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ep49 ノーシンク




【ケビン・レスタード】 


 2人の兄、チャーリー兄さんとカイル(にい)、そして妹デイジーからアホだのバカだと言われていたが、オレもマジでバカだと思うよ。

 如何しようかな。

 まじで。


 まあ、オレは感じる儘にしか動けないけどな。






 クインシー大尉が乗って拿捕された戦列艦と違い、オレたちの小型のスループ艦はエスニア艦隊の拿捕を逃れてなんとかブレイスの港へ帰港した。


 74門級のアルミテス戦艦は、エスニアから戻って来ないだろうが、司令官を含めたクインシー大尉たちは、ブレイス帝国が身代金を支払えば皆無事に帰って来れるだろうと、俺は結論を出して気にも留めずに帰国してロドニアに或るアドミラルティ(=海軍本部)へ報告へ行った。



 オレたちがクード海沖でエスニア艦隊との睨みあいを終え、サウスカローナに或る補給地へ戻ると、インナーシーを東へ進み南グロリアへ向かえ、と言う指令が届いていた。

 オレは、「危険だろ。絶対ヤバい」と思い、乗り込むスループ艦のドレーク艦長へボヤいて、ドツかれたコトを思い出した。


 結果は案の定だった訳だが、敵の本国エスニア帝国の或る海域を身軽な6隻で航行するのは、矢張り無謀過ぎたのだ。

 軍全体の指揮を取っていたヒット中将の命令を、アルミテス艦隊に乗っていたトラスケート提督も良い迷惑だ、と思っっただろう。

 オレなら連絡船で届いた命令書なんて無視するけどな。



 つうか船員、主に慣れた水兵が長過ぎる戦闘機関の所為で、足りな過ぎたのだ。

 艦隊が在っても水夫が居ないと船って動かないんだよ、当たり前だけど。

 此れだから陸軍出の総司令官は使えないとオレらアドミラル側から言われるんだよ。



 でも、ベンジャミン・ヒット中将のお陰でアドミラルの予算が大幅に増えたらしいので、オレたちも文句は言えないが。


 しかし、後にヒット中将は、6隻で南グロリア近くの諸島の1つマイル島を抑えれる心算でいたのを知り、「無謀だろ。」って、オレらが愚痴るのを許してくれるよな。





 そしてオレより1つ年上のカイル(にい)は、王領予定のクード州への占領任務に就き、北カラメル大陸の陸地(オカ)へと残り、着任予定のクインシー大尉を待つようだ。


 近くウエストカタリナ宮殿では、クリイム歴1,758年から続いた戦いの祝勝会が催されるらしいが、招待もされてないのでロドニアのアドミラルティ(=海軍本部)から戻り、オレはポータス港に或る泊地の貸家で寛ぐことにした。


 それにしても、「本部をロドニアからポータスへ移して欲しい」と、オレはロドニアからポータスまで馬車で8時間以上掛か遠さに帰る道すがら思う。


 カイル(にい)は、未だにポータス軍港内に或る寮で生活し、律儀に小金を貯めていたみたいだが。


 オレはアドミラル士官学校で基本的な事を学び、指導教官からウザイと叩き出されたがスレイン・クランベル大佐から可愛がられて、ラッキーな事に海賊船遊びへカイル兄と連れて行って貰えた。


 スレイン大佐との海賊遊びへの参加希望者はメッチャ多いから役得だった。


 カイル(にい)と一緒に幾度か海賊船を拿捕して、報奨金でそれなりの金が溜まっても、カイル兄は「外で暮らすと勿体ない」と話す。

 カイル兄は、暗にオレが外で暮らすのを注意しているのだ。


 生真面目なカイル兄は質素倹約一路、人生を楽しんでいるのか心配になる。

 そんなオレが楽しんでいるのか?と問えば、実家で暮らしている時よりは楽しんでいるって思う。


 まあ、カイル兄は基本、チャーリー兄さんが居れば天下泰平か。



 スレイン大佐と拿捕した時の船やお宝はアドミラルティが陛下に売却して、一緒に居た皆と山分けして貰い、オレとカイル兄は余裕の或る生活を過ごせていた。


 一応は、取り分の配分は決まっているので揉める事は少ない。

 建前的には陛下に拿捕した船などを献上して、査定した金額を報奨金として、拿捕に参加した船員や将官へ海軍主計長官から渡される。

 指揮官は8分の1で、艦長は8分の3、士官は8分の1、準・下士官も8分の1、兵は8分の2とかで、身分に依る多寡は当然あるが、戦闘中其処に居た全ての艦に配分されるので、美味しい商売だ。



