ep13 皇女コーデリア
悲報?
3月中旬、リバティ党のアイスエッジ元首相が亡くなった。
そして、4月へ月が替わる前に、後を追うようにトール党のテール枢密院議長も。
アルバート4世はアイスエッジ議員の訃報に悲しまれ、直ぐに新たな男爵位から公爵位へと、叙勲の準備をされた。
テール枢密院議長には「そう」って言うだけだった。
あのね、もう少し残念そうな表情を造ろうか、アルバート4世。
国葬って言う訳にも行かなかないけど、大々的な葬儀がウエストカタリナ寺院で執り行われ、アルバート4世も葬列に加わった。
多くの議員や利益団体の関係者の大物も当然参列し、哀悼の意を捧げた。
アイスエッジ元首相は80歳近くかと思っていたら72歳でした。
死因は呼吸器不全なのだとか。
糖尿病が可成り進行していたそうだ。
東海会社バブル事件を収束させ、数多の生贄を捧げて、東海会社を利益が出せる株式会社へリニューアルした。
そして今の金権議会政治の基礎を築いた人でも或る。
約20年と言う長期政権で、議員数の多い政党を与党に規定し、トール党(保守)とリバティ党(革新)と言う2大政党へと変えて行ったり。
とは言っても、今は無党派って言う派閥も出来たけどね。
海賊船集団みたいなものをアドミラルティ(海軍本部)にして、自由気ままっだった所を議会で図れるようにしたり。
他国に対しての宣戦布告と終結は、皇帝に在るけど議会に諮ってね?!ってしたりした。
俺は、強権的で苦手だったけど、アイスエッジ元首相を尊敬している議員も、まあ多い。
そんな訳で議会で公爵にしようと決めて、アルバート4世に申し出て来たのだけど、普段は緩くお茶目なアルバート4世がキレた。
「爵位を決めて授けるのは私の権限だ。不敬過ぎる。」
つう事で、枢密院議長のクランベル伯爵が取りなして、伯爵位を授ける事になった。
要らん事を言って来なければ、アルバート4世もアイスエッジ議員を公爵にする予定だったのに。
議会は、自分達が皇帝を首にする権利を有する、って明文化されているから、強気なんだろうけどさ。
俺も言えた義理じゃ無いけど、せめて皇帝に敬意を払おうよ。
リバティ党は、強いて皇帝なんて不要だって、思っているのも分かるけども、外交や庶民には権威がマジで大切だから。
そして、今度は俺がアルバート4世を宥めすかして、テール議員を子爵へ叙爵して貰った。
ノルディックで貴族だったとしても、ブレイスでは平民扱いに為るので、枢密院議長になる前にアルバート3世は男爵位を授けていた。
テール議員の親子二世代に渡る勤労に、伯爵位くらいと踏んで居たのだけど、アイスエッジ議員で伯爵位だったからと、バランスを取る為に子爵で我慢して貰うことにしたのだ。
「テール枢密院議長は、アルバート4世陛下の事を考えて、敢えて厳しい事を口にしたのですよ。そう言う律儀な臣下は貴重です。良薬は口に苦し、ですよ?アルバート4世陛下。」
「しかしな、チャールズ。」
やいのやいのとブータレるアルバート4世を俺は宥めて、なんとかテール枢密院議長へ子爵位を授けて貰ったのである。
宮内長官に弔辞をアルバート4世陛下からだ、と伝言を頼み、子爵位の称号の件も託けた。
俺も近頃は、アルバート4世に口煩いので、その内に遠ざけられるかも知れないな。
気前の良いアルバート4世は、なんだかんだと宝飾品や酒類等をポンポン俺にくれるのだけど、怖くて現金化が出来ない。
自分で収納するのも面倒なので、クランベル伯爵に預かって貰っている。
遠ざけられた時、アルバート4世から返せと言われたら、それらを返却する予定なのだ。
しかし、『亡くなってから爵位を貰ってもなあ』って俺が考えていると「領地を授ける事を考えなくて良いので楽なのですよ。」とクランベル伯爵は、事も無げに答えてくれた。
本来は、先ず領地を決めてから爵位を授けられるのだ。
そんな裏事情があったのかと俺はしょっぱい気持ちに成った。
※※※※※※※※
【コーデリア皇女】
一年前。
今日、私は伯父様で或るアルバート4世に呼ばれて、継承順位2位である事ともう一人の伯父様のサバン公爵に何か在れば、私が皇帝に成ることを告げられた。
