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ep52 説明プリーズ


【カイル・レスタード】



 

 ローゼブル宮殿で行われた叙勲式へ今回闘いに参加した多くの者が僕を含め招かれた。

 今回は、下士官や准尉にも陛下自ら叙勲したいと申されたそうで、ウォーカー1等軍曹やラリー2等軍曹やスミス准尉は、感動しきりだった。


 僕は大尉に昇進しちまったけど、フロラル王国の植民地クード州の建物と抑えただけで実質何もしていないのになと、アドミラルの昇進の怪を想うのである。

 しかしまあ、アドミラルティから認められたならウォーカー達3人にも士官への道が開けるので、僕も嬉しかったりする。


 陸軍と違ってアドミラルは労働階級でも運が良ければ士官と成れ、艦長に成れる道が或るので、こうやって無事に生き残れて評価されるってのは、苦難を共にした仲間として喜びも大きい。



 そして弟のケビンは少佐に成った。

 「勇敢足れ」つうアドミラルの心得通りにケビンは勇敢なのだろう。

 突撃、白兵戦って海賊みたいにケビンは他人の船へ襲い掛かるのが好きだからな。



 そんなケビンも確りと少佐に成ってしまって、僕はアドミラル内では艦長になるかも知れないアホのケビンに逆らえなくなった。

 でも僕は、もう士官としてアドミラルへ行く事もないのだが。



 王立外科医組合が運営しているライブリッジ・カレッジへ戻り、カッター博士から修行の続きを教えて貰い、僕は外科医として生きていくのだ。

 7年くらい前にアルバート4世陛下から勅許状を貰ったカッター博士は、チャールズ兄さんと共にの尽力され、外科医の専門校ライブリッジ・カレッジを創ったと言う話だ。



 20歳の時、その話をカッター博士から聴いて「流石はチャールズ兄さんだ。」と、僕は誇らしくなったモノだ。

 その切っ掛けになったアルバート4世陛下の汚いケツの話はスルーしたかったのだが、カッター師匠の話なので大人しくケツについての講義を拝聴して置いた。


 外傷を負った人々の事まで考えて動いていたチャールズ兄さんは、容姿ばかりでなく心も飛び切り美しいのだ。


 僕はチャールズ兄さんを誇らしく思いながらローゼブル宮殿の巨大なホールを出て、弟のケビンと共に久し振りにロドニアの実家へと戻った。



 後に成って知ったのだが、センターホールを抜けた通路の壁面には、チャールズ兄さんの半裸を描いたエルメール氏の目と心を奪われるような美しい作品が飾ってあったらしい。


 普段は自由に入れない、その場所に飾られたチャールズ兄さんを想って、僕がどれ程悔しがった事か。

 僕は悔しさの余り、思わず1人で身悶えてしまったよ。











             ※※※※※※※※※※






【カイル・レスタード】





  久し振りにテラスハウスの真鍮の柵を弟のケビンと通り、懐かしい階段を登って扉のノッカーを叩けば、主の居ない屋敷を執事のカールソンと彼の妻のリリーが守っていた。


 チャールズ兄さんはウエストカタリナ宮殿かクランベル伯爵邸だし、僕とケビンはポータスか軍艦に乗って海上だし、妹のデイジーはグリンジットハウスだし、末弟のアランはバカンスにもスタンダード・カレッジから戻って来ないし、母さんはカステル議員たちと華龍帝国へ向かったまま、4年近く為るのに未だ戻って来ない。


 僕としては、旅に出ていて呉れている方がチャールズ兄さんはリラックス出来ているので、母さんには東アーシアに留まって居て貰いたいと考えている。


 僕やケビンに対して、母さんは其処まで気にしないのに、チャールズ兄さんの遣る事成す事が腹立たしいようで、厳しい口調で注意していた。

 ソレを聴くのが嫌で僕も此の家に戻らなかったりした。


 母さんが変わったのは父さんが亡くなってから、、、と、考えていたが、父さんはチャールズ兄さんがシーズン中、屋敷に滞在している間は、自分の傍から離さなかったのを思い出した。

