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ep53 サザンローズ・イン




 叙勲式と祝賀会を終えて、私はロドニアのセントラル地区から南東に或るサザン地区のサザンローズの駅舎も兼ねた『Inn』(宿屋)の2階へと向かい、木製の扉をノックし「スティーブだ。」と声を掛けた。


 別にクランベルの姓を出しても良かったのだが、其処は『様式美』と言うことで、私はスティーブと名乗ってみた。






 チャーリーが郵便を円滑に配達させる為、元々あった駅舎を治安判事に監督させ、配達人に銃を持たせてガードナー(護衛)を就け、判事の許可の元で盗賊などの捜査権・逮捕権も与えたので、地方の治安も良く成って来たと聞いた。


 チャーリーが郵政局長になる前にも郵政省はあったのだが、それまでは主に『ロイヤルメール』がメインだった為に今一つ事業者の参入が鈍かったが、安全に早く届ける事に主軸を置いた『エアメール』へ儲けの匂いを嗅ぎつけた事業者や投資会社は我先にとチャーリーへ、鬱陶しくまびれ着いた。


 マックス8世が『ロイヤルメール』を作った時に、約20km置きに各領主に馬小屋を作らせて疲弊した馬と元気な馬を交換させれるように常時3頭の馬を待機させてた。

 その馬小屋をポストと呼び、いつの間にか駅と呼ばれる様になった。

 他の領主たちも、マックス8世に習って駅舎を作り書状を送らせ始めた。


 クリイム歴1740年頃から整い始めたエアボーン伯爵が作った有料道路網をチャーリーが利用し、馬車で書状を運ぶアイデアを出してから、郵便配達会社が駅から駅のステージごとのステイションを1社での運営を請け負い、郵便の利便性が大きく向上し、郵便の利用者が商人や学者という一般のミドル層へと拡大して行った。


 少し前よりも安く成ったがそれでも距離と書状1枚幾らと未だ未だ値段も高くはあるが。


 しかし、商人たちが利用を増やし手荷物も配達するようになると、ハイウェイマンという追い剥ぎ集団がチャーリーの懸念した通りに現れ出したので、議会に諮ってポストマン達に捜査と捕縛する権限を与え、乗馬して並走する護衛を2人以上つけるように郵便配送会社と各治安判事に通達した。


 自分達の管轄しているステージ内の道を知り尽くしているポストマン達は治安判事の要請に応えて、担当区域で揉め事を起した者達の捜査や捕縛へと協力した。

 ロドニアではノルディック・ヤードと言う市警察がロドニア市内の揉め事を解決していたのだが、ブレイス国内の他の自治体には無かったので、此れで地方ごとに居る治安判事の直轄で地方警察を作ることに成功した。


 ブレイス帝国では他の王国や帝国のように王命で「捜査機関を作れ!」等と命じても、各地主や領主の権限が強い為、作ることが難しかったが郵政業務が滞るように成ると各自治体の税収にも関わって来るので、治安判事も地方自治として警察の設置を勧んで行った。


 治安判事の元には、各市町村を守るための守備隊や民兵もいるので、それと連携させているようだ。

 チャーリーから出されたアイデアである郵便の意外な効能に私は頬を緩める。



 郵政局が出来てから約7年。

 現在多忙なチャーリーは、実質的な局長は副局長のオリバーに任せているが、王家の副収入を定期的に補填する為に、本来なら紋章を与えられる身分でないモノ達の紋章を、郵政局内に作った封蝋紋所で登録させ管理をさせている。

 登録料と年維持費で管理した紋章は公的な裁判にも有効にさせた。


 本来、紋章とは王から授けられたり、持つ事を許されたりするのだが、アッパー・クラスを模倣したがるミドル層たちは、郵便の発達により貴族やジェントリが封蝋に押す紋章が欲しくなり、議会へと請願を出していた。


 流石に議員達は自分達の特権を侵される事に成る為、紋章の保持は抵抗していたが、チャーリーは「あくまでも封蝋がメインであり、議員の皆のように王家から認められた正式なモノでないので、年会費と言う名の税を支払って貰うだけ。」と言う詭弁を知人の議員から説明させ、裁判で扱う事の了承を貰った。


 こうして紋章の棲み分けが出来、(やが)て商用で扱う書類には種類別のスタンプが出来、国庫へと治める税を徴収し易くなった。


 実は意外に多い税収で大蔵省の官僚に感謝されているのをチャーリーは知らない。



 私は、チャーリーの事を想いながら、サザンローズ・インの開いた木製の扉の中へと入って行った。


 





 

 



