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ep62 ドリーミーな体験





 目を開けられない眩い光の洪水が収まると何処かで観た湖の湖面に煌めく黄金の長い髪を水面にまで垂らした美貌のノンセクシャルで真っ裸な人が俺に質問を投げ掛けた?


 『エッグ?チキン?どっち?』


 あっ、コイツは、、、。

 随分と昔にフリップの別邸が或るカブリア地方へ向かう途中で出て来た奴だ。


 あの時は『フリップ?スティーブ?どっち?』って質問されて、俺が「どっちも男じゃん。」って応えたら、白昼夢から覚めて緑鮮やかな美しい湖に1人で立っていたって言うドリーミーな体験をした。


 ホントになんなの?この真っ裸な変態さん。








 「チャーリー兄さん。卵サンドと塩焼きチキンサンドのどっちを食べる?」




 其処に立ってたのは、取り敢えず恥部だけ隠した真っ裸な金髪ロン毛の我が弟アランだった。

 イカンイカン。

 俺は、余りにも余りな末弟アランの野放図な格好を見て一瞬、意識をドリームランドへ飛ばしてしまっていた。



 「おい、アラン。なんて恰好をしてるんだ。つうか、地毛のそのロン毛はどうしたんだ?」


 「別に屋敷の中だし、良いでしょっ?自分だってウィッグ被っている時は、背中まで伸びてるロン毛だった癖に。もう五月蠅いわよ、チャーリー兄さん。」



 うん?

 なんかアランの話し方ってデイジーっぽい気がする。


 「アレは、ウィッグだから仕方ないだろ、アラン。男の癖に髪を伸ばすからアランは、そんな女言葉になるんだぞ。後でデイジーも戻って来るんだから、とっととシャツを着てブリーチズでも穿いて於けよ。全く。」


 「久し振りに戻って来たら、チャーリー兄さんが帰って来て五月蠅いし。良いモン。サンドイッチは両方ともオレが食ってやる。」


 「いや、俺は卵を貰うよ。それに今はショーンやケントやデニーが居るだろう?子供の教育上悪いから、とっととアランは服を着ろ。」


 「へいへい。」


 荒い言葉遣いの割りに優雅な足取りで、金色の後ろ髪を揺らし、アランはパーラーを出て行った。


 何だろ?

 暫く見ない内にアランが色っぽい不良になって仕舞った。

 俺的には、母さんが居ないと気を使わなくて有難かったけど、やはり母親が居ないと子供って駄目になって仕舞うのかな?



 父さん、気遣いの出来ていたアランが可笑しくなってしまったよ。


 俺は、そうボヤいてリリーの淹れてくれたレモンバームのハーブティーを口に含んで、気持ちを落ち着けようとした。

 我が家に居る使用人達は、アランのあの姿を見ても平然としているとか、どれだけ精神がタフなのだろう。


 アランは美少女?に見えない事も無いけども、顔立ちは父さんに似ているんだよ?


 俺の弟が美少女だった件。


 俺の中の生真面目な父さんのイメージが、アランの所為で微妙な変態さんに修正されるじゃ無いか。

 アランの奴の髪色と瞳の色は、母さん似でマジ良かったよ。

 あれでアランの髪色が胡桃色で薄いペールグレーの瞳なら、俺の中の父さんのイメージ映像が大変なことに成ってしまう。

 

 此れはデイジーとの話が終わったら、アランとじっくり話さねば。

 一応、俺が家長で保護者だし、カレッジを卒業するかどうかもアランに訊いて於かないとだな。

 俺が聞かないと何も言って来ないとか在り得るか?普通。



 でもまあ、先ずはデイジーだよな。


 クランベル伯爵の弟であるスレイン少将との婚姻話。


 スレイン少将からデイジーへ行き成りプロポーズして、しかもその場でデイジーが二つ返事で了承したとか聞かされ、俺は恥ずかしくて赤面しそうだった。

 どれだけガッツいているのだよ、デイジー。

 まあ、いきなりデイジー本人へ直接プロポーズをするスレイン少将も大概では或るのだけども。

 出来れば、婚姻までのプロトコルは順守して欲しかった。

 デイジーに取って、恐らくは一生に一度のことだろうから。



 病死や戦死の多い軍船で、死なずに運よく38歳でリア・アドミラルにも成り、お家はクランベル伯爵家だから金持ちでも在るし、デイジーが望んでいた『ザ・玉の輿』でも在るけども、狙った魚がデカ過ぎませんかね?