 父さんが亡くなり、僕がプライベート・スクールを出てから、父の遣っていた事とチャールズ兄さんが手伝っていた内容を知ったけど。


 チャールズ兄さんは、もう少し僕を頼って呉れても良いのにな。



 

 春の日差しが窓から差し込むパーラーで、僕は亡くなったエルザ姉さんが作った見事な薔薇の刺繍を施したクリーム色のテーブルクロスを見つつ、簡素だが座り易いダイニングチェアーに腰を下ろして、斜め前に座る弟のケビンを見て口を開いた。


 「ケビン、話って何だよ?」

 「久し振りに此の屋敷で向き合ったのに、行き成りだよな、カイル(にい)。」


 「だってケビンからの相談て碌な事じゃ無い気がするんだよ。お前って大抵は相談する前に行動するだろう?」


 僕はそう言って室内に居たカールソンにハーブティーを頼んだ。

 初めてケビンとポータスの湾岸へ行った時も飛び込んでから僕に助けを求めるし、士官学校の試験も僕に相談する前に母からミルトン校から退学の許可を貰って、一緒に試験を受けるってゴネるし、幼い頃からの些末な迷惑を思い出すと、悪い予感しか思い浮かばない。


 ダイニングテーブルに並べられた4つの椅子と、ケビンが座った壁際の3人掛けのソファーを僕は眺めて溜息を吐いて見せた。

 通りに面した南側の窓から淡い黄色の光が長閑な顔をしたケビンを照らしていた。



 「いやあ、全く持って、その通りなんだけどさ。カイル兄は、もう少し優しくオレに尋ねても良いと思うんだよ。オレも反省はしているカモ知れないし。」


 「ケビンが反省?で、何を反省するって?」


 「あー、うん。実は女に子供を置き去りにされていてさ。その子達を育てて居て二年経つし、正式にオレが引き取ろうと思ってね。オレが帆船に乗ってウロツイテいる時、オレに万が一の事が遭ったらショーンたちの事を頼もうと思って。」


 「はあぁぁー?!ちょっと待て、その女と子供とケビンとの関係は?」


 「女、、、ああマリアは娼婦で、オレは客。マリアは全員オレの子だと書置きして居たけど、ショーンは年齢的に在り得なくて、ケントは微妙?末っ子のデニーは年齢的には在るかも知れんけど、容姿的には違うと思ってる。まあ、3人ともマジで兄弟か?って位に似て無いけどな。其々の父親の血が濃いんだろうなあ。」


 「はあ、意味が分からないよ、ケビン。お前は何を言って居るんだ?僕にも解るように、頼むよ、ケビン。僕に説明プリーズ。」


 「あはははっ。」


 ケビンは屈託ない笑い声を発して、僕に説明とも言えない説明をした。


 娼館以外で個人的に会っていた娼婦マリアが2年前に3人の子供を残して家出。

 子供等にエサを与えたら情が湧いたので、ケビンは母親のマリアが帰って来る迄の心算で面倒を見ていたら音信不通の侭、2年の月日が過ぎたと言う事らしい。


 年長のショーンは7歳になるし、次男のケントも5歳に成るので教区に届けて戸籍を作り、国教会運営のグラマースクールへ行かせる心算だとケビンは僕へ明るく話す。

 初めは家庭教師を就けようかと考えたらしいが、ケビンは余り熱心な信徒でないので教会で教わった方が良い、と子守をさせていたナニーに言われ、その助言に従う事にしたらしい。


 僕もそうだが、一度船に乗ると任務が終わるまで家へ帰れないので、幼い子供の教育などは出来ない。


 まあ、家へ帰れていたとしても、ケビンに子供の教育とかは無理だろうしな。

 アホだし。



 

 「いやー、デニーは乳飲み子だったから、オレも如何しようと思ったけど、時間の或る時にミルクタンクをしてくれる人を紹介して貰えて助かったよ。なんとか無事に生き残ったしな。」


 「ミルクタンクってケビン、、、。」

 「養子には出来ないしなあ。オレはしても良いけどチャーリー兄さんに面倒を掛けそうだしな。一先ず浮浪児じゃない事を証明して置けば、浮浪児狩りの奴等にも狙われないだろ?」


