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ep19 スィートタイム




  あれだけの予算を掛けたローゼブル宮殿を放置してアルバート4世は、今日もウィンダム・ハウスのプライベートエリアの一室で、俺に身体不調をグダっている。

 若かりし頃の、麗しく凛々しい姿で馬に跨っている皇太子時代の絵画一昨年(おととし)エルメール氏に描かせた、建築物の設計図を眺め、真剣な表情で青い瞳を見開くアルバート4世の肖像画に俺は見降ろされている。

 ゆったりとしたウィングチェアーに座り、不貞腐れ気味のリアルなアルバート4世の左斜め前に、置かれたオーク材のアームチェアーへ俺は腰を掛けて、頷き話を聞いていた。



 いや、まあアルバート4世も歳だから、色々と肉体にガタも来ているのだろう。

 近頃は、ダービーの観戦ばかりでアルバート4世自身は乗馬もしていないし、今年のバカンスは王家が管理している南西に或るダイヤ島の別荘地の海で泳いでもいない、酷く大人しいモノだ

 アルバート4世が愚痴る気持ちも分からなくもない。



 アルバート陛下より、4歳年下に成るザハン公で或るエドワード皇太子60歳は、未だに現役のロード・ハイ・アドミラルなのだ。

 名目だけの名誉職なのに、現在も哨戒訓練と称して海賊が出ると言う、南カルメラ大陸北海に或るカカオ諸島へ軍船で向かっている。

 ザハン公は、アルバート4世の実の弟とは思えない程に質実剛健であり、華美なモノや浪費を厭う性格なのだ。

 競馬より軍船を眺めている方が落ち着かれるそうだ。



 20年以上も夫婦同然に暮らして居た女性とも、皇位継承をせねば成らない状況だとほぼ決まり、貴賎婚は出来ない為、別れることに成り11人儲けた子供たちに、フレッツザハンと言う姓を与えて全て引き取り、そしてサクセス=マイン公国ダオルク1世の娘アーデルハイト23歳と婚姻した。


  60前の爺皇太子と23歳の公女妃殿下との婚姻なのに、言葉に出来ない程の地味婚で、簡素&質素なお披露目に議会や貴族達がブーイングだった。

 『ブレイス王国の威信が、なんちゃらかんちゃら。』

 そんなことで傷付く威信なら傷付いても良くねぇ?って、俺は思ったんだけどさ。

 サクセス=マイン公国のダオルク1世の機嫌を損ねていないなら、俺的にはオッケーなんだよね。



 アルバート4世とザハン公のどちらが皇帝に向いているか?って、話題が新聞に書かれていたけど、此れは好みの問題って言うか、ザハン公自身の治政を見る迄は、分らないよね。

 アルバート4世の放蕩具合はどうよ?って慣れるまでは、俺も疑問に思っていたけど、それが無駄な浪費に成るか、意味の或る経済行為になるかは、少し経って見ないと分かんないしね。

 

 俺から見れば、不要な改築や通りや街作りも、その建築様式を見習ってロドニアだけじゃなく、他のヨーアン諸国の都市へ伝播していく様子を聴くと、アルバート4世って只者じゃないなって感心するし、その技術を見習いたくて、他国の建築家や芸術家もロドニアへ集まって来ているからね。


 だから現在進行形でボロクソに批難されていても、それが正しい判断かどうかは未定って事かな。


 俺の感覚的にはザハン公が好みだけども、それが国のトップである人の善し悪しの判断材料には、成らないよねって話。


 かと言って、今、目の前で「腰がちょー怠い」って愚痴っているアルバート4世は、やっぱり「どうよ?」って、俺はイラっとしてるんだけどね。





 

 

 

 



             ※※※※※※※※※





【クランベル伯爵】



 



 きっとチャーリーは知らないだろう。

 ずっと以前から私は君を知っていた事を。



 初めて君を見掛けたのはチャーリーが17歳だった9年前の眩い日差しのなかだった。

 庶民院の議会堂に使用していたウエストカタリナ寺院の庭でチャーリーが父親のジョン・レスタードとウィルソン・カステルと待ち合わせているのを、私が偶然見かけたのだ。


 彼を見掛けた瞬間に人々の喧騒が消え、その黄金に輝く髪が風に揺らされる度にチャーリーの存在が濃く浮き上がり、金色の瞳で表情が変わって行く様に、私の心臓と感情が掴まれ囚われて行くのを感じた。

 その美しく端麗な容姿は、私のありふれた日常を揺るがし、私を新たな世界へと導いたのだ。



 あの時の情景を想い返すたびに、あの日チャーリーに出会えた奇跡を感謝せずにはいられない。




 ジョン・レスタードとウイルソン・カステルは庶民院では有名な存在だったから、チャーリーがジョン・レスタードの嫡男である事は直ぐに知れた。

 しかし、他人へ私の想いを気付かせる訳には成らず、ジョン・レスタードやウィルソン・カステルそしてニューラン牧師が議会堂で歩いている姿を見掛けてはチャーリーを探す日が続いた。



 それから2年後に私の妻と父が流行病で亡くなり、私は庶民院から貴族院に移り、ウィルソン・カステル議員が訪れるウエストカタリナ寺院で、私の通う議会堂はウエストカタリナ宮殿へと変わり、出会う事も無くなった頃、アルバート3世の体調が優れない事を知り、万が一の事があれば選挙に成ると私は考えた。


