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ep54 ジョブチェンジ




 風薫る5月。


 俺は風の噂でアリシア妃殿下がバンエル王国で婚姻したと聴いて。

 いえ、確りとジーンから報告をされましたよ。ハイ。


 次いで議会では、コーデリア殿下の叔父で或るレオナルド公子がギール王国へ婿入りする件について、話し合われたと言う。


 4男で37歳オッサンの再婚話とか、どうでも良く無いか?

 と、思っていた俺は、レオンハルト公子の娘メアリー妃殿下の存在を忘れていた。

 メアリー妃殿下の母親って、アルバート3世の正統な娘だったよ。


 でもメアリー妃殿下の種の主って、アハルト公国産のレオンハルト公子だから、コーデリア殿下のライバルには成らないのだけどね。


 今年10歳に成るメアリー妃殿下は、ウエストカタリナ宮殿でアデル皇后たちと同じ男子禁制エリアで暮らしている。


 俺は思うんだけど、王族とか身分の高い女性って、もう少し男を見慣れた方が良いと思うんだよね。

 ギボンズなんて野郎に利用されてたアリシア妃殿下を想うとさ。

 本来なら身分的にギボンズとアリシア妃殿下が知り合う状況には成らなかった筈なのだけど、縁は奇なモノ、味なモノって奴なのか?

 アルバート4世の計画では、コーデリア殿下と母親ノイザン公爵夫人の緩衝材にアリシア妃殿下を入れた心算でグリンジットハウスへ引っ越しをさせたのに、母娘の緩衝材に為る所か木乃伊取りが木乃伊になって仕舞い、諸悪の根源のギボンヌにアリシア妃殿下が岡惚れしちまった。



 アリシア妃殿下の資産が可成りギボンズに食い潰されていて、資産監査をした人間にギボンズは問い質されたそうだけど、「アリシア妃殿下から賜ったモノ。お疑いならば直接アリシア妃殿下にお伺いを立てて見れば?その頃はバンエル公国の公弟夫人ですかな?」と、宣わったそうだ。


 ギボンズとアリシア妃殿下の碌でも無い噂話を肯定するような、そんな真似は出来ないので、クランベル伯爵や宮内長官を筆頭に「ぐぬぬっ」と、下唇を噛み締めた。

 噂って言うか、事実なんだけどね。


 ギボンズなんて、バターを煮溶かした上に、固形のバターを入れたダブルバターな(くど)い容姿のオッサンの何処が良いんだか、俺には全く判らない。


 デイジーに俺がそうボヤくと、若い淑女達の間では騎士とのラブロマンスの物語が人気だそうで、ヒョロヒョロした男か女か判らない紳士より、グリシア神話の絵のようなクッキリはっきりした顔立ちで、背が高く筋肉隆々とした男性がモテるそうだ。


 ふ、ふーん。


 なあ、デイジー。

 それって俺をディスってるだけだよな。


 まあ、俺とは関係の無い世の淑女達のマッチョ趣味は兎も角として、『クランベル伯爵の心労を増やすんじゃねぇ!』と、何時かギボンズにはビシリと言って遣るつもりだ。

 勿論その時のボディーガードには、同じくマッチョな弟のケビンとガタイだけじゃなく目付きも怖いフリップを俺は連れて行くけどな。




 エスニア帝国継承戦争後に宗主国のエスニア帝国から独立したギール王国。

 クリイム歴1600年に成る前、北部のランダル王国は独立したけども、南部にあった10の国々は独立せずに其の侭エスニア帝国に残り、クリイム歴1630年頃エスニア帝国の横暴にムカついて独立をしたギール王国。


 フロラル王国にもオーニアス帝国にも隣接した場所に在るギール王国は、戦争の度に侵攻されていたというか、食料供給の為に通り掛かりで両軍隊から略奪されていたりして、しかも宗主国のエスニア帝国は頼りに成らないしで、紆余曲折の末に独立した。


 そして獅子王ミリアーノが南部10カ国を統一して、ロマン教皇にギール王国として認められた。


 

 独立直後は元は同じ国だったランダル王国と同君連合を組んでみたけど、公用語としてランダル語を強制されるし、宗教も新教にしろって言われるし、フロラル王国が近い南部は旧教だし、俺らが使ってるのはフロラル語だしって事で、ランダルに離婚を宣言して、再度独り身にギール王国に戻り、獅子王ミリアーノは国王に戻って、改めてギール王国に成った。



 元々、ブレイス帝国とフロラル王国が百年戦争と言われる戦いを始めたのも、ギール王国にあるフランダース地方の良質な羊毛を取り合った事に端を発している。

 その頃は、ブレイス帝国もヨーアン大陸に領土を持っていたしな。


 でもって、北部の方はランダルと近いので婚姻とかも進み、新教徒も多く言葉もランダル語化してるんだけどね。

 人数的に南部の方が多いし、フランダースを拠点として商業も発展しているし、まあロマン教皇がギールを王国として認めて呉れたので、王家は当然に旧教徒の侭で南部にあったギール王国はミリアーノ2世の頃に安定した。


