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ep37 夜の不始末





 如何しよう。

 マジでジュリアに俺のムスコがピクリとも反応しなくなった。

 

 30歳前で俺は男として上がりを迎えたのか?



 、、、まあ、理由は分っているんだよね。


 ジュリアを懐妊させるのがメッチャ怖いんだよ。

 未だ若い24歳のジュリアなら、妊娠しても大丈夫って思おうとするんだけど、力無く永い眠りに就いた妹エルザの水気の抜けた青白い紙のような肌がスッと脳裏を過ると、もう俺は駄目なんだよな。



 「御免、疲れたみたいだ。」

 「ううん、気にしないで。私も眠たかったから、お休みなさい。」



  そう言ってジュリアは優しい気遣いをして眠るのだけど、此れで既に3度目なんだよね。

 今夜は行けると思ったのな。

 隣りを見るとジュリアは背中を向けて寝ている、、、フリをしていたので、俺はそれに気付かない振りをして、そっと羽根布団の掛布から出て、夜着の上から毛布のような厚手のガウンを羽織り、静かに寝室を出で、1階に或るパーラーへと向かう為に階段を降りて行ったらジーンが階段近くのホールで待っていた。


 「お酒を飲まれるようでしたら僕の部屋でどうですか?パーラーや2階の談話室を温めるには時間が掛りますから、冷えてしまいますよ、チャールズさま。」


 「おう、それは有難い。ジーンは寝て無かったんだな。」


 「いえ、まあ。何と無く。二階や1階の壁のランタンが点いているので僕が起きているのは分っているのかと思いましたよ。チャールズ様は相変わらずですね。」


 「ははっ、ジーンもな。」



 余りに気した事が無かったけども、壁に掛かっている燭台のランタンには火が灯されて、屋敷の中の夜の闇をオレンジ色の明かりで払って呉れていた。


 いやあ、俺ってスッカリと使用人の居る暮らしに慣れてしまっていたのだなと改めて驚く。

 学生時代は、全て自分で遣っていたのに。

 俺は、百合の紋章を刺繍で描いた従者の制服を着たジーンの低い背中を闇に紛れて仕舞わぬように足を速めて追い掛けた。


 俺んちの紋章では在りません。

 3本の百合の花はクランベル伯爵家の紋章なんだよね。


 だって俺が用意していた制服より断然質が良いし、ジーンに似合うしで、後で費用を払うからとクランベル伯爵に彼の制服を頼んでいるんだよね。


 でも俺からクランベル伯爵に費用を支払った記憶は当然ない。


 レスタード家って祖父さんの代に勝手に紋章を創ったらしいけど、父さんは後継でも無いし商会を作った時の商標みたいなのがあるだけだったので、俺が男爵に叙された時に、好きなマリンカの花と実と2枚の葉っぱが簡略化して適当に、、、いやっ、適当じゃないけども、如何頑張っても野苺は野苺だけどな。


 クランベル伯爵と相談して作り、アルバート4世から紋章を賜ったのだけども、改めて見ると実は要らなかったなと、俺は後悔をしていた。


 それにジーンはクランベル伯爵さん()の子だし。


 やっと身綺麗になり俺はジーンへ給金支払えると思ったら、クランベル伯爵家で年棒、350ポンド支払われているのですってよ。

 げっ、そんなに貰ってたのに俺へ小遣いをせびってたのかよ、ジーンめ。

 まあ、内ポッケトに金貨や銀貨を役得で仕舞い込んでいる、俺が言って良いセリフではないけどね。


 いつでもどこでも居て呉れるジーンの部屋は1階に或る。

 使用人は階下と言うのが定説らしいけども、部屋は余ってるしクランベル伯爵からの預かり品だしって事で、食堂の向かいの部屋をジーンの部屋として渡している。

 乳母のロージーは2階で、階下にはコックのケントと見習いのケンそして3階のメイド部屋にはメイとメラニーが居る。


 ジーンの部屋に入ると、暖炉に炭が入り赤く燃えて、冷えて来ていた夜着の上のガウンへ温かな空気が流れて来た。

 書棚と片付けられたワークデスクの上に或るオイルランプにも火が灯され周囲を照らしていた。

 簡素なキャビネットの正面に小さなティーテーブル・セットが置かれ、奥へ続く部屋へは厚手のカーテンで仕切られていた。


 「おお、綺麗に片付いてる。流石はジーンだな。ああして、カーテンで仕切ると暖かいな。」


 「まあ、アレはボロ隠しと言うか、細々したモノをベットの所へ置いてあるのを見せない為ですよ。今日も家に帰るのをチャールズさまは憂鬱そうにしていたので、前回みたいにパーラーで震えながら1人でお酒を飲ませるのは気の毒に思えたので、出過ぎたことと思いましたが階下で待っていました。」


 「げぇっ、アレをジーンに見られてたのか。で、でも有難う。」


 「はい。物音には敏感なので。出て行こうか如何か悩んだのですが、僕が出て行ってチャールズさまへ言い訳を考えさせるのも申し訳なく、あの日は遠慮しました。帰宅時の様子が可笑しかったので、メイに灯りは点けさせておきましたけどね。」


