ep35 アルバート5世
ノーヴァ公国へ助太刀に行くと言う王弟ザハン公、今はアルバート5世を側近プラス俺で押し留めていると、「そんな事を言ってると陛下のご子息クランシー大尉を陛下に帯同させますよ。」と、俺達の後方から静かな声でクランベル伯爵は告げた。
「そ、それは断る。クランベル伯爵。」
そう言って、アルバート5世はウエストカタリナ宮殿に或る謁見の間の玉座に腰を下ろして、借りて来た猫のように静かに成り、新たな枢密院議長で或るポール・ショコラ男爵からの話を大人しく聞き始めた。
クランシー大尉は、20年以上付き合っていた女性との間に、アルバート5世が作りに作った庶子になる11人の子供達たちの1人。
9番目の息子18歳である。
ブレイス帝国では王族の貴賎婚は認められていない。
庶民出身で女優の彼女とは、20年続いた内縁関係だったけど、次期王位継承者として確定した時、アルバート5世は彼女と別れ、サクセス=マイン公国のアーデルハイト殿下と正式な婚姻をされた。
今は、ブレイス名らしくアーデルハイトからアデルと言う名に変えられた。
11人の子供は全員アルバート5世が引き取り、フレッツザハン(ザハンの子供)の姓を与えた。
そんな生真面目なアルバート5世の朝は早く、朝起きて散策後に祈りの時間、そして剣での訓練、食事後からウエストカタリナ宮殿で報告を受け執務をし、生真面目に決まったルーチンワークを熟している。
しかし、実直なアルバート5世には似なかった5人の息子達。
まあ、一番下の息子は11歳なので、未来は未定だけどさ。
でも、4人の息子達って、遊び好きな上にアルバート5世が即位した途端、もっと良い役職を寄こせ、って五月蠅いんだよな。
御息女達は上品で社交界でも『ロドニアの淑女』として人気が或るし、皆さま5人共に婚姻済み。
でもってアルバート5世が沈黙を余儀なくした9男のクランシー大尉は、ひと呼んでボンバー皇子。
海軍で大砲を打つのが趣味なんだよな。
「動くモノ皆敵だー!」って感性の持ち主で、一緒に乗っている将校たちがクランシー大尉の乗船禁止を議会へと申し入れられたと言うツワモノ。
「どんな訓練をしたのだ。」
つってアルバート5世は怒るけども、通常王族関係者などはアドミラルもお客様扱いである。
アルバート5世は身分を偽って一般人として海軍士官学校へ行き卒業したらしいけども、そう言う王族は稀なので、怒るならアホなクランシー大尉だけにして上げて欲しい。
18歳の癖に大尉なんだぜ。
その一件後、アルバート5世から謹慎させられていたのだけども、今度は陸軍士官学校へ行くと言い出して、現在、周囲がクランシー大尉の陸軍行きを阻止している。
流石にボンバーなクランシー大尉と一緒にはアルバート5世も戦場へ行きたくない模様だ。
しかし、クランシー大尉の軍隊好きは、アルバート5世の血かもな。
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ブレイス帝国内の大騒動をブッチして(=選挙の無い貴族議員に任せて)、庶民院の選挙は実施された。
「クローバー州とノルディック王国の騒乱が起きた責任はトール党に或る。」って論陣をリバティ党は、珈琲ハウスや居酒屋、貸本屋などに印刷したパンフレットをばら撒いた。
トール党は「今回の暴動を抑えられなかったのは、リバティ党のジョナサン・ヒット戦時大臣の無謀な作戦の所為である。」つう内容のパンフレットをばら撒いて、互いに相手の無能さを罵り合った。
当然、パブ(パブリック・ハウス)やコミュニティ広場での討論会(=罵倒大会)も賑々しく開催された。
その結果、リバティ党221議席、ライト党(無所属)41議席、トール党188議席と成った。
