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ep15 ハードワーク



 少し前のメロウな気分など忘れたように、陽気な微笑を浮かべてアルバート4世が明るい声で、俺に話し掛けて来る。


 「私が支援している素晴らしい画家の息女なのだが、父の絵のモデルも務める綺麗な娘さんなのだよ。」

 「、、、えと、陛下、そんな素晴らしいレディーを負債の残る俺の元へ嫁がせるのは申し訳なさ過ぎて、その、出来れば、今回の話は、、。」

 「一度会ってみれば良いと思うよ、チャーリー。出会いは大切にしないとね。」

 「いや、でも。」

 「丁度、来週に彼女を描いた絵の展示会が或る。なんともピッタリのタイミングだな。チャールズ。」

 「ええ、運命的なタイミングだよ。チャーリー。では、私はそのように準備をして置きましょう。」

 「そうだな。頼むよ、クランベル伯爵。そうそう父親の名はレイン・エルメール画伯だ。素晴らしい陰影を表現する天才なのだよ。彼女に会うと言うだけでなく、是非に展示会で、エルメールの絵画をチャールズも堪能して呉れ。」



 アルバート4世とクランベル伯爵から、「ノー。」と言う間も与えられぬ侭、俺は画家エルメールの作品と御息女と出逢う事を決定されてしまった。

 なーんか2人に諮られた感がヒシヒシと感じられる。

 それからも否定しようとした俺の言葉を「あっ」と言う間に2人から封じられてしまった。







 

         ※※※※※※※※






 久し振りに俺はフリップの家へ訪れていた。


 本当はもっと早く姪のナディアの顔を見たかったのだけど、母が初孫と出産を済ませた妹のエルザの世話をする為、頻繁に訪れていて行く機会を逃していた。

 母からの見合い話から逃げて居たら、逃げられない相手(皇帝)から、見合い話が持ち込まれて現在、俺は窮していたりする。

 まあ、会うことに成るのだけど。

 

 今日、母はニューラン牧師の教会で催している集会に行っている、と末弟のアランから伝言が来たので、その隙を伺ってフリップ宅を訪問したのだ。


 末弟のアランは母が通っている、その集会を『白ミサ』と呼んでいる。

 集会(ミサ)から帰宅した母は、スッキリとした表情をして魂が浄化されたように見えるからだ、とアランは俺に説明した。


 『今日、訪ねる』と、フリップに先触れを出して於いたのだけど、俺がクランベル伯爵邸から出てフリップ宅へ辿り着くと留守だった。

 俺は、目元がフリップに似た哀れな生後5カ月になるナディアのプクプクした頬を、人指しの指先で軽く突いて「強く生きろよ」と励ましてエルザと揃って客間へ行き、思わず愚痴を言った。


 「フリップへ午後に行くって先触れを出していたのに。」

 「もう、仕方ないじゃない。急用が出来たのだから、チャールズ兄さん。でも18時過ぎには戻るってフリップも言っていたから、一緒に夕食を食べるでしょ?」

 「ああ、頼むよ。折角、会えるのを楽しみにしていたのに。」

 「もう、チャールズ兄さんは何時までも愚痴を言わない!」


 ブチブチと愚痴を言う俺に素直だったエルザがピシリと釘を刺した。

 うわっ。

 その言い方は、母さんに似ているぞ、エルザ。

 俺は母と似た口調で告げたエルザの声を聞き、反射的に首を竦めて身構えた。


 エルザは、俺と似た金色の長い髪をシニヨンに結って頭の後ろで纏め、金色の瞳を悪戯を成功させた子供のように輝かせ、口元を白く小さな右手で隠して笑っていた。


 「ふふ、ホントにフリップの話してた通りだわ。チャールズ兄さんは母さんを怖がっているから、母さんの口調を真似ると面白いって。ふふっ、チャールズ兄さんの仕草って、ふっ、可笑しい。」

