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ep45 巨大な罠




  華やかなコーデリア殿下の16歳を祝したデビュタントがローゼブル宮殿で執り行われ、その日に合わせて、やや変則的に貴族家たちの少女たちのデビューも行われた。


 貴族自体438家と数が少ないので27人なんだけども、それでも今年は多いらしい。

 ジェントリたちも合わせるともっと盛大に成るのだけど、陛下達が列席する宮廷でのデビュタントは伯爵位以上の貴族家令嬢のみで行われる。

 



 何処にでも顔を出すギボンズは今回しっかり排除されていた。

 善きかな、良きかな。


 陛下から言葉を賜った少女たちは、デビュタントポールへと移って行った。


 輝く純白のパールカラーのドレスを纏ったコーデリア殿下は清楚で可憐な乙女に成っていた。

 淡い金の髪を白とピンクの生花を差して編み上げ、チャラいイケメン風オヤジのレオナルド殿下にエスコートされて滑るように歩くさまは、此れからを愉しみにさせてくれる美少女ぶりだった。

 ちっこいけどね。


 傍には、グレース公爵夫妻も居てカドリールを踊るコーデリア殿下も楽しそうで、見ている俺も心地良くホールでクランベル伯爵とジュリアとで眺めて居られた。


 何せメインが女子は16歳の若き少女たちだからね。

 オッサンの俺達なんかは壁の花だよ、マジで。


 デイジーも一緒に来てるんだけどさ、俺達と微妙に距離を取ってるんだよな。

 全く前回のデイジーのデビュタントの時もそうだったけど、噂を信用し過ぎだと思うのだよ。

 デイジーは少しは自分の兄を信用しなさいって。





 アルバート4世が亡くなってから大きな社交の場も少なく成り、俺もエルザの事があり社交という気分にもクランベル伯爵からのオーダー消化の為に時間も無くなり、約3年ぶりくらいに訪れたローゼブル宮殿のホールは、圧倒される豪華さと見たくも無いエルメール画伯の俺っぽい何かをモデルにした巨大なグリシア神話をモチーフにしたドでかい絵画がデデーンと回廊に飾られていた。

 俺は、羞恥の為に妻のジュリアとそそくさと挨拶と所用を済ませて、帰りの馬車に乗った。



 まさか俺のプリ(ケツ)を晒されているとは、、、。


 何という巨大な罠だったのだ。

 アルバート4世とエルメール氏めっ!

 死して尚、俺を羞恥で苦悩させるとは。












           ※※※※※※※※※※










 そんな試練を乗り越えて、俺は夏の日差しの中を馬車で通称バジル通りへ向かい、レンフィール侯爵から紹介された慈善家&ガラクタ・マニアの著名なハンス・バジル準男爵に邸宅へ訪問しお逢いした。


 俺の愛人ナタリー・ケット嬢宅から南西にある通りを2つ行った場所に或るバジル・スクエアの前に建つ大きな屋敷がハンス・バジル邸で或る。


 未だテラスハウスに成っていない昔ながらの貴族邸で或る。

 俺達家族が暮らしていたブルームプラム地区もそうだが、この辺りはロドニア大火に見舞われなかった為、ホワイト通り地域のようなテラスハウスに成らなかったせいで、流行遅れの地区と見られて貴族達は大きな邸宅を手放し、爵位を持たないモノが屋敷を購入出来るようになった。

 土地そのものの権利は、モスコミュール公爵家が持っていて、買えるのは地表にある建物なのだけどね。


 ロドニア橋と旧市街地があるロドニア市のセントラル地区から、ラムズ川が大きく北東へカーブした場所を境にして西に或るのウエストカタリナ地区を含めウエスト・エンドは概ね王侯貴族が所有していた。



 

 そして現在62歳に成るハンス・バジル氏も多趣味な人で、若かりし頃、医師としてイラド諸島のジマリカ植民地へ大佐と共に訪れて、ジマリカの珍しい植物採取に夢中に成り600種類もの植物図鑑を作り出版したり、その頃ブームに成っていたホットショコラを飲み易くしようと研究し、ミルクショコラのレシピを作って薬剤師に売ったりして、趣味を商売にする才のある人だった。


