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転生サルベージ

作者: 縞犬

13歳の少年、ルイス=クロードの脳に前世の記憶が蘇る。



俺の名は、コバヤシアキラ。そう、小林明だ。

普通の人生を送っていた。高校、大学、そして…社会人。

だが、就職活動に失敗して、ブラック企業に入社してしまった。

しかしそれもまだ普通と言えば普通だろう。

しかし、その先は「普通」ではなかった。



疲れ切っていた俺はある日、ふらついて車道に出てしまい、

トラックにはねられ死んだ——。


******


前世の記憶が蘇ってから2年。

何一つ残せなかった前世を取り戻したくて、

毎日のように剣と魔法の訓練に明け暮れた。

俺はルイス=クロードとして15歳になり、

ついに冒険者として旅立つ日を迎えた。



ルイスは男爵家の次男だ。家を継ぐことはできない。

貴族の次男以下は、家に余裕があるなら家来になるが、

そうでないなら家を出て冒険者になるのが一般的だ。

クロード家も裕福ではないため、妹のためにも俺が家を出るほうが良い。

何より、そのほうが夢がある。


家族は俺の門出を祝うために集まっていた。

父アポロ、母マリン、長男フラン、そして12歳の妹ルイーザ。みんな揃っている。


「ルイス、お前はしっかりしているが、無茶はするなよ?」

と父が心配そうに言う。

「ルイス?変な女に騙されちゃだめよ。それと、毎週手紙を書きなさい?」

と母が続ける。


「大丈夫だよ。俺は二人が思ってるより慎重だし、

 家族を愛してるから、命を落とすようなことはしないよ。」


俺は笑いながら応じた。

父も母も、安心した顔で頷いた。


「お兄様!手紙は絶対書いてね!それと、お土産も毎月ね!」

妹のルイーザが明るい声で言う。


「毎月お土産はちょっと難しいけど、手紙は書くよ」

と笑いながら答えると、彼女は冗談だと笑った。


「じゃあ、みんな!行ってくる!」


俺の冒険が、ついに始まった。


******


馬車で揺られながら、これからのことを考えた。

貴族の息子として好きに動けなかったが、今日からは自由だ。

この2年、剣と魔法の修行を続けた。

前世の知識もあるし、この世界では無双できるだろう。

経済の知識を使って大儲けもできるかもしれない。

貴族の美少女や可愛い町娘を手に入れて、俺のハーレムを作り上げるんだ……。

ぐへへ……。あ、よだれが出ちゃった。


******


ペンタブルグという商業都市に到着し、冒険者ギルドに向かう。

受付の眼鏡をかけた女性に、冒険者登録をお願いした。


「初回登録の場合、書類登録と身体検査がありますので、こちらへどうぞ」


と案内される。


奥の部屋に通され、寝台に寝かされた。

頭に被せられた兜は、前世のCTスキャンを思い出させたが、これが魔法の装置なのだろう。

と、思っていたところ、強烈な睡魔に襲われる。


(何かおかしい!)


俺は必死で起き上がろうとしたが、いつの間にか手足が固定されている。

危機感が募り、火魔法で拘束を焼き切り、兜を外した。

部屋には俺しかいない。今のうちに逃げなければ——。


バン!


という大きな音と共にドアが開く。

先ほどの受付職員とはまた別の女性ーかなりの美人でおっとり癒し系なのだが、

その穏やかさが、逆にこの異常な状況に明らかにそぐわないほど不気味だった。


「ルイス様~?どうされました~?まだ検査が終わっていませんよね~?

 計測器具を外されると困るのですけれど~?」


彼女は柔らかい口調で話しかけてくるが、やはりこの状況にそぐわない。


「急に体調が悪くなってしまって。…今日は帰らせてもらおうかと」


「なるほど〜、火魔法で拘束を破ったんですね。さすが転生者様〜」


今、こいつ何と言った?

