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ep10 オータム・シンキング




  非常事態も続くと日常に成る。

 一年近くウィンダム・ハウスで陛下と過ごして居ると此の生活も当たり前に成った。





 オーニアス=神聖ロマン帝国継承騒動を議会を含め色々と検討された結果、オーニアス帝国にブレイス帝国は味方する事に成った。


 戦が強いロイセン王国が此れ以上の勢力を拡大させない為と、昔から因縁深く、今も植民地の陣取りで係争しているフロラル王国がロイセン王国側に付いたって言う大人気ない理由も或る。

 フロラル王国との今の係争の理由って、ブレイス帝国の海賊たちが、片っ端からフロラル王国が整備していた商館と植民地を分捕っているせいだよね。


 そんなに毛嫌いしているのに、公用ではフロラル語を使い、宮廷マナーはフロラル式なのである。

 ホントにブレイス宮廷のツンデレめ。


 

 俺には拒否する議題もクランベル伯爵からの依頼もなかったので、近頃はモテなくなってショ気ているアルバート4世とシッティングルームでダベっていた。

 寵臣だったオス=オンリーとも喧嘩別れをしてしまい、傷心の王62歳で或る。


 アルバート4世の私的なエリアであろうとも、此処での会話は表に漏れてしまうので、漏れても良いレベルの答えを俺は返している心算だけど、大らかなアルバート4世は気取らず、軽く話やがるのだ。

 屋敷に居る近侍や使用人達が、情報を売って小遣い稼ぎをしたり、縁故の貴族やジェントリに情報を渡したりとバイトに勤しんでいるつうのにさ。


 クランベル伯爵がアルバート4世と真面目な話しをする時は寝室へ行き、イヤラしくヒッソリと話し合うのだ。

 一応アルバート4世の身の回りに詰めている人達は、身元の確りした者達の筈なのに俺より下世話な人が多くてゲンナリする。



 これって絶対、地下に作ったフリーダム・ルームの影響だろうと考えているのだけどさ。

 地下は各部屋に付いて居る扉を開いて、アコーディオンのように畳めば、各部屋が繋がり巨大な大広間へと変わり、相変わらず芸術家たちと騒ぐのが大好きなアルバート4世は音楽を奏でさせ、酒や料理を大いに振舞い、酔って踊って正体を無くす日も或る。

 そう言う姿を見ていて使用人達にモラル高くいろ!って、言えないしなぁ。


 正体をなくした日の翌朝は、昔なら寝室のベットには女性も寝ていたらしいのだけど、近頃は目覚めても1人なのだとアルバート4世は、俺に愚痴を零す。


 『知らねーよ。』



 片や20~21歳のうらオーニアスの若き女性が果敢にも騎士の恰好をし軍勢を率いて、攻め入って来ているロイセンのフリード2世の軍と戦っていると言うのに、『此のオヤジ皇帝は!』等っと思ったり思わなかったり。

 ハイ。思いました。


 アルバート4世は、珍しく銀のウィッグを取り、すっかり薄毛に成った淡い巻の強い金色の髪に、着心地が良さそうな濃紺の夜着に厚手のガウンを羽織り、大きな銀のシルク地のソファーに腰を降ろしていた。

 面長で、過去は整って居ただろう顔は皴が寄り、眼窩は深く抉れて長年の疲労を貯め込み、水分が抜けた肌は、血色が悪かった。

 『ちょい、アルバート4世。未だ倒れるなよ。此の忙しい時期に。』

 俺は心配の余りアルバート4世に思わず声を掛けた。

 


 「陛下、コーデリア王女の為、もう少し健康に気を配って過ごされてください。」


 「分っているが、、、。議会は私が反対しているのに、オーニアスのマインツベルグ家の後継者問題へ介入すると言うのだ。外交は私の専権事項であるモノを。モエイニング首相を解任しようとしたら、クランベル伯爵から止められたのだ。だから此の所、酒を飲み過ぎてしまってな。」


 「今、モエイニング首相を解任すれば議会運営が上手く回らなくなる可能性もあります。そうなると陛下が困る事態になると思いクランベル伯爵は止めたのでしょう。クランベル伯爵は陛下の立場を危うくすることは、いつも避けていますし陛下の事を考えて行動していますから、其処は理解をして下さると助かります。」