 その後、高位貴族たちの侍医にも成り王立内科医協会の会員にも選ばれたりもした。


 フワフワクルクルの細く長いカールを施した白いウィッグを被り長毛種のワンコのようでもあり、太い眉に海賊のような強面な面立ちが印象的なハンス・バジル氏だった。

 太いソーセージのような指を広げては、力強く持っているコレクションについて、大工の棟梁のようなだみ声で熱く語るハンス・バジル氏。

 一見、インテリジェンスが皆無に思えるのに、話し始めると深い知性で裏打ちされた見識を話して呉れた。


 此のハンス・バジル氏ならきっとアルバート4世の3男とも話しが合うだろう。

 きっとな。



 俺はそう考えて古書好きな39歳のアルバート4世の息子と会って欲しい事をバジル氏へ伝えた。



 フワフワクルクルのカールしたウィッグを上下に揺らして俺の話を聴いていたバジル氏は、太い眉の下の目を見開き、野太くしゃがれた声で相談に乗って欲しいと話した。


 そして俺を連れて屋敷の中を案内し、広いどの部屋にもドッサリ或る訳の分からないモノを俺に見せて、これらを何とかしたいのだと溜息混りに話した。


 木で出来た様々なお面に、極彩色で彩った盾のようなモノ、頭蓋骨たちに囲まれた古い壺や水差し、槍やら古いボウなどなど、重厚な扉を開く度に新たなカオスが登場してくる。


 『捨てれば良いのでは?』


 つう言葉を俺は飲み込み、購入した物のリストの一端をバジル氏から見せて貰い、その高額な値段に驚く。


 リストの中には滅んだと言われるアステア文明の名前も在ったりした。


 俺には真贋や価値を見極める才は皆無なので、ハンス・バジル氏に後日アルバート4世の3男と好きモノの趣味人たちと共に再度訪れる事を約束して、その日はカオスなバジル邸を辞した。




 俺は好きモノ(もとい)、探検家野郎の学者を訪ね、序にアルバート4世の3男を引っ張り出し、カオスなハンス・バジル屋敷へレッツトライ。


 「チャールズ、私はガラクタを眺める趣味は無いのだが。」


 黙らっしゃい、無職の3男39歳。

 其処は俺に抜かりなし。

 ハンス・バジル邸には、ロドニア古典の著名な劇作家シェリシア37編コレクション「ファーストフォリオ」があったのだ。

 それを告げると、途端にシェリシア好きなアルバート4世の3男はヤル気に満ちて「早く着け早く着け」と馬車で念じ始めた。



 その後、カオスティックアイテムは貴重品と判断され、3男はファーストフォリオを譲ってもらう為に交渉して居ると、ハンス・バジル氏はガラクタをブレイス帝国議会で管理し、自分が亡くなったら遺族になる娘2人へ代金を支払って欲しいと言い出しやがったので、アルバート5世とクランベル伯爵と相談し、モスコミュール公爵を説得し、ブルームプラム地区にある空き家に成っていたモスコミュール・ハウスで展示する事に成った。



 議員の人を説得したり、奇書の類になる新たな古書コレクションがバジル邸で発掘されて3男が乱舞したり、好きモノ探検家野郎が仲間を召喚したりと、ドラマティックなエピソードに俺は翻弄されながらも、古書コレクションとバジル博士の収集品展示ハウスの館長にアルバート4世の3男を据えたりしてドタバタな日々が過ぎてゆくのだった。

 カオスなバジル博士の収集品カテゴリー、蔵書、手稿、版画、図面、植物と動物の標本(頭蓋骨たちを含む)、メダル、硬貨、印章、カメオなどなど多数。




 

 




 




           ※※※※※※※※※※※






【フリップ・ピバート中佐】




 エアリース砦には誇らしげにブレイス帝国旗とブレイス陸軍の旗が掲げられていた。


  最後のフロラル軍一団がエアリース砦を出て、白旗を挙げた帆船に乗り込み大海のようなオレーアン湖を北西へと向かいフロラル王国のカステラに或るカロック植民地へ戻って行こうとしていた。


 オレーアン湖を東北へ遡り行き着いた湾でのセントローレン海戦でも、ブレイス海軍が勝ち2艘の帆船等を拿捕したとの知らせが入り、北カラメル東海岸からフロラル王国兵を撤退させる事に成功した。


 僕は、エルザの死を理由に一時は軍を退官する事も考えていた。

 ギルバート4世が凱旋されノルディック王国の独立も成り、指揮を執っていたノルディックのロードシア連隊も解散し、彼等がブレイス兵で無くなった今、僕が軍で士官を務める理由も無くなったからだ。

 ロードシア連隊の彼等は、今頃ノルディック王国の為に働いているだろう。


 そして、ノルディック王国とクローバー国に居た兵たちが使えなくなり、急遽、徴募した兵の指揮官が足りなくなり、僕は陸軍卿からの指令でノバポルテ州からのフロラル兵掃討を命じられていた。


 その命令で僕は一先ず安心した。


 もし、クローバー国への出陣を命じられたら、其の侭軍を辞そうと考えていたからだ。

 ノルディック王国と同じ様にブレイス帝国に虐げられていたクローバー民へ銃剣を向ける事など出来ないし、したく無かったからだ。


 ノルディック王国が独立に成功したのは、ギルバート家とそれを支えるノルディック貴族達が時間を掛け、ロマン教皇も動かす外交交渉も行っていたからだと思える。

 一方クローバー国は、怒りに寄り直情的に行動した為、独立に失敗したのかも知れない。


 囲い込み農法の合法化が議会で通過した事を受け、クローバー国民は今までギリギリで耐えて来たのに、此れで土地まで奪われたら死活問題だから限界を超えてしまったのだろう、と想像は出来た。


