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ep14 恋心




 神聖ロマン帝国はバンエルのヘンリク2世に継承されたと思われたけど、オーニアスは『スラウの和議』によりロイセン王国へシュレン地方を割譲し、『国事詔書』(家督相続法)を実施することになった。

 此れで22歳のエレノーラ1世はオーニアス領邦を相続が認められオーニアス大公と成り、夫のシャルル1世は神聖ロマン帝国を継承する事を承認された。


 和議が成ったと思ったらオーニアスとロイセンが、もう一度戦闘とか仕出かすから、結局は半年間も戦争が伸びて、フリップの帰国がエルザの出産へ間に合わなかったのだけどさ。

 何はともあれ、フリップが無事に戻って来られて良かったよ。





 そして、弟たちも商船を改造して徒党を組んでいた海賊たちを捕縛して戻って来た。


 カイルやケビンも士官候補生から海尉に成った。

 俺にとっては良いのだか悪いのだか分らない結果だった。

 エロいだけのケビンは、港に上がると先輩に連れられて、大人の男になりに行ったみたいで、「俺はチャーリー兄さんより大人かもよ?」って、家に帰って来て俺に言う始末。

 コイツは全く碌なモンじゃない。

 カイルは、そんな報告をしていた能天気なケビンを、呆れた顔をして見ていた。


 

 まあ、自宅のパーラーには、カイルとケビンとアランと俺と言う、ザ・メンズ・ブラザーズしかいないから良いんだけどさ、「母やデイジーが居る前では、その話はNGな!」って、俺はケビンへ釘を刺して於いた。



 母とデイジーは、ホワイト通りに或るフリップの家にエルザの世話をしつつ、生れた女児を愛でに行っていた。

 名前はナディア・ビバート。

 女の子なら、強面のフリップより、可愛いエルザに似て欲しいと、俺は心から願ってしまった。

 そして、フリップが所属するノルディックのロードシア大隊は、ノーヴァ公国の港へと侵入しようとして来たロイセンの軍隊を港街で退け、港を無事に確保したことで認められ、大尉から中佐に成った。




 俺はフリップから会いたいと書いた伝言をクランベル伯爵邸で貰い、陸軍軍務所へと出掛けて行った。


 ロドニアに戻って来たフリップに俺が会いに陸軍の軍務所へ行くと、相変わらず逞しい肉体には士官の服が良く似合っていた。

 顔付は怖そうに見えるけど、まあ、此れはフリップの仕様か。

 そして、濃紺のコートにサッシュを掛け、生成りのウエストコートを着て、ブリーチズから伸びた長い脚に黒い革のロングブーツを履き、身長が一層高く見えた。


 「お帰り、フリップ。昇進とナディアの誕生、おめでとう。」

 「ただいま、チャーリー。有難う。態々、来てもらって済まない。この後も色々と参加しなくては成らない会があってな。」

 「良いよ、俺はフリップの元気な顔が見たかっただけだし。未だ帰って無いのだろ。都合が良い日が出来たら知らせて呉れ。クランベル伯爵邸に俺が留守なら託けてよ。」


 「ああ、了解した。そういや返すと言ったチャーリーの飾り釦を戦闘のどさくさで無くしたみたいなんだ。先ず、ソレを詫びたくてチャーリーをこんな所へ呼び出したんだよ。済まない。」

 「馬鹿だな、フリップは。あんな安物を気にするなよ。約束通りエルザの元に帰って来て呉れたから、それで良いよ。」

 「ふぅーっ、ソレを聞いて安心したよ、チャーリー。じゃあ、俺は此れから第3会議室へ行かないと行けないんだ。また、クランベル伯爵邸へ伝言を届けるよ。今日は、着て呉れて有難う、チャーリー。」

 「お安い御用だよ。」


 俺がそう答えると折り返した濃紺のコートの右腕を軽く上げいて、フリップはコートを翻し、エルザの手で刺繍された黄色の裏地を見せて、急ぎ足で奥に見える階段へと急ぎ足で歩いて行った。

 変な所で律儀なフリップに俺は苦笑を漏らして、旧ロートレック公爵の屋敷を改装して作られた陸軍作戦事務所を後にした。


 軍務所は、淡紅色や淡黄色の煉瓦や石で組み上げられてバロック調の威容を誇る建築物で、碌でも無い軍事作戦会議を覆い隠して居るようだった。



 

 昨年、イラド東南に或るペルガル地方を治める親フロラル派の太守ラージュ・ダウラと親ブレイス派のシャム・ジャールとを戦わせ、勝ってしまったので親フロラル派のラージュ・ダウラを追放し、親ブレイス派のシャム・ジャールを新太守に据えた。

