表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/100

ep47 女優アリス




【ディック・ギボンズ】




 俺を苛出せる出来事が此れほど重なるのは、絶対にクランベル野郎の所為に決まっている。


 アリシアが体調不良で王家の所領で或るウィンター城へと移ってから、全く連絡が取れなくなり賄賂と一緒に衛兵に手紙を託しても、賄賂だけブッチして「連絡を取る事叶いませんでした。」と、衛兵は俺を3時間以上も待たせて白を切る。


 混み合う街路を抜けて行くから、馬車でもロドニア中心地からウィンター城門まで、2時間近く掛かる片道なのにフザケやがって。

 ソレが幾度も続いて俺はアリシアに会えない侭だった。



 そして1年半以上もアリシアと連絡が取れないと思ったら、バンエル王国の王弟との婚約発表後、バンエルへ向かって出立を終えたと言う。

 ルドア帝国のエカテリーナが亡くなり、4月頃からウエストカタリナ宮殿が騒がしいと思って居たら、オーニアス帝国とロイセン王国との休戦協定の発表と合わせるように、アリシアの出立の発表があった。


 直ぐに、王族同士の婚姻なんて決めれるモノじゃあない筈だ。

 随分、早い段階でアリシアとバンエル王国の王弟との話を整えていたのだろう。



 出立の発表が出たと同時に、アリシアの資産管理に監査まで遣って来て、俺の城であるグリンリッジハウスにも無粋な監査役人が入って来る有り様。

 クレム・ベルフ首相や腰ぎんちゃくの閣僚たちも、俺に何も連絡してこないって事は、監査が入るのもあいつ等には判っていたと言う事か。


 逃げ足だけは早いよな、あいつ等。


 俺があれだけアリシアからの資金を回して遣ったのに、人間として如何かと思うぜ。



 武闘派のジョナサン・ヒット中将が、クローバー国独立運動の中心人物として、ウルフ・カーン達3人の議員を手配し始めたし、クレム・ベルフ首相は兎も角、頭の固いジョナサン。ヒットに捕まえられて、俺が反乱を手引きした事など話されると面倒だな。



 いよいよという時は、コーデリアを抱き込むか。

 大抵の場合は、ノイザン公夫人が庇って呉れたら十分なのだが、どうも嫌な予感がする。

 アルバート5世のじじいが弱ってから、切ろうと思っていたカードだが早めにコーデリアに話して於くか。


 全く与党のリバティ党議員達に手を回して、クランベルを王族の近くから排除したと思ったのに、何処までも邪魔で鬱陶しい奴め。


 五月蠅い貴族院を抑える為、自由主義の思想家たちに書籍を出版させて、新興のブルジョアたちが血統だけの奴等から力を削げるように選挙権拡大運動へ走れる動機を用意していた所だったのに。


 俺の望む世の中には、貴族も古い地主も不要なんだよ。



 俺は、室内の空間に浮かび上がって見える上品ぶったクランベルの顔の幻影を右の拳で打ち消して、始末する書類を乱暴にデスクから掴み上げ、炎で赤く照らされた暖炉へ放り込んだ。












          ※※※※※※※※※※※








 【アラン・レスタード】






 ラムズ川南に或るサザン区にあるローズ座の楽屋の一室でボクは舞台衣装のドレスを脱ぐと一気に噴き出す汗をチェック柄のコットンで拭っていた。

 一応今回の主演女優であるボクに与えられた個室でゆっくりと着替えていた。



 現在我が家は家庭崩壊中で、と言うのは冗談で、チャーリー兄さんは仕事でウエストカタリナ宮殿か、愛人宅で、カイル(にい)とケビン(にい)は船に乗って長めの植民地狩り、デイジー(ねえ)は御姫様とグリンジットハウスでキャッキャウフフしている筈。