分っていたことでは或るけども、ハッキリと言葉にされると、ズシリと重く責任と言うモノが圧し掛かり、身動きが出来なくなってくる。
癖のように成った溜息を私は小さく吐き出す。
私の中にもう1人の誰かが目覚めたのは5歳の頃。
酷い麻疹で熱に浮かされ目覚めたら、私の中の誰かが叫んだ。
「もうヤダ。寝る。」
何度か話し掛けてみたけど、ちっとも反応が無いし、母上も「その悪ふざけを止めなさい」って、言って怒り出すから、何時の間に私は心の中で話す癖が就いた。
母上には私が人形にでも見えているのか、気紛れに可愛がって、私の嫌いな家令のギボンズに、いつも寄り添って楽し気に話をしていた。
ギボンズは、小狡そうな目や隙を伺うような視線で母上を見ているのに、気付かないのかしら。
ウットリした目で、母上はギボンズを見詰めているのを見せられて、私は気味の悪い想いに包まれるのだ。
母上は気付いていないようだけど、母上に付いている侍女のイザベラが、ギボンズの恋人みたいよ。
そんなウンザリする日々を過ごして居ると、伯父様であるアルバート4世からグレース侯爵夫人を紹介されて、グリンジット・ハウスで共に生活を送るようになった。
私を目を合わせて、ゆっくりと話して呉れたグレースの事を、私は直ぐに好きに成った。
私は、神経質じゃない女性と話すのは、落ち着くモノなのだと感じた。
如何いう訳か、私に5歳まで母上の母国語で或るゲルン語でしか教えて呉れなくて、苦労したのを想い出した。
でも、麻疹から回復したあの日以来、不思議とブレイス語が理解出来て、メイド達の噂話も分かるように成ったけども。
信じられない事に、ギボンズの事をメイド達はカッコイイと、話しているのを聞いてしまった。
ホントに彼女たちの目は、オカシイわ。
グレースは、母上やメイド達と違って、話し掛けて来るギボンズを、気にも留めなかったけどね。
矢張り素敵な女性は、あんな男を好きになんて成らないのね。
私は、グレースから教えて貰ったブレイス語やフロラルス語ゲルン語を、丁寧に学んで行った。
そんなある日、私が夜も母上と同じ部屋だとグレースに話すと目を見開いて口を開いた。
「あら、コーデリア殿下は6歳に成られるのにお母様と夜は同じ部屋なのですか?」
「夜はと言うか、一日中此の部屋で母上と一緒ヨ。まあ、近頃は午後からギボンズと何処かへ出掛けて行って留守だけど。」
「お母様もコーデリア殿下のことが心配なのですね。でも殆ど動かないのは良くありませんわ。幼い頃は、少し身体を動かして於かないと大人に成ってから、疲れ易くなりますよ。ゆっくりと中庭を散歩しましょうか?」
「良いのかしら?」
「はい、勿論。敷地の外に出る訳では無く、庭を歩くだけですもの。誰かが怒ったら私が叱られて置きましょう、コーデリア殿下。」
「ふふふ、グレースは頼もしいわ。」
「うふふっ。」
そう笑い合って日差し避けの帽子を被り、外出用の足首が見える短めのドレスに着替えて、グレースと一緒にゆっくりと陽射しの中へと私は出て行った。
始めは歩くと直ぐに疲れたけど、その内に慣れて母上と暮らす部屋からホール迄、そしてポーターが開いた扉から、芝生や整然と花々が咲いている庭まで、歩いて行けるようになった。
私が中庭に出た事をメイド達に知らされた母は怒りだしたけど、約束通りにグレースは私を庇うように立って、「コーデリア王女殿下を健やかに育てる為には歩く事と陽射しが必要だ。」と毅然として母上に話し始めた。
「私は皇帝陛下より、コーデリア王女殿下の教育を任された養育係です。」
それからは午後は私とグレースが過ごす時間に成って、とても嬉しかった。
でも母上の贅沢癖が一層、酷くなったのよね。
ホントは、グレースに母上の愚痴を零したいけど、何も言わずニコリと微笑むグレースには言えないのよね。
悪口を言葉にするのは、はしたないってグレースは考えているみたいに思えるから。
母上は、まあ、夜になるとグレースの悪口が止まらないけど。
やっぱり、こういうのはレディとして、私は見習っては駄目ね。
それから暫くすると、母上からギボンズの娘ダイアナって同い年の子を紹介されて、「仲良くしなさい」って命令するのよ。