 「あのねー、エルザ。一児の母親が何を遣ってんだよ。兄を揶揄う何てさ。」



 俺は、笑いのツボに入ったエルザが落ち着くのを出された珈琲を飲み乍ら待った。

 くそっ、こんなことなら俺はフリップに母への愚痴を話すのでは無かった。

 母を怖いとか苦手とはフリップに話したつもりが無いのに全く、俺の気持ちを読むのが巧い奴め。



 「でもさエルザ、母さんは俺に対して厳しく無いか?」


 「チャールズ兄さんに対してって言うより、私とチャールズ兄さんに、、、ね。チャールズ兄さんと私って母さんに良く似た容姿をしているでしょ?だから自分の分身みたいに思えて居るのね。自分の考えている事に反する言動を取ると遂、厳しく成るのだと思うわ。父さんに良く似たカイルやケビン、デイジーには甘いモノ。アランは髪や瞳の色味は母と同じだけど、顔の作りは父さん似だし、一番末の子だから可愛いみたいだし。」


 「そんなあー。しかしエルザは良く母さんを見ているな。」


 「だって父が亡くなってから、ずっと母さんと一緒に居たのだモノ。チャールズ兄さんは殆ど家にいなかったから。それに今更だけど、チャールズ兄さんがトール党の議員に成って私は驚いたし、事後承諾だったから母は納得が出来てないみたいだったわ。まあ私がフリップと婚姻出来た事で、今はチャールズ兄さんの行動も納得したけど。」


 「はあ。どの道、母さんに納得して貰えないだろうから、議員に成った理由は説明しなかったけど。あの時は、それしか選択肢が無かったんだよ。クランベル伯爵には、今でも感謝しているし、クランベル伯爵を紹介して呉れたウィルソン・カステル議員には言葉も無いよ。」


 「チャールズ兄さんが父の遺言を反故にして、カステル議員を頼った事を母さんは激怒していたから。約束を破られて、父さんの魂が安らかに眠れないって。」


 「父さんの魂も大切だけども、生きている俺達は住む場所や食べる事が必要だったからな。」

 「まあ、母さんは、カステル議員やニューラン牧師と同じで、魂や信仰を大切に思っているタイプだから。」


 「俺は、てっきりエルザも父さんや母さんに似た生真面目な性格だと思ってたよ。さては、フリップのいい加減な性格が移ったか?」


 「もう、チャールズ兄さんは、フリップを貶さないで呉れる?父さんが亡くなってから、世の中の事をカールソンから聞くように成って、内心ではチャールズ兄さんに感謝していたのよ。父さんが生きていた頃、私やデイジーは新聞も読ませて貰えなかったから、良く判って居なかったのよ。父さんの遣っていた事も≪可哀想な人達を助ける為に働いてる≫って程度だったし。」


 「まあ、ウルダ人奴隷の事は、女性や幼い弟たちへ、知らせる内容でも無かったしね。」


 「そうね、随分後から引っ越したあの家で読んだら、酷い内容で気分が悪くなったわ。私は父さんが亡くなった後、母さんが精神的に落ち着くまで、母さんの意見には肯定して行くようにしたのよ。すると母さんと揉めなくなったし、日々が過ごし易く成ったの。私は、チャールズ兄さんが思っているような生真面目な性格ではないのよ、残念ながら。だからフリップとも話しが合ったのかも知れないわ、ふふっ。」


 そう笑って、エルザも濃紺に金色でアザガンスの葉を描いた陶器のカップへ品よく口を付けて、珈琲を飲み始めた。

 思わぬエルザの告白に俺は苦笑いをするしかなかった。



 それでも、エルザからの「有難う」と言うお礼の言葉を聞いて、俺は照れ臭かったけど、判って呉れていたエルザの気持ちがとても嬉しかった。


 俺とエルザは珈琲を飲みつつ、互いにフリップの話をして、茶化して笑い合いフリップの帰りを待った。








             ※※※※※※※





  有料道路が出来始めたのはクリイム歴1740年頃。

 有料道路は利益が出来る事が分って彼方此方(あちこち)で道路の補修が始まり、道路利用者へ支払いゲートが作られブレイス帝国の主要道路は整備され、それを運用する企業が多く出来た。