ライト党って言っても元はリバティ党なんだよな。
でもって、有能な陸軍大佐で選挙に強かったベンジャミン・ヒット氏が落選し、傷心を抱えて領地へ帰ったり、、、する筈も無く、陸軍本部へと戻って行きクローバー国へ派兵する為、将校達と作戦本部で悪巧み会議をしているそうだ。
男の傷ついた心は戦いでのみ癒せる。『by ベンジャミン・ヒット』
首相は、アイスエッジ元首相の娘と結婚しているクレム・ベルフ氏だったりする。
ベルフ首相たちリバティ党の閣僚たちで合議した結果、クランベル伯爵に王室関連の役職が集まり過ぎていて健全な?議会運営の妨げになるとして、枢密院議長をポール・ショコラ氏と交代する事に成った。
基本軍人バカなアルバート5世は、4世の頃から縁の或るクランベル伯爵に頼り切っていたので、自分の知恵袋を取り上げようとするリバティ党が大嫌いに成り、「クレム・べルフ氏を首相から解任する。」と言い出し始め、スッタモンダの挙句、枢密院議長の交代を飲む代わり、他の王族関連の役職は現状維持と成った。
シャレおつで華麗なジジイだったアルバート4世と違い、軍オタじじい陛下のアルバート5世は怒ると声がデカいし立ち上がると身体もデッカイ、そしてやっぱり声がデカイ。
アルバート5世の怒声は、ビンビンと空気を震わし耳の奥がキーンと成って痛くなるので、俺の中で怒らせては成らない最上位の人間へと堂々のランクイン。
「馬鹿な挑発をしたモノです、ベルフ首相たちも。陛下より議会の方が優位であると思わせる事に何の意味が或ると思っているのやら。交代話を私へ言わず陛下へ告げる等と。」
「アルバート4世陛下とクランベル伯爵とで、適当に勝手な仕事を作って俺に放り投げてたからでは?勝手な事をするなと、俺は他の議員から可成りクレームを貰いましたよ、クランベル伯爵。」
「その時、チャーリーの事だから、文句があるなら陛下や私へどうぞ、と言って逃げたのでしょう?」
「いや、ええ、まあ。そこまで直接的には話してませんが。」
大抵は俺の仕事が雑過ぎると言うクレームだけども、エリートの皆様ならマニュアルを読めば解ると思ったのだけどな。
俺が陛下やクランベル伯爵から任された役職での仕事は、多忙な議員が一々絡まなくて済む様に、基本は事業主と司法書士や弁護士とで回せるようにシンプルに作ってある。
スキーム作りが終わりクランベル伯爵に確認して貰うと、「良く出来ている。」って褒められているのだけども。
俺は、アポなしでウィンダム・ハウスの門前で議員達から文句を言われる事も増えたので、「話したい事がある様でしたら俺と一緒に陛下の前で。」って言っていただけで或る。
すごすごと去っていく議員の皆様を俺は見送り、パレスのような広く豪奢なウィンダムハウスへと入って行った。
何はともあれ色々命じられて熟していく内に『祝・レスタード家負債完済』と成ったのが此の夏の事。
一番多く借金していたガロア人系の金貸しが「へぇー、返せるモノなのですね。もう少し金利上げてもイケるな。」ってホザキやがって、「また宜しく。」と人の良い笑みを俺に寄こした。
いや、アレは俺でないと返せなかったと思うぞ。
それか、金山を掘り当てるかギャンブルで勝つかして一攫千金で返すかしないとさ。
2週に一度返済して、利率を計算させ直して支払うと言う、糞面倒な手順を踏まないと金利が金利を産んで圧し潰される詐欺のような手法を使いやがって。
だからまあ、無事に返済も終わったので、あの金貸しから借金した父の従弟も、安心してロドニアに戻って来ても大丈夫だよ、って言って上げたいけどなあ。
しかし、ホント21歳から昨年の29歳まで8年間、俺の人生は金の計算ばかりだった。
やっと金利と残高計算から解放されると喜んでいたら、エルザが父さんの元へ行っちまうし。
