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ep41 ラッピングビジネス




 俺は、アルバート5世から5人の子息たちを北カラメルの王領植民地総督に配置する許可を貰ったので、必要な書類を纏めてクランベル伯爵の持つ選挙区を紹介したパブリック・スクール時代の知人であるライノート議員へ渡し、議会で諮って貰う事にした。

 北カラメルに或る5つの植民地州は王領になるので問題は無い筈。

 揉めるのって大抵は議員たちとの利益がぶつかる時だから、今回は大丈夫だよな?

 うん、きっと大丈夫。



 ライノート議員もそうだけど、気が付いたらウェートン校で見知った奴やクロック大学のカレッジで話した事の或る人達が議員を目指して、俺が忙しい最中に頼って来られたり、面倒な。


 ぶっちゃければ無投票選挙区を複数持つクランベル伯爵みたいな有力貴族を紹介して欲しい、ってだけなんだけどね。

 俺が頼られている訳ではないのだよ。


 クランベル伯爵に相談すると、俺が使いやすい人間を紹介しろ、って言うので、俺は3人ほど名前を挙げて他の人達には、「この度はご縁が無かったと言う事で」とサックリ断った。


 だって断った人達は他にも頼みに行っていたようだし、俺が断っても問題ないなと思ったんだよ。


 それに俺が紹介するならトール党になるんだけど、彼等ってあからさまに自由思想のリバティ党支持者なんだよね。


 かと言って人としての自由権擁護派って訳ではなくて、ウルダ人奴隷貿易廃止法案には反対している、って立場なんだよ、ホント面倒臭い。


 クランベル伯爵の望む保守でも無く、俺が求める奴隷貿易廃止法案の推進者でもない彼等と協力し合う未来なんて、1ミリも想像出来なかったからなあ。

 それに彼等も議会で名前が売れたら、次はリバティ党から立候補する気だろうしね。

 トール党の利益と相反する価値観を持っているし。




 しかしウェートン校での思い出は封印措置をしているのに、ライノート議員が楽し気に昔話をするのを俺は舌打ちを隠して曖昧に笑って躱し続けたけどさ。

 マジで日頃は忘れてるのに。ちくせう。



 俺は、ボールとか持って無いのに敵だけではなくチームメイトまで次々と全力でタックルして着て地面に押し倒されて、打ち身と擦り傷で地獄の日々だった。

 俺はボールじゃねぇーっての。


 クリケットは未だしも、ラスール(フットボール)ってガタイの良い奴のストレス発散の場だと思うんだよ。


 激し過ぎて昔のブレイス王国(15~16世紀)で、時の権力者がラスール(フットボール)禁止令を出してた理由が俺も判る。


 全くライノート議員の所為で嫌な事の一端を思い出してしまった。








 

 

            ※※※※※※※※※※




 


  応接室で美しい湖畔を描いた大きな絵画を背にしてゆったりとした幅広のソファーにクランベル伯爵は腰を下ろして「お帰り」と俺に声を掛け、澄んだ翠の瞳を向けて微笑んだ。

 クランベル伯爵の向かいの席には、自信溢れる空気を纏い、褐色の整えた顎鬚を生やした高位貴族らしい40前くらいの紳士が、笑いを含んだ表情で俺を見ていた。


 「やあ、チャーリー。此方はレンフィール公爵だよ。ふふ、今チャーリーがアルバート5世の子供達を北カラメルへ追い払った手並みを話していた所だよ。」


 「どうも、初めまして。チャールズ・レスタードです。あのう、本気にしないで下さいね。クランベル伯爵も誤解を与える様な言い方は遠慮してくださいよ。俺は、追い払った心算などありませんし。フレッツザハンの皆様へ希望を尋ねたら、丁度、北カラメルに或る各王領植民地の総督が合うと考えて、薦めただけですよ。」


 「彼等を国外へ出そうと想い付くところが素晴らしいと思うよ。やあ、初めまして。ダスティン・レンフィールだ。私の事はダズと呼んでくれ。スティーブの懐刀くん。」


 「ふ、懐刀?」


 「ふふ、レンフィール侯爵は多趣味でいらっしゃるから、アルバート4世のご子息たちの相談に乗って貰えたら、チャーリーの手助けに成ると思ってね。」


 「おい、スティーブ気持ちの悪い話し方をするなよ。何がいらっしゃるだ?」


 「ふふっ、ダズとは同じスタンダード・カレッジで学んでいたんだよ。初めくらいは、ダズを丁寧にチャーリーへ紹介しようと思ったのに台無しだ。」



 別に日頃、俺と過ごしている時にクランベル伯爵は畏まっている訳ではないけど、レンフィール公爵と話している時は、声と話し方が軽くなっていた。

 レンフィール公爵はクランベル伯爵より随分と落ち着いて見えるので、可成り年上かと思ったけども、クランベル伯爵と同い年位か。


 つう事は、『クランベル伯爵って40歳前後だったりするのか?』マジで?



