さんは我儘を言い易かったのかなあ。」


 「そうかもね。チャールズ兄さんも母さんの言う事は、すべて正しいって聞いているしね。」


 そう言ってカイル兄は遣り切れないと言うような溜息を吐き、ボクもその溜息に誘われるように深く息を吐き出した。


 久し振りにカイル兄と話をすると、昔は変態的にチャーリー兄さんを慕っている気難しい大人だと思っていたが、ボクが思った事を気楽に話すと、当たり前のように答えて呉れた。

 

 『カイル兄ってこんなにも話し易い兄貴だったんだ』と思えた自分に、ボクは少し擽ったい喜びを覚えた。


 ボクも来年は卒業するし、女優アリスの御贔屓さんでも或るジャスパー氏の招待に応じて、ヨーアン諸国漫遊の度にでも行ってこようかな?


 あっ、駄目じゃん。

 国外を一緒に出たら、ボクがアラン・レスタードってバレちゃうじゃん。

 仕方ない。

 シーズンが開けたらカレッジで教授の補佐をしている優秀な人達をチューターに誘って、ナビゲートを頼もう。



 アリスちゃんで頼んだら一発でボクの願いを聞いて貰えそうなんだが、ボクをアラン・レスタードって知ってる人たちには、女優アリスは封印だからなあ。



 はあ、儘ならないモノだなあ。





 





         ※※※※※※※※※※




【アラン・レスタード】



 3階のボクの寝室で、ユーリーに運んで貰った湯桶で真っ裸な姿で寝汗を拭っていた。

 家に戻ってから毎度の事なので、拭き終わるのを待つユーリーも、朝食のサンドイッチが出来たと知らせに来た24歳のメイドのイルマも、ボクのフリーダムなヌードに無反応だったりする。

 今は、カイル兄の従者をしているユーリーなら分るけど、嫁入り前のイルマは、それで大丈夫なのだろうか?


 

 11年前、我が家にキッチンメイド見習で入った時は初々しい少女だったのに。

 つってもボクも10歳くらいだったからお互いさまではあるけどね。


 ボクが大事な所も拭き終わり、ユーリーの持つ籠へバッチィ使用済み平織コットンを入れて、ブラブラ股間を揺らせながら厨房に行こうとすると、ユーリーが俺愛用の布切れを渡して来たので、「面倒」って言いながら、恥部だけを隠した。


 「なあ、ユーリー。此処だけ隠す方が卑猥じゃないかなあ?」

 「では、ローブをお持ちしましょうか?アラン様。」

 「いやいい。暑いし。それにアランで良いよ。ユーリー。ボクより年上なんだし。」

 「そう言う訳には参りません。チャールズ様に顔向けが出来なくなります。」

 「チャーリー兄さんは、そう言うの気にしないと思うけどなあ。」


 そう言いながら部屋を出ると階下で聴きなれたチャーリー兄さんの声が聴こえた。

 一瞬、真っ裸な事を思い出したが、折角に拭った汗がまた湧き出す不快感を想い、其の侭、チャーリー兄さんのいる一階のパーラーの扉を開けた。



 

 ボクの姿を見て放心状態のチャーリー兄さんの顔を見て思い出した。


 8年前にフリップ義兄さんの別荘を訪ねて行く途中で、長時間の移動をしていた馬車から降りて、一息ついて居ると樹々の合間から明度の高い湖を見付けて、ボクは真っ裸に成って湖に身体を沈めて涼んでいると、チャーリー兄さんが疲れた顔をして湖の畔に着て佇んだ。



 ボクは、驚かそうと水面から顔を出して静かに近付き、平たい岩場に足を掛け、「えいやっ。」っと登って、岩の上に立った。



 するとチャーリー兄さんが今みたいな間の抜けた表情で固まり、魂がフッと消えかけて行くような気がしたので、正気に戻す為にボクは思わぬ質問を投げかけていた。


 「フリップ?クランベル?どっち?」



 チャーリー兄さんは、何処か夢見心地な表情で呆然として居たが、暫くして「どっちも男じゃん!」って吠えた。



 其処まで考える事かとボクは思いつつ、未だチャーリー兄さんは気もそぞろだったので、静かに湖の中へボクは沈み直し、放心しているチャーリー兄さんを冷えて来た湖の中で眺めていた。



 ボクはその後、風邪を引いたんだけどさ。

 デイジー姉に話すと「面白いから黙っておきましょうよ。」ってコトに成った。






 んー。

 その時と同じ表情しているんだよね。

 ヨシっ!再びチャレンジ。




 「エッグ?チキン?どっち?」



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