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ep50 個人レッスン




 昨年、アルバート4世の12女で或るレイチェル様が希望していた修道院ぽい女性オンリーなコレッジ制の学院が、ローゼブル宮殿の敷地からラムズ川まで繋ぐグランド運河、通称アルバート4世(フォースとも呼ばれている)運河で結ばれたロイヤル・パークに完成した。

 


 元々マックス8世が旧教である修道院から奪った広大な荘園を王家直轄地にしていたけど、宗教革命時にクーロム将軍がロイス卿へ売り払い護国軍への報酬へ充てた。

 その後、リースしていた土地は、混乱していた国内でジェントリや富裕層の手から転々と移り、アルバート1世に成ってから徐々に権利を回復して行き、アルバート3世の時に最後の土地使用権利者の1人ポーラルト公爵の契約が切れるのを待ち、王家の権利が回復してからメリルパークをロイヤル・パークへと改名した。


 そして始まるアルバート4世の田園風景の公園化計画。


 ざっと166ヘクタールも或るんだよ。

 ボート遊びも出来る池も造っているし、ブレイス式庭園やグロリア式庭園と様々庭園を造り、『田園とは?』と言う俺の疑問などアルバート4世は蹴飛ばし、野外劇場なども造りやがった。

 約3万本以上の薔薇も植えられ見事な薔薇園にも成っている。


 外周道路『アウターサークル』と内周道路『インナーサークル』が設けられていて、そのインナーサークルの南側に、レイチェル様のコレッジが或る。


 重厚な作り空気を漂わせるマンサール屋根に赤味の強い煉瓦と白い窓枠で縁取られた壁と言う古典主義様式の屋敷があったので、丁度寮にしようとしていた事もあり、コレッジ制にした。

 新たな礼拝堂が立ったのに、金蔓ホイホイ、基、宿泊施設が出来るのが遅いと協力を依頼した聖職議員たちに文句を言われたけども、言い訳をさせて貰えば建物自体が100年近く経過しているので、補修をしていて開くのに時間が掛った、、、デス。


 つうか、それって俺の所為じゃ無いよね?


 でもって、アデル皇后やコーデリア殿下たちのお茶会等で宣伝して貰って居た。


 『牧師様とロマン語で静かな庭園で聖書を学ぼう。』

 序に同好の士と共に慈善活動を始めよう。


 「婚姻するより心が癒されるかもよ?」って、婚姻しているアデル皇后と此れから是が非でも婚姻せねば成らないコーデリア殿下たちが、淑女たちと楽しい会話をすすめて呉れた。

 

 俺は3名くらいでも集まれば、まあレイチェル様も満足するかなって思っていたのだけども、申し込みが27名も来て、慌てて申し込みを締め切って貰った。


 何?

 淑女の皆様は、そんなに婚姻したく無いの?

 「私もレイチェル様のコレッジに入りたいわ。」と言うコーデリア殿下の戯言は、スルリと俺の耳を通り抜け、聞こえなかったモノとした。


 その中の2人が莫大な遺産を得ていた未亡人たちだったので、聖職議員達は大喜び。

 申し訳ないけど修道院じゃ無いから、院へ入られ亡くなられても、彼女たちの遺産は手に入らないよ?


 彼女たちは社交から離れて静かに余生を送りたかったらしいのだけど、下手に資産を持っている分周りが放って於いて呉れないらしく、逃げ込むつもりでレイチェル・コレッジへと入るとか。

 まあ、寮と言っても昔の城なので、優雅に滞在は出来ると思う。

 其処ら辺は上流階級の金持ちに慣れている聖職者たちにお任せしよう。


 一応は純利益の6割は、アルバート王家へショバ代として流して貰えさえすれば、細かい取り決めは国教会とレイチェル様で話し合って下さい。

 6割ってボリ過ぎじゃね?