 「はぁ、父上が議会に譲歩ばかりしていたから、王権は弱まって行ったのだ。」



 いやあ、アルバート3世は、議会と喧嘩ばかりしていたから、面倒に成った貴族院は、承認が必要なモノだけ知らせる様に話し合っていたのだけどな。

 日々の報告は政務官と書記官に任せて、重要法案を通そうとする時は、首相や担当閣僚がアルバート4世へ直接面談に来るけどね。


 ウエストカタリナ宮殿から此のウインダム・ハウスへ直通の道路を整備し、庭園やパークを通らなければ、歩いて5~6分で来れそうな状態にしている。


 無視して庭園を突っ切る訳にも行かないので、結局はゆったり走らせた馬車で10分掛かるけど。


 其処を各閣僚や政務官が通るのをコーデリア王女の母親で或るノイザン公爵夫人が待ち受け、色々とお願いをして来るそうなのだ。

 知人の誰それを雇えとか、船を自由に使える権限を渡して欲しいとか、資産の増額は当然、毎回ノイザン公爵夫人から、お願いされるらしい。

 今は、娘コーデリア王女の社会勉強の為にフロラル王国へ遊学させろと言ってくる始末。

 勿論、自分達も共に行く事が前提だけども。


 確かに、王弟ザハン公の次は、コーデリア王女が王位継承権を持つけども、現段階ではそう言う権限を彼女は何も持たないからね。

 ましてや、その母親で或るノイザン公爵夫人や家令のギボンズには、議員達が気を遣う必要もない訳で。


 結構な数が居た筈のアルバート家の系譜だけど、早逝したり病死したりと気が付けば、ザハン公とコーデリア王女に成ってしまった。

 継承順位がコーデリア王女より低いけど、一応はアルバート3世の直系の幼い孫もいるし、人の命なんてどうなるか分らないので、ノイザン公爵夫人も余り燥いでいると顰蹙を買って、後々困った事になると思うのだよな。


 それに、コーデリア王女に不必要な敵を作らないようにしてあげるのが、母親としてのノイザン公爵夫人の役目だと思うのだけどさ。


 其処へ大きなアルバート4世の溜息を吐き出した音が俺の耳に届いた。

 俺はアルバート4世を慰めるべく声を掛けた。


 「でも考えようによっては、少々欲深いけれど、有能な者達が陛下に代わって、政務を行って呉れていると思えば?任命権も解任の権利も陛下に或るのですから、彼等を雇って遣っているのと同じですよ。余り分を弁えない事を庶民院が言えば、クランベル伯爵や貴族院の議員達が嗜めますよ。それよりもノイザン公爵夫人を何とかしないと、後々にコーデリア王女の為になりませんね。」


 「ホントにチャールズは気楽な性質だなあ。あれらの欲深さを少々と言える所がチャールズらしい。まあ、母親については、コーデリアの試金石にも成るだろうな。10歳の誕生日を迎えたら、皇帝に成る可能性をコーデリアに告げる予定だ。そこから自覚を持った行動をコーデリアへ促して欲しい、チャールズがな。」


 「ええー!少し待って下さいよ、陛下。それって教育係の役目ですよね。グレース侯爵夫人やクランベル伯爵達の。それに10歳に成ったら王族の方々は、マナーを含めて専任の教師を就ける様に、なりますよね?寧ろ俺の出番は全くないのでは?」


 「まあチャールズは保険だよ、クランベル伯爵に対するね。別にコーデリアが住むグリンジットハウスへ住めって訳ではない。此処から週に一度、通えば、良いのだ。今と殆ど変わらないだろ?」


 「俺が何の保険に成るのか不明ですが、それよりも、グリンジット・ハウスに行けば、ノイザン公爵夫人やギボンズと顔を会わせる事もありますよね。中々に個性的な人のようなので俺は遠慮したいのですが。」



 俺がそう答えると、アルバート4世はカラカラと声に出し、青い目を細めて楽し気に笑った。

 全く、此のオヤジ陛下は。

 寵臣のオス=オンリー氏がいなくなったとは言え、近くにはボイソン氏やボール氏と言うお世話係の従者たちも居て、側近の武官たちもいるのに議会の愚痴を余り零さないで欲しい。

 彼等の父親達は中級のナイトに属するジェントリで、身内もそうだが縁者にも議員に成っている人間が居るのだ。

 余り王権復興なんて言ってると面倒な事を画策し兼ねない。


 今は、未だ全く力を持たないコーデリア王女の母親であるノイザン公爵夫人や家令のギボンズの愚痴でも言って呉れている方が、百はマシで或る。

 貴族の子弟達は、本来の皇帝宮で或るウエストカタリナ宮殿にいるのだけどね。

 あちらの方が議会堂もあるので、重要な政策情報が入手されるので、頭や鼻の利く貴族の次男、3男達は、議題に掛けられる予定の法案で、利益になりそうだと分ると、レッツトライするのだ。

