不死者の1割は一度はやらかすらしいですよ
その日の夜帰宅したユキさんから色々と話を聞いてみた結果、どうも{不死者}に関する研究をしている非合法な組織があるらしいという事が分かった
「…という訳で、調べてくれる?」
「どういう訳だ貴様ァ!全く話の流れが分からんぞ!」
治安維持局局長、金欲権蔵は全くもって意味がわからないといった態度で声を荒らげる
「だからぁ、{不死者}に関する違法な実験をしてる組織があるから、その調査をして欲しいってお願いしてるだけじゃないか、金欲さんの仕事で合ってるでしょ?」
「だァッ!ならせめて窓口を通せ!」
そう言いながらも金欲さんは調査に乗り出してくれるらしい、やっぱり親切な人だね
「…そうだ貴様、折角だから貴様にも仕事の依頼をしてやる、ほらコレだ!」
金欲さんから受け取った資料に目を通す…内容は普通の調査依頼だね。ただ…
「報酬安くない?」
「本来ならもっと低ランク向けの依頼だが、ここの所低ランクの調査依頼が立て込んでて一向に減らんのだ、大規模な依頼が出るまででいいから頼んだぞ」
「…ま、仕事無いよりはいいかな。分かったよ」
ーーー
「…という訳で、出張に行くよ」
「「(b`>▽<´)-bイエーイ☆゛」」
月詠さんとユキさんがテンションを上げ、2人でアレが必要とかこれをやりたいとか色々話し合い始めた
「一応依頼で行くんだからね、それだけ忘れないでよ?」
「「はーい!!」」
そう言いながら2人で名産品や観光スポットを調べ始める
…まあ、今回は調査依頼だけだし大丈夫かな
ーーー
そう思っていた時期が俺にもありました
目の前に広がる広大な森、さっきからひたすら大声をあげ続けるユキさん、そして枝を振り回しながら理解できない雄叫びをあげる、巨大な樹木と一体化した{不死者}…
「…これ、調査じゃなくて鎮圧になりそうだね」
「そんな事言ってないで助けて欲しいんすけど〜!!」
ユキさんが枝を紙一重で躱しながら叫んでいる
「ちょっと待ってね」
よーく観察してみる、{不死者}を倒すのに必要なのは何を{糧}とした{不死者}なのかを判断する事だ
樹木と一体化している…シンプルに考えれば木から栄養でも得ているのだろうか…地面から切り離してみるか
「ユキさん、どのくらいの重さまでなら持ち上げて飛べる?」
「今聞きますそれ!?大体人2人くらいなら何とか!」
「了解、合図したらあの{不死者}連れて飛び上がってくれる」
「良いっすけど早めにお願いしたいっす!」
さて、とは言ったもののあの滅茶苦茶に振り回されてる枝を避けて木を切るのは一苦労だね
とりあえず何か使えそうなものは…そうだ、コレなんか丁度いいかもしれない
懐から取り出したのは金属製の短い棒のようなものだ、これは昔観た某映画に出てきた武器をなんとか再現出来ないかと頑張って作った物だ
しっかりと構え、取り付けられたスイッチを押すと、「ブォン」という音と共に1メートル程の長さの赤く光るビームが伸びる
そう、某遥か彼方の銀河系の某騎士が使っていたビームトーチ、つまるところライト○ーバーだ。とはいえ、そのままの名前だと流石に色々と不味いので、こう名付けた。
「光セイバー!!」
「「ダッッッサ!!!」」
何か凄いツッコミが入った気がするけど、そんな事より目の前の{不死者}だよ
光セイバーで枝を切り払い、木の幹に横から振りかぶる
「まだまだぁ!」
光セイバーの出力を最大にして、木を切断する
恐らく木と融合して何かしらの{糧}を得ていた{不死者}が木から剥がれ落ちる
「ユキさん!」
「はいっす!」
ユキさんが{不死者}を掴んで空高く飛び上がる
暫くもがいていた{不死者}が、やがてぐったりと大人しくなる
「ユキさーん、森を外れた辺りに降ろしてあげて」
「りょ、了解っす!」
ーーー
「誠に申し訳ございませんでしたァァァッッッ!!!!」
目の前で土下座しているのは、先程まで暴れ回っていた{不死者}だ
「黄泉山さん…この人どうなってるんですか?」
月詠さんが訳が分からないといった感じで{不死者}を見ながら呟く
「暴走してたんだよ、分かりやすく言えば{糧}の食べ過ぎ」
「はいっ!!!その通りで御座います!!!」
「{不死者}は自身の{糧}が無いと不死性を喪失するけど、過剰に{糧}を取り込むと吸収しきれない分を消費しようとして暴走する場合があるんだよ、ただその過程で本能的に更に{糧}を取り込むから結果的に他者から無理やり{糧}から切り離して貰わない限り元に戻らないんだよ。それが長期間続くと仮に{糧}から切り離しても元には戻らなくなる場合もあるんだよ」
その説明を聞いたユキさんがギョッとする
「ちょ、ちょっと!?じゃあ自分日中に外出するのヤバいんじゃないすか!?」
「あー、大丈夫だと思うよ?{糧}として二酸化炭素とかが必要な{不死者}知ってるけど、日常生活してる分には過剰に取り込む事は無いし、日光くらいならそれこそ太陽追いかけて高速で飛び続けるとか太陽に接近するとかしない限り大丈夫じゃない?まぁ駄目だったら助けてあげるよ」
「お願いするっすよ!?」
「あ、あの〜…」
先程から土下座したままの{不死者}がおずおずと声をあげる
「今回の件…なんとか穏便に済ませられませんか…?」
「穏便に…ねぇ…君、名前は?」
ーーー
「…という訳で、未知の樹木型生命体に囚われてたこちらの{不死者}の『ミドリ』さん」
「よ、よろしくお願いします!」
「…この報告書に虚偽の申告は無いか?」
報告書を読みながら金欲権蔵さんが頭を抱えている
「無いよ」
「ワシ個人としては納得がいかない点が幾つもあるが…まあいい、それを判断するのはワシの仕事じゃないからな」
金欲さんが報告書を机の上に置く
「それで、その{不死者}はどうする?」
「俺の所で規定の期間観察下に置くよ、問題ないでしょ?」
「ふむ…確かに無いな…おい貴様!」
金欲さんがミドリさんに向かって叫ぶ。一々うるさいなこの人
「観察期間中に何かやらかしたら一発で『排除対象』になる、その点を頭に入れておけよ」
「は、はい!」
「ああ、それとこれ」
金欲さんに今回の依頼の請求書を渡す
「本来の依頼内容からかけ離れた内容だったからね、依頼料に追加で請求させてもらうよ」
「き…貴様…」
ーーー
「という訳で、暫くウチで暮らす事になります、{不死者}のミドリさんです」
「よ、よろしくお願いします!」
ミドリさんがおずおずと挨拶をする。
「…ミドリさん!」
「ひゃい!?」
月詠さんがミドリさんの手を握る
「うん…うん!これは逸材だわ…黄泉山さん!ミドリさん借りてくよ!行くよユキちゃん!」
「はいっす!」
月詠さんがミドリさんの手を引いて家を飛び出して行く
…まあ、仲良く出来そうならいいか