 って、議員たちにも言われたけども、庭園管理に掛かる維持費が大変なのだ。

 と言う事らしい。

 陛下とクランベル伯爵の談によるとね。



 俺の愛人ナタリー・ケット嬢と使用人一味は、メリル・パレス改めレイチェル・コレッジに鞍替えし居を移してお引越し。


 ナタリー・ケット嬢は、レイチェル様に仕えて貰う秘書として、クランベル伯爵から俺への噂用も兼ねて、用意されていたのだ。

 そう言う訳でナタリー・ケット宅で、俺は愛ではなくロマン語を教えていたのだ。

 然も背後に使用人一味も居たので、愛の個人レッスンなど夢幻(ゆめまぼろし)な話。

 マジで夢想すらしなかったよ。


 使用人一味もナタリー・ケット嬢と一緒なのは、予想を遥かに超えた入院人数だったので、急遽、コレッジ・サーバントとして手伝って貰う事に成った。


 なぜ、一味と俺が呼んでいるのか。


 ナタリーは、葉巻屋を営むケット氏の娘という事に成っているけど、養女だったんだよね。

 でもって一味はナタリーと同じクランベル・ホーム(=捨て子院)の卒院生で、あの屋敷で家事使用人トとして修業中だったのだ。

 見込みのある人間へのアフターフォローってクランベル伯爵は笑っていた。

 まあ、選別とかは執事のキースたち任せらしいけど。



 クランベル伯爵領の方では、教区で遣っている国教会のプレ・グラマースクールで優秀な子供や、職人や商人から推薦された勉学を遣りたい子達に支援しているのだ、とクランベル伯爵は話していた。


 教会が運営しているグラマースクールは無料だけど、庶民は6歳位に成ると親の手伝いや見習いとして働き始めている子が多いので、そもそも学校へ行かせて貰える子が少ないらしい。

 其処で、そう言う制度を領地で設けて、クランベル伯爵は優秀な子供を拾い上げていると言う。


 宗派関係なく入学が出来る古い歴史を持つクランベル家のプライベート・スクールも運営させているそうだ。


 「持てる者の義務ですか?」

 「いや、将来私の役に立ちそうな人間を育てているだけだよ、チャーリー。」



 そう言って静かに語ったクランベル伯爵が俺の目には、とても素敵な人に映って見えた。




 

 集まった女性は、例の2人の未亡人を除いて23歳~30歳と実に美味しそうなお年頃だけども、聖職者以外の男性はレイチェル・コレッジの敷地へ立入禁止なので、当然俺は入れない。

 外出は、基本的に三日前に寮長に届けていればOK。

 食事の問題があるからね。


 いつ出て行っても良いけど、入所金は返却されないけどね。

 俺は明朗会計にしたかったけど、クランベル伯爵が「其処は寄付金にして置きなさい。」って言われたので、皆様の気持ちを受け止めることにした。


 そして、独身女性の皆様のドデカ過ぎる気持ちに俺は恐れ戦くのである。

 貴族やジェントリ階級の子女達は凄い金持ちだったんだなー。


 「親の対面もあるし、持参金替わりじゃないかな?」


 平然とした面持ちでクランベル伯爵は、金額を聴いて仰け反ってる俺を尻目にそう言った。


 ビジネスの言い出しっぺは俺だけども、すかっり悪徳商人になってしまった気分だ。

 父さん、御免な。


 いつも正しく在ろうとしていた父の厳しい眼差しが脳裏を過り、俺は小さく詫びていた。













           ※※※※※※※※※※





  今日は一月(ひとつき)に一度の娘達との面談日。


 クランベル伯爵邸にいる俺の元へ、4歳のソフィアと未だ男として機能していた頃、どさくさで出来てしまった今年2歳に成るシャロンが訪れている。

 後からシャロンの事をメイから聞いて、俺は「しまった」と舌打ちしそうに成ったけど、今にして思えばソフィアに妹を産んで呉れていて良かったと、妻のジュリアには感謝している。


 叔父の負債を3万ポンドも背負って父が亡くなった時、未だ学生だったカイルやケビン、幼かったデイジーやアランが居て呉れたから俺は頑張れたと思うし、妹が1つ年下だったエルザだけだったら母を連れて無理矢理にでもロドニアを逃げ出していたと思う。


 そして俺の事だから結局は上手く逃げ切れず、逮捕されて借金が返済される迄は、植民地を開拓するか鉱山勤めかの強制労働の刑に服していたと思う。

 借金の不払いに関してはブレイス帝国って罪が重いんだよな。

 つうか、ギャンブルの借金からも逃げられないし。



 でも兄弟が居ると何とかしないとって腹が括れるんだよな。

 少しだけ心が強く成れる。


 まあ、俺だけかも知れないけども。



 ジュリアを再婚し易く身軽にする為、俺が「ソフィアやシャロンを引き取っても良い」と話すとジュリアは「子供を手放す気はない」って怒って答えられたので、俺はジュリアが再婚する迄は、こうして子供達と会える事に成った。