 上流階級の人々は彼らなりの生存競争を戦って居るのだろう。



 皇帝の居る所が正式な王宮に成るんじゃあるまいか?と思うのだけど、当ブレイス帝国では議会堂が或る所が公宮になるので、致し方ない。

 でも、王宮などで実際に働いて居るのは貴族やジェントリと言う高貴な方では無く、豊かではないミドル階級の者達だったりするけどさ。


 お気楽な話にでもして置かないと、クランベル伯爵の手を煩わせる事になり、そうなると俺も面倒に巻き込まれるんだからな。




 「そう言えばチャールズ、4番目の妹の娘アリシアが母親を亡くし1人に成ったので、来月にはグリンジット・ハウスへと訪れ滞在する事に成る。」


 「でも陛下、グリンジット・ハウスにはコーデリア王女達が住まわれてますが。」


 「弟が亡くなり、幼いコーデリアが居たので、グリンジット・ハウスの数部屋を貸しているだけなのだ。元々あの屋敷は皇族の所有するモノなのだ。アリシアが住むのに不都合はない。それに、皇族が住む事でコーデリアの母親を牽制出来るかも知れないだろ。」


 そう話してからアルバート4世は、お世話係Aのボイソン氏が淹れた珈琲を、緋と金で彩色された陶器のカップで、ゆっくりと飲み始めた。



 アリシア姫の母親はヨーアン大陸中央部南に或るバーデン公国へ嫁いだのだが、夫の公主が5年前に亡くなり、跡を弟が継いだのでブレイス帝国へ一人娘のアリシアを連れて戻り、帰国後はレント地方に或る王家直轄領の屋敷で暮らして居た。

 ゲルン語圏の諸国では、女性に継承権が無いので、追い出された?って言うより、動産だけ貰ってバーデン公国から自ら出て来たようだ。


 ブレイス帝国は女性も継承権を持つけど、確りと継承順位が規定されていて、生れた順番で決まる。

 ノイザン公が生存していた時はコーデリア王女の継承順位が5位だったので、余り彼女に誰も注目して居なかった。

 俺も婚姻しない3男のサバン公以外は、皆アルバート4世に似た遊び人ばかりだったので、強いて気にした事は無かった。

 皇子も皇女の人数多かったしなー。

 

 アリシア姫はピチピチの18歳らしい。

 ロドニアで社交デビューも無事に済ませたらしいのだけど、ブレイス帝国に戻って来て叔父のアルバート4世に会った時の感想などを訊いてみたいものだ。

 アリシア姫は、バーデン公国で王族としての教育も受けていたらしいので、コーデリア王女には良きアドバイザーに成るだろうか。





 この間、クランベル伯爵との対話を終えた後、コーデリア王女は歳に似合わない深い溜息を吐いて居たので、俺は思わず助言をしたのだ。


  「偶には、此れを遣りなさいと勧められていない事を見付けて、遣ってみては?」

  「勧められていない事を?」

  「ええ、俺のチューターはとても厳しい人だったので、それが嫌で良く熱を出していたんですよ。そんな時に、コッソリとメイドに紅茶を持って来て貰って、変わった飲み方の研究をしていたのです。それが案外と気分転換になりました。見つかっても怒られるような悪い事では無いのだけど、ああ言うドキドキする感覚は、窒息しそうだった毎日に穴を開けて呉れたのだと思いますよ。とっても下らない事ですけど。」


  「ふふっ、とても素敵なアドバイス有難う御座います。でもチャールズ男爵、私のカヴァネンスのグレース夫人は、そんなに厳しい人では有りませんからね。でも今度、気分転換に試してみますわ。お薦めの飲み方を教えて下さいませんか?」


 「それは、是非ともコーデリア王女が自ら探してください。その時、偶には側付きでは無い他のメイドと話して見るのも楽しいですよ。」

 「まあ、意地悪ですね、チャールズ男爵は。」


 すっかり少女の笑顔に成ったコーデリア王女を見て俺もホッと安堵した。

 話を聞いていたクランベル伯爵やグレース侯爵夫人も笑顔を零して、それから軽い雑談をした。



 アルバート4世やサバン公が元気でいる今の間位は、コーデリア王女に楽しんで暮らして貰いたい。

 俺は、彼女の小さな姿を想い返して、広く大きな窓から見える鮮やかに紅葉した落葉樹を眺めて、自然とそう願っていた。



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