 「ふふ、私は39歳だよ、チャーリー。」




 、、、クランベル伯爵は、やっぱり俺の心を読めるのか、恐ろしい。


 翠の瞳を三日月にして楽しそうにクランベル伯爵は俺を見てクスクスと笑う。

 レンフィール侯爵は、意味が分からないと言うように整えられた褐色の顎鬚を左手で撫でながら、鋭い彫刻刀で切り込みを入れたような奥二重の目を開いて、クスクスと笑っているクランベル伯爵をアーバンの瞳を向けて訝しがっていた。



 「しかし、スティーブがそんなに楽しそうに笑うとは、、、。私は夢でも見せられている気分だよ。余りロドニアの社交界には出ていないがプラスターフェイスとか、彫像とかと呼ばれていたのにな。それは彼の影響かい?」


 「私はそんな呼ばれ方をされた記憶はないよ、ダズ。折角ロドニアに帰って来ていると言う噂を聞いたから、招待状を出したのに相変わらずダズの悪ふざけの癖は治って無いのだな。それで、今回ダズは何処に行っていたのだ?」


 「ああ、エスニア帝国へ行って、南グロリアで滞在して居たら、ブレイス帝国とオルハン帝国が同盟を結んだだろ?私は、ソレを聞いてから以前から興味があったシリウス王国へ入る許可をオルハン帝国から貰って、古代王朝の遺跡を見学させて貰っていたよ。ちょっと争っていたようだから、オーニアス=神聖ロマンとも、軽くオルハン側の助っ人で戦って来たよ。オーニアスには負けたけどな。」


 「はあ、今のシュレン地方争奪の戦いの前か。他国の争いに参加するなんて揉めるから少しは血の気を鎮めなさい、ダズ。今回ブレイスはロイセン側で戦ってるからオーニアス=神聖ロマン帝国とは敵対しているからマシだけどね。こう言う仕方のない男だけど、頼れるのは確かだよ、チャーリー。」


 「仕方が無いとは酷いな。スティーブ。」



 俺はクランベル伯爵の珍しい言動に戸惑いつつ、出されていた珈琲を口にしてレンフィール公爵とクランベル伯爵が互いに軽口を叩き合う様子を窺っていた。


 クランベル伯爵からは、俺に様々な人を紹介してくれたけど、儀礼的で淡々とした調子で済ませることが多かった。

 此処までフランクな話し方をしているクランベル伯爵を見ていると、レンフィール公爵は気の置けない友人なのだろう事を感じさせられた。


 俺は少し寂しい気分に成った。


 クランベル伯爵は、3年も経たずに学士に成り卒業したから裏切られた気分に成った事などを、レンフィール侯爵は快活に笑って俺に話をして呉れた。


 「私も、遣らねば成らない事が決まっていたからね。ダズとゆっくりと遊んで居られなかったのだよ。そう言えば、チャーリー、今は誰の役職を作っているの?」


 「ええと、3人ほど希望を聞き終えたのですが、一番に困っているのが、亡きアルバート4世の御息女レイチェル・フレッツノーヴァ様です。レイチェル様が仰っているのは、修道院を作って修道女に成りたい、と言うモノなのですよ。」


 「それは、また。」

 「一大事じゃないか?スティーブ。」


 クランベル伯爵とレンフィール公爵は(まなじり)を下げて互いに目を合わせ、含み笑いをして俺を見た。


 

 お2人が楽しそうで俺も何よりです。


 現在、ブレイス帝国には修道院が無い。

 マックス8世が旧教を辞めて国教会を作ってから、修道院も棄却させられ内部のモノを略奪後、石材などは新たな宮殿造りなどに利用されたり売られたりした。



 アルバート1世が旧教にも寛容令を出したとは言え、あくまで個人で信仰する事に対してであり、パブリックスクールや大学は国教会以外のモノを受け入れないし、公職や司法、内科医等には成れない。

 でもって、アイスエッジ元首相の時に敵対していたトール党議員に旧教の疑いを掛けたりして、また旧教に対しての取り締まりが厳しく行われるように成ってしまったのだ。


 特に、今は旧教徒国であるノルディック王国とクローバー国の独立戦争があり、旧教国で或るフロラル王国や旧教を国教にしているエスニア帝国、ロマン教国の守護者を自認しているオーニアス=神聖ロマンとも戦っている最中なので、旧教のシンボル的な修道院とかを作るのは非常に困難な時期なのだ。



 別に、レイチェル・フレッツノーヴァ様が旧教徒と言う訳ではない。


 書籍でフロラル王国の修道院や修道女の在り方に共感されて、ブレイス帝国でも作りたいと願っただけなのだ。

 そう、レイチェル・フレッツノーヴァ様は、素直で可愛らしい方なのだ。



 ブレイスの宗教は、新教からはブレイス国教会は新教でないと言われ、旧教からはブレイス国教会はクリイム教徒でない、と言われている可哀想な立場だけどね。

 旧教徒も新教徒も、教会の最上位が国王ってのも許せないようだけども。

 一応はブレイス国教会は、聖書主義的な新教で或る筈?