 母さんは世の中を拗ねて、信仰の旅で華龍帝国へロハのワールドツアー中。


 てな訳なので、ボクは家で誰が待つでもないので別段急ぐ必要もなく、のんびりと自然に汗が引くのを待っている。



 男のボクがなぜ、女優を遣っているのか。

 聞くも涙、語るも涙な理由は何もない。

 女装をして見たら、テンション爆上がりで気持ち良かったので、女優を遣っているだけ。


 その内に、歳を取って化粧のノリが悪く成ったら、飽きて女装を引退すると思う。

 こんな格好をしていても、ボクの恋愛対象は女性だしね。



 男好きって言うのは、ボクを女優へと誘ったスタンダード・カレッジの先輩レイモンド・ラム、通称レイくんで或る。


 此のローズ座でも脚本を書いている若き天才24歳であり、ボクが「論文書いて卒業したら?」と心配なぞもして上げている困ったチャンでも或る。

 大学に通っているのは、ボーイハントの為と僕に内緒の話をしてくる。

 程々にしないと主教も遣っているお偉い学長様から人生終了のお知らせ勧告がレイくんに届くかもと、ボクは遂、心配をしてしまう。


 あの出来事も、実は単にボクをハントしただけだったのかも?って、レイくんと知り合った頃を思い出した。



 「君をモデルに芝居を書いたから演じて欲しい。勿論、報酬は出すよ。」


 キャンパスで、そう口説かれて此のローズ座に来てみれば、出る筈の女優さんがドロンと消え、用意していた衣装のサイズが合いそうで、女に見えない事も無いボクに声を掛けた。


 ボクはレイくんに釣られたクマーってノコノコと着いて来たと言う話。



 「ポーっとした顔で立って居たら周りの役者が動かして呉れるから」とレイくんに言われ、劇団の方に顔も首も手も白粉を塗りたくられ、髪も胸も盛りに盛ってみれば、『誰、この美少女。』つう、新生アランこと、女優アリスちゃんが爆誕しちゃいましたよ。


 口元にゴージャスな扇を当てて居れば良いつうことで、ボーっと立って居ると無事に初舞台終了。

 ボクは男を卒業して美少女になった。


 セリフとかは女優さんがボクの代わりに喋って呉れたしね。


 報酬は1シリング(約2500円)だった。

 この時に僕はドレスを着る快感を覚えてしまった。

 その後、レイくんや先輩女優さんから鬼の指導が入り、「ボク、負けない。だった男の子だもん。」と、劇団員の熱が伝染して、暑苦しい舞台裏の日々を過ごした。


 我が家の家族ってなんか薄いって言うかあっさり系家族で、唯一熱いなーって思っていたチャーリー兄さんが、エルザ姉さんが亡くなってから、偶にシーズンで顔を見せてもボクに必要なモノの有無を訊いてサクっと帰っちゃう感じで寂しかったから、此のローズ座のお姉さんたちは暑苦しくて感情的で面白くて、ボクには居心地がいい。



 難点を言えば、お姉さんたちはボクが男であるのを忘れて、楽屋でも平気で立派なおっぱいを見せて呉れる所かな。


 レイくんが連れて来たからと言って、ボクはソッチ系じゃないので、出来れば恥じらって欲しいと、お姉さんたちに希望している。



 そしてレイくんにお願いしているのは、ボクがレスタード家の人間だとバレないようにして欲しいって事かな。


 チャーリー兄さんは、何故か悪名高い人に成っていて、ボクが女装趣味だと周囲に知られてまた悪い噂とかが付くと申し訳なくてさ。

 ボクの家族の中ではチャーリー兄さんが一番モラルがあるのになあ。

 まあ、エキセントリックな母さんは別格だけどね。


 それに、エルザ姉さんと一番に仲が良かったのってチャーリー兄さんだし、それはエルザ姉さんも同じだったと思うんだ。

 歳が違い過ぎて、ボクやデイジー(ねえ)やケビン兄、カイル兄、、、は、良いや。

 あの人はチャーリー兄さんマニアなだけだし。


 チャーリー兄さんって、兄弟って言うより親子みたいな感じなんだよね。

 ボクの両親は年寄ってのもあるけど、浮世離れしてたしなあ。

 後、エルザ姉さんが亡くなってからチャーリー兄さんは泣いて居ないと思うんだよ。


 デイジー姉やボクは、優しくって暖かだったエルザ姉さんが亡くなったあの日、2人して泣いて泣いて、エルザ姉さんに就いていてくれたリリーやリリーの夫で執事のカールソンたちや長く勤めている皆にも慰められて、思い出を語り合ってまた泣いて、その間にチャーリー兄さんは、淡々と遣るべきことを済ませていたみたいで、葬儀が終わると慌しく仕事に戻って行ったんだ。