 私は、その時はチャーリーの父親で或るジョン・レスタードを、自分の手持ちの選挙区から出して、議員にしようと思い付いた。

 『ウルド人奴隷貿易廃止法案』は、どの道にしても議会で通ることは困難な事と思えたし、ジョン・レスタードを議員にすれば、チャーリーと自然と出逢え、接する事も増えるだろうと思ったのだ。


 中々、議員仲間でウィルソン・カステルを紹介して呉れる相手を見つけられず私も苦労したいた所、ジョン・レスタードが倒れたと聞いた。

 私は自分の間の悪さを呪ったが、チャーリーの悲しむ姿を想像して何か在った時にいつでも手助け出来るようにしようと強引な手段で既知を得て、ウィルソン・カステルからの連絡を待っていた。



 そこからはーーー。

 我ながら酷いと思うがチャーリーの弱みに付け込む形で私の傍へ置いたのだ。




 日々、私の傍で生活し、あの美しい奇跡のようなチャーリーが話し掛けて来てくれるのだ。

 此の祝福されている多幸な時間を逃さないように、私は糸を巡らせ続けるだろう。

 


 誰にも気づかせる事なく、

 チャーリーにも気付かせることなく、

 私は、此の甘い時を胸の奥で味わって行くのだ。


 此れからもずっとね。










            ※※※※※※※※






  体調不良を訴えていたアルバート4世は、、、。

 マジで弱っていて理髪外科医になんとケツを切って二つに割って貰っていた。


 違った。

 ケツに出来物が出来ていて、案外と酷い状況だったので、陛下に就いている主治医に診せると理髪外科医の仕事だと診断されて、急遽、理髪外科医ギルドのトップが呼ばれて手術する事に成った。

 優秀だと評判な外科医のカッター氏に出来物をスパスパと快刀乱麻を断つ如く切り取って貰い、チクチクとケツの傷を縫い上げられ、暫く経つとアルバート4世のケツの問題はスッキリと解決した。


 そのカッター氏の腕前に感動したアルバート4世は、カッター氏を呼び付け褒賞を与えることにした。


 でもって、外科医カッター氏が願い出たのは、『外科医組合』の創設であった。



 元々は理髪師が、血や穢れに触れられない聖職者の代わりに、嚢胞などの切除と膿の排出、瀉血、ヒルによる吸血、吸い玉放血法、浣腸、抜歯などを行っていた。


 その内に外科を専門にする者も現れたけど、技術レベルが恐ろしく低かったので、「お前等、理髪師の所でチョイ修行してから商売しろ。」と国王に言われ、理髪屋で徒弟制度の元で7年間ほど修行してから親方やギルドの皆から試験され、合格すると外科医として独り立ちしていくことに成った。


 初期は低い社会的地位に甘んじた理髪外科医であったけど,技術の蓄積とともに次第にその地位は向上していった。

 彼らはロマン語や古代グリシア語でなく、日常の言葉で実際的な技術を記録し,著書を出版したことから,外科学の知識や技術が広く普及する助けともなっていった。


 そして外科を専門にする許可を認められ、外科医ギルドも出来たのだけども、理髪ギルドも外科を行えるように勅許状を得た事で、理髪外科医組合に成り、それぞれの専門に勤めることが出来るように成った。


 が、


 「抜歯」だけは外科医にも理髪師にも認められ、長年の確執が続いていた。

 クリイム歴1540年からの確執だよ。


 折角の恩賞ならばと、カッター氏は外科医組合の独立をアルバート4世に願ってみた。

 お尻も綺麗になって上機嫌のアルバート4世は二つ返事で「オッケー」を出し、『外科医組合』の勅許状を出したよ。


 こうして、クリイム歴1755年に目出度くも「外科医組合」が創設された。



 とは言っても、内科医のように未だ外科は医大で学びの場は無いので、立場は低い侭なのだけど、ケツを綺麗に治したい系の患者は多いと思うので、真面目に研鑽して活動の場を広げて行けば、外科医の立場は向上すると思うよ、必然的に。




 「私も久々に良い仕事をしただろ?チャールズ。」

 「はい、流石はアルバート4世陛下です。ケツに出来た出来物1つ無駄にしない。パねぇーって、俺も感心しました。」


 「今一つチャールズには、おちょくられて褒められてる気がしないが。まあ、カッターやハンターと言う有能な外科医にライブリッジ・カレッジで外科育てる大学を作ることにしたから、後はチャールズ、頼んだよ。」



 「ええーっ!又ですか。」



 俺は、急にアルバート4世から投げられた仕事に、ガクリと肩を落とした。

 でもまあ、此れで怪我などの手術で治る確率が上がるなら、それは俺も嬉しい事だし、陛下の従者ボイソンがこっそり渡して呉れた俺への報酬金額に思わずニンマリも出来る。


 「畏まり。で、毎度アリっす、陛下。」



 俺は、陽気な笑顔を浮かべて30枚のギニー金貨の入った皮の袋を藍色のフロックコートの内ポケットへ入れて、ジュリアの待つ自宅へと足を速めて戻って行った。


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