 折角の報奨金をカイル兄は、律儀にチャーリー兄さんへ献上しようとしていたが、アッサリ断られていた。


 「気遣ってくれて有難う、大丈夫だからカイルの将来の為に貯めて於きなさい。優しくていい子だな、カイル。」


 そうチャーリー兄さんに褒められて、幸せそうに照れ笑いする極度のブラコン・カイル。

 チャーリー兄さんが、オレたちからの金なんて受け取る訳がない、と思っていたオレの予想通りの展開だった。


 俺が実家に戻りたく無いのも、一つ上のカイル兄が鬱陶しい位に、チャーリー兄さんを崇拝している所為も或る。

 もう1つは母さんかな?


 カイル兄は、実の兄であるチャーリー兄さんの容姿の完璧さをオレへと縷々語る。


 其れを聴く弟のオレは、いたたまれない。

 全く、一番にオレと近しい兄弟がアレって如何なんだろ。



 大体、オレとカイルがアドミラルへ入ろうと思ったのも、母さんがデイジーとアランが生れたから男兄弟2人を見るのは大変と言い、バカンスシーズンにはポータス港の近くに在った父さんの知人宅へ預けられたのが切っ掛け。

そこで海へ行って遊んだり、軍港まで行って帆船に乗せて貰ったりして毎年過ごしていた。

 ホントは13歳に成ったら速攻でアドミラルへ入りたかった位。


 ポータスの軍港で2人して将来は海兵に成りたいねって話してたのに、カイルなんて忘れてるしなー。


 それにオレは小さい頃から身体を動かすのが好きだったし、理屈よりも先ず動いて確かめる性格だったから今の仕事は向いて居ると思う。


 一緒に行動していたカイルからは、「先ず考えてから動けよ、ケビン。」って、度々口煩く注意されていたっけ。

 オレは、カイルにくっついて行き士官学校を受けたらアッサリと合格出来て、身体も大きくて目立つせいもあるのか、カイルよりも早く出世しちまった。


 でも持て余していた苛々としたオレの焦燥感も、下士官の先輩に連れられて娼館通いするうちにスッキリ解消出来たし、あの侭で肌に合わないプライベート・スクールに通っているよりも、断然に正解だったと思う。


 質の悪い悪友に誘われてクラスメイト相手にヤルよりも気持ち良かったしなあ。




 そして、オレがカイル兄と違って貸家に住んでいる理由は、彼女と暮らして、、、などいない。

 ボケの自称マリアが子供を置いて逃げた所為だ。

 しかも3人。


 娼館で相性の在ったマリアとオレは、マリアのアパートで会うように成り、ある日オレに書置きを一枚遺して子供を置いて消えやがった。


 『ケビンの子よ。後は宜しくね。ーマリアー』


 一番上はショーン5歳、ケント3歳、デニー0歳

  (現在は7歳と5歳と2歳に育ったが。)


 嘘つけ、オレとマリアが知り合ったのって3年前じゃないか。

 5歳は、絶対にありえないし、3歳のガキも微妙だし、0歳のガキは、もしかしたらあり得るかも。

 そうオレがマリアの部屋で考え込んでいると5歳のショーンがポツリと寂しげに告げた。


 「ボクたち、捨てられたのですね。」

 「うん。」


 オレは、そう答えた後に駆け出して、普段世話に成って居た食堂へ行き、おっさん夫婦に母乳を出せそうな人と子供の世話を出来る人を紹介して貰い、取り敢えずその食堂で子供用の餌を分けて貰い、アパートに居るマリアの子等に与えた。