 中には当然、交通量と設備投資の兼ね合いが悪く思ったより交通量が少なくて、負債を抱えて潰れる会社も在ったけども。



  始めたのは、チャルスター地方に住むエアボーン伯爵だった。


 クリイム歴1739年頃、エアボーン伯爵領の港から、各地へ運ぶ荷馬車の運送速度を早く出来ないかと考えて、道路に注目したのだ。

 その頃の道は各教区の教会が保全していたのだけど、何処も資金難で抉れたりぬかるんで居たりと荷馬車の走行を邪魔するモノが多かった。

 其処でエアボーン伯爵は人夫を雇い、整備した後でゲートを作り、利用者に通行料を課したのだ。

 金銭を徴収するので、亡きアルバート3世へ請願し、勅許を得て運営した。

 


 でもって、エアボーン伯爵は道路が傷めば直ぐに保全して居ると、馬車のスピードも上がるし、荷馬車へ積む荷物は馬一頭で千キロを軽く越しても、楽に運べるように成った。


 儲け話の噂はブレイス帝国内を駈け廻り、次々と許可を求めて議会へ請願されて、速攻議会で法案が出され、『道路整備局』も造り、登録料を払い道路整備をすれば料金ゲートを設置出来るようにした。


 『風が吹けば桶屋が儲かる』


 つう訳でもないが、期日に手紙を届けたりハイウエイマン(追い剥ぎ)の防止にも、スピードアップした馬車は使えると俺は考えて、以前にクランベル伯爵から頼まれていた手紙の配達方法を書類に纏めて提出した。


 税関係や法令関係の手紙はアルバート4世から今まで通り『ロイヤルメイル』にして、一般の人達の利用にはアイデアを貰ったエアボーン伯爵の名を借り、『エアボーンメイル』と名付けさせても貰おう。



 試しにサウス・ウエスト・ブレイスに或るブリトアまで馬車を走らせて、市の長をしているデ=カーン公爵へ、ロドニアから167kmの区間を37時間で手紙を届ける事が出来た。

 時速約4,5kmの快挙にクランベル伯爵も大喜び。

 序に独占会社を作り、手紙を配達する会社を認可制にしセリに掛け、基、競争させて、上がった収益をアルバート4世の負債返済へと回すことに成った。


 気が付いたら、俺って宿駅も統括する郵政局の局長にされていた。

 なんか俺の仕事が増えている気がするのだけど、クランベル伯爵。


 「名目だけだから」


 って、クランベル伯爵は言うけれども、名目だけだったイラド植民地官も、今はイラドに或るペルガル地方へ行く一攫千金を狙った野郎共へ、言語や道路の手引書、ペルガル地方で任官した役人達へ連絡する係を遣らされている。


 「傍に付いてシャレオツなアルバート4世を褒める簡単なお仕事。」


 って言われていたのに、クランベル伯爵が多忙な時は、閣僚たちとアルバート4世の中継ぎをして、互いに喧嘩しないように敢えて誤変換して通訳をしたり、アルバート4世の愚痴を聞いたり、愚痴を聞いたりしている。


 それぞれに手当を貰っているので、俺も文句は言えないのだけど、意外にハードワークなんだよ。

 主にストレスが。

 『エアボーンメイル』が略されて『エアメイル』と呼ばれるようにもなるし。

 申し訳ない、エアボーン伯爵。






 、、、その後。


 手紙配送の認可を巡って、各企業が醜く血みどろの争いを繰り広げるわ。

 郵政局へ認可を求めピストルを持って乗り込んで来るイカレた経営者とも格闘をしたりして、俺の胃はボロボロに成るのであった。



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