確かに言った。転生者 と。


「隙アリ~」


その瞬間、見えない力が俺を壁に叩きつけ、四肢と首が押さえられた。意識が遠のきそうになる。


「ぐっ…。何だってんだ!俺は冒険者登録しに来ただけだぞ!犯罪者みたいな扱いしやがって!」


「ちょっと確認しますね〜」


彼女の眼鏡が緑色に光り、画面に小さな文字が浮かび上がっているようだ。

近未来SFに出てくるデバイスのような機能が付いているのか?


「あ~、やっぱり思った通り。転生者さんですね~。転生者は犯罪者なんですよ〜」


「転生者が…犯罪者??」


「はい、そうです~。」


相変わらず状況に合わない癒し系の笑顔を浮かべながら話す


「ルイス=クロードさん、あなた、元は地球人ですよね?」


「……そうだが、それがなぜ犯罪者扱いになる?」


「あなたが元地球人だとすると、

 本物のルイス=クロードさんの人格は

 どこへ行かれたのでしょう?それが問題なのです~」


「…ルイス=クロードも元地球人の俺も、どちらも俺じゃないのか?」


「いいえ違います。貴方は13歳のルイス=クロードの人生を乗っ取った、いわば寄生虫です。」


女の顔から、張り付いたような笑顔が消え、無表情に変わった。


「…一応人間のつもりなんだが、寄生虫はさすがに心外だな」


「確かに、突然の寄生虫扱いは受け入れがたいですよね~。

 色々ご説明差し上げれば納得して頂けるかと思いますので~

 まずはこちらをご覧くださいね~」


女の眼鏡の右レンズから強い光が発せられ、壁に映像が映し出された。



俺は息を呑んだ。

何だコレは…?




線虫のような何かがうねうねと動いて…人の耳に入っていく。

その後、CG処理された3D解説が加わる。

耳から入った線虫は、やがて脳を目指し、

植物が根を張るように脳に細い末端神経のようなものを伸ばすのだが、

目的は寄生された人間の脳を乗っ取るためだという旨の説明がされる。


そして、その線虫のような形をしている寄生虫は人工物であり、

「転生デバイス」として別の人間の人格データがセットアップされた状態で射出され、

「転生先」の人間を探すのだという。


その動画に続いて、俺、いや、

ルイス=クロードの脳を映したX線写真を見せられ、

脳に根を張った線虫を指し、


「つまり、コレがあなたです~。転生者さん。」


******


「現実感が無いとは思いますが、

 話は我々の主観時間における800年前に遡ります。」


女は続ける。



「西暦2030年、あなた方の故郷である地球で、

 人類はついに核戦争を引き起こしました。

 それにより、食糧危機や気候変動などの問題が一気に噴出しました。

 人類の存続に危機感を抱いた有志の科学者たちと企業が協力し、

 2042年に星間移民計画が始動したのです。

 2048年から、AIを搭載した2550機ものロケットが順次発射されました。

 それらは、人類が居住可能な『ハビタブルゾーン』

 にある惑星を目指し、旅立っていきました。

 ロケットは目的とされた惑星付近に約50年で到着し、

 大気の組成・恒星との距離・受ける光線および

 ガンマ線・磁場等、数千項目を調査し、許容範囲内であれば

 テラフォーミングを開始するようプログラミングされていました。


 私たちがいる惑星は当時、原始地球に非常に似た環境を

 持っていましたので、テラフォーミングは順調に進みました。

 原始生命である嫌気性バクテリアを

 AIロケットに搭載されたプラントで培養し、

 次にシアノバクテリアを培養、それによる光合成で酸素を生成するなど、

 地球が何十億年もかけて行った環境形成を、

 たった300年で成し遂げたのです。

 

 さらに100年をかけて、21世紀の地球に存在した微生物から

 哺乳類まで数十万種の動植物を繁殖させ、

 そしてついに、人類のDNAデータを用いて、

 この星の最初の人類数十名が誕生したのです。」


女はここで一息つき、さらに続けた。



「当然、無垢のままでは彼らは親のいない環境で

 生きていくことはできません。

 そこで、最初に生み出された子供たちに

 『生前の記憶』をインストールすることが試みられました。

 そこで活用されたのが、先ほど説明した『転生デバイス』―

 線虫のように見えるこの装置でした。」


彼女は柔らかな表情を浮かべながら、静かに問いかけた。


「ここまでは、理解できましたか?」


「……俺はどうなるんだ?」


「お話はご理解頂けた、ということで宜しいですね?

