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ep31 ノルディック王国



  弟カイルとケビンたちとフリップは、北カラメル大陸へドンパチしに行き留守だったので、緊急家族会議をフリップの家でデイジー、アラン、家主代理兼妊婦のエルザ、そして俺とで催した。

 議題は、当然デイジーのコーデリア殿下付き女官の件であった。


 本人デイジーだけがノリノリでエルザやアラン、俺は「辞めろ!、行くな!、駄目よ!」と三者三様に反対したのだけども、「こんな美味しいチャンスは二度とないわ。報酬もたんまり出るのよっ!うふうふ。」つうて、普段は薄いグレーの瞳を金色に変えて、結局は王女付き侍女にと成った。


 女官と言う事に成ると、王宮と議会の承認も必要だとかナントカで、コーデリア王女が個人的に雇う侍女と成った訳で或る。

 議会の承認が必要に成ったのは、ギボンズが女官を勝手に雇って増やしたせいでも或る。

 女官に成るとブレイス帝国から婚姻して辞めても恩給が出るのである。


 『ちっ、くそっ。』


 俺はデイジーの舌打ちとか聞いて無いからな。




 まあ、そんな下衆いデイジーを気品あるコーデリア王女の元へと送り込み終え、俺は青い息を吐いてクランベル伯爵邸に或る自室へと戻りジーンへ珈琲を頼んだ。

 珈琲を飲み終えたらアルバート4世の御機嫌伺いをせねばと思って居ると、クランベル伯爵の従者その5アールが部屋へ訪れて、書斎へ急ぐ様にと告げられた。




 書斎へと足を踏み入れると、クランベル伯爵は朱色のベロアを張った3人掛け用のソファーの左側を開けて俺を待っていた。

 明るい翠の瞳を俺へ向けて少し緊張した声で俺を空いている席へと促した。

 はい。

 何時もの定位置ですね、クランベル伯爵。

 

 俺はジーンに先導されて無駄のないルートでクランベル伯爵の左隣へ腰を下ろした。



 「お待たせしました、クランベル伯爵。何か在りましたか?」

 「ああ、態々、グリンジットハウスへ行かせて悪かったね。殿下と初めて会う日は、デイジー嬢もチャーリーと一緒が良いと思ってね。」

 「お気遣いありがとうございます。コーデリア殿下には優しくデイジーを迎えて貰ったので、緊張して居なかったみたいです。コーデリア殿下にも申したのですが、デイジーが何か遣らかしたら厳しく叱って下さい。」


 「ふふっ、まあグレース公爵夫人が其処ら辺は厳しくするよ。後先に成ってしまったがチャーリーには伯爵に成って貰う事になった。本当は一気に公爵にしたい所なのだが、面倒な手順が合ってね。此れも殿下とデイジーの為だよ、チャーリー。」

 「、、はい。有難う御座います。」



 うわああ。

 無意味に爵位が上がるよ。

 当然役得が色々在るけども、義務が増えちまう。

 つうか、俺の北カラメルへの脱出計画がああー。

 もしかしてデイジーって人質?

 うんな訳は、無いか。

 そんな事をして、誰得?って話だもんな。



 「それでね、チャーリー、陛下の熱が昨夜から下がらなくて、侍医始めウィンダムハウスは大わらわなんだよ。」

 「そ、そうだったのですか。御機嫌伺いをしようと考えていた所です。」

 「チャーリーが出掛ける前に告げれて良かったよ。それに、クローバー州南部とノルディック州の低地帯地域が農民反乱を起こしたんだよ。」


 「えっ、それってもしかして。」

 「そうだ、チャーリー。地主たちが少し強引に、小作人たちへエンクロージャーを仕掛けていたみたいだ。一応はチャーリーの忠告通り、余り強引な事をしない様に通告していたのだけどね。」


 「はあ、上手く抑えれると良いんですけど。」

 「それがノルディック低地帯の地域に或る治安判事が管轄していた保安隊の一部は今、北カラメルへ出征しているだろ?其処で軍の方へ鎮圧の依頼が来たのだよ。クローバー州も北部のモノは北カラメルだし、南部を抑えるのが難しいとの事だ。」


 「軍に頼むと遣り過ぎませんかね?クランベル伯爵。」

 「捕縛の時、傷付けるかも知れないが、同じブレイスの人間だから殺すような真似はしないだろう。」



 出来ればノルディック王国の事は、ノルディックに住む者たちで押えて欲しかったけど、地主や農業資本家はブレイス王国の人間なので、騒動が起きてしまった後では今更か。

 クランベル伯爵の話を聞きながら、俺は胸騒ぎを抑える事が出来なかった。




 その後、アルバート4世は意識不明に陥った。











            ※※※※※※※※※※※※






 【フリップ・ピバート中佐】






  仮の野営地を造り、僕は張ったテントの中で身体を休める為の木材に厚手の布を巻いた椅子とも呼べない代物へ凭れていると、補佐を務めていた中尉のハーシェルが声を掛けて来た。