 「はあ、気を使わして悪いな、ジーン。」



 そう言って詫びるとジーンが「毎度の事なので」とボソリと呟き、俺が以前プレゼントしたブランデーをキャビネットから取り出して、グラスをグロリアポプラの円形のテーブルに置いて、琥珀の液体をトクトクと注ぎ入れた。

 ジュリアがアルコール嫌いなので2週間前は寝酒のつもりで飲んで俺は2階の客間で眠った。


 本来なら毎週金曜日には帰宅するのだけども、多忙を言い訳に俺はクランベル伯爵家で此の所、宿泊していた。


 ジーンの私物で其処まで質の良いガラス製のグラスではないけども、ブランデーは俺が渡した貰いものなので、フロラル産の良いモノだと思う。

 グラスに関しては、従者の私物に文句なぞ、言いません。


 俺はジーンにもブランデーを勧めたけども、「火の始末があるので。」と、思い切り遠慮された。

 

 右手で持ちグラスを口元へ近付けるとフルーティーな甘い香りが鼻孔をくすぐり、俺は一口ゆっくりと口に含み、喉へ流し込んだ。

 ふわっとした旨味の後に身体の奥から火照るような熱が沸き上がって来た。


 「お水をお持ちしますね。」


 そう言ってジーンは部屋の扉を開けて厨房へと向かった。




 如何しようかな。

 最後にジュリアとエッチしたのはエルザを見舞いに行く前で9月中頃。

 でもって今は年が明けての1月終わり。

 エルザが亡くなったのが10月で、、、って、前回も此れを考えて、時が過ぎれば大丈夫って思い直して、今夜で3度目のリトライ。

 んー。

 ま、未だ、大丈夫だよな。

 俺も若い筈だしさ。


 うん、焦るのは良くないし、エルザの事を考えれば直ぐに哀しみが癒えるわけじゃ無いって事は、俺が一番に分かっているんだし、きっとジュリアも判ってくれるよね。


 まあ、妹が亡くなって直ぐにHする方が、如何よ?って思うしな。


 しかし、我が家もフリップの所みたいに夫婦の寝室は別々にして置けば良かった。

 今更ジュリアに寝室を別にしようとか言うのも悪いし、でも同じベットで寝てるとジュリアが何となくその気なのだと分るのに、俺が無視するってのもなー。



 世の中は、色々な悲劇も起きているのに、嫁との夜の不始末で悩んでる俺って人として如何なのだ?





 ぐるぐると他人からすれば、割りと如何でも良い迷走で、脳の回路をオーバーヒートさせていると、コツンとジーンはテーブルの上に水の入った白い陶器のカップを置いて、水差しも並べて呉れた。


 「有難う、ジーン。部屋へ入って来たのに気付かなかったよ。」

 「チャールズさまの事ですから、どうせ下らない事で悩まれていたのでしょう?」

 「下らない?うーんー、まあ他人からすればね。俺にしては割と深刻よ?」


 「僕で良ければ、聞きますよ?チャールズさまの悩みが解決するかどうかは分りませんが、、、。チャールズさまがプレイベートで考え込んでいるとクランベル伯爵さまの依頼を熟せなくなると大変ですし。」


 『そうなるとクランベル伯爵さまも心配されるし、チャールズ様が能天気でいて呉れないと俺が迷惑なんだよね。』

 そう呟いたジーンの声は悩む俺に届く筈も無く。




 「でもなー、ジーンって子供だしな。」

 「僕は、もう22歳ですよ?チャールズさま。」


 「あれ?16歳、16歳って俺はずっと思っていたよ、ジーンの事。そういや少し前にジーンの嫁の心配していたや。しかし俺は借金完済したら、北カラメルへ行く心算だったのに、色々あり過ぎて忘れてたよ。はあー、母さんにもエルザの事を伝える為、華龍帝国へ行く商船に手紙を頼んでいるけど、いつ母さんの手元へ届く事やら。片道2年以上も掛るって遠過ぎでしょ、華龍帝国って。」


 「エルザ様の事で悩んでいらしたのですか?」

 「うーん、まあ、原因はエルザだからエルザの事と言えばそうかな?」

 「それは、、、チャールズさま、僕も何と言ってお慰めすれば。」

 「い、いや。まあ、うん。」



 俺を労るようなヘイゼルの実色の瞳をジーンから向けられて、俺は言葉を濁してブランデーを口にした。


 こんな真摯な目を向けるジーンに言えない。

 夜の不始末生活の悩みだなんて。

 いつもはチクリチクリと嫌味を飛ばすジーンが、俺をこんなに気遣って呉れているのに、「ジュリアに迫られてもピクリともムスコが息をしてくれない。」って悩みを幾ら俺でも口に出せないよ。



 俺は何となく気まずい思いに駆られてグビグビとブランデーを飲み干して行った。


 

 その夜、俺はジーンの部屋でダウンした。


 従者のベットを盗る主人て俺って如何なんだよ。

 此れが不始末でなくて何なのだ?



 

 明け方目を覚ましてジーンに謝り倒したのはいう間でも無く、ジュリアとも顔を会わせ辛くてクランベル伯爵邸へと俺は逃げ込んだのだった。


 


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