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ep21 事故物件なソルズサンド男爵




  ウィンダムハウスに或るサンルームでコーデリア殿下とお茶を飲んで居るのだけども、ギョロ目のオッサンの視線が鬱陶しい早春の昼下がりの午後。

 ギョロ目のオッサン事、肖像画家兼コーデリア殿下の絵画教師で或る俺の舅エルメールなんだけどさ。


 なんか目を爛々と輝かし食いつきそうな視線で、俺とコーデリア殿下を見詰めて絵を描いているのは、我が舅レイン・エルメールなのだった。


 ホントは、絵のモデルなんぞ断りたかったけど、「人物の捉え方を教えて貰いたいのでチャーリーには絵のモデルをお願いしたいわ。」って、可愛らしく小首をかしげたコーデリア王女に頼まれて「ノー。」と、言える奴がいるだろうか?

 いや、居る訳が無い。


 だって俺は断れないし。


 俺達が座っている丸いガーデンテーブルから席をかなり離して、時々俯いて肩を小刻みに震わせているクランベル伯爵。

 あのう、クランベル伯爵、思い切り笑っても良いんですよ?

 つうか、出来れば何時もみたいに、俺の右隣りか左隣に座って貰えると話するにも近くて有難いのですけども。


 「エルメール氏やコーデリア殿下の邪魔になるから。」


 そう言って、態々、俺から席を離してガーデンチェアーを移動させて座ったクランベル伯爵。

 此れって、罰ゲームかな。



 年が明けて色々な儀式も終わり、一息ついた頃にクランベル伯爵からコーデリア殿下からのオーダーと言う事で、案内される儘にガラスで覆われた此の建物コンサバトリー(温室)へ入り、柔らかな日差しが降り注ぐ中、俺は光合成をして温まっていた。


 コーデリア殿下は、光に透ける細い金の髪をクルクルとカールさせ、部屋に飾られた観葉植物の緑たちに合わせたような浅緑色のシルクのリボンに白い花々を刺繍し、その花に合うレースの襟やレースで飾られた一輪の薔薇のようなローズピンクのドレスを愛らしく着こなしていた。


 そんなコーデリア殿下が淡いアクアブルーの瞳を揺らして不安気にお願いするのだ。

 ギョロ目のオッサンの視線が鬱陶しくても「ノー。」なんて言える訳が無いよな。

 人として。


 一応は、アルバート4世の雇った立派な宮廷画家の1人である。

 それに仮にも妻ジュリアの父親なのだ。

 例え変人であろうとも。

 俺は、ギラつくエルメール義父さんの視線を引き剥がし、コーデリア殿下との会話に集中した。




 「ギボンズと母が相応しい地位を与える様にとアルバート4世伯父上に頼まれたそうですけど、その件についてチャーリーは何か聞いていますか?母が私に今日、訪ねた序にアルバート4世伯父上へ質問して来なさいと言うのですけど。」


 「ああ、一応はスクワイアに叙するみたいですよ。流石に貴族位や準男爵位は、陛下も承知が出来ないそうです。後でボイソンにグリンジット・ハウスへ話に行かせましょう。」


 「お手数を掛けて、助かります。」


 伏し目がちにコーデリア王女は申し訳なさそうに俺に応えて、ドレスの膝の上で重ねた小さな白い手に力を入れたのが分かった。

 一応は宮内長官達へ手続きを踏み、ノイザン公爵夫人はアルバート4世へギボンズの爵位を強請ったけど強いて功績は無いし、アルバート4世の嫌いな自由主義を謳うリバティ党議員や関係者をコーデリア殿下の身近に配してる状況で、俺は良く頼めるなと強心臓に感心をしていた。


 一応は、ジェントリにもバロネット・ナイト・スクワイアつう違いが合って、国や陛下の貢献度に寄り与えられる階級が違う。

 何が違うのかと言うと判り易い所だけで説明すれば領地の広さかなあ。

 クランベル伯爵の話によると、それだけでは無いらしいけどね。

 ザックリ言うとスクワイア(準騎士爵)が千エーカー未満の領地で将校、高位聖職者、農業地主などなどの名誉職も兼ねていて、ナイト(騎士爵)が千エーカー以上、バロネット(準男爵)が3千エーカー以上の領地を持って居るらしい。