  「待たせて申し訳なかったね。ウルフ・カーン議員。」


 私はそう告げて、カーンが座っている向かいに置かれた背凭れの無い丸い椅子に腰を下ろし、気忙し気に茶の丸い瞳を動かしている彼を見た。


 「いえ、匿って下さると言うトリスタン氏からの伝言を聞き、こうしてクランベル伯爵を頼って来て居る身ですから、お気になさらず。それと私はベルフ首相に罷免された身ですから、もう議員と呼ばれるのは。」

 

 「まあ、そんな権限はベルフ首相には無いけどね。クローバー州で選挙を行う為の活動でカーン氏、貴兄は目立っていたから、ヒット中将の意見をベルフ首相は受け入れたのだろう。革新派のリバティ党議員で或る貴兄がクローバーの独立に絡んでたとなると彼の後援者(スポンサー)から批判も来るだろし、クローバー北部を治めていた地主からも突き上げられているからね。」


 私は疲労の濃く浮かんだウルフ・カーンにそう話し、着いて来た従者のハリスへ階下の酒場からエールを持って来るように命じた。



 ブレイス帝国からクローバー島に渡るには船が必要なので、船員としてクローバー北部にトリスタンを潜り込ませて彼の仲間たちと共にクローバー内の情報を得ていた。

 クローバーとノルディックは、クローム将軍時代からの懸念事項だったので、ギルバート2世を議会が追放してからはクランベル家で人を送りみ、密かに旧教の保護に動いていた。



 面倒な話だが、マックス8世も初代クランベルも旧教徒なのだ。

 後継問題と国庫の危機があったから、苦肉の策で初代クランベルとマックス8世が創り出したブライス国教会なのだ。

 結局、議会は国教会を支持し続けて、それを利用する形で歴代の王族も信仰の主軸に国教会を置く事に成ったが。


 王が信仰の最上位にあると規定したが、中身は旧教徒で或ると言う矛盾の中で、クランベル伯爵家は続いて来ていた。

 父の代辺りで、その捻じれた苦痛が可成り軽減されて来たようで或るが。

 運良くか悪くかは判らないが、私はチャーリーに出会うまで感情と言うモノが薄い人間だったので、クランベル家歴代記は情報としてしか頭へ入って来なかった為、アンビバレントな信仰の悩みは起きなかった。


 歴代のクランベル家当主から役割を託された分家の皆が、それぞれ懸命に神を裏切った過去の罪を贖っている。


 そう言う中で、クローバーとノルディックの独立問題が起き、注視して貰って居るとクローバー住民たちにカリスマ性を発揮するウルフ・カーンの存在の報告が私にあった。


 クローバー共和国に成り選挙が実施されると、ブレイス帝国議会から本格的な鎮圧の命を受けて、ベンジャミン・ヒット中将の苛烈な攻撃が実施された。

 ブレイス帝国本土に住むクローバーの地主達が議会で早急な事態収拾を嘆願したのだ。

 クローバーの地主と言っても、クローム時代を経てクローバへと移ったブレイス民で或る。


 クロームと同じ様な真の純教徒は、クローバーへ移ったモノには少なくクロームが亡くなり、議会が復古王政に戻し、クロームの死体がロドニアの入り口の壁に晒されると復活した国教会へと改宗した者が多かった。

 その浅ましさを帰国したクランベル3世は嘆いて記していた。


 此の頃から、クランベル伯爵家のモットーが『危険は最小に』となったのだがね。

 クロームに息子たちは居たが、強権的な専制政治にジェントリや資本家はウンザリしていたので、適当な理由で議会に始末された事が、クランベル家のモットーを産み出したのだろう。



 そして自称クローバー民である地主達に後押しをされて、目立っていたクローバー国独立派の人々を殺したり、家族も含めて収監したりしていった。


 私はアルバート5世へ多くのクローバー民たちからの憎しみを煽る必要が無い事を告げ、議会にクローバー民を審査し、陛下に忠誠を誓えないモノを国外へ出させるように提案した。

 多くは救えなかったが、幾人かは既に北カラメルへ脱出させる手引きは済ませて於いた。


 そして、ヒット中将から指名手配されたカーン氏とその仲間である2人の元議員を匿い、私は彼を北カラメルに出国させるべく一通りの手続きを済ませることが出来たので、ラムズ川の船着き場近くに或るサザン地区の駅舎へ出向いたのだ。


