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ep42 センシティブな問題




 顎鬚レンフィール公爵に仲の良い兄(=クランベル伯爵)を盗られたような複雑な思いをしつつ、俺は黙々と遣るべきことを熟し、黙々じゃないな、口八丁で喋り倒して熟して、気が付けば夏の盛りを過ぎようとしていた。



 『俺、この戦いが終わったら引退して北カラメル大陸へ行くんだ。』




 そんな事を念じなら、俺はアルバート4世の12女で或るレイチェル・フレッツノーヴァ様と語り合い、ウエストカタリナ宮殿で(たむろ)って居た聖職議員達にお話を聞かせて頂いたり、枢密院議長や宮内長官やアルバート5世へレイチェル様のニュービジネスを報告したりと慌しく動いている傍らで、アルバート4世の長男40歳の好きな天文学や、3男37歳の古書談義を伺ったり、4男36歳から競馬へのロマンを熱く語られ、王立アドミラルへ通っている18歳の13男に将来の希望を尋ねたりして、アルバート4世の子種たちと過ごしていた。


 主に修道院ぽい宿泊施設作り計画が忙しく、マジで他のことなど思い煩う暇も無く、俺は時が飛んで去って様を体感していた。


 合間に、俺の相談役としてクランベル伯爵に紹介して貰ったレンフィール公爵のタウンハウスへお邪魔したりして、天文学や古書についての専門分野のアドバイスを頂いたり、其の手のマニアたちを紹介して貰ったりしていた。


 レンフィール公爵の奥様エマ夫人は、コケティッシュで情熱的な才女で、様々な分野の知識人たちと自宅サロンで討論会とか遣らかして呉れている女性で、レンフィール侯爵はアンバーの瞳を細めて、その奥様の議論を楽しそうに聴いていた。


 俺は、恋愛以外でグイグイと社会の表に出ようとする女性に会うのが初めてだったので、思わず戸惑って絶句しちゃったよ。


 レンフィール公爵の自信あふれるあの空気は、ロックなニューエイジの女性を妻に迎え入れても楽しめている余裕から滲み出したのだろう、と推測が出来た。


 並の男では、インテリジェンスを身に着け表に出たがる暴れ牝馬を乗りこなすのは無理だもんな。

 流石、クランベル伯爵の友人である。





 エマ夫人は自己の啓蒙論を社会に認知させようとするパワフルな議論を想い返しながら、俺はクランベル伯爵邸の滞在させ貰っている部屋で、ジーンの子分で或るエドの持っていてくれたジャスミンティーを飲んで居た。



 東の大きく広い窓から見える此の本館から続いているダンスホールやゲストルームの或る隣の建物に挟まれた中庭に目を遣ると、クランベル伯爵の母上が催している茶会に招待されたゲストたちのさざめく話声が遠くから八月の風に乗り、俺の耳へと聴こえてきた。


 すると扉の外からジーンの声がしてので俺は返事をすると、ジーンに案内されて家で雇っているメイドのメイが部屋へ入って来た。



 「チャーリー坊ちゃま、奥様のジュリア様が無事に女の子を出産されました。おめでとうございます。」


 「、、、えっ?誰の子?」


 俺がボソリとそう呟く、と部屋の空気がみるみる下がり、恐ろしい表情をしたメイが怒気を飛ばして来た。


 「なんて事を仰るのですか!チャーリー坊ちゃまが多忙だからと、1人で頑張って来られたジュリア奥様に対して。大体、こんなに近くにいらっしゃるのに何故チャーリー坊ちゃまは自宅へお戻らないのですか。」


 「いや、うん。遂?それとメイ、俺はそう言う心算で言ったのでは無くてな。吃驚しただけなんだよ。いや、一言で良いから懐妊したと教えてくれていれば。」


 「ジュリア奥様はチャーリー坊ちゃまが帰られてから伝えたいと仰ってました。ソフィアお嬢様の時に迷惑を掛けたからと。全くあんな良い方に心細い思いをさせるなんて。」


 「う、うん。済まない。」



 怒涛の如く溢れ出るメイの怒りの声を聞きながら、ジュリアに対して俺は、ホッとした様な申し訳ないような思いに駆られていた。


 脳内で計算すると、エルザの産後の肥立ちが悪いとリリーから報告受ける前に、ジュリアと夜のお供をした時からだと計算が合う。

 そして、俺はジュリアが出産まで懐妊を報せなかった事に深く感謝していた。


 もし、懐妊したことに気付いて直ぐジュリアが報告していたら、俺はそれが気になってしまい、今日までに片付けられていた仕事が、何一つ完了して居なかった気がする。



 【僕の子供の為なんかの為に。エルザを、御免。】


 苦しそうな表情で俺にそう告げたフリップの表情と言葉を思い出した。

 フリップに言われた時は、「何を馬鹿な事を」と怒りが沸いたけど、今ならフリップが俺へそう詫びた心持が理解する事が出来た。


 未だ見ぬ俺の子供よりも、ジュリアの命が大切だと改めて俺は実感するのだ。


 それは、ジュリアへの愛と言うモノでは無く、亡き父親のエルメール氏や彼女の弟レミー、そして俺が愛しく思う娘のソフィア、それぞれがジュリアを大切に想っているのを知っているから、、、。


 俺がエルザを失って、身体の一部がもがれたような苦しみを味わったからこそ、義弟のレミーやソフィアに此の想いを味合わせたくないと痛感してしまうのだ。



 神の恵みで、今回ジュリアは無事に出産し生還が出来た。


 でも、此れからも、こんな生死を賭けてしまうギャンブル的な夫婦の営みを続ける事が出来るのか?