弟のカイルとケビンは今、北カラメル大陸の南部カローナ当たりの海域に駐留していて、議会からの指令待ちで或る。
俺も騒がしいウエストカタリナ宮殿で右往左往していて、ゆっくり家族でエルザを悼む時間を作れないでいた。
でも、それがエルザとの惜別で痛む胸には、一番に良く効く時間薬かも知れない。
フリップから連絡が無い所を見るとアイツはアイツで忙しいのだろうな。
此れからブレイスは、クローバー国の鎮圧へ行ったり、ようやくヨーアン大陸へ同盟国のロイセン王国を助けに本格参戦する。
『フリード2世クンの事を忘れてる訳、ないじゃないですかー。』
『ワザとボケてんじゃないのか?ブレイスめ。』
つう会話なんかが在りそうな気がしている俺である。
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そして、俺はアルバート5世陛下から王爾尚書に任じられ、私的文書その他の管理を任されてしまっている。
外交文書など公式な書類や手紙に使う国璽は、大法官の尚書に任されているので問題はなく、此れも一つの名誉職みたいなモノだと、クランベル伯爵から説明されたけど、俺の懸念通り矢張り大変だった。
ウエストカタリナ宮殿に或る2階の私的エリアで、物忘れの激しいアルバート5世陛下の為に就いている秘書官と2人の補佐官と共に、俺は明日行われるローゼブル宮殿でのオルハン=トルゴン帝国から来ている皇弟の歓迎式典へアルバート5世陛下を参加させようと促していた。
「陛下が出迎えなくて誰が行くのですか。此れも皇帝の役割ですよ。」
「しかし、チャールズ。儂は派手な場所は嫌だと皇帝になる前に宣言していたのだぞ。皇帝の儂が一度口にしたことを翻すなど、あってはならぬ事ではないか。」
「それはそれ、此れは此れです!陛下。何処の世界に式典に参加しない国王がいるのですか。それに今は喪に服していると言う事で簡素な式典に成っています。無理に笑顔を作らずとも、今なら兄4世を亡くされた哀しみ故と、来賓の皆様も気になさらないでしょう。」
「本当にチャールズとスティーブ・クランベル伯は、その言葉が好きだな。しかし、はぁ。」
「軍人たるもの腹を決めましょう、それにアデル皇后を偶にはエスコートして正式な場所で挨拶をさせて上げましょう。いつもウエストカタリナ宮殿のクィーンエリアにばかり閉じ込めているのは可哀想ですよ。」
「ふむ、それもそうだが。しかしチャールズ、今の儂は国王だが、、、。」
俺はもう一息だと察して、秘書官と補佐官達に目で合図し、アルバート5世陛下を歓迎式典へ参加させる為の倍プッシュをお願いした。
秘書官クロードと補佐官アッシュ、バードの3人はアルバート4世が倒れられた後、クランベル伯爵が議会を通してアルバート5世陛下へと就けた側近だ。
アッシュとバードは、今時珍しく王家に忠誠心の篤いバルモア伯爵家のご子息たちだ。
そして秘書官クロードは多く在るクランベル家の分家筋の優秀な人らしい。
俺はクランベル家の分家筋が国外に居ると聞いて、姓名を覚えるのを諦めた。
身分が貴族でないから覚えないのでは無くて、、、だって多過ぎなんだよ、分家の数がさ。
選挙が終わってから、与党に成ったリバティ党も自分達の縁戚に或る子弟を側近として、アルバート5世陛下の周辺に送り込んで来たので、クランベル伯爵の読み通りクロード達3人が側にいる事がアルバート5世陛下が犯す失言や失態を隠す良い煙幕に成っていた。
なんだか隙あらば与党議会がアルバート5世の行動へ介入してこようとするんだよね。
一応はアルバート5世って此の国の皇帝だし、彼等の味方で在る筈なのにな。
しょっぱなにベルフ首相を解任しようとしたから、敵認定されたとかかな?