 私はハリスが運んで来たエールが入った木製のジョッキを持って、様々な思いと共に喉に流し込み、ウルフ・カーンへと話し掛けた。




 「それで貴兄には、北カラメルの植民地ノバポルテへと行って貰いたい。既にケイ議員とルーカン議員は、貴兄の家族とノバポルテ植民地領へ共に向かっている。」


 「ケイとルーカンは無事だったのですか?クランベル伯爵。家族は大丈夫だとトリスタン氏から伝えられていたのですが。」


 「ああ、他5人の議員達とは接触出来ていないけどね。探してはいるけど、余り期待はしないでくれ。」


 「そ、う、ですか。しかしクランベル伯爵、この度は有難う御座います。」

 「いや、礼には及ばないよ。貴兄には遣って欲しい事が在ったから匿って居ただけだからね。」

 「ブレイス帝国から追われている此の私にですか?」

 「ああ、実はノバポルテ植民地にクローバー民達を移民させているのだが、其処を統括する現場指揮官が必要なんだよ。政治を知っているね。」


 私は、其処で言葉を切って、息を飲むウルフ・カーンへエールを薦め、説明を続けた。



 ノバポルテ植民地の北東に隣接しているもう一つの植民地は、クローム将軍に侵攻され逃れて来たノルディック王国民やクローバー民の一部が住んでいる。

 そして北にある川を挟んでフロラル王国の植民地であるカステラの大地が或るのだ。

 チャーリー流に言うならば、クソ面倒な植民地ノバポルテ領地で或る。


 オマケに移民はブレイス人を恨んでいるクローバー民である。

 下手な植民地総督を置いたら、反乱待ったなしに成り、フロラル王国に良からぬ野望を抱かせかねない。


 念願だったブレイスの北カラメル東海岸の全制覇を成し遂げたのに、足元を掬われて帝国議会も植民地を奪われたくないだろう。


 北カラメル東部移民傾向マップを見れば一目瞭然だが、フロラル王国の植民地カステラと接してた北部の領地には、純教徒やクエーカーと言う国王に忠誠を誓わない問題の或る移民達を置き、王家寄りで保守的な移民には、生産効率の高い中南部へと送り、砂糖や珈琲や煙草等を生産させていた。


 そう言う兼ね合いから、アルバート5世の息子達であるフレッツザハン5人兄弟の王家直轄植民地は、中・南部に置いて或る。


 まあ、クインシー少佐はイザという時に頑張って貰おうと、エスニア帝国の植民地と隣接しているクード植民地領へ入って貰って居る。 



 クローバー移民もノルディック移民も旧教なので、同じ旧教徒であるフロラル移民にも寛容であるため、下手に同調されてブレイス帝国の権益を侵されても困る。

 その為の微妙な舵取りをノバポルテ植民地で、ウルフ・カーンに行って貰いたかったのだ。


 北カラメルの植民地は、王領植民地と領主植民地と自治領植民地が或る。

 王領と領主植民地は王から任ぜられた総督が管理し、自治領植民地は国王から勅許を貰った会社が開いた植民地で会社が管理している。


 いずれの植民地においても植民地議会を持っていて一定の自治を認められていたが、その範囲はそれぜぞれの植民地の中に留まり、最終的な権限は総督を通じて本国政府が持っていた。

 総督は拒否権を持っているので議会で全て決まる訳では無い。




 「クローバー州で共和国を目指し、貴兄自身も議員を遣っていたのだからノバポルテ植民地領でも遣れるだろう。貴兄が総督を引き受けて呉れるなら指名手配は解除される。ただ名前は変えて貰うけどね。流石に指名手配犯の名前でノバポルテ自治領植民地総督にする訳にはいかないからね。」


 私は躊躇いがちに質問を重ねるウルフ・カーンへ答えていった。

 

 クローバー北部の意見を訊き入れた議会は、一段と厳しい審査法をクローバー州の旧教徒へと課すだろう。

 新たに増えたブルジョワ達の土地を求める熱意は強く、今回の独立運動に関わったとされ追放された領主たちの土地を得る為に、有力なブレイスの議員達へ寄付金という甘い飴を贈っている。


 幾ら事業で成功しても、此のブレイス帝国で領地を持たないモノは二流と見做される為、地主に成ると言うロマンを新たな富裕層の彼等は追い求めているのだ。


 クランベル伯爵家自体が成りあがって来た家なので、彼等の望みを笑う心算もないが、それによって引き起こされる旧教徒への新たな弾圧が想像されて、私は口の中に沸き上がった苦味をエールで流して飲み干した。



 その後、ウルフ・カーンから総督に為る了承を得て、彼の支援者でもあったギボンズの話を聴いてから、私は彼に新たな名を与えた。




 こうしてウルフ・カーンは、新たに『トマス・メイズ』に為った。




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