 『俺はどうなるか?』というご質問については、

 貴方を人間扱いするべきなのかと言うと、個人的には反対なのでーー」



嫌だ、嫌だ、嫌だ!

消されたくない。死にたくない!

せっかく糞みたいな人生から解放されて、

ファンタジー世界に転生したっていうのに!

何で俺ばっかり、こんな目に遭うんだよ!

あああああああああああああああああああ!!!


「あの~、そんなに泣いて奥歯ガタガタ鳴らして怯えなくても…。

 話は最後まで聞いてくださいね~。

 個人的には反対なのですが、制度上、

 脳から転生デバイスを摘出する手術を行い、

 代わりの体が見つかれば、人権に配慮して、

 そちらに移し替えることが決まっています。」


「……へ?」


思わず、間の抜けた声が漏れてしまった。


「つまり、殺されない?」


「体はルイス=クロード様本人に返還した後、

 あなたには被害者をサポートする義務が課されるかもしれませんが、

 計画的故意犯では無いようですので

 デバイスごと抹消まではならないと思いますよ~」


******


1ヶ月後、俺に代わりの体が用意された。


新しい体は、頭をグリズリーに噛まれて

ギルドの治療室に運び込まれた冒険者のものだ。

脳死判定が下ったが、体は比較的軽傷で、

寄生デバイス(俺)にとって都合の良い状態だった。

寄生後、そいつの以前の記憶を少しだけ読み取ることができた。

どうやら貧乏農家の三男で、独立して冒険者になったものの、

故郷には一度も帰っていない。


妻や恋人もいない、天涯孤独の身だ。

客観的に見れば少し寂しい人生だが、

俺からすれば、気を遣う相手がいなくて最高だ。


そして、転生元の体の主であるルイス=クロードのこと。


寄生デバイス(俺)を摘出された後、

彼は一週間ほど意識がぼんやりしていたらしいが、今はほとんど回復している。

俺が寄生していた2年間のことを聞かれると、


「大体のことは覚えているが、この2年間、

 夢の中にいたようなぼんやりとした感覚があり、

 自分の記憶ではないように感じる」


と証言しているらしい。

ギルドに来た当日拘束されたこと、転生デバイスのこと等、

込み入った事情についての記憶は無いらしい。

まあ仮に覚えていたとしても理解できないだろうけど。


それから、俺を拘束したあの女、モニカというらしいが、

今日、俺に対する処分を言い渡してきた。


1.小林明は被寄生者であるルイス=クロードの冒険者生活をサポートすること。


2.期間は最低半年とする。もしルイス=クロードに拒否された場合、

 ギルドに連絡し、必要な監視機器 の援助を受けつつ、

 可能な限り隠密に彼の生命を守ること。


3.寄生デバイスを3体捕獲するまで、ギルドの監視デバイスを装着すること。



ルイス=クロードの面倒はまあ見てやるつもりだったが、条件3はなかなか厳しい。

実質的には、ギルドの下請け職員にされたようなものだ。ちなみに給料は出ない。




「まあ条件を飲むしか無いんでしょうけど、寄生デバイスってどうやって見つけるんですか?」


「勘です」


「……勘すか」


「まあ、いずれ分かるようになるから大丈夫ですよ~。

 あと透過装置付きのメガネデバイスも、有料ですが貸し出しておりますよ」


と、ニコッと笑うモニカ。


……有料なのかよ。なんと世知辛い。

ちなみに後で聞いたら目が飛び出るような金額だった。


透過装置使って寄生デバイス探したかったら、

まずはギルドの依頼をこなしまくってお金を溜めろという事だ。

うまいこと搾取しやがる。


******


「ところで、結局どうして俺の記憶が寄生デバイスにインストールされて、

 ルイスに寄生することになったんですか?」


「はい!それも説明しないとですね!