 猫でも犬でも人の子でも餌を与えたら駄目だよな。


 オレは情が湧いてしまい、気が付けば軍港に或るアドミラルのポータス事務所へ行き貸家を紹介して貰って、マリアの子供等と引っ越した。


 引っ越した理由は、環境が悪かったから。

 小一時間くらい遊ぶだけならマリアの共同住宅でも充分だが、寝泊まりするには臭い、汚い、五月蠅い、アル中が多過ぎと、こんなオレでも許せない問題もあるんだよ。



 オレがショーンたちを捨て子院へ連れて行けなかったのは、船底で死んでいった幾人もの雑役夫の少年たちを見て来たからだ。

 船の上で亡くなった彼等は海へと流される。

 12~13歳になると捨て子院から一月に満たない短い訓練を受けて帆船に乗船し、骨と皮ばかりの少年たちが雑役を熟し、戦闘に成ると甲板を裸足で走って、砲弾を抱えて弾薬庫と大砲まで往復するのだ。

 准士官や下士官、士官候補生の召使としても働き、夜の相手もさせられていた。


 流石に好きモノのオレでもやせ細った小汚い彼等に欲情したりは出来ない。

 つうか士官候補生の時はカイルと共にウンザリしていた。

 カイルやオレに就いた少年には、薄めたエールと残して置いた焼き固めた小麦菓子を与えて、少しの間を休ませていた。


 何とかして遣りたいと思っても、彼等が居ないと戦えないジレンマに、カイルとオレは溜息で誤魔化すしか無かった。


 それに13歳に成ると教区の捨て子院を出されるので、彼等も生きて行く為、軍艦に乗っている間は耐えるしかないのだ。



 オレは、情の湧いてしまったショーンたちを捨て子院にヤル気になれなくて、こうして衝動的に貸家住まいをさせて、既に2年。

 マリアのアパートの管理人に一応は子供を預っている事と住所を書いた手紙を渡していたのだが、連絡など梨の礫。


 戦争も一先ず終わったし、そろそろショーンたちを如何するか真面目に考えないとな。

 なんとなく勢いだけで2年間人を雇って面倒を見させていたけど、ポータスの家に辿り着いたらショーンたちと話をしよう。


 面倒で黙ってショーンたちを見ていたが、カイル兄が北カラメルからポータスに戻って来たら、今度は相談しよう。



 『だから、考えてから行動しろって何時も言ってるだろ!ケビン!!』


 カイル(にい)の呆れ果てた声がオレの耳に届いた気がした。

 『ノーシンク』オレは、馬車の中でカイル兄にそう告げてみた。


 『考えない』だって、考えても仕方ないだろ?


 『ドント・シンク!フィール!』まっ、それがオレの生き方なんだよ、カイル兄。











 

          ※※※※※※※※※※ 



 


【コーデリア皇女】




  私は、今まで詳しく教わる事の無かったクローバー州とノルディック州の事をクランベル伯爵から教わり、なんとも言えない気分になった。

 でも、我がブレイス帝国へ併合された時に、クローバーもノルディックも国教を受け入れ、国教徒へと成るべきだったのだと思ってしまう。


 聖書を戴くだけなら未だしも、ロマン教皇が同等の立場ではなく、国王よりも上位だなどという旧教の教えを、私の治めるブレイス帝国で認めるわけにはいかない。



 「クローバー州とノルディック王国の事は、コーデリア殿下への重たい課題ですね。」



 クランベル伯爵は私にそう言って綺麗な笑みを作っていた。

 私は、先日ウエストカタリナ宮殿でアデル皇后陛下とのお茶会の後、クランベル伯爵と交わした独立しようとした両国の会話を私は思い出していた。


 その時、何時もはクランベル伯爵との会話を終えてから話しかけて来るのに、珍しくチャーリーが会話に入って来た。


 「今は、何かを決断する時期ではないので、ゆっくりで良いですよ。コーデリア殿下。」


 チャーリーは美しい金の眼差しを不安気に移ろわせ、そして私を労るように優しく告げた。


 「これから俺と一緒に考えて行きましょう。コーデリア殿下。」




 そうね。

 今の私が下せる問題では無いわね。


 新しいバイオリンの曲を教わった後、此の私室へ戻る途中の通路で女官たちがクローバー州の住民がまた北カラメル大陸へ向かったと話していたのを聞いて、私は住民が消えてしまうクローバー島の未来を想像して、気分を暗くしてしまっていたのだ。