 「まあ、身綺麗にして置けば大丈夫だろ。ただロドニアの中心街と違って港町のポータスは治安が悪いからな。全くさ、捨て子院に預ければ良いのにケビンは。母親のマリアが戻って揉めたりしないよな?」


 「それがあるから、養子にしてないんだよ。マリアが戻って来てショーンたちが暮らしたいと言ったら、教区に登録するだけなら再び暮らせるだろ?それに面倒見るだけなら子守も雇ってるし、オレに給金と報奨金もあるから、ゆとりが或るしな。でもイザとなったら小金持ちに成っているチャーリー兄さんに頼むけどな。」


 「馬鹿な事を言うなよ。ホントにアホだな、ケビンは。面倒見る前に僕に相談して呉れたら良かったのに。しかし、あの娼館なら僕やケビンの顔見知りが父親の可能性もあるだろう?アドミラルの連中も通って居るんだから。」


 「ああ、確かにな、ふっはは。」



 気楽にケビンが笑っている所へカールソンがカモミールティーを運んで来た。

 それをケビンと僕は口に含んで、喉の渇きを癒した。


 ケビンの此れって相談て言うより、報告だよなあー。


 ケビンに教区のグラマースクールを勧めたナニーはショーンたちの生れを知って、家庭教師を引き受けて呉れる人材は見つからないと踏んだのだろう。

 男の子を教えるチューター達は、金銭は勿論だけど将来のステップアップも目論んでいる訳で、養子なら未だしもショーンたちではキャリアに成りそうに無いからな。


 ケビンがレスタードの名を有効に使える才覚が有れば別だが、そんな器用な奴ならそもそも自分の子でも無いないのに、面倒を見たりしないしね。


 「だけどケビン、一応はチャールズ兄さんへ報告して置いた方が良いぞ。僕に対してもそうだけど迷惑かけたく無いなら、問題が起きる前に話して於いて呉れた方が良い筈だよ。予め分かっている事に対しては、チャールズ兄さんも対応出来るからさ。僕がポータスに居れたら良かったのだろうけど、外科医組合のライブリッジ・カレッジに通うからロドニアに戻るしな。」


 「うはっ、そうだったな、カイル兄。うーん、仕方ねーな。」



 ケビンは、式典の為にウィッグを被り易いように短く刈り込み過ぎている胡桃色の髪を軽く左右に振り、左手を頬に当てポリポリと掻きながら、ライトグレーの瞳を瞬かせ困った表情を僕に向けた。

 仕方ねーな、じゃ無いのだよ。


 僕は、チャールズ兄さんに対するケビンの物言いに腹が立って来て、考えなしのケビンの行動へ文句を言った。

 今までの行動をキッチリと順番に。


 胡桃色の眉を八の字にしてケビンは情けない声で僕に謝りながら、扉を開いてパーラーからそそくさと出て行った。

 殊勝な事を言ってもケビンの行き先はどうせエールハウスなのは分っているのだよ。

 僕は息を大きく吐き出して、カールソンにジャスミンティーのお替りを、力無く呆れた声で頼んだ。


 やっぱりケビンの相談は碌なモンじゃなかった。









           ※※※※※※※※※※





【デイジー・レスタード】


 