 兄は、とっても心配だよ、デイジー。


 リアナ令嬢やグレイス令嬢の品の良さを見ていると、デイジーに貴婦人としての社交が出来るか、マジで不安。

 て言うか、デイジーには無理だよなあ、恐らく。


 でもクランベル伯爵は、弟のスレイン少将とデイジーの婚約をマジで喜んで祝って呉れたしなぁ。




 「14年前に婚約者だったシャーロット嬢が亡くなってから、此の侭、独身でいるのかとスレインの婚姻は諦めていたから、私も肩の荷が降りて嬉しいよ。それに此れでチャーリーと私は身内に成れるね。でも息子のスティーブンとチャーリーの娘のソフィア嬢との婚姻は、クランベル家も色々あるから少し難しいかも知れないね。ふふっ、でも互いの家族ぐるみで気兼ねなく付き合えるようになるかと思うと、私は楽しみだよ。チャーリーは私の申し出を直ぐ遠慮するからね。」


 綺麗な笑顔でクランベル伯爵は楽し気に話しつつ、チクリと俺の5歳になった娘ソフィアの事に釘を刺してきたりもした。


 弟のスレイン少将とデイジーの婚姻をクランベル伯爵は手放しで喜んでくれた。

 、、、本当に良いのだろうか、あの淑女とは呼び難いガサツなデイジーで。


 まあ5歳にして、由緒正しき伯爵家嫡男のスティーブン卿へ引っ付きまくって媚を売っている我が娘ソフィアには、クランベル伯爵から直接に物言いがついたけども。

 あははっ、うん、当然だよね。


 つうか、ソフィアをややこしそうなクランベル伯爵家の嫡男スティーブン様へ、俺も嫁になぞ出す気はありませんとも。


 クランベル伯爵の母上を見てるとマジで大変そうだし。

 ロドニアでの社交だけでも息つく吐く暇もない位、半端でない量の手紙を綴ったり、招待する人に合わせてハウスキーパーのサマンサと執事のキースと屋敷内のセッティングの指示を出したり、音楽会や劇場へ出向いたりと目が回りそうだ。

 オマケに領地での社交の準備のことをロドニアでクランベル伯爵と話をしている。


 ウチのソフィアには多分無理。


 そもそも我が家では、ソフィアたちに淑女教育なんて大層なモノを施していない。


 俺と離婚する前提が決まってからジュリアは大の苦手だった上流階級との社交をこれ幸いと不参加にし、テラスハウスの気の合う方々との私的な茶会のみの参加くらいで、後はメイたち使用人や娘のソフィアやシャロンと和やかな日々を過ごしているし、俺もそれで良いと思って居るんだよね。



 俺と婚姻する迄は、使用人も雇えずに弟と日々汲々として暮らしていたジュリアへ直ぐさま社交を遣れって方が無理も在るし、どうしても参加の必要がある時はクランベル伯爵に頼んで、上流階級出身の目付を頼みジュリアに付き添って貰っていた。


 俺も生まれは商家で貴族では無いし、ジュリアと同じで負債に汲々としていたから、クランベル伯爵が一緒に参加しろって言う社交以外は基本的に参加していない身でも或る。


 俺には、社交でのロマン語とグリシア語で古典詩を使った嫌味の応酬とか意味が分からないし。

 上流階級の方からプライドがないのかと揶揄われても、俺は其処ら辺のプライドは上流階級の方々に全てお任せしていた。

 

 そして俺より社交が嫌いなジュリアは、近い将来に離婚すると言う事で、ストレスを著しく軽減が出来たようで以前に増してお肌艶々で綺麗になり、子供達との付き合いも楽しめるようになったそうだ。


 てな状況で娘のソフィア達に淑女教育など出来る訳も無いし、俺もする気はない。


 確りとしたカヴァネンスを雇えば良いだけなのでけど、ジュリアは乳母を遣っていてくれたリリーとロージーに此の侭任せると言うし、現在の使用人達だけで充分だと断言されたので、男として役立たずな俺には夫としての発言権も皆無である。


 世の中には、貴族の息子達と婚姻するのを夢見ているパワフルな母娘たちも存在しているのも知っているし、母から紹介された見合いで体験済みだけども、その方々と俺達とでは夢見ているモノが違う、ってだけの話。


 借金で頭を悩ませていたジュリアや俺は、食べるモノに困らず明日は如何しよう、って悩まないで良い生活は、何ものにも代えがたいモノなのだ。

 其処ら辺は俺とジュリアの価値観が似ていて、別れた後も良い友達で居れると思うんだよ。


 

 なので、クランベル伯爵から釘を刺される迄も無く、ソフィアの為そんな事に成らないよう俺は気を配って行こうと決意した。




 しかし、俺もクランベル伯爵におんぶに抱っことべったりとお世話に成っているのに、ちょっぴり小金に煩い邪なデイジーまでもが、スレイン・クランベル少将から一生お世話される立場に収まってしまう何て。