 それに、怪しいあいつもクローバー側だったか、、、。


 笑みを浮かべていても油断のならない濃いグレーの目を光らせ、僕の様子を窺っていたギボンズ。

 チャーリーの話題をしてくる癖に、チャーリーへの嫌悪感が時々滲んでいた。


 ギボンズは、クローバー王国とノルディック王国との話をしている筈なのに、チャーリーの話を僕から引き出したがっていた。


 あれがチャーリーに対してではなく、ハーシェル中尉やゲルード大尉に関してなら、僕は気にも留めずに、話の流れでギボンズに話題を提供していただろう。


 チャーリーに対しては、好意や悪意と言う他人からの感情を、僕にも気付けるように成っていた。


 それに、ギボンズが互いに祖国の為、協力しようと話を持ち掛けて来た時は、エルザも未だ元気で居て呉れていて、チャーリーが息抜きに僕を訪ねて来てくれていた。

 僕は、チャーリーが嬉しそうに僕が淹れた甘いジャムティーを飲んで、緩やかに微笑む幸福な一時(ひととき)を手放す事など考えられなかった。


 

 それに僕はギボンズの事も信用出来なかったからな。



 ギルバート4世には『地獄のクラウン・クラブ』への参加を断った時に、ギボンズの事を信用しない様にと忠告はさせて貰った。


 そしてギルバート4世に会った時『地獄のクラウン』の意味を教えて貰った。


 何が在っても我らの国を取り戻すと言う追放されたギルバート2世と臣下たちの誓いだったそうだ。

 例え、地獄の業火に焼かれても神より戴いたクラウン(王位)は、取り戻す。

 そう決意して5人の寵臣たちへ僕もお守りにしていたギルバート2世の銀貨を渡したと言う。


 初代ギルバート陛下の時、ブレイス王国議会から両国の和平の為、マックス8世の血を理由にして同君連合で治めて呉れるよう頼まれ、頭を下げられたのが発端らしい。



 僕の祖父は、追手の追及が激しかったので旧教徒の人達に助けられながらブレイス国内へ脱出して来たそうだが、他の4人はギルバート2世の家族と共にランダル王国やフロラル王国へ逃れていたそうだ。


 今から思うと、兄は知っていてプレイベートスクールを卒業したら『地獄のクラウン・クラブ』と距離を取り、僕にも余りノルディック王国の事へ深入りするなと注意していたのかも知れない。


 僕は兄が亡くなった時、エルザとチャーリーが居なければ、其の侭、ノルディックへ行っていただろうな。


 いや、チャーリーが「ノルディック」を「ノルディック王国」と呼んで呉れたから、僕はギルバート4世から声を掛けられた時に、『地獄のクラウン・クラブ』の若い参加メンバーを紹介して協力する気に成ったのかも知れない。


 チャーリーに褒めて貰った『ノルディック王国』が誇らしくて。



 あの頃、ノルディックの血を持つ僕達は自信を失っていた。

 ブレイスの連中に土地もプライドも奪われて、信仰も隠して隠れるように生きていた僕達。

 矢張り、僕達はブレイスの連中より劣っているのか。


 「いつかはブレイスの奴等から、ノルディックを取り戻すぞ。」


 皆は半ば諦めつつも、そう言って寄る辺に『地獄のクラウン』ゲームに興じていた。

 そんな僕達にチャーリーは、当たり前のように『ノルディック王国』と名を呼び、ノルディックの昔話を語って呉れた。


 あの震えるような感動をどう伝えれば良いのだろうか。


 チャーリーのお陰で僕たちの胸にプライドの(ほむら)が灯った頃に、ギルバート4世から連絡が来たんだよ。



 でも、僕の場合は祖国への想いよりもチャーリーを想う気持ちが強くなっていた。

 友人として、義兄弟として傍に居れるだけで良いと思っていたのにな。


 チャーリーからエルザを失わせてしまって、僕の悔恨は尽きる事が無い。

 もっと気楽にチャーリーと共に時を過ごしたいと望み、チャーリーの愛する妹エルザを僕の所為で殺してしまったようなものだ。

 此の悔恨は、僕に対する浅はかさへの罰なのだろうか。



 赤い日差しを眩く絶え間なく揺らすオレーアンの湖面に、僕は目を眇めて顔を太陽から僅かに背けて北東を見る。

 大地も川も湖も山々も、ブレイスとはスケールの違う北カラメル大陸の雄大さに、チャーリーが居ない事への孤独がより一層に際立つ。


 「早く、北カラメルで暮らしたい。」


 そう言って綺麗な顔を切なげに歪めて溜息を吐いていたチャーリーを僕は思い出した。


 『そうだな。僕もチャーリーと共に暮らしたいよ。』


 フロラル王国兵は撤退させた。

 後は、国同士で話を付けて、チャーリーが平和に暮らせる大地にして欲しい。


 それ迄はこの地で君を想って本国からの連絡を待つとしよう。

 背後から、ノルディック王国へ帰らなかった物好きなハーシェルが僕へと声を掛けて来た。


 

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