ギボンズと同じチャコールグレーの髪を、私と似たような前髪とサイドを三つ編みにしてリボンで飾り、残った後ろの髪を垂らして居るの。
私は挨拶をしたのに、ダイアナは何故か私を挑戦的な焦げ茶色の尖った瞳で見ていて、失礼な子だと思ったの。
長椅子に飾って於いたフロラルス製のドレスを着せていたウッディードールを勝手に持ち出すし、グレースが貸して呉れていた星座の本を何時の間にか持って帰っているし、母上に甘えて私のドレスを貰って居るし、私が注意すると母上の近くへ行って泣き出すし。
グレースは扇で口元を隠してコッソリと話して呉れた。
「ああいう困った子は大人に成って社交をするように成ると多く出会うのよ。」
「それは、嫌だわ。如何すれば、良いのかしら。」
「アルバート4世陛下から、彼女を此処へ入れないようにしてもらうと言う手もあるけど、家令のギボンズに話してみて、彼女の行動を改めて貰う?」
「ギボンズと話すのは嫌だわ。母上に行っても無理だし、暫く考えてみるわ。」
「そう?頑張下さいね、コーデリア殿下。」
「ええ。」
ギボンズに連れられダイアナが来る日は憂鬱に成って居たある日、伯父様であるアルバート4世陛下から呼ばれて、ウィンダムハウスへグレースと共に出掛けて行った。
広い部屋に入って伯父様に挨拶をして、招かれテーブルとソファーの置かれた場所へと移動して前を向くと、クランベル伯爵の少し後ろに佇んでいるとても綺麗な男性がいた。
少し質の落ちたグレーのウィッグを被り、濃紺のシルクのコートには銀糸の刺繍と銀色の真鍮の飾り釦を付け、シルクのペールブルーのウエストコートには、鳥の羽根を模ったグレーと緋色の精密な刺繍がされ、ほっそりとしたその男性の美しさを際立たせていた。
日に透けてキラキラとトパーズを嵌め込んだような瞳をし、著名な彫刻家の手によって作られた造形をした男性が、静かな声で私へ優雅な仕草で挨拶をした。
「挨拶が遅れました。申し訳ありません。チャールズ・レスタードと申します。」
私の心臓が早鐘を打ち始めた。
伯父様からチャールズ・レスタード男爵の説明をされて、私は1つも聞き逃すまいとこれまでにない真剣さで話を聞いていた。
その時、クランベル伯爵が私の様子を伺っていたのも知らないで。
フワフワとした思いでグリンジット・ハウスの屋敷へ戻ろうと歩いて居ると、クランベル伯爵からにこやかに声を掛けられ、周囲にサーヴァントたちが居ないのを確認して私に告げた。
「これからチャーリーと顔を合す事も増えるでしょう。ただ、心して置いて欲しいのはコーデリア王女殿下は皇族です。その皇族のコーデリア殿下がお気に入りを見つけた時、表情に出してはいけません。特にチャーリーのように貴族に成ったばかりの人間は自分を守るべき術を持たない事が多いのですよ。大切にしたいと思うなら周囲の目や耳に細心の注意を御払い下さい。そうでなければ気に入ったモノをコーデリア殿下自身が傷付けることに成ってしまいます。」
「まあ、クランベル伯爵、そんなに厳しい口調で仰らなくても。コーデリア王女殿下はまだ8歳ですのよ。」
「、、、いえ、いいのです、グレース。わざわざご忠告有難う御座います、クランベル伯爵。」
「私こそ、少し厳しく言い過ぎました。これからも私とチャーリーをよろしくお願いいたします。詳細は、こちらのグレース侯爵夫人からお聞き下さい。では。」
そう話すとクランベル伯爵は整った顔に笑顔を浮かべて、柔らかな仕草で礼をして、彼等が居るだろう部屋へと軽やかな足取りで戻って行った。
「偶には外に出ないと駄目ですね、グレース。」
「でも、クランベル伯爵は神経質過ぎますわ。余り気にし過ぎませんように。コーデリア殿下。」
「ええ、有難う、グレース。あっ、今日の事は母上たちには内緒にしてくださいね。それと詳細な話は馬車の中で聴かせてね。」
「はい。勿論です、コーデリア殿下。」
私は、新たに出会ったチャールズ・レスタード男爵に胸の高鳴りを覚えながら、ウィンダムハウスの庭に咲き誇る桃色や赤の薔薇を眺めて、5月の風に舞う自分の長い金髪と薔薇の薫りに、思わず目を細めた。