 メインで戦ったのは互いにペルガル地方の軍人なのだけど、東イラド会社の連中はイラド人を傭兵として雇い投入し、実質ブレイス人の傭兵は30人位だったらしい。

 現在は調査やら何やらしつつ、イラドで通商交渉の本拠地にするアルバート要塞をタルカルで建設中だ。


 アダマス海へと広大なガリシス川が注がれ、タルカルの大地は、肥沃な穀倉地帯が広がっているらしい。


 「チャーリーのアイデアは、ペルガル地方攻略に首尾よく使えたよ。」


 そうクランベル伯爵から褒められて、俺は憂鬱になってしまった。

 まあ、ブレイス帝国に植民地にされなければ、フロラル王国やモスニア帝国、ランダル王国、オーニアス帝国などなど他国が遣って来るので、同じ事なのかも知れないけども、ヨーアン民族以外の人種には大概に酷いからな、ブレイス人も。


 オーニアス継承戦争と並列してブレイス帝国は、ちゃっかりフロラル王国の裏をかいてイラドに或るペルガル地方を植民地にしちまう、って作戦に俺は感心するより呆れた。

 金の為にこんな阿漕な事の片棒を担ぐって、俺って碌な死に方をしないかもな。

 そんな事を考えながら俺は辻馬車を拾って、アルバート4世とクランベル伯爵が待つウィンダム・ハウスへと走らせた。






              ※※※※※※※※





  アルバート4世が期待していた改築が終わり、此れからローゼブル宮殿が皇帝や皇族の住居になる。

 元は、センターに或る3階建ての建物に左右を横に伸ばして広げた形だけど、とにかくデカい。

 フロラル王国の新古典主義を模倣して居るのだけど、正面は幅108m、奥行き120m、高さ24mもあって近衛兵たちが立っていて、ファサードへ行くのも入るのも畏れ多くて面倒だなって、考えているとクランベル伯爵とジーンが出迎えて呉れて、庭木に隠された小道を行くと北翼へ辿り着き、其処から小さな小部屋へ入り通路を行くと、アルバート4世の個室があった。


 アーチ形の小さいけど重厚な扉には、当然、衛兵がいるけども、正面よりはマシ。


 それでも、室内は大理石の円柱やレリーフ、そして金銀を惜しげもなく使った金箔銀箔で彩られて、俺はアルバート4世の頭の中身や視力を疑ってしまった。

 隣室は落ち着いた緑の部屋らしい。


 機嫌よく微笑んで、ゆったりとした豪華なイラド製のソファーに、腰を掛けているアルバート4世に右手で促されて、先に座ったクランベル伯爵の左隣へと俺も静かに腰を降ろした。



 アルバート4世と親しい議員達は、クランベル伯爵も含めて負債返済に知恵を絞って、四苦八苦しているのを知っているだけに、『どうよ?』って思ってしまう俺を許して欲しい。

 世の王侯貴族の金銭感覚と美意識がいつもまで経っても掴めないのだった。

 

 まあ、本気でヤバかったらクランベル伯爵も放置していないだろうし、何とか成って居るんだろうと、俺は投げ遣りに考えて、アルバート4世とクランベル伯爵が、此のローゼブル宮殿に付いて語り合って居るのを、遠くで聴いていた。

 いや、位置的には近いけど、会話が俺の脳に届かないんだわ。




 アルバート4世とクランベル伯爵の会話をバックグラウンドにしながら、俺は何気なくコーデリア王女の事を想った。


 父親のノイザン公も放蕩者で借金を支払って貰う為に婚姻し、(支払ったのは此のアルバート4世だという)、伯父であるアルバート4世は此れだし、母親も宝飾品やら何やらと浪費家であるし、もう1人の伯父で或るザハン公は無駄遣いはしないけど豪放磊落な軍オタだし、此れから遣って行けるのだろうか。


 折角、良い相談相手だと思った従姉のアリシア姫が家令のギボンズに惚れ込んでいて、10歳も歳下のコーデリア王女が反対に心配している始末だったり。


 「ギボンズを好きに成るのは、止めた方が私は良いと思うのです。私から見て余りギボンズは信用が出来ないので、アリシア様の事が心配で。」

 