 俺には無理だ。

 こんな一瞬で血の気の引く恐怖は二度と御免だ。


 俺は矢張り懐妊させてしまうのが怖くて、此れからもジュリアを抱く事が出来ないだろう。


 行き擦りの女性なら兎も角も、家族に成った相手の命を俺は欲望の対価にする気にはなれない。

 失う事を恐れてしまう俺は、自分の欲望の為にジュリアを抱くことが出来ないだろうな。

 


 ゆっくりと俺がエルザの死を乗り越えられまでジュリアを待たせる?

 それは何時で、俺は乗り越えられるのか?

 乗り越えられない侭だったら?


 エルザは未だ24歳なんだぞ。

 あの若くエロい身体を俺の我儘で放置していていいのか?

 もしかして俺は嫁ジュリアといる時は、一生ムスコの自立に立ち会えないかも知れないんだぞ。

 

 ジュリアが横に居ないと安心した俺のムスコは勝手にエネルギー充填して、フルパワーに成ってるつうのに。


 

 「チャーリー坊ちゃま、チャーリー坊ちゃま。あの、今日は帰宅をして、、、。」



 メイの声が聞こえて、俺は意識を迷走から脱出させた。



 「御免。今日はどうしても会わないと行けない方との約束が或るんだ。ソレを終わらせてから帰るよ。いつも有難うなメイ。ジュリアに伝えて於いて呉れ。有難うって。無事でいてくれて本当に嬉しかったと。そしてコックのケント達に、キャラメルとジュリアの好きなモノを作って遣って欲しいと伝えてくれ。頼むな。メイ。」


 「はぁぁ、分りました。早く戻って下さいね、チャーリー坊ちゃま。ソフィア様と良く似ていて可愛いですよ。名前を考えて上げて於いて下さいね、チャーリー坊ちゃま。」


 「ああ。」



 俺は短くメイに答えて、ジーンへメイを送る様にと目で合図した。

 フリップの家にいる先輩リリーに似てきて油の乗り切った丸いメイの背中を俺は見送った。

 どうも我が家で勤めると使用人たちは肉付きが良くなるようだ。


 はぁ、しかしジーンには分ってるだろうな、当然。

 俺が今日は、もう誰とも面談の予定など入れてない事を。

 もう少し心を落ち着けてから家へ戻らないと、俺は混乱した侭で出産後に弱っているジュリアを酷く傷つけてしまいそうだ。




 いや、如何(どう)取り繕ってもジュリアを傷つけてしまうけども。

 何一つ、ジュリアに欠陥も不備も不服もないのに、俺は既に離婚を考えているのだから。



 アルバート4世とクランベル伯爵とでセッティングした俺とジュリアとの婚姻だったけど、その頃の俺は母からの婚約しろと言う圧に悩まされて酷く参っていた。

 母の持って来る見合い話の淑女たちは、資産を持つ親に甘やかされ、俺とは違う金銭感覚で、華やかに着飾っていた。


 そしてウンザリする位に俺の容姿を褒めて来る。

 俺は苦手なんだよな、容姿を褒められるのって。



 俺は、彼女たちのような華やかで明る過ぎる社交的なタイプと一生暮らすかと思うと、憂鬱な想いに囚われ、そのストレスを味わう一生の長さを考えてゾッとした。


 そんな時に、クランベル伯爵から紹介された苦労人のジュリアの話を聞いて、俺と同じだと思って同情してしまったんだよな。

 でもって弟も居るって聞いて、あんな変態オヤジのエルメール氏と生活させた侭って、可哀想に思えたんだよ。


 飢えずに平穏な日々を求めていたジュリアとなら、家族に成っても良いかなって思えたしね。


 ジュリアは綺麗だけど、出しゃばることなく控えめに俺を気遣って呉れて、社交で出会う淑女たちと違ってお金の価値も知っていて、俺の家の負債を知っても驚くことなく婚姻を受けて呉れた。

 

 まあ、エルメール氏の負債額を知ったら、俺の金額でも驚かないよなって、アルバート4世との会話で凡その負債金額を知れたのだけども。

 絶対エルメール氏は、賭博仲間に騙された上、質の悪い金貸しに頭の悪い借用書を書かされたのだと思う。

 