それとも、首相に成った人には儀礼的に男爵位を授ける、って慣習をアルバート5世が無視して、叙爵しないからかも。
だってベルフ首相ってリバティ党関係者が発行している新聞で、『此れからは爵位など関係ない世の中にしていきたい』ってな内容の文を寄稿していたから、不要だと思ったしゴニョゴニョ。
ハイ、嘘じゃないけど、アルバート5世陛下の意志を無視して、クランベル伯爵を首にしたことでキレてるのだよね。
どっちも大人気ないよね。
そして、2人とは違う大人な俺の追加任務は、将来の決まっていないアルバート4世とアルバート5世陛下の庶子たちの仕事先の創出と婚姻先探しで或る。
王族の子息や息女も大変なのである。
いや、俺の方が大変な気がするけども。
クランベル伯爵が彼らはノーヴァ王家の血を半分引いているので、「役職は名称作りだけじゃ駄目」って言うんだぜ。
実体の或る団体を作れって、それって俺に天地創造しろって位に無謀で無茶な話だと思う。
なーんか、借金の返済が終わってから、俺の仕事の難易度が上がってる気がするけど?
気のせいだよね。
だって庶子って言っても大変なんだよね。
アルバート4世も5世も相手の女性がミドルクラスだったり、女優だったりするので如何したモノかって感じなんだよ。
アルバート5世はさ、相手が農家の出の女優だったけども、恋人は1人だけだからね。
子供の人数が多くても、まだ良いんだよ。
それに彼女とアルバート5世の仲はロドニアでは有名だったから。
彼女と一緒に暮らし始めた頃アルバート5世陛下は、第三皇子だったから正か王位継承するとか考えられない状況だったし、本人も軍人しながらザハン公爵として生きていく心算だったんだよな。
問題はアルバート4世の庶子18人だよ、、、母親も18人。
まあ、可成り以前にクランベル伯爵親子で苦労して処理したらしいけども。
一応は母親方の実家には、土地なしで一代限りでエクスワイヤの称号を授与。
後は、一応国と契約を了承した場合のみ、母親が生きている間だけ年千ポンド年金として国から支給される。
子供との手切れ金も含んでいるから安いか高いか判らないよね。
クランベル伯爵は子供の出生の確認が取れてから、後々にアルバート家の血筋を悪用されない為、考えてこう言う措置を取ったらしい。
「多くは無いが年千ポンドあれば女性も婚姻もしやすくなるだろう」って、クランベル伯爵は言うけど、俺からすれば年千ポンドとか大金ですから。
彼女たちの追跡調査も年1度しているらしい。
劇場関係者とか音楽家・画家とか商人とか職人とか彼女たち実父の職業は、バラエティーに富んでいた。
当然、契約を了承しない家庭もあったけど、そう言う場合はアルバート家とは、今後一切無縁だとサインさせたそうだ。
子供にとって何が幸せとかは判らないからな。
引き取られたからと言って父親とずっと過ごせる訳でも無いし、でも食べる事と教育は不足なく与えられるので、やはり本人の心持次第だね。
子供達の婚姻の方は相手が余程変な相手でない限り2人共恋愛結婚を応援して居たけど、応援せずともアルバート家の人達は恋愛バカだったので、恋に落ちて直情的に結婚を済ませている方が多かった。
だよねー。
あのアルバート4世と5世陛下の子達だもの。
なのでアルバート4世の方は婚姻して居ない子は12女の22歳のご息女以下6人。
だって一番下の子って7歳なんだよ、上に居る9人娘は皆婚姻しているし、つうか女多いなあ。
そして、アルバート5世陛下の方は、31歳の5男を筆頭に未婚の4兄弟と1女が居て前途多難である。
まあ8男の19歳から下は未だ未だ時間的余裕はあるけど、9男のクランシー大尉は面倒そうだからパスしてーなあ。
俺が陛下たちの御子息ご息女たちの事で頭を痛めていると、如何やら秘書官クロードや補佐官のアッシュやバードに励まされ、晴れの舞台が苦手なアルバート5世陛下も覚悟を決めたようである。
さて、何から手を付けて行こうか。