 全く懲りもせずに。

 私は、コーデリア殿下の部屋から戻り室内に入って見ると、部屋の中が雑に荒らされていた。

 グリンジットハウスはメイドや小間使いが多く、宮廷でも無いのに女官も衣装なんたら女官、化粧女官、寝室付き女官やコーデリア殿下付き女官などなど。


 数多くいる人達の中で、こう言う稚拙な悪戯をするのはメイドや小間使いだろうな、と私は不機嫌になりつつ、メイドを呼んで片付けさせることにした。

 物も盗まれている事も或るので、出入している商人に敢えて不人気な小物、流行から外れたデザインのチーフやリボン、レースなどを持って来て貰い、置くように成った。

 コーデリア殿下から下賜されたモノや大切な物は、グレイス公爵令嬢の部屋へ避難させて貰っている。


 一応は、チャールズ兄さんが伯爵でも或るのに妹の私が狙われるのは、狙い安いと言う判り易いモノ。

 元は、メイドや小間使いと変わらない労働階級の癖に、たらしのチャーリー兄さんのお陰で成り上がっただけなのに、コーデリア殿下付きの侍女を遣らせて貰っているから。


 全然、貴族令嬢らしくないって思われているのだろうなって分る。

 まあ私自身が貴族令嬢に成った心算も成れた心算も無いのだけども。



 一応は淑女教育もエルザ姉さんたちに教えて貰ったけど、一介の商人の娘だしグリンジットハウスに上がるまでは節約生活だったから、生まれながらの上流階級の方々とは当然違いますよ。

 そう言って文句ばかり言っても仕方ないので、グレイスやリアナ達の時間が空くと仕草や言葉遣いをチェックして貰って居る。


 グレイスやリアナと3年以上の付き合いに成り、互いに名前を呼び合う気楽な交流を続けていると砕け過ぎた会話に為ってしまうので、私は時々気を引き締めていた。


 でもコーデリア殿下が「私も3人のような会話をしたいわ。」って、仰るので公でない場所では素の自分で話してるのよね。

 駄目じゃん、私。

 グレイスやリアナは砕けた空気で話して居ても話し方に品が在るのよね。

 羨ましい限り。


 よく考えたらコーデリア殿下に公でない場所って皆無でした。

 いつも誰かが居るし。


 私やグレイス、リアナはコーデリア殿下の周囲に多い自由主義者の方々のノイズから、殿下をお守りする為に傍へ付けたとクランベル伯爵は話していた。

 女官の方々は、貴族やジェントリ階級の子女の筈なのに、階級制度を批判している自由主義を標榜して大丈夫なのか、と私は心配になって来る。

 私や労働者階級であるメイド達が自由主義を応援するなら分るけど。


 チャーリー兄さんなんかは、未だに早く爵位を返したいって私にボヤいて居る位だし。



 「マジもんの人達は、本当にヤバいから。」


 そう貴族の方々を呼ぶチャーリー兄さん。

 何でも二つ作られた海運保険会社は、貴族の方々が珈琲ハウスでどの船が沈むどうかを賭け合っていたのを纏めて仕切る人が現れて、保険会社にしたそうだ。

 難破の多い帆船へ投資して、無事に戻って来たら儲けは山分け、沈めば大損、無事に商船が帰って来たら莫大な富が齎される。

 暇を潰すエキサイティングな最高の娯楽だとか。


 

 「不謹慎な」って私が言ったら「賭けは神の采配だから神聖なものだよ」と真面目な顔でチャーリー兄さんは語っていた。

 その後は噴き出して笑うのだけども。


 でもまあ、そう言う神聖なモノだから事故に遭わない為のデーター集めとかも学者の人達を雇って真剣に頑張って貰ったり、計算させたりして学問も新たに出来たりもするそうだ。

 勝つか負けるかで、審判で勝利を齎されるよう人事を尽くす。


 私は「マジもん、ヤバい」って言っていたチャーリー兄さんの言葉が理解出来た。



 「俺って根っからの労働者階級だから、そう言うアドレナリン過多な人生は送れないのだよな。」



 でもそう言うチャーリー兄さんの周囲には、アドレナリン過多な方ばかりが集っているのを知っているかしら?


 私は、チャーリー兄さんが綺麗な顔を曇らせ情けない表情に変わる様を想像して、クスリと笑いを漏らした。


 嫌な事が遭ってもチャーリー兄さんの事を考えていると気分が軽くなって来る。

 我が兄ながら得難い人だとつくづく実感する。


 まあ、あそこまでの美貌は不要だと思うけどね。

 此れは私のジェラシーじゃないから。

 だってチャーリー兄さんの悪評って男に見えない位綺麗だから言われているのだと思うの。

 妹としても女としても自分より綺麗な男ってどうなのって思うわ。


 

 自慢の兄だけどね。

 悔しいから絶対に私は口にはしないけども。



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