 それにブレイス帝国の人々の多くは国教会を受け入れ認めているので、文句を言われても今更は国内の混乱が恐ろしいので変えようがないけどさ。


 「レイチェル様は本気で?チャーリー。」


 「はい、元々が婚姻に関してレイチェル様自体が可成り悩まれていたらしくて、其処でフロラルの書籍を読まれて此れしかないと確信されて修道院を作られる気になったようです、クランベル伯爵。」


 「そりゃあ、あの陛下が父親だったものな。レイチェル様もお気の毒に。」


 「こら、ダズ、口の利き方!全くダズは。それで実現するのが困難な事を、チャーリーはレイチェル様へ確りと説明したのかい?」


 「勿論です、クランベル伯爵。ただレイチェル様は、自分のように婚姻したくない女性もいる筈だし、修道院へ入れば婚姻しない事を噂されても聞かずに済むし、家族と屋敷で暮らして居たくない女性もいる筈だと言うんですよ。」


 「如何(どう)でしょうね?居ると思うダズ?」


 「男なら婚姻したくないって奴がポツポツいるけどな。但し屋敷に居たく無いって淑女は意外に居たな。まあ、主に親が再婚した子女達だが。」

 

 「そんなモノなのかい?」


 「まあな、貴族では余り無いかも知れないが、社交に出て来る淑女の中には再婚した相手の顔を見たく無いから、早く婚姻して家を出たいって子が居たよ。」


 「まあ、ダズと知り合えるような淑女なら個人的な財産は持って居るだろうから、相手さえ見付ければ気楽に婚姻出来るだろうね。」


 「いえ、ですからレイチェル様は婚姻したくないと、、、。」



 クランベル伯爵とレンフィール公爵は珈琲で口を潤しながら、親が爵位を持たない有産階級の淑女たちの継父・継母についての軽口を叩き始めた、主にレンフィール公爵が。


 俺は、昔の俺みたいに負債で喘いでいないなら、生きるのも楽勝じゃね?って思ったりもした。

 でも、、、。

 そうだ。

 淑女たちが金を持っているなら、何とかなるかも知れないな。



 「あのー?クランベル伯爵、レンフィール公爵。今、思ったのですが、修道院では無くて聖書を学べる宿泊施設って言うのは如何でしょうか?修道院のような宗教的な契約も行わない。資産家の淑女達なら寄付金で運営が出来るかもしれません。レイチェル様に話して見ないと分りませんけどね。アルバート4世の作られている田園庭園に礼拝堂を一先ず作り、その後ボーディングスクールのような寮を作ってみるのは?宗教施設だと思うから難しいのであって、ホテルやテラスハウスのような不動産であり、レイチェル様が其処の管理人って言うなら、国内的な批判は少ないのではと愚考するのですけども。」



 「おおー、偽装ビジネスか?チャールズ。」

 「そんな偽装とか言わないで下さい、レンフィール侯爵!ビジネスですよ、れっきとした。」

 「ふふ、チャーリーも見せ掛けのラッピングが上手に成ったよね。ラッピング・ビジネス?」

 「あのー、クランベル伯爵も酷くないですか?」

 「ふふっ。」

 「はっはっ。」



  2人に冷やかされつつ、一先ず、クランベル伯爵から了承を貰えたので、俺はレイチェル様へと翌日、説明に行くことにした。



 修道院と修道女の書籍を読んで感動されたレイチェル様の素直な心根は貴きモノだ。

 そういう素敵な想いは俺も大切にして上げたい。


 例えラッピングビジネスと揶揄されようとも。


 また、アルバート4世の野放図な下半身でレイチェル様の母君もレイチェル様も、ご苦労されているのも人伝に聞かされ知っているし。


 某ノイザン公爵夫人が彼女達を『卑しい庶子たち』と言って、或る事ない事の噂を印刷会社に侍女たちを使って、ばら撒かせているしね。


 大体、俺に「アルバート4世とアルバート5世の庶子たちを何とかしろ」、ってクランベル伯爵が命じたのも、革新派の議員達が王族のモラル低下と無駄遣いを某ノイザン公爵夫人がばら撒いた噂を元に批判を始めて、枢密院議長や宮内長官へ議会で追及していくし。

 派閥は違うかも知れないけども、枢密院議長も宮内長官も君達と同じリバティ党議員だよね?と、俺は問い詰めたい。



 この侭で放置をして居ていると議会でアルバート5世がロイヤル席に着いたら、革新派が陛下にウザイ追及をしかねんと、俺の方が今度は懸念して素行不良のご子息たちを動かし、素直過ぎて飛んでいるご息女レイチェル様のフォローを考えてみた。


 それなのにオッサン2人で俺を揶揄って笑うとか、ありえねー。

 俺は文句を口の中へ押し込み、深く炒られたイラド産の珈琲と一緒に喉に流し込んだ。


 クソ、珈琲が苦いぜ。

 


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