 しかしギール王国のミリアーノ3世は娘しか居なかった。

 ヨーアン大陸で旧教徒って為ると娘は跡を継げないので、レオナルド公子は王配として入るのではなく、ギール王国の後継者として婿入りするのだった。


 名誉職ばかり与えられ有閑人生を送るかに思えたチャラいオッサンのレオナルド公子は、こうして無茶苦茶ハイレベルなハードモードのプリンスへとジョブチェンジする事に成る。


 血の気の多い大国に囲まれて地政学的にもハードモード。


 

 「アハルト公国の男と生まれたからには、一国の舵取りくらい出来ないとね、チャールズ。娘のメアリーと姪っ子のコーデリアを宜しくな。」


 俺はロイヤル・パークに或る薔薇園で行われたディ・パーティーで、顔を会わせたレオナルド公子と話をすると明るくそう頼まれた。


 『チャラいけどカッコイイじゃんか、この野郎!』と俺は思って、ティーカップに残って居た紅茶を一息で飲み干した。

 、、、、、、いや、待て。


 娘のメアリー妃殿下の事まで、俺は知らないよ?

 こらっ!レオナルド公子っ!







 


 




            ※※※※※※※※※※






 カイルとケビン2人の弟からの呼び出しで、俺は久し振りに実家のテラスハウスへ戻り、陽光の差し込むパーラーへと入って行った。


 亡くなったエルザが刺した薔薇の刺繡が施されたクリーム色のテーブルクロスが、部屋の中程に置かれたダイニングテーブルに掛けられていた。

 向かい合う形で4つのダイニングチェアーと3人掛け用のソファーが置かれ、ソファーには身体ばかりが大きい悪戯小僧のような表情をしたケビンと、少し神経質そうな表情をしたカイルが腰を下ろして、俺を出迎えてくれた。


 部屋に入ると、カイルはケビンとの会話を中断して慌てて立ち上がったので、俺はそれを右手で制した。


 「ただいま、待たせたな。カイルは座って居て良いよ。」

 「久し振りです。チャールズ兄さん。忙しい所申し訳ありません。」

 「いや、良いよ、俺もカイルやケビンと会いたかったし。それに2カ月前の叙勲式依頼だしなあ。おめでとう、カイルもケビンも。アドミラルを辞めてカイルはもう此の家に戻って来たのか?」


 「はい。今はチャールズ兄さんが作ったライブリッジカレッジへ通ってますよ。」


 「いや、あれは俺が作った訳じゃあないからな。カッター博士とハンター博士や外科医組合の皆たちが尽力した賜物だから、誤解しないように。ケビンは少佐か、凄いな。人間なにかしらの取り柄って、あるもんだな。」


 「チャーリー兄さんも俺への扱いが酷くないかあ?」


 「いいのいいの。どうせケビンはカイルに迷惑ばかり掛けてるんだろう?まあ、でも2人共元気で居て呉れて俺は嬉しいよ。そういや、そろそろ恋人でも出来たか?婚約や婚姻する時は早めに教えてくれ、ジュリアの都合もあるからな。」


 「コホっ、って、おい、ケビン。言えよ。」

 「あ、うん。」


 「何だよ、ケビンは彼女でも出来たのか?しかしケビン、代金を支払う相手は、恋人とは呼ばないぞ。ふっ。」


 「いや、今は知ってるし。てか、子供が出来た。」

 「はっ?」

 「おいっ、違うだろ!」


 「ああ、女に子供を置いて行かれたから、今、オレが引き取って育てている。養子では無いけども里親になったんだよ。チャーリー兄さん。」


 「うん、、、と?」

 「ああ、それはね、チャールズ兄さん。」



 俺は、お馬鹿なケビンが何を言っているのかと目を点にしていると、カイルがケビンの背中を叩いてから俺へ溜息を吐きつつ、説明をしてくれた。


 付き合っていた???娼婦の女性が「貴方の子よ、後は宜しく。」と言う書置きを残し、3人の子を置いて消えたそうだ。

 お馬鹿なケビンは、子供達に食事を与えると情が湧いて、捨て子院へ届けず、部屋を借りて面倒を見ていたそうだ。

 当然、面倒を見たのは雇った使用人たちらしいけども。


 母親からの連絡のない侭で2年が経ち、一番年長のショーンが7歳になり、次男ケントが5歳、末の子デニーが2歳に成るので、ポータスの教会へ届けて教区への登録を済ませたそうだ。

 近頃多い浮浪児狩りを防止したい目的も或るとカイルの説明を遮り、横から偉そうにケビンは語る。


 「いや、ケビン。お前は面倒を見てる子供に浮浪児みたいなボロボロの恰好をさせているのか?」


 「まさか、一応はメイドやナニーに服は作らせて靴や靴下は買わせているよ。チャーリー兄さん。子供だから一流品ってワケではないけどな。」


 「なら大丈夫だと思うけど、はあ、まあケビンが面倒を見たい、って言うなら別に止めないよ。余裕の或る今なら悪い事では無いし。で、母親が戻って来るかも知れないから、ケビンは養子にしないんだな?」