 クローバー州を落ち着かせる為には、旧教を許すしかないのか。


 私はそう考えてみたけど、如何しても納得出来ない思いが強く渦巻いていたのだ。



 「コーデリア殿下、眉間に皴が出来てますよ。兄から貰ったキャンディーがあるので持って来させましょうか?」


 デイジーの弾けたような明るい声が私の耳に届いた。


 「もうー、デイジーは私がキャンディーさえ口に入れたら上機嫌になると思っているのね。」

 「あら?なりませんか?コーデリア殿下。」

 「失礼ね。でも折角だから頂くわ、デイジー。」

 「はい、ふふっ。」


 面倒だけど私の口に入るモノは、一々毒見をされる様になった。

 それと母を此処グリンジットハウスに残して、私はアルバート5世伯父様とウエストカタリナ宮殿の謁見の間に行く事も増えた。


 こうして一つ一つ私の立場が整えられて行く。

 でも私は未だ未だアルバート5世伯父様と共に過ごして居たいし、アデル皇后陛下達とクイーンズチェンバールームで過ごす和やかな時間を味わって居たい。


 殆ど接点がなく、怖い軍人のイメージしか無かったアルバート5世伯父様と親しく話せるようになったのは、アルバート4世伯父様のお陰ね。

 儀式的な事やパーティーを嫌うアルバート5世伯父様を質素過ぎてロドニアの街は鄙びて見えると、母や側付の女官たちは話しているけど、街にも降りるデイジーは「ロドニアの市民達からは気さくだと評判良いですよ。」そう言ってドレスに作った内ポケットから折り畳んだ新聞を取り出し、目の前に或るウォルナットのティルトトップテーブルへ広げ、得意そうに見せて呉れた。


 『元帥陛下、今日もホワイト通りを散策』



 「ふふっ、陛下は、また護衛を撒いて街へ行かれたのね。チャーリーが頭を抱えてそうね。」


 「良いんですよ、コーデリア殿下。チャーリー兄さんは、のほほんとし過ぎなのですから、偶には焦らせないと。」


 「そう言ってデイジーは、その新聞をチャーリーに見せようと仕舞い込んでるのね。」

 「ええ、確りと仕事をして下さいって、チャーリー兄さんに私が注意してやります。」

 「でもデイジー。チャーリーの仕事って王爾尚書だから、陛下の身辺に就いてる事じゃないわよ?」

 「えっ?いつも陛下の傍に居るのに!」



 気の良いチャーリーは、きっとアルバート5世伯父様に呼ばれる儘に近くに居るのだろう。

 アルバート4世伯父様もアルバート5世伯父様も、私欲を強請らないチャーリーといるのが気楽なのだろうと思うわ。


 お世辞も言わないし、それに時々ポツポツと伯父さまたちにも文句を言うしね。

 その塩梅が心地良いのね、きっと。

 流石はクランベル伯爵の教え子って所かしら?

 今回、バジル準男爵の古書と一緒にアルバート2世や3世の展示品を飾る屋敷を貸して下さったモスコミュール公爵は、「クランベル伯爵の懐刀」って仰っていた。



 気を張る事の多いアルバート5世伯父様や私にチャーリーはホッと気を緩める時間を齎して呉れる。


 私がチャーリーの呉れたキャンディー特別美味しく感じるのは、そんな感覚を思い出させてくれるからね。



 私は運ばれて来た銀のキャンディーポットに入った琥珀色の塊を指の先で抓んで、そっと口に入れた。


 

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