 自他共に厳しい生真面目なカイルも褒めるスレイン少将を、デイジーはどんな手管で騙くらかしたのか、大いに気に成る処だけども『言わぬが花なコトは聞かぬも花』な気がする。


 しかし此れで、俺がクランベル伯爵を毒牙にかけ、寄生して財産を食いつぶしている、と言う噂を否定し辛くなった気がする。


 もう開き直るしか無いよな。

 兄妹揃ってお世話に成ります、クランベル伯爵。


 まあ懸念事項があるとすれば、俺ですら覚えるのを諦めた無茶苦茶に多いクランベル伯爵家の親戚関係を小金に煩いだけのデイジーが覚えられるかどうかってコトかな。




 でも、カイルも褒めるスレイン少将ならデイジーも幸せになれそうで、不安だけども何とはなしに俺は嬉しくて、いつの間にか口元を綻ばせ、明るい日差しの差し込むパーラーでデイジーの訪れを待っていた。








 

 

 


 

 


          ※※※※※※※※※※







【カタベル大主教ダリウス・コーパス】





 私は定例の祈りを終えロドニアのテンペスト区に或る主教公邸へと戻っていた。

 窓から見えるラムズ川の南岸には、陛下の居るウエストカタリナ宮殿が見える。

 ちょうど此のテンペスト宮殿の向かいにある形だ。


 アルバート4世から可愛がられていたお陰で、カタベル大教主にまで成って仕舞ったが、私は此処までの立場に成る心算は微塵もなかったのだ。

 カタベル大主教という最高位の役職は私が目立たなくてはならず、意外にも儀式や所要が多くて気も滅入る。


 私は、主教の1人にでも成って仕舞えば、チャールズを手に入れやすくなると考えていただけなのだが、サボることが出来難くなった此の状況に、思わず陛下に愚痴を言いたくなってしまう。


 「本当に余計な事をしてくれた。」





 私は祖父のアルバート2世は、女性に関して破天荒な人だったらしく、愛人だけでなく宮廷にいる女性を身分関係なく通り縋りで強引に寝所へと連れ込み襲い、宮内庁でも記録出来なかった庶子が結構いるそうだ。


 (ある意味で女性に平等だったとも言える。)


 メイド達は身分が低く宮廷へ訴え出て来られなかったと言う宮内庁側の話だが、訴えさせなかったと言う方がより正確だろう。。


 先代のクランベル伯爵がそんな祖父に手を焼き、庶子と認められるラインを決めてそれ以外の子供は庶子としても認めないと言う法案を通して、幾らでも増えて行きそうな庶子の数に歯止めを掛けた。

 二度目に改正された庶子法では、身籠った母親へ支払われる報酬も規定され、母親方の親族に渡る褒賞もなくしてしまった。


 ブレイス国教会は原則として一夫一婦制なのを忘れてしまいそうになる。



 私は、又従弟に当たる12歳年上の伯父アルバート4世から13歳の頃から可愛がられグリンジット・ハウスやウィンダム・ハウスで、知らない新たな遊びを次々に教えられていた。


 伯父の4世は子供を可愛がるタイプでは無かったので、少年の私が提供される快楽に戸惑い溺れる姿を取り巻き達と見ているが楽しかったのだろうと、大人に成り私も少年達を堕落させて愉しむ側に回って気が付いた。



 伯父アルバート4世との付き合いを懸念した私の父ベリー公が、25歳に成って居た私を国教会へと預け、スタンダード大学で神学を学ばされてしまっていた。

 


 「ダリウス、今度何か仕出かしたらアドミラルへ入れるか、伯父の3世に頼み王家所有の離島へ送るからな。努々(ゆめゆめ)、忘れるなよ。ダリウス。」


 父からの叱咤激励を受け私は真面目に学び、30歳で牧師に成り新たな姓コーパスを授けられて、鬱々と教主の下で退屈な教区での務めを果たして居ると、同じ教区の教会に勤める牧師が孫のチューターを探して居ると聞いた。

 