 クランベル伯爵との勉強を終えた後、そうコーデリア王女は幼い顔を曇らせて、口籠りながら俺に小さな声で話し掛けて来た。

 ギボンズ、なんて野郎だ。

 幼気な9歳のコーデリア王女を悩ませる等、俺が成敗してくれるっ!って、言えたら、恰好良いのだけどな。



 コーデリア王女の母親ノイザン公爵夫人は、小国とは言えアハルト公国の公女様で、その方が個人的に雇った家令ギボンズに、遂この間まで庶民だった俺が、何か言える訳もない。

 すごすごと俺は負けを認めて、クランベル伯爵へアリシア姫の事を相談してみた。


 「アリシア公女は、既にギボンズを相談役として自分の補佐官にしているから、流石に私でも王族の方が雇われた人間へ口出しは出来ないよ。アルバート4世も後継に害を及ぼさない限りは、その手の事に対して口出ししないだろ。恋愛問題で口出しされて、嫌な思いを成されているからね。」


 そう言って、整った顔の眉を寄せてクランベル伯爵は俺に告げた。


 ギボンズは、一応クローバー王国の名の或る家柄の末裔だと話しているけども、裏は取れていない。

 砲兵隊の大尉に成った後に退官し、軍人時代の知り合いだったノイザン公の侍従武官に就任した。

 侍従武官を約3年勤めた頃、ノイザン公は亡くなり、その後ノイザン公爵家の家令として個人的に夫人から雇われ現在、42歳で妻子持ちだ。



 男の俺からは、ギボンズが何故に其処までモテるのかは不明だけど、何かしらの魅力が或るのだろう。

 救いは、コーデリア王女がギボンズの事を警戒している点だ。

 それとグレースと言う味方がコーデリア王女に付いていることかな。

 2人程、アルバート4世はメイドを送り込んだらしいのだけど、ノイザン公爵夫人から盗みの疑惑を掛けられて、グリンジット・ハウスから追い出したらしい。

 流石に、ノイザン公爵夫人も侯爵夫人のグレースには迂闊な事も出来ないし、機転の利く彼女は上手く交わしているそうだ。


 コーデリア王女の為に送り込んだアリシア姫が、木乃伊取りが木乃伊になってしまうとは、アルバート4世も思って居なかったようだしな。


 10歳近くなり、コーデリア王女も専任講師が就き、タイトな時間割でただでさえ苦労しているのに、ギボンズなんてアホなオヤジの所為で頭を悩まされるとは、全く遣り切れない。

 前は、週に一度クランベル伯爵と話せる息抜きが在ったのに、ダンスやピアノやバイオリンなどの音楽と絵画も追加で学び始め、忙しくなって今は14日~18日に1度になってしまった。

 妹のエルザやデイジーと比べても身体が小さいコーデリア王女の精神的な事を心配してしまう。

 身体はさ、日々チェックされているようなので、俺も心配していないのだけどね。


 あの小さな身体で背筋を伸ばして、グレース侯爵夫人の歩幅に合わせて一生懸命に歩いている姿を見ていると、つい俺はコーデリア王女を応援してしまっているんだよ。

 何とかして遣りたいなと思いつつ、視線をアルバート4世へと向けるとニヤニヤと青い瞳を細めて、俺を見て笑っていた。



 「そう言う訳なんだが、チャールズも良いな?」

 「えっ!えと?えっ?」

 「ふふ、チャーリーは矢張り聞いて無かったのか?」

 「えと、はい。済みません。陛下、クランベル伯爵。」


 「余り私の話にチャールズは興味がないのは分かるけどね。」

 「いえ、ホントに申し訳ありません。陛下。」

 「そう陛下もチャーリーをイジメないでやって下さいよ。本人も反省しているようですし。」

 「ふむ、仕方ない。いやな、チャールズに見合いを勧めようかと思ってな。」

 「ええーーー!!!。」

 「そんなに驚かなくても良いだろう。幾つに成るんだ?チャールズは。」

 「え、と、25に成りますけど、俺は未だ、、、。」


 ええー、マジか。

 アルバート4世からの婚姻話って、断れるモノなのか。

 俺は、チラリと助けを求めるようにクランベル伯爵を見た。

 しかし、クランベル伯爵は涼しい顔をしてこう言った。


 「良いんじゃ無いか?チャーリー。陛下の勧めなら間違いない筈だよ。」

 「、、、、。」


 俺は、クランベル伯爵に裏切られた思いで息を飲み込み、沈黙するしかなかった。






           ※※※※※※※※



 

 俺は知らなかったのだが、アルバート4世とクランベル伯爵は、コーデリア王女が俺に恋心を抱いて居るのを知り、彼女が大人に成る前に諦めさせようと俺を婚姻させる気になったようだ。

 俺がそれを知るのは、ずっと先の未来でだったけどな。

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