 中には、貴族家と同じ様に1万エーカーの領地を持ってる凄いバロネット(準男爵)のジェントリもいる。


 でもってアルバート4世とクランベル伯爵の悪巧みで創り出したマーセナリー(従士)と言う金儲けのクラスなどもジェントリ階層へと加わった。


 でもって、貴族への成り易さがジェントリと言う階級でも在ったのたけど、俺なんかが無意味に貴族に成ったモノだから、ギボンズとかも貴族に成れるとか思ったのかな。

 その他、貴族に成るには軍人で武功を立てたり、政府の閣僚等に成ったりして、陛下から叙勲して貰うってのが或る。


 アレ?

 、、、やっぱり俺って寵臣だったりするのか?




 まあ兎も角、身分の無いギボンズは置いて於いて、仮にも王族の一員であるノイザン公爵夫人が、ともすれば王権を弱めることに成る急進的な考えのリバティ党議員たちへ心酔するとは、俺も理解に苦しむ。


 『自分達の行動を規制して来る権力など要らない。(税金を払いたくないでござる!)』


 つう考えが、リバティ党にあるので、身分制度の或る此のブレイス帝国との相性は悪い。

 、、、筈なんだよな。


 特に母親のノイザン公爵夫人やギボンズは、皇帝に成ったコーデリア王女の後見人に成り、その権力を利用しようとしている立場だと言うのに、意味が分からないよ。

 今回の爵位の要望も、「王位後継者に仕えるのに相応しい立場を。」つうて話を通して来た。


 「ザケんなっ!」って、もうアルバート4世の機嫌が悪くなって大変だったのだよ。


 アルバート4世の姪に成るアリシア妃殿下も、グリンジット・ハウスでギボンズに頼り切って相談役・財産管理を一任しちゃったしで、アルバート4世は頭を抱えている状態。

 こう言う状況なら、ギボンズ達もしおらしくしていれば良いのにな。


 ギボンズを排除したくても、ノイザン公爵夫人が庇うので、手出し出来ない状態だったりする。

 未来の王位継承者の生母であり、アハルト=サクセス公国の公女でも或るノイザン公爵夫人の立場は強い。


 つうても、俺は彼女をノイザン公妃と呼びたくなくて呼ばないけどね。

 専ら「あの夫人」って俺は話している。




 「グレースからは、母との距離をもう少し取るべきと言われるのですけど、機嫌を損ねさせると関係の無いサーヴァント達に迷惑も掛かりますから。」


 「まあ、母娘ですし、グリンジット・ハウスで共に暮らしているのですから、難しいでしょうね。ギボンズに気を配って於けば、大丈夫でしょう。余りコーデリア殿下は気に病まずお過ごしください。」


 「、、、はい。あの、チャーリーはお母様と日々、どのように接されているのですか?」


 「我が家ですか?んー、ははっ、難しいですね。そうですね、母と俺とでは、信仰への考え方が違っていて、其処ら辺で合わない事もありますけど、親子であっても年齢を重ねれば、違いも出て来るだろうと俺は思うので、日頃は気にしませんね。それに実家には弟妹が居るので、何か在った時はフォローを頼んでいます。」


 「そう言うモノなのでしょうか?チャーリー。」

 「全ての人々って言う訳にも行きませんけど、親子であっても親は親の、子は子の生きている環境があるので、同じ思考には成らないでしょう。恐らくね。」



 俺はそう言って、コーデリア王女の大きく見開いた円らな淡いアクアブルーの瞳を見詰めて、静かに告げた。


 今年12歳に成る小柄で幼いコーデリア王女に理解してもらえると良いなと考えつつ話をした。

 母さんとの関係が微妙な俺でも、別に嫌っている訳では無いしね。アルバート4世やザハン公、そして養育係のグレース侯爵夫人やクランベル伯爵からも母親の事をコーデリア殿下に忠告されたとしても、きっと彼女も母親を拒絶する程は嫌って居ないのだろう、と俺は推測していた。



 身内への想いは結構、複雑なのだ。



 他人なら、迷惑な思いをさせられたら、縁を切ったり距離を取ったりすることが当たり前で簡単な事だけど、身内の縁、、、増してや親子の縁は、合理的に断ち切れるモノでもない。