 そして、ジュリアから「ソフィアたちが年頃に成ったら、私達が別れる本当の理由を伝えましょうか?」と尋ねられた。


 シンキングタイム、、、。


 『親父が不能に成ったから離婚した。』


 オア


 『親父が浮気したから離婚した。』



 俺は、「浮気の侭でお願いします。」とジュリアに頼み込んだ。


 一応ね。

 マジでジュリアとHが出来ないモノかともう一度トライしてみたんだよ。

 四苦八苦小一時間、ジュリアも親身に俺へ協力して呉れてさ。

 微動だにピクリともしない、不動の我がムスコなり。


 ジュリアと俺は気まずく成って、「はっはっ。」って乾いた笑いを(ワザ)と漏らして、すごすごと下着を2人して身に着けた。



 人生って上手く回らないモノだよな。



 そんな事を想い出して居るとクランベル伯爵から借りた客間へジーンにエスコートされて、乳母のロージーに抱かれて金の巻き毛を桃色のリボンで巻いているシャロンと、メイに手を引かれてゆっくりと照れながらソフィアたちが入って来た。


 俺はソファーから立ち上がって側まで歩いて行き、ソフィアを両手で抱えて抱き上げた。


 「いらっしゃい、ソフィア。そしてシャロン。」

 「おしゃまします。ぉとーさま。(=お邪魔します。お父さま。)」

 「うっ。ととー。(=挨拶?なのか?)」


 俺は2人に話しかけてながら、壁に寄せた3人掛け用のソファーへソフィアを腕から降ろして座らせ、乳母のロージーにはシャロンを抱えた侭で腰を掛けて貰った。

 2人共俺に似た金の髪にジュリアの綺麗なエメラルドグリーンの瞳を譲られ、愛らしく燥いでいる様子は、誰が何と言おうとも天使たち其の侭だった。


 ソフィアやシャロンの祖父に為るエルメールが生きていたら、どのように2人を描いて呉れたのか、見て見たかった気もする。

 重厚な影から溢れる光が神話をモチーフにした変人エルメールの作品を華やかに彩り、見るモノに崇高な思いを抱かせた。


 変なオッサンだったけど、アルバート4世が気に入るだけあって、どの作品も素晴らしかった。

 但し、無理矢理に俺へ似せていた絵は除く。


 ジュリアを描いた作品は俺が欲しがった一点を除き売れてしまったけども。

 その絵は俺も暮らしていたジュリアたちのテラスハウスに或るパーラーに飾ってある。

 読書をするジュリアの横顔が余りにも素敵で、義父に成ったエルメールに「欲しい。」と強請ったモノだった。


 ジュリアは、苦労をさせられ過ぎた父エルメールをマジで嫌って居たりした。

 俺は、エルメール氏から貞操の危機を偶に感じていたので、姿を見掛けたら逃げ出していた。

 「父は欲望に忠実で」ってジュリアは言って居たけど、俺に許容できる範囲を超えていた。

 家に招いたあの日、ジーンが居て呉れたお陰で俺は大切なナニカを失わずに済んだのだ。


 エルメール義父さんが生きていても、俺の娘2人には会わせたくないなと、俺は改めて思い直した。


 まあ、エルメール氏の工房で働いていた弟子たちは、皆それなりに評価され、アルバート5世やコーデリア殿下の肖像画家として任命されているので、誰か若手の画家を紹介して貰って娘達を描いて貰おうと想い付いた。


 描いたソフィアとシャロンの絵は、俺が滞在させて貰って遣っている部屋に飾ろう。


 

 俺は、一所懸命に話し出すソフィアの言葉を聴きながら相槌を打ち、ジーンが運んで来た焼き菓子とキャンディーを並べた銀色で縁取られた絵皿を2人に差し出した。

 そして2人にホットミルクをメイとロージーに飲ませて貰い、俺は行商人から譲って貰ったチャップブック(=安本)の『眠り姫』と『長靴をはいた猫』を読み聞かせた。


 フロラル王国の作家が書いた物語なのだけど、魔法使いや妖精が出て来る話が多くて楽しいのだ。

 教会からは宗教的観点から『妖精物語(フェアリーテール)』は、宜しくないと言われているのだけども、此の国の伝承や昔話では多く妖精の話が出て来る。

 きっとブレイス人なら、ファンタジーは大好きだろうと思っている。


 難点を言えば、チャップブックなので、もう少し質の良い絵を付けて印刷したモノを、ソフィアやシャロンにプレゼントして遣りたいなと俺は考える。


 腹がくちくなって瞼が重くなったのか俺の身体にソフィアは凭れて来て、時折舟を漕いでいた。

 シャロンはロージーの腹に顔を付け、寝息を立ててフェアリーテイルの世界で遊んでいるのだろうか。

 まあ、シャロンでは物語を理解するのは未だ無理かな。





 あんなに賑やかだった客間は、気が付けば可愛らしい天使たちの寝息だけが響いていた。


 俺は、ジーンとロージーに家に連れて帰る事を静かに告げて、ソフィアをそっと抱き上げて、扉へとゆっくりと向かって歩いた。



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