 核戦争をきっかけに始まった移民計画では、

 AIロケットを先遣隊としてテラフォーミングを行い、

 後に大型宇宙船で移民を送り込むという、

 ロマン溢れる計画だったんですが、結局、

 その後100年も経たずに地球の気候変動が技術で解決されちゃったんです。

 宇宙探索しまくったのに、あっさり解決しちゃったんですよね。

 ちょっと笑っちゃいますよねw」


「たしかに、他人事だとちょっと笑えるな」


当事者たちは死活問題だったろうけどな



「故郷の地球を捨てて、コールドスリープで

 星間移民を行うという壮大な計画が、

 必要なくなってしまったんです。計画は中止。

 

 ただ、この星のことは忘れ去られず、観測が続けられていたんですが、

 ある日、驚くべきことが判明しました。

 なんと、民間企業がこの惑星にロケットを送り込んでいたんです。

 

 彼らは、故人もしくは余命わずかな病人等のDNAや記憶データ、

 そして寄生デバイスを使って第二の人生を送ってもらおうという、

 ちょっとした『惑星葬』的なビジネスを始めていたんです。


 まあそれ自体、本人のDNA生体に本人の記憶データを

 用いていたなら倫理上、問題は無かったのですが…。


 しかし、寄生デバイスと記憶データだけを送り込み、

 現地で生きている誰かの体を乗っ取らせるという、

 他の惑星の住民の人権など無視した、

 倫理感ゼロの会社が現れてしまったんです。


 そういった会社が送ったロケットが、

 この惑星でテラフォーミングが完了した後に到着し、

 寄生デバイスがばらまかれた結果、

 現地の人々の人生が奪われるという事態が発生し始めました。


 その問題を重く見た元移民惑星監視団体である

 銀河系外惑星観測ネットワーク『GEON』は

 当惑星の住民を保護するため、冒険者ギルドを装って

 寄生デバイスの捕獲などの任務に乗り出しました。

 そして現在に至る、というわけです。」


******


モニカの話を一通り聞いてみると、俺が捕獲されたのも当然のことのように思えてきた。


寄生される側は純粋な被害者だし、

「転生」する側は他人の人生を奪う加害者でしかない。

転生して第二の人生がんばるぞー!

なんて浮かれていた自分が、今では馬鹿みたいに思える。




とはいえ、グリズリーに噛まれて死んだこの体を使って、

新たな人生をスタートさせてもらえたのは、ありがたいことだ。


これからしばらくは偶然を装いながら、ルイスをサポートしていこうと思う。


そして、寄生デバイス捕獲の任務が終わった後のことだが、やりたいことができた。


モニカ曰く、


「もし元の体のDNAデータが見つかれば、

 ロケットを使って地球へ旅行することも可能ですよ~。

 もちろん、それなりのお金は必要ですけどね」


今の体のままでは、地球に行くのは倫理的に問題あるらしい。

それに、コールドスリープ機能を搭載した宇宙船での移動は、

経済的にも時間的にも現実的じゃないらしい。

異星間を移動したいなら、DNAデータと記憶データをセットにして

小型ロケットで送るのが現実的な手段だと言う。


でも今の俺には、元のDNAデータがどこにあるのか手がかりがない。

それを見つけるには、俺がこの星に送られたときのロケットを

探し出す必要がある。まずはそれを見つけよう。



そしていつか、自分の体で地球に立ち、日本を旅行してみたい。


それまでは、この星で冒険者として稼ぎながら楽しむとしよう。





おわり

あとがき


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

転生をSF風に解釈したらどんな感じかな〰️

という想像から生まれたお話です。


もし面白いと思っていただけたら評価お願いします。


ちなみに、一回、前後編に分けようとして前篇のみ投稿したのですが、併せても6000文字程度だったのでさすがに分けなくて良いか、となりまして、一本の短編として再投稿しました。



GEON:Galactic Exoplanet Observation Network(銀河系外惑星観測機構)


という組織名称ですが、ガンダムシリーズに出てくるジオン軍とは関係ございません。



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