 デイジー(ねえ)が「父さんが亡くなった時と同じだわ。」ってポツリと言ったんだ。


 ボクは父さんが亡くなった時は、未だ9歳だったから余り憶えて無いけどね。

 デイジー姉も、「細かい事は憶えて無いけど哀しむ暇も与えて呉れないって母さんと文句を言っていたのよ。」って寂し気にボクへ話してくれた。


 きっとチャーリー兄さんは悲し過ぎるのだと思う。


 哀しくても泣く事も出来ない不器用なチャーリー兄さんに、ボクは此れ以上の迷惑を掛けたく無いんだ。


 なら女優アリスを辞めればって話だけど、未だ1年位しか遣って居ないけど、演じるからこそチャーリー兄さんの想いみたいなのも感じれるように成ったと思うんだよね。



 ボクがアランというモノを破って、新たな女優アリスを作って行く感覚は、うーん、矢張り、もう暫くは止められそうもない。


 バレたら、御免。

 チャーリー兄さん。














          ※※※※※※※※※※




 


  仕事をしない執務室の主であるアルバート5世に俺は預かった私信と呼ばれている手紙の入った黒と金で彩色された木箱を差し出し静かにテーブルの上に置いた。

 今日は親書が無くて良かった。

 誰だよ、偶に此のレターボックスへ紛れ込ませるアホの子は。


 老いてもムッキムキな腕と肩に筋肉が付き、白髪だけど揉み上げと顎に立派な髭を蓄えれるアルバート5世が俺は羨ましい。

 整えた眉の下から覗く青い瞳は、懐かしいアルバート4世を思い出させる。


 マホガニーで作られたどっしりとした暗赤褐色なテーブルに置いた黒と金のレターボックスをアルバート5世は緩やかに腕を動かし巻かれている2通の手紙を手で指し示した。


 「チャールズ、読んでくれるか?近頃は文字を追うと目が疲れるのだ。」

 「はい。」


 アルバート5世も歳だものなあ。

 アルバート5世の額や眉間に刻まれている皴を想ってから、俺は付け直された封蝋を切り、流麗なインクの文字を目で追う。


 一応は、毒殺などを警戒して封蝋や用紙のチェックなどを済ませて、再度封蝋で確認済を報せるのだ。


 1人は、紹介する商人へアルカディア島での勅許状願いを書いて来たモブ伯爵とコーデリア殿下の婚姻相手の紹介を綴ったモスコミュール公爵からの手紙だった。

 クイック船長から聞いた話を元に、お宝を見る前から独占的な契約をアルバート5世から貰おう、と名を知られた貴族からのこうした斡旋が偶に或る。


 そして、コーデリア殿下の王配候補者の紹介もローゼブル宮殿でデビュタントを済ませてからは、良く届くように成った。


 モスコミュール公爵と言えば、有難い事に今回カオスなバジル・コレクションを飾らせて貰う屋敷を提供して下さった方だ。

 無事に議会でもバジル・コレクションの買い取りが決まり、アルバート5世の3男を其処に展示するシェリシア全集を含めたカオスな展示物館の館長に添えている。

 その噂を聞き付けた他のガラクタ・マニアも寄付したと申し出て来たりしていた。


 確りと保存・閲覧出来るように現在はモスコミュール邸を改築中。

 戦争もして金欠病なので費用捻出のために宝くじを作ったりしている。

 アルバート5世は、バカバカとアルバート4世のような散財の仕方は性格的に出来ません。


 そのお世話に成っているモスコミュール公爵からのご紹介の相手は。


 