 「まあね。それに養子にする、って言うとショーンたちがマリアに捨てられた、って感じそうでさ。ショーンがオレに、僕達は捨てられたのか?って聞いた時、泣きそうだったから。それにある程度の歳に成って、自分で考えてから決めた方が良いだろ?」


 「分かったよ。それで俺に何か手助けして欲しい事は?ケビン。」


 「今のところは無いかな。欲を言えば、一人くらいは教育を受けた人を雇いたいんだよな。今手伝いに来てくれてる人たちは、気立ては良いけど言動が荒くてさ。まあ漁師や船乗りたちの娘や妻達だから仕方ないけど、出来れば夜に泊まり込んでくれる人が欲しいかな。」


 「ケビン、お前は、そんな小さな子供達だけで留守番をさせてたのか?」


 「早朝から来てくれる人が1人いて、まあ、漁師の娘でも独身の軍人の家に泊るのは無理だし、人妻は尚更に無理だしなあ。紹介して呉れたのが食堂の店主夫婦だから無理も言え無くてな。」


 「つうか、ケビンは直ぐ、その子達を此の家に連れて来い。ここならエルザの娘のナディアを見ていたリリーも居るし、コックのエバもベーカーのカラもいるし、見習いイルマも下男のユーリーもいる。後でジーンに誰か呼んでもらうよ。どうせ船に乗ったら何カ月も家に戻れないんだろ。全くケビンは、猫や犬じゃ無いんだから、引き取ったら確りと子供たちを育てろよ。幾ら自分が勉強が嫌いだったとは言え、はあぁー溜息が出る。ケビンは速攻、子供達を連れて来い。馬車の金はあるか?」


 「それ位はあるよ。やっぱりチャーリー兄さんに話すと大事になったよ。ヤレヤレ。」

 「はあ?ケビンがいい加減過ぎるんだ。」

 「はいはい、チャーリー兄さん。じゃあ今からポータスまで、馬車で迎えに行って来るよ。帰宅は明日の夕方になるけどさ。」


 そう言ってからケビンは勢いよく立ち上がり、ジーンの開いた扉から大股で玄関ホールへ向かった。


 


 「母さんが、戻って来たら吃驚するかな。チャールズ兄さん。」


 「そりゃあ、驚くだろうけど、まあ母さんは慈善活動には熱心だったから、事情をカイルから話せば大丈夫だろ。ウィルソン・カステル議員の報告書だと、高州に或る異人特別区で教会作りと布教を兼ねて、華龍帝国の言葉や風習を学んでいるそうだ。商人たちが別の地域へ行き、茶木を可成りの数を密かに船へ乗せて出航している様だよ。華龍帝国と揉めたく無いから、止めさせて欲しいと書いてあったそうだ。」


 「何だか母さんは楽しんでいるみたいだね、チャールズ兄さん。」


 「そうだなあ。俺達よりも色々な国や人達を見ているだろうし、機嫌良く楽しんで呉れているならいいよ。暫くブレイスへ帰国出来そうに無いから、カステル議員はエルザが亡くなった事を伝えて無いそうだよ。」


 「、、、そんな、、、。」


 「俺も初めはそう思ったけど。でも帰国出来ない状況で、それ聞くのは母さんも辛いだろうなと思うと、今は内密にして呉れたカステル議員には感謝している。それに母さんの悲しむ時間が長くなってもエルザは還って来ないしね。」


 俺は独り言のように呟いて、テーブルに掛かったテーブルクロスに施された美しい薔薇の刺繍をゆっくりと指の腹で撫でた。

 ソファーの背凭れやクッションもそうだけど、裁縫や刺繍が好きだったエルザの手に依る作品が窓から入る初夏の光に照らされて美しく際立つ。


 リリーたちが部屋を片付けながらも、エルザを偲んでくれているのが良く判る。

 此の家やフリップの家に居ると今にも「チャールズ兄さんは、全く。」そう言って笑いながら扉から顔を出して呉れそうな気持に為って、、、そして、俺は気付いて切なく為るのだ。


 父さんが亡くなって12年。

 今でも俺は何かの度に父さんへ語り掛ける。


 エルザが亡くなって4年。

 中々にエルザに語り掛ける言葉が思い浮かばない。

 金の瞳がキラキラと輝いて、子猫のように愛らしかった俺の一つ下の妹。


 その可愛らしさが俺は愛おしかった。

 

 歳を取り、やっとお互い照れも薄くなって、兄妹として互いを思い合っている事を、素直に言葉に出来るようになったのに。


 もう少し俺が年を経れば、天の国に居るエルザに話しかけれるように成れるだろう。

 なあ、そうだろう、父さん。

 、、、エルザの事を頼むよ。



 ケビンが出て行き音が消えたパーラーの沈黙を埋める様に、ジーンがポットを持ってジャスミンティーを、俺とカイルへ勧めて呉れた。


 頷いた俺達に、ジーンは俺とカイルのティーカップへ、静かにジャスミンティーを注いだ。


 フワリと広がるジャスミンの薫りに俺とカイルは目を合わせて微笑み、ゆっくりと小花を散らせたティーカップを持ち、口元へと運んだ。


 

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