 その孫は天使と見紛う美しさを持ち賢き子だと専らの評判だった。

 私は、好奇心から其の牧師の所へ行きシーズン中だけチューターを引き受けると話、私の身分は隠して於くようにと頼んだ。


 あの時は、退屈な日々を過ごし飽き飽きしていた所だったので、ほんの暇潰しの心算だったのだ。




 初めてチャールズを見た時、私の心は震えた。


 子供部屋の窓から入る光に照らされ、柔らかく巻いていて輝く金色の髪。

 王の果物で或るパイナップルから搾った果汁で満たし、魔法で宝石に変えたようなシトリンの美しい金の瞳。

 愛らしいチェリーのような唇に薄く通った鼻筋。



 チャールズは純真な瞳で私を捉えて微笑みかけて来た。

 素直なチャールズに私は古代ロマン語で聖書を教え、天使の(さえず)る様を愉しんでいた。


 その内にレスタード家に居る使用人の一部がチャールズを(よこしま)な目で見ている事に私は気付いた。

 私も邪な思いでチャールズに触れているから良く判った。



 そんな或る日、チャールズは執事見習いの男に菓子を貰って、嬉しそうに愛らしい唇でキスを返していた。



 私は、やり場のない怒りを覚えチャールズを思いっきり引っ張り、子供部屋へと連れて行き、焼き菓子を握っていた小さな右手の甲を思い切り掌で叩いた。


 パシリと乾いた音の後、チャールズの雪のように白い手の甲がみるみる朱へと美しく彩られ、驚いて見開いていた金の瑞々しいシトリンの瞳からは涙が盛り上がり、哀しみで曇らせたチャールズの表情に、私は背筋から得も言われぬ快感が沸き上がり、味わった事の無い興奮で身が震えた。


 「叱られる意味が分かるまで、チャールズの為に私も叩き続けましょう。」


 そうチャールズに告げてから、私は掌の痺れを感じるほどチャールズを叩いて行き、朱の色が深く広がる白い肌に胸を高鳴らせていた。

 そして、激しく泣き出したチャールズを心配し、母親のマリンが子供部屋へと入って来て、私に事情を聴いて来た。



 チューターを引き受ける時の面談で思ったのだが、マリンと言う母親は暇を持て余したミドル層に偶にいる、穢れを嫌う狂信的なタイプだった。

 この手の夫人には強くモノを言う権威的な男に付き従ってしまう性癖を持つ。

 そして、おどろおどろしい文言を信じ込み易いのを、多くの信徒と話していた私には感じ取る事が出来た。


 「息子さんのチャールズには強い悪意を持つ悪魔の魂が入り込んでいます。その穢れは周囲にも及ぼして居ます。」


 重々しい口調で私は母親のマリンにそう告げて、チャールズの愛らしい唇を奪った執事見習いの事やいかがわしい目を向けていた使用人達の名を上げ、私はチャールズを悪しき道に進ませないように厳しく躾ける事を宣言した。


 私はシーズン中のみにしかチャールズと触れ合えなかったが、2年かけて(よこしま)な目を向けて来る使用人達を全て排除し終え、父親とも信頼関係を気付いて行った。


 子供部屋では密やかに、私は手の平で時々チャールズの真白な瑞々しい桃を朱く染め、指で味見をしていたが、幼いチャールズの肉体には指先しか入り切らず、彼の肉体が育つのを焦れる想いで待っていた。


 しかし、4年目に私は司祭へ任じられ一度、チャールズの元から離れなくては成らなくなった。

 切なく悔しい思いを隠して、レスタード夫妻とチャールズに別れの挨拶をし、私は後任のチューターに厳しいと評判の教師を紹介し、両親へチャールズの身体を鍛える様にと念押しをして、レスタード邸を去って行った。



 厳しい教師を紹介したのは、私の体罰だけが特別だと思わせないためだ。

 それにあの教師ならチャールズを口説く事が無いだろう。

 あの教師は、痛みを与える事こそが魂を清らかな状態に保つと思っている宗派の人だから。

 国教にも新教にも可笑しな考えをする分派が本当に増えたモノだ。



 それから私はチャールズに再開するべく私の属する教区のパブリック・スクールへチャールズの祖父や父親と話して入学させるように動き、そして13歳に成った少年のチャールズを念願が叶いやっと抱く事が出来た。


 チャールズの痛みに耐え美しい涙を浮かべる様は、乾いていた私を歓喜で満たした。

 幾人かの少年を抱いたが、天使で或るチャールズの純白の羽根を折って抜いて行くような感覚を私に抱かせ、あれ程の悦楽を与えてくれるモノは他に居なかった。



 私は、パブリック・スクールでチャールズと再会した時は嬉しさで感動に打ち震えたが、肝心のチャールズは幼い頃に教えていた私の事をまるで覚えて居なかった。


 だが、今度は大丈夫。

 チャールズが忘れないよう私は濃密で激しい宿舎での日々を与え続けたのだから。



 折角ワナを仕掛けて於いたのに、チャールズの父親が亡くなった時は上手く逃げられて仕舞ったが、今度は陛下から仕事として命じられる事だから、逃げる事は難しいだろう。


 私としては、チャールズが婚姻して誰かのモノに成っていたのは誤算だったが。



 私は、ロザリオの中に閉じ込めていたチャールズの金の髪へと口づけを落として、9月の式典が終わるのを心待ちにしながら、傍に付き従っていた少年のノーブルに幼かったチャールズの姿を重ねてゆっくりと腕を伸ばした。




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