 きっとコーデリア殿下も、母親のノイザン公爵夫人から受けた親愛の情を何処かで感じているのだろうから。


 「皇帝とは孤独で、その孤独に慣れないとね。」


 そうクランベル伯爵はコーデリア殿下に教えて居た事も在ったけど、だからこそと俺は思うのだ。


 (いず)れコーデリア殿下が大人に成れば嫌でも独りで考え決断する日々が続いて行くだろう。

 だからこそ色々と問題の多い母親であろうとも、幼いこの時期に母親と触れ合える時を過ごして欲しいと、俺は願ってしまう。


 まあ俺は、高貴な方々の生き方は知らないけども、少なくとも俺との会話を望むコーデリア殿下は、こんな考えなども聞いてみたいのだと、勝手に思い込んでいるけどね。



 ダニのようなギボンズは滅んで呉れねーかな、って思っているけどさ。



 少し瞳が明るくなったコーデリア殿下は、ガーデンチェアーに座ったまま姿勢を正して、最近はギボンズが連れてくる娘のダイアナや臣下の子供達が無礼な態度を取ると、クランベル伯爵の教えの通りに、場所を選んで注意するようになったと話した。

 おおー。

 クランベル伯爵のプライオリティ教育の賜物だ。


 俺もコーデリア殿下に、「無礼者!」と、注意されないように気を付けねばと、腹筋に力を入れて背筋を伸ばして姿勢を正した。



 その後、出来上がったエルメール義父さんの絵を見せられた。


 愛らしいコーデリア王女と何処か俺と似た貴婦人が並んで座って描かれていた。


 如何考えても、アレは俺じゃない。

 ギョロ目をアレほど輝かして凝視していたのに、エルメールの目には何が映っていたのだろうか?





 だから、絵を見て肩を小刻みに振るわせるのを止めてくれませんか?クランベル伯爵。












                ※※※※※※※※






 急ぎの用事がない時は。

 つか、主にアルバート4世とクランベル伯爵からの用命だけども。


 週に1度の割合で妻のジュリアの元へと帰っている。

 メイドのメイとジュリアに出迎えられて屋敷へと入り、ホールから西奥へ歩いて、2階に或る長細い窓が並ぶ談話室へと向かった。

 クリーム色の扉を開いて俺用のイエローポプラの白味の或るダイニング・チェアーへと腰を降ろして、ジュリアが対角線上へ置いてある温かみが或るパイン材のダイニング・チェアーにゆっくりと座った。

 朱い髪を緩やかに後頭部で上げて、翠色のリボンで纏め、着心地の良さそうな臙脂色のドレスを纏い、涼し気なエメラルドグリーンの目を細めて俺に微笑んだ。


 「お帰りなさい、チャーリー。御免なさい、急かしたのじゃなくて?」

 「いや、丁度ジュリアの所へ戻ろうと思った所だよ。珍しい、と言うか初めてだよね。ジュリアがジーンに頼んで俺に早く戻って欲しいと伝言をするのは。どうしたの?」


 「ふふ、そんなに身構えないで、チャーリー。悪い話では無いのよ。私が嬉しく興奮しちゃって、気が付いたらメラニーに伝言を頼んで居たのよ。実は赤ちゃんが出来ていたの、チャーリー。」

 「赤ちゃん、、、?赤ちゃん、えと、えっ懐妊したのジュリア、おうわぁー、俺の心臓がドキドキしてきた。」



 原因があって結果がある(妊娠)ので、何の不思議もない。

 俺も人並みにジュリアと励んでいたけど、まさかジュリアが妊娠するとは。

 何故か、懐妊する気がしなかったんだよね。


 んー。

 俺の中で覚悟みたいなモノが出来ていなかったみたいだ。

 ドタバタと騒いでる間に引っ越しをして、26歳で婚姻し、気が付けば2年が経っていた。

 毎日がアッという間で、そんなにも時が過ぎたとは思って居なかった。


 ちょいちょいと便宜を図った見返りに、手数料をポッケに仕舞っているうちに、負債もなんとか半分以上減って来た。

 つうか、利子が高いよ、全く。

 元本だけならとっくに返済出来てる筈なのに。


 いやさあ、ソルズサンド男爵領を貰っているので其処の収益を使えば良いのだろうけども、そっちは今まで管理していた家令のゴードンや使用人たちが今まで通り其の侭で回して呉れていたので、なんか俺のモノでは無い気がするんだよね。