 「北グロリアのトカーナ大公国の第二王子カルロ24歳か。メディーエ家と言えば、フロラル王国とも縁が深いな。元はロマン教皇の銀行屋だった筈だったな。」


 「嫌がる方が多そうですね。身分のある方は、金貸しと言う職種を忌避していますから。それに北グロリアと言えば、オーニアス帝国が近過ぎますよね。」


 「だが、チャールズ。トカーナ大公領地の港を使用出来れば便利だと言う奴も多いだろうな。」


 「そんな、陛下ぁ。コーデリア殿下の婚姻をなんと考えているんですか。俺は、アルバート4世陛下からコーデリア殿下との相性の合う人を、って頼まれているんですよ。まあ、カルロ殿下がどのような方なのか判らないので、現段階では何も言えませんけども。」


 「エーデン王国の王弟との話も来ているしな、チャールズ。コーデリアの叔父で或るレオナルドが2つのサクセス公国から王配を選べとノイザン公夫人の手紙を付けて持って来たぞ。流石に此れ以上サクセスの血を濃くは出来ないな。それに、あ奴は、姪の婚約相手を探している暇など無いだろうに。」


 「確かに。如何されるのですかね。レオナルド殿下は。」




 それにしても、レオナルド殿下にギール王国へ国王として入って欲しい、と言う話が来るとは思わなかった。

 娘婿と言うより後継を探されていたギール国王は、娘がレオナルド殿下の肖像画を見て気に入ったそうで、ブレイス帝国に駐在していたギール王国大使からレオナルド殿下の人と為りを聴いて、此の話を持って来た。


 ギール王国は、ヨーアン大陸の戦場と呼ばれるくらいに過酷な土地だった。長い大陸での宗教戦争後南北に分れ、南はオーニアス家領とフロラル王国になって、北はランダル王国と成って居たけど、獅子王ミリアーノが南部を統一し、ギール王国を建国した。

  現在はミリアーノ2世で或るのだけど、ロマン教皇から正統な国家として「ギール王国」を認めて貰ったので、国教は旧教に成るのだ。


 レオナルド殿下は一応は、旧教徒だったりするけどな。


 アハルト=サクセス公国などの侵攻したりされたりが激しい国々って、国民自体も新教旧教が入り混じって居たりする。

 領民の宗教は、大抵が領主が決めてしまうので、その後、面倒な領地へと変わっていくのだ。

 特に宗教って、「己の信条の為に一揆くらい起こしますが、何か?」つう激しさを持っているので、治めるのが大変だったりする。


 でもって、新教にしろ旧教にしろ、どちらかが圧倒的に少数だと良いんだけど、ギール王国って若干旧教徒が多いくらいって言う宗教バランス。

 考えるだけで俺とかは胃が悪くなる。



 「ふむ。レオナルドがギール王国へ行く行かないは、最終的にアハルト=サクセス公国側の判断に成るが、オーニアス帝国やフロラル王国の勢力の偏りを防ぐために、ランドル王国からレオナルドへ行って欲しいと言う親書が届いて居ったぞ、チャールズ。」


 「はあーーぁ。王族の婚姻て、切ないですね、陛下。」

 「でもまあ、儂のように上手くいっている場合も或る。コツは、相手に望み過ぎない事だな、チャールズ。ははっはっ。」



 アルバート5世は白い髭を揺らして笑い、てコーデリア殿下の事を考えて暗く成っている俺に、明るく話した。


 俺は、そんなにも多くは望んでいないんだけどな。

 健気に前向きなコーデリア殿下を、そっと支えて呉れる相手と知り合って欲しいって願ってるくらいだ。


 話を詰めて行くのは、宮内卿とショコラ枢密院議長だろうしな。

 アルバート4世陛下が生きて居る頃なら、コーデリア殿下の為に、もっとクランベル伯爵が関われたのに。

 俺は、何も出来ない焦れったさに、1つ溜息を吐いていた。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