 

 「流石に此処じゃあ仮眠を取れないだろ、フリップ。」


 「て、言ってもなー。取り敢えずは此の砦と呼んでる陣地を守れってバージア自治領植民地のウィンデー総督は仰せだしな、ハーシェル。まあ、明日に成れば現地の民兵が来るそうだから、僕は一時間位目を瞑り身体を休めたら、表に居る奴と見張りを交代するよ。」


 「しかしフリップ、なんで俺らがバーニア自治領植民地総督の命令を聞かないといけないんだ?北カラメル北西地域の指揮官で或るホープ大佐の命令は、フロラル兵のキャンプの場所の捕捉だろ?」


 「僕が率いて来たロードシア連隊の半数はエリン川を西へ辿っているからな。それに僕達が真面目にこの地で戦って死傷したりするとかは馬鹿げてるだろ?ホープ大佐にしても、僕達低地から来たノルディックの連隊なんて弾避けに位しか思っていないんだ。安全にゆっくりと任務を熟せば良いし、地図で見ると恐らく此処にいる方がフロラル兵に会う可能性は少ないよ。僕は目を暫く目を瞑って休むよ、ハーシェル。」


 「ああ、お休み、俺も休むとするよ、フリップ。」




 ハーシェルは僕にそう告げて口を噤んだ。

 

 北西に或るエリン川にある東の起点を抑えられたらニューロドニアへ行く川路が塞がれるので、それを防止する為、此処に砦を造り明日には訪れるバーニア自治領植民地の民兵が来る迄此処を守れ、とバーニア植民地総督に仰せつかった。


 バーニア自治領植民地と言うのは、バーニア会社から名付けられた植民地で、その会社が管理経営してめていた。

 バーニア植民地議会はバーニア会社の役員と選挙で選ばれた議員によって運営されているが、総督はブレイス帝国議会から派遣されている。


 起点を守れと言うのは恐らく建前でバーニア自治領植民地の北に或るモーニング川上流に或るフロラルのモーニング植民地を陸軍と民兵に奪わせる為、砦を築かせたのだろう。


 僕がバーニア自治領植民地総督へ挨拶へ行くと砦作りを命じられたので、一応、指揮官ホープの指令書を見せ、連隊の半数はフロラル軍のキャンプ地探しを実施させた。

 ウインデー総督から、砦を造ったり侵入して来た敵兵の捕縛や殺傷を命じられたが、正確に言うと軍規違反である。

 そう言う訳で西へと向かわせたと思わせて、実際は副隊長のゲルード大尉に南東のニューロドニア港へと向かわせ、バーニア植民地総督の命令を一言一句違えないよう、指揮官のホープ大佐へ伝える様に命じた。



 まあ、ノルディックの部隊なら好きに使って構わない、とバーニア植民地総督のウィンデーは思ったのだろうが、僕が何の為に中佐に昇進し、ノルディック低地のロードシア連隊に志願したと思っているのか。


 ある方に忠告され、違反者や重傷者が矢鱈多いノルディック部隊の数値が気になり調べたら、将校たちの作戦失敗の言い訳や弾避けに使われていた。

 低地出身の将校を調べると、ブレイス帝国から移住した者たちの子弟で、彼等は無事に帰国し昇進していた。


 僕は遣り切れなさに溜息を吐いて、軍で昇進して中佐に成ろうと決めたのだ。

 中佐に成れば、自分の行きたい部隊や任地を選べるのだ。

 全てのノルディック低地の兵は救えないが、僕が率いる部隊は生き残り活躍すれば、その連隊の皆は昇進や褒賞にありつけるのだ。


 オーニアス継承戦とプリメラ大陸の戦いで士官候補生だったハーシェル中尉やゲルード大尉たちにも昇進させる事が出来た。

 ハーシェルは、祖母と母親がノルディックからランダル王国へ亡命し、父親の代でランダル王国からブレイス帝国へ移り住むノルディックの血を引く友人兼副官だ。

 2歳年下だが僕と同じクライス・スクールへ通い、学生時代から気の合う奴だった。


 僕も祖父の代にノルディックからロドニア近郊へ逃れて来て、ノルディックの血を継いでいた。

 僕自身がノルディックから逃げ出した訳ではないけど、それでも心の何処かで負い目みたいなものを感じていた。



 だからと言う理由でも無いが、父が作ったと言う元ノルディック民たちの子弟が参加する、『地獄のクラウン・クラブ』って秘密結社に僕はクライス・スクールを卒業しても拘って参加していた。