 1年に一度ロドニアへ報告に来て貰って居るけど、領地内での揉め事や問題ごとの平定や処理、税理を家令のゴードンが差配して呉れているし、俺がブレイスの南西にある遠い遠いデモニルシャーのソルズサンドへ訪れる事は無いだろうな、と予測する。



 怖い噂もあるしね。

 なんでもソルズサンズ男爵に成り領地に住むとその一族が呪われて死ぬらしい。

 今まで170年の間に3家が滅んだんだって。


 クランベル伯爵や領地を呉れたアルバート4世は、カラカラと笑ってそう説明して呉れたけど、俺にとっては笑い話ではないのである。


 本当に酷い事故物件なのだ。

 前回滅んだ一族が15年前で以降、領地に住民も住んでいるので、ソルズサンド男爵家を休止し王家が先代が雇っていた家令のゴードン達に頼み、管理して貰っていたらしい。

 家令のゴードンを俺はソルズサンズの領主にするべきだと思うんだよね。


 一応、俺はソルズサンズ男爵なんだけど、断固として名乗りは拒否し、姓はレスタードの侭である。

 事故物件なソルズサンド男爵って囁かれたく無いし、俺って呪いとか信じて無いけど、気にする性質なのだ。


 陛下もクランベル伯爵も子供も出来たばかりのに、俺達が呪われたら如何して呉れる。




 そんな事故物件を背後に背負ったまま、俺はジュリアに宿った新たな命へ歓びの言葉を紡いだ。


 ブレイス国教会でない新教なら、万人祭祀で在るから俺も寿げるのだけど、欲深く邪念の多い俺の祝福よりも、母さんやニューラン牧師たちの祝福の方が新たで清らかな魂に相応しいと思い、ジュリアが出産したら母さん達に来て貰う事にした。


 意外だったのは、ジュリアが懐妊しない事について、悩んでいたって話だった。

 マジか!。

 俺は全く気付かなかった。


 後、

 ジュリアの家、エルメール家では、兄弟達が早逝していることを懺悔するように、ジュリアは消え入りそうな声で俺に語った。


 うーん。

 それだけは、どう慰めて良いのか俺も判らない。

 でも確か亡くなった兄弟たちって皆、病死だった筈で、遺伝とか関係なかったよな?

 婚姻前にジュリアから聞いた話だと。



 「余りにも美しい魂だったので、神は穢れを惜しんで、天の門へと誘ったのだよ。7歳までの魂は神の御許にあるらしいよ。だから神の子は役目を終えて御許へ戻ったのだよ、ジュリア。」



 俺は幼い頃に誰かから聞いた話をジュリアへと聞かせた。


 此れ以上ジュリアが悩むのは良くないし、俺はクランベル伯爵に出産に慣れた話し相手を探して貰うことにした。

 それとギョロ目のオッサンも。

 ジュリアの父親ってだけで無くて、あの人って常人とどっか違うから意外にジュリアを元気付けるのに向いているかもしれない。



 我が家への立ち入り禁止を言い渡していたエルメール義父さんへ『祝・出禁解禁』の手紙を綴ろう。

 目出度さと凹みが乱高下しているナーバスなジュリアにヘルプっ!

 頼むぞ、変態オヤジ。




 俺の報せが届いた夜、ギョロ目のオッサンに俺はしこたま酒を飲まされ、出禁解禁を早まった事を知るのであった。

 エルメール義父さんが玄関ホールへ顔を出した途端、ジュリアが父親に「帰れ!」と呟いた理由を俺は、後に知る事に成った。



  嫁ジュリアに相談してから出すべきだった。

  エルメール義父さんへの出禁解禁。


 そしてジュリアが見せた。

 初めての不機嫌な表情を見て俺は実感する。


 『要相談・嫁への事前確認』



 ちょっと待て。

 その行動は、嫁の了承済みか?



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