 アルバート4世が借金返済をさせる為に、エルメール氏に鬼のように俺っぽい絵を描かせて、忙しさに無理が祟ったのか元々肝臓をやられてた所為か、女たちから貰った病気の所為かで、ドタバタのように亡くなったけど、悪いな、哀しく成らなかったよ。


 ジュリアの父親だったけど、いや、マジで俺を見る視線は気味悪かったし。

 そしてエルメール氏の訃報をジュリアと弟のレミーも全く気にしてなかったって言う。


 負債の方は、ジュリアは貴族の俺へ嫁いできてエルメール氏と無縁に成り、レミーも2年前に北カラメルに居る母親の実家へと行ったし、向こうで遺産を貰って伯父の会社で頑張って暮らして居るらしい。


 てな訳で、物語にあるようなラブい恋愛感情はジュリアとの間にはないけれど、2人で同室していても邪魔に成らない間柄だった。

 エルザの死によって、俺のセンシティブな問題さえ発生しなければ、家族としてジュリアとあの侭で時を経て行けたのだと思う。



 まあ、俺が1人で悩んでいても始まらないので、冷静に成ったら時期を見てジュリアに話しをしよう。

 センシティブな俺のムスコの話を。

 言い辛いけども。


 ヤッパ、言いたくないなあー。













           ※※※※※※※※※※




 【ジーンの呟き②】



 仮免チャールズさまは、俺の真マス(真の主人)であるクランベル伯爵様が、大奥様主催の茶会から戻られると、何時もの書斎で伯爵様の左隣に座り、触れなば落ちん風情でセンシティブなシモの相談をしていた。


 もう仮免チャールズさまは何の疑問も抱かず、真マス(真の主人)のクランベル伯爵様の左隣へ条件反射で座りやがります。

 向かいのソファーに座らずクランベル伯爵様の左隣へ座らされることに、疑問を抱かない仮免チャールズさまに疑問を持つ俺だったりする。


 そう誘導して行ったのは俺の任務の一環だったけども。


 仮免チャールズさまに色々と言いたい事があるけど、真マスのクランベル伯爵様の意向に反してしまうので、俺は口に出さないけど。



 「実は俺、、、。」


 仮免チャールズさまは静かにクランベル伯爵様へ静かに、そう語り始めた。


 週に1度は進んで自宅のテラスハウスへ戻っていたのに、妹のエルザ様が亡くなってからはジュリア奥様との距離が微妙に成り、いつの間にかクランベル伯爵邸を自宅代わりにし始めたので、俺も薄々はわかっていた。

 勿論、俺の真マス(真の主人)クランベル伯爵様も。


 神妙な顔を作ってクランベル伯爵様は、頷きながら仮免チャールズ様の話を聞いているけど、喜色が漏れていますよ。


 一通り、愁いを帯びた薄幸の美女仮免チャールズさまの話を聞き終えて、クランベル伯爵様は左手でエロ優しく背中を撫でて慰めていた。

 いやあ、整った容姿のクランベル伯爵様でないと、遣ってることは只のエロ親父にしか思えない。


 流石っす、俺の真マス(真の主人)クランベル伯爵。



 「でも、離婚は暫く待って欲しい、チャーリー。出来れば、コーデリア殿下が婚約をされるまで。」

 「ん?」


 「実は、ジュリア夫人との婚姻を強引にアルバート4世陛下と私が進めたのは、コーデリア殿下の為なんだよ。」


 「はい?如何いう意味ですか?クランベル伯爵。」


 「チャーリーには申し訳ないと思っているのだけどね。実はコーデリア殿下はチャーリーを異性として好いていたのが分ってしまい、私とアルバート4世陛下は相談して、コーデリア陛下が年頃になる前にチャーリーを諦めさせたかったんだよ。臣下との恋は王族には許されてないからね。」


 「ええー、そんな。一言俺に言って下されば、コーデリア殿下と適切な距離を取りましたよ。」


 「今も余り変わっていないけど、あの頃は母親のノイザン公爵夫人とギボンズ達の重圧でコーデリア殿下も大変だったから、楽しみにしていた息抜きの場を奪いたく無かったんだよ。それにチャーリーはコーデリア殿下を心から応援していただろ?そう言う人間を外したく無かったんだよ。コーデリア殿下は、10歳そこそこの歳だったから、失恋から立ち直るのも早かったのが救いだったけどね。」


 「俺の婚姻にそんなセンシティブな裏事情が在っただなんてーー。」



 そう言って、美しい顔で呆気に取られている仮免チャールズさまを真マスのクランベル伯爵様が翠の瞳をトロリと溶かして、甘く見つめていた。


 それからクランベル伯爵様は離婚迄の指示を仮免チャールズさまに与えて、此れからも此の屋敷でイチャコラ2人で暮らして行くことが決定した。

 めでたしめでたし?



 仮免チャールズさまの溜息をよそに、俺の真マスのクランベル伯爵様の笑顔は、とても幸福そうだった。 



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