 ノルディック語やノルディックの口伝を忘れない為に。


 亡くなった兄は何時までもノルディックに拘るなと僕に忠告して呉れていたけどね。



 しかし僕も初めから、中佐に成ってノルディックの低地兵を助けたい、と考えていたわけではない。


 クリイム歴1748年に父が亡くなり、その後、兄の言われる儘、僕は議員に成り翌年1751年、運命の彼チャーリーに出会った。

 その中性的な際立つ美しさに惹かれて、声を掛け親しく話すように成り、チャーリーともっと長く話したかったが人との会話に自信の無い僕は『地獄のクラウン・クラブ』にチャーリーを招待し時を過ごすようになった。


 そして、チャーリーは僕達が、もう声に出して言葉にする事の無い『ノルディック王国』と言う名を当たり前のように話したのだ。

 その言葉は、僕やクラブのメンバーはどれ程、心が震え嬉しかったか、きっとチャーリーは判らないだろう。

 

 理由を尋ねると大学時代に友人とノルディックを旅をした時に、言葉や風習、考え方の違いに触れて、ノルディックはブレイス帝国の州では無く、あくまでもノルディック王国なのだと感じたから、そう呼ぶようになったと話して呉れた。


 その言葉で、僕達は一遍にチャーリーへ惚れ込んでしまったんだよ。



 お陰でチャーリーと会いたいメンバーが増えて君の参加する時は、僕がメンバーを選ぶのに苦労していたんだ。

 それに僕もすっかりチャーリーに心を掴まれてしまって、どうしようもない此の想いに押しつぶされてしまいそうだった。


 幾ら好きに成ってもチャーリーと僕では如何にもならないだろ?

 増してチャーリーは家族の為に公職に就いている身だ。

 僕の想いで、チャーリーの生活を壊してしまう訳にも行かないし、何よりも此の想いを知られてチャーリーから軽蔑され嫌われるのが僕には耐えられなかった。


 そうやって悩んでいる時に、あの方から連絡が合ったんだ。


 我らの王ギルバート4世から。

 僕がノルディックの血を引く事を知る人間の悪ふざけかと思って会いに行ったら、祖父の代から飾られていたアルバート2世の肖像画によく似たアルバート4世其の人だった。


 アルバート4世やお付きの人達の話を聞いていて、僕はノルディックの人々を何とかしたい、と思ったんだ。

 ノルディック低地帯の兵の惨状や小作人化されている様子、そして高地の人々はもっと惨めだった。

 第一に軍への参加が認められず、農地にするのが難しい土地だと知っているのに、89年前のように羊毛で商売をしようとしても低地の商人からは安価で買い叩かれてしまう。


 その所為でランダルやフロラルそしてオーニアス地方へと多くの住人が出て行き、今は土地を守るための住人が辛酸を舐めて耐えていると言う。

 その住人達には他国へ渡った者達が援助していると言う話だった。


 なんとかノルディックへ凱旋しもう一度ノルディック王国を復興する為に協力して欲しいと頼まれ、それから僕は地獄のクラウンクラブのメンバーで参加したいと言う人間に、ギルバート4世を紹介し始めた。


 『ノルディック王国』


 そう言って呉れたチャーリーの声と輝く黄金の瞳を想い返して、僕の胸は熱くなった。


 でもチャーリーの妹エルザを紹介され、チャーリーに良く似た彼女を見て、僕は酷くあさましい事を想ってしまったんだ。

 チャーリーに良く似たエルザになら、きっと僕は触れる事が出来るだろう。

 そして何よりチャーリーと兄弟になれば、共に居る事にも言い訳を考えずに済む。

 その誘惑はチャーリーを求めている僕には抗えないモノだった。

 チャーリーが妹のエルザを大切に思っているのを知っているから、エルザには僕の出来る限りの優しさを与えて幸せにしてあげる決意をした。


 そうなってくると僕は兄の立場だけではなく、エルザの事を考えるとギルバート4世への全面的な協力が出来なくなった。

 だからせめて、助けられる低地の兵を僕は何とかしようと思い、こうして戦いに来ている。


 自分の中に或るノルディックの血とチャーリーへの想いを、ギリギリで均衡させる方法だと僕は考えたのだ。



 この戦いを早く終わらせて、僕はチャーリーの元へ帰りたいよ。


 そう思って僕は瞼を開けて、ゆっくりと椅子にしていた木材から立ち上がり伸びをした。

 さて、表にいる僕が連れて来たロードシア部隊の仲